救出と勝負
森から、あちらこちらから狼煙が騰がり、救出に向かった大成達。
【合宿3日目の朝・ナドムの森・中央】
霧が深い森の中、男女2人ずつのパーティがゴブリン集団に襲われていた。
「早く撃て!」
「アース・ショット」
「エア・ショット」
男子の掛け声で、ミカリとオリカが魔法を唱え発動して放った。
たが、距離が足りず、ゴブリンの手前に着弾した。
「おい!外すな!」
「命が懸かっているんだ。ちゃんと当てろよ!」
魔法が外れたことに苛立つ男子が怒鳴った。
男子達は、接近された場合に迎撃役で魔法攻撃には参加していなかった。
「そんなこと、わかっているわよ」
「ごめん。でも、霧が濃いから、距離感がわからないの」
「ご託は良いから、さっさと次の魔法を唱えて、ゴブリンを倒せ」
「そうだ。早くしろ」
焦る男子を見て、女子のミカリとオリカは不機嫌になった。
「そんなこと言うなら、男子も魔法を放てば良いでしょう?」
「ああっ!今、何か言ったか?おい!」
「女の癖に」
ミカリが文句を言い、それを聞いた男子達がミカリを睨んだ。
「女の癖にって何よ!」
ミカリも負けずに男子達を睨み返し、一触即発になった。
今まで、チームワークが良かったパーティだったが、狩る側と狩られる側の立場が逆になった瞬間、ギクシャクしてチームがバラバラになり始めた。
そんな状況でも、ゴブリン達が言い争いが終わるまで大人しく待つわけもなく、その間に近づいてくる。
「やめて。今、争っている場合じゃないよ。とりあえず、私がウィンドで霧を払うから、その隙にミカリちゃんは魔法を当てて」
「そうね。ごめん、オリカ。オリカの言う通りだわ。任せて」
慌ててオリカが、喧嘩を止め提案した。
ミカリは頷いたが、男子達は舌打ちをした。
1度ミカリは男子達を睨み、すぐにゴブリンの集団へと視線を向けて集中した。
オリカは、幼馴染みのミカリを見て、集中しているとことがわかり、ホッと胸を撫で下ろした。
「いくよ、ミカリちゃん」
「うん。オリカ、いつでも良いわよ」
「ウィンド」
オリカは、両手を前に出して風魔法ウィンドを唱え発動して、霧を払い除けた。
ゴブリンが10匹が近づいてきていた。
「くっ、多いわね。アース・ショット」
両手を上に伸ばしたミカリは、土魔法アース・ショットを唱え発動して、頭上に土の弾丸14発を作り出した。
「いっけぇ~っ!」
挙げていた両手を降り下ろし、土の弾丸はゴブリン目掛けて飛んでいった。
全匹に当て6匹は倒せたが、残り4匹は倒れずに止まらなかった。
「エア・ショット」
オリカは、ウィンドの後、急いでエア・ショットを唱え発動したため、魔力の練りが少なく5発しか撃てなかったが、ゴブリン2匹に当たり倒した。
残りの2匹が接近してくる。
「「うっ」」
男子達は剣を構えたが、ゴブリンの武器を見て身体が震えだした。
「どうしたの?」
「ねぇ?ねぇってば、早く前に出て倒してよ!」
横にいる男子達は、一向に動かなかった。
その間、どんどん近づいてくるゴブリンに、次第に焦るオリカとミカリ。
今まで討伐してきたゴブリンは、武器を持っていても木の棍棒だった。
だが、今回、接近したゴブリン2匹は、刃こぼれしているが剣を持っていたのだった。
今まで、ゴブリンの攻撃を受けても打撲で済んでいたが、今回は斬られると思った瞬間、男子達は恐怖で身体が思うように動かなくなっていた。
そして、接近したゴブリンは、容赦なく剣を振り下ろす。
「「危ない!」」
オリカとミカリは、慌てて男子達の腕を引っ張り回避させたが、4人はバランスを崩し倒れた。
オリカとミカリは、すぐに起き上がり、倒れたままの男子達の腕を引っ張って逃げようとした。
だが、男子達は、座り込んだまま動かなかった。
オリカとミカリは、先程のゴブリンが気になり後ろを振り向いた瞬間、絶望して硬直した。
目の前には、接近したゴブリン2匹が剣を逆手に持ち変え男子を突き刺そうとしていた姿とその後ろに、新たなゴブリンの集団が現れていたのだった。
「う、嘘…」
「先生…。誰でも良いから助けて、お願いっ!」
