寝室と出逢い
お風呂からあがった大成達は寝室に案内される
【魔人の国・ナイディカ村・おばさんの家】
大成、ジャンヌ、ウルミラの3人は、おばさんの家で一緒の寝室にいた。
少し前…。
お風呂を済ました大成達は、おばさんから寝室の件を話された。
「姫様、ウルミラ様、申し訳ないのですが、この部屋以外は盗賊に荒らされていまして、そ、その使用できない状態なのです。ですので、申し訳ありませんが…」
おばさんは、申し訳なさそうに言い頭を下げた。
案内された寝室は、ドアに切り傷があるが、鍵が掛かっていたため室内は大丈夫だった。
しかし、他の部屋は盗賊に荒らされておりガラスは割れ、ベッドは刃物で滅多刺しされたり、切られたりしており綿が出ていた。
タンスなど他の家具も荒らされたり倒れている。
おばさんの部屋は、少しマシぐらい程度だった。
「~っ!た、大成と、そ、その…い、い、一緒の部屋で、ひ、一晩…あ、明かすの!?」
「~っ!た、大成さんと、お、同じ部屋で、え、えっと、い、一緒の部屋に、ね、寝るのですか?」
顔を真っ赤にしてジャンヌとウルミラは、大きな声が出るほど狼狽えた。
「あ~!良いな~!お姉ちゃん達。お兄ちゃんと一緒のお布団で寝れるなんて、エターヌもお兄ちゃんと一緒のお布団で寝る~!」
「「い、一緒のお布団で…」」
エターヌの言葉でジャンヌとウルミラは、想像して真っ赤だった顔をさらに真っ赤に染まり、瞬間湯沸し器の様に湯気が出る。
「ダメよ。エターヌは、私と一緒の部屋で寝るのよ」
おばさんが、そう言ってエターヌの腕を掴んだ。
「え~、お兄ちゃんと寝るの~!」
「ダメよ!エターヌ」
「いや~!」
エターヌは反論したが、おばさんに連れられて立ち去った。
家族を亡くしたエターヌの面倒は、これからは、おばさんが見ることになったのだ。
おばさんは、もともとエターヌの両親と仲が良かったので、エターヌの面倒をみたこともあった。
ジャンヌとウルミラは、その場で固まっていた。
「どうする?2人が嫌なら、僕はリビングのソファーで寝るけど?」
大成は頬を掻きながら、未だに固まっているジャンヌとウルミラに尋ねる。
「ううん、嫌ではないわ!むしろ…。」
「いいえ、嫌でわありません!むしろ…。」
大成の言葉でハッと我に返って慌てる2人は、慌てて両手で自分の口を塞いだ。
「…?むしろ何?」
「何でもないわ!」
「何でもありません!」
顔を真っ赤に染めるジャンヌとウルミラは、挙動不審になっていた。
「ん?えっと、それで、僕は一緒の部屋で良いなかな?」
「し、仕方ないから、い、良いわよ。ね、ねぇ、ウルミラ」
「そ、そうですね」
「た、助かった。ありがとう」
2人の気迫に大成は狼狽えながら、なぜ2人も狼狽えているのかをわからないままだった。
そういう訳で、3人は一緒の寝室にいるのだった。
布団は3人分あり、大成が真ん中で左右にジャンヌとウルミラで川の字で寝ることになった。
もう既に消灯しており、随分と時間が経っていたが、3人は眠れずにいた。
「ねぇ、大成、ウルミラ寝てる?」
「いや、まだ起きてるけど?」
「…はい」
ジャンヌの声に返事をした大成とウルミラは目を開ける。
「ねぇ、大成。あなたに聞きたいことがあるの?」
「何?」
「大成、あなたは、どうして魔力がないのに、そんなに強いの?」
「その質問に答えても良いけど。その前に僕も聞きたいことがあるんだ」
「良いわよ。先に答えてあげるわ」
大成とジャンヌの会話に、ウルミラは耳を澄ます。
「2つあるんだけど、1つ目は僕に魔法を教えて欲しい。このままだと、他の魔王候補達と戦えば負けるかもしれないから教えて欲しい。2つ目は、あり得ないと思うけど…。その変な話になるけど、ジャンヌとウルミラとは前に僕と会ったことある?」
「「~っ!」」
2人は大きく目を開いて両手で口元を塞ぎ、嬉しさのあまり目から涙が溢れていた。
「ぐっ…。ずっ…と、覚えて…いたの?」
ジャンヌは、小さな声でどうにか言葉が出た。
2人は、大成が覚えていてくれことに嬉しくて涙が止まらなかった。
「気付いたのは、召喚された時かな。でも、異世界なのだからあり得ないと思っていたけど。ジャンヌとウルミラが、僕に対する行動や言動が親しい人に向けるのと同じ感じがした。それに、今、川の字に寝た時に鮮明に思い出したんだ。昔、こんなことがあったなって…」
思い出しながら大成は懐かしんだ。
「大成!」
「大成さん!」
ジャンヌとウルミラは、バッと起き上がり大成に抱きついた。
そして、3人は思い出す。
そう、大成はジャンヌとウルミラに3年前に1日だけだったが会っていたのだ…。
【過去・魔人の国・ラーバス国・屋敷】
3年前…。
この日は、特別な日で月が紫色だった。