2人は涙を溢しながら、ミカリは信じたくない現実に自失しながら呟き、オリカは助けを求めて叫んだ。
「「ギャギャギャ」」
「「えっ!?」」
オリカとミカリは、目を大きく見開き驚愕した。
「「ギャッ…」」
目の前のゴブリン2匹は、自分達を見て嘲笑うかのような表情で笑っていたが、突如、木の上からスロー・ダガー2本が飛んできて、2匹の後頭部に刺さり絶命した。
呆然とダガーが飛んできた木を眺めていたオリカとミカリは、枝が少し揺れたと思った瞬間、目の前に大成が現れた。
「「きゃっ」」
「驚かして、ごめん。大丈夫?」
謝罪しながら大成は、両手でオリカとミカリに手を差しのべた。
「ええ…」
「は、はい…」
本当に助かるとは思っていなかったため、2人は未だに頭が回らず、信じられなかった。
「間に合って、良かった」
2人を見てホッとした大成は笑顔を見せた。
「ありがとうございます」
「ありがとう」
大成の笑顔を見て落ち着き、我に返ったオリカとミカリは、頬を赤く染めながら大成の手を取り立ち上がった。
「それより、後ろにゴブリン集団が…」
ゴブリンの集団のことを思い出したミカリは、慌てて話しながら視線を向けた。
そこには、ジャンヌ、ウルミラ、イシリアの3人だけで集団を退治していた。
「やっ」
「ハッ」
「えいっ」
ジャンヌ達は、魔法を使わず武器だけで戦っていた。
森に入る時、大成が敵が多いのでなるべく魔法を使用せず、魔力を温存するように言っていたのだった。
「凄い…」
「うん…」
2人は、ジャンヌ達の戦いに見とれていた。
集団を相手しても臆するどころか、まだ余裕がある様な戦い方が美しかった。
そんな2人を見た大成は、笑顔で話しかけた。
「ジャンヌ達は、魔力の節約で身体強化を魔力値5ぐらいに抑えて戦っているから、君達も頑張れば、あんな風に戦えるようになるよ」
「本当に!?」
「え!?本当ですか!?」
ミカリとオリカは、目を輝かせ大成に詰め寄り見詰めた。
「う、うん。あれは武術だからね。訓練すれば誰でも、あんな風に戦えるようになると思うよ」
「私に教えてくれない?」
「私も教えて欲しいです」
ミカリとオリカは、大成の手を両手で握り締め頼んだ。
「良いよ」
笑顔で了承した大成。
「ちょっと、大成!私達が戦っている最中に、何、目の前でナンパしているのよ!」
ジャンヌは、大成達の会話を聞きながらゴブリンの攻撃を双剣の片方で受け止め、もう片方で胴体を斬り伏せて大成を怒鳴った。
「大成さん。それは、流石に…」
「もう、ここまできたら感心するわね」
ウルミラとイシリアは、戦いながら溜め息をした。
「えっ!?そんな、つもりはないんだけど…」
「冗談よ」
「フフフ…」
「からかって、すみません」
慌てる大成を見て、ジャンヌ達は笑った。
「勘弁してくれよ」
ホッとした大成は、苦笑いした。
そして、ゴブリンの集団を片付けた大成達は、気絶している男子達を起こして狼煙が騰がっている方へと向かった。
煙幕は魔力で維持しているので、救助されたら魔力を止めると狼煙は消えるという仕組みだ。
「僕は、一人で向こうの狼煙に向かう。ジャンヌ達は、当初の狼煙に向かってくれ」
走りながら大成は説明をした。
「でも、流石の大和君でも一人じゃ、危ないよ」
「そうよ」
オリカが不安そうな表情で言い、ミカリが賛同した。
「えっと…」
「大丈夫よ。武術だけなら私達以上に強いから」
「そうね」
「そうです」
戸惑っていた大成に、イシリアが助け船を出し、ジャンヌとウルミラが頷き肯定した。
「ジャンヌ様達が、そう仰るなら…」
「わかりました…」
未だに心配そうな表情で、オリカとミカリは渋々だが納得した。
「行ってくるよ」
「油断は禁物ですよ。大成さん」
「大成。さっさと終わらせなさいよ」
「大成君。もし、ゴブリン・ロードが相手だったら、実物を見てみたいから死体は残してね」
「ははは…、わかったよ」
ジャンヌ達の会話で、大成は苦笑いしながら進路を変えた。
【ナドムの森・中央付近】
ゴブリンの集団に囲まれているマイク達は、現在も身動きができず、マイクの土魔法アース・マウンテンで造った絶壁の上に避難していた。
「アース・スピア。くらえ!」
マルスが土魔法アース・スピア唱え発動して、土の槍を6本を作り出し、同胞を足場にして登ってくるゴブリンを撃ち落としていく。
「ハァハァ、マイク先生。このままだと俺達…」
体力と魔力の限界が近いマルスは、大きく肩を上下に動かしていた。
未だに来る気配がない救援に、マルス達は不安が積り過る。
「わかっている。だが、今は耐え凌ぐしかないのだ」
マイクは、自分の力が足らないことに不甲斐なさを感じて歯を食い縛った。
「皆、ごめん。もう、ダメ…」
「わ、私も…」
女子2人は限界が訪れ、その場に倒れた。
「くっそ、救援はまだか!?」
「まだ、見えない!」
残りの体力と魔力が限界に近づいている状態のマイク達は、必死に倒れた女子達の範囲までも補う。
次第にゴブリンの軍勢が、自分達のすぐ傍まで登ってきて焦りと不安が一気に膨れ上がった。
「もう少しの辛抱だ。必ず救援が来るはずだ。それまで、頑張るぞ!」
マルス達の2倍ぐらい動いているマイクは、汗だくで疲弊していたが、疲れを悟られないように声を張った。
だが、もうマルス達は、精神的にも限界が訪れた。
「もう、ダメだ…」
「ああ、俺達頑張ったよな…」
「諦めるな!」
諦めてへたり込んだマルス達にマイクは声を掛けたが、立ち上がろうとはしなかった。
マイクは、一人でゴブリンを撃ち落としていたが、流石に一人では無理だった。
マイクの背後から、とうとゴブリン2匹がマイク達が居る頂上に辿り着いた。
振り向き、迎撃しようとしたマイクだったが、足腰の力が抜けて倒れた。
「ハァハァ…。くっ、ここまでか…。すまない」
マイクは、歯を食い縛りながら右手で拳を握り締め地面を叩いた。
「「先生…」」
マルス達は、涙を溢しながらマイクを見た。
マイクの背後にはゴブリンが、ゆっくりと近づいて来ていたが、絶壁の下2方向から頭が凹んでいるゴブリン2匹が飛んできて、近づいてくるゴブリンにぶつかり、そのまま絶壁から落ちた。
「「え!?」」
「「な、何だ?」」
マイク達は、這いつくばりながら絶壁の端に移動し下を覗き込んだ。
「お~、当たったな!」
そこには、マミューラが額に右手を当て、ゴブリンが当たったことを確認して喜んでいた。
「思っていたより、随分と多いな」
マミューラから右に30m離れている場所に溜め息をしている大成がいた。
大成は、投げ終えたポーズだった。
大成は、ポシェットからスロー・ダガーを取り出し、次々に投擲し始めた。
スロー・ダガーは、絶壁を登ろうとしているゴブリンの後頭部を突き刺さり、次々に倒していく。
ゴブリン達は絶壁を登るのを止め、マイク達から大成とマミューラに狙いを変え、2人の方へと集まっていった。
マミューラは、大成を見て悪巧みをしている表情に変わり、大声で提案する。
「大和か、ちょうど良い。勝負をしないか?」
「えっ!?この状況で勝負ですか?」
(面倒なことになりそうだな…)
苦笑いしながら大成は、すぐに断らずに最後まで聞くことにした。
「ああ。そんな嫌そうな顔をするな、大和。マルス達を救出する次いでだ。ルールは、簡単だ。ちょうどゴブリンは、私達を狙いを定めている。身体強化と体術だけでゴブリンを多く倒した方が勝ち。単純だろ?」
「なるほど。わかりました」
「カウントは、倒しながら聞こえるように数える。良いな?」
「わかりました」
大成は、両手に持っていたダガーをポシェットに戻した。
「カウントするぞ。3、2、1…」
マミューラがカウントをしている最中もゴブリンが、2人を襲い掛かろうと近づいてきている。
そんな状況でも2人は気にせず、突っ立ったままの状態で、ただカウントし、カウントが終わるのを待っていた。
そして、カウントが終わる。
「0!バーサーク!」
「…」
カウントが終わり、マミューラは身体強化バーサークで頭、両手、両足だけを強化し、大成は無言で必要箇所だけ身体強化して襲い掛かろうとしているゴブリン集団を待って迎撃するのではなく、自ら突撃する。
次回、ゴブリン・ロードが現れます。