月が紫色に染まるのは、数年に一度、50年に一度、120年に一度など曖昧なのだ。
月が紫色の日は、世界中の自然の魔力が異常に満たされるのだ。
その日、一階の【召喚の間】の部屋に特別な魔法陣が描かれているので、その自然の魔力を魔法陣に導いてあげれば異世界から人を召喚できるのだ。
「あの、お父様。今日は、せっかく異世界の人を召喚できるのに。なぜ、お父様は召喚しないのですか?」
当日10歳ジャンヌは、父である魔王に尋ねた。
「ああ、そのことか。それはな…」
「魔王様、急遽お伝えしたいことがあります。それと会議がありますので、そろそろ…」
魔王が答えようとした時、ローケンスが慌てて部屋に入り魔王の前で片足を床について報告した。
「わかった、すぐに行く。ああ、そうだったな。ジャンヌよ、忙しいから理由は後で話す。だが、これだけは言っておく。今回だけではない、これからも私は異世界の者を召喚はしない。それと、ウルミラ。先日、【ヘル・レウス】メンバーに加わったお前に頼み事がある。これからは、ジャンヌの専属メイド兼、護衛を命じる。良いな?」
「は、はい!」
「ウルミラ、活躍を期待しているぞ!だが、無理はするな。お前は【ヘル・レウス】メンバーになったが、まだ幼い少女だ。本当は他の子供達みたいに自由に遊んだりしても良いのだぞ?」
「いえ、私は姫様の傍に居られる今の生活が大好きなので」
「ウルミラ…」
ウルミラは笑顔で答えると、ジャンヌは嬉しそうに微笑んだ。
「フッ…そうか、ならば任せるぞ」
「畏まりました」
当日8歳のウルミラは、左右の手でスカートの左右の裾を摘んで敬礼した。
魔王は左右の手で、ジャンヌとウルミラの頭を優しく撫でて名残惜しそうにローケンスと一緒に立ち去った。
ウルミラと2人になったジャンヌは、考え込み閃く。
「ねぇ、ウルミラ」
「はい、姫様。何でしょうか?」
ウルミラは、オドオドしながら慌ててジャンヌに尋ねる。
「ウルミラ、今から1階に行くからついてきて」
「?はい、わかりました」
ウルミラは、理由を聞かずにジャンヌについていった。
【魔人の国・ラーバス国・屋敷一階・召喚の間】
ジャンヌが一階の【召喚の間】の扉を開いて部屋の中に入った。
「あ、あの…姫様、ま、まさか…」
今からジャンヌが何をするのか、気付いたウルミラは狼狽える。
「そうよ、異世界の人を召喚して友達になるのよ」
「え、ええ~っ!」
ジャンヌの発言に驚くウルミラの声は、部屋に響くほどだった。
「ちょっと、ウルミラ声が大きいわ。静かにして、お父様達に気付かれるわよ。それと、儀式を始めるから手伝って、ウルミラ」
ジャンヌは慌ててウルミラの口を塞いで人差し指で自分の口元に当てた。
「すみません。あの、姫様、やめませんか?」
「もう、ならいいわよ。私、一人でするから」
「~っ、わ、わかりました。私も手伝います」
ジャンヌ1人だと心配になったので、ウルミラは渋々手伝うことにした。
まず、ジャンヌとウルミラは天窓を開き、床に描かれている魔法陣に紫色の月の光が当たるようにした。
次に、どんな人を召喚するかの条件を決めて、ジャンヌとウルミラは魔法陣に両手を置き魔力を少しずつ流して自然の魔力を導く。
そうすると、魔法陣が光だした。
「我が名はジャンヌ・ラーバス。我の命令に従い、我の世界と異世界を繋げよ。我が望みは1つ、我と友人になれる者1名を召喚したまえ!クリエイト・ゲート・オープン、サモン・ゲート」
ジャンヌは、高らかに詠唱した。
魔法陣の光が徐々に強くなり、目を瞑るほど眩しい光が部屋を照らす。
「うっ、何だ!?ま、眩しい…。ん?ここは、何処?」
光の中から男の子の声がし、徐々に光が弱まり消える。
ジャンヌとウルミラの目の前に、1人の人間の男の子がいた。
「あなたの、お名前と年はいくつなの?」
ジャンヌは、少年に手を差し伸べる。
「姫様!」
ジャンヌが、パジャマ姿の男の子に声をかけたと同時に、ウルミラはジャンヌの横に出て警戒をする。
「僕は大成。神崎大成。年は10歳だけど。君たちは?」
未だに訳がわからず、夢だと思った大成は素直に答えた。
「ウルミラ、警戒しないでいいわよ。私はジャンヌ・ラーバス。ジャンヌで良いわ。年はあなたと同じ10歳よ」
「わかりました、姫様。あの、わ、私は、ウルミラです。年は8歳です」
大成から魔力が感じられなかったので、ウルミラは警戒を解き、ジャンヌの横に並んだ。
「よろしく!ジャンヌ、ウルミラ」
無邪気な笑顔を浮かべながら大成は、右手でジャンヌの手を取った。
「こちらこそ、よろしくね大成」
「宜しくお願いします、大成さん」
お互い笑顔を浮かべて握手をした。
これが、3人の初めての出逢いだった。
次回、大成とジャンヌとウルミラの過去編に入ります。
もし宜しければ、次回もご覧頂けたら幸いです。