勘違いとラゴゥバルサ国
屋敷に戻った大成は、エターヌの村から狼煙が上がっていることに気付き、村に向かう。
【ラーバス国】
大成、ジャンヌ、ウルミラの3人は屋敷を出て、エターヌがいる村、ナイディカの村に急いで向かって走っていた。
「どうするの?大成」
「ん?何が?」
ジャンヌの質問に大成は頭を傾げる。
「これから通るルートよ。距離は増えるけど町を通って安全に走りやすいルートか、最短で森の中を通るルートだけど魔物がいるわ。どうするの?そろそろ別れ道だから早く決めないと」
ジャンヌは走りながら説明をした。
「俺は、森を通るルートで行く。2人は好きなルートで構わない」
大成は、森の中を通るルートを選択した。
「じゃあ、私も森のルートで行くわ」
「では、私も」
結局3人はエターヌがいるナイディカ村へ最短で行くため、森の中を通るルートを選択することにした。
別れ道に看板があり、←ボルダの町、↑ナイディカの森と書かれていた。
大成達は、そのまま直進してナイディカの森へと向かった。
【ナイディカの森】
ナイディカ森の中は、急勾配がそんなになくパルシアの森よりも走りやすかった。
大成達は順調に進んでいたが、大成達の前にドルフ・ライガーという狼の群が立ちはだかった。
「退け!グリモア・ブック」
大成は走りながら、グリモアを出して様子を窺う。
このまま、ウルフ達が何もして来なければ素通りする予定だった。
「ウォーン!」
しかし、一匹のライガーが吼えた瞬間、一斉に大成達に襲い掛かる。
「アイス・ミサイル」
大成は氷魔法アイス・ミサイルを唱え発動し、通常より細く小さな氷の矢40本を召喚して正面と上に放った。
正面のライガーは血を流し倒れ、木の枝を使って大成達の頭上から襲い掛かって来たウルフ達は氷の矢に刺さり落ちてきた。
「くぅ~ん」
大成は、ライガーを一匹も殺してはいなかった。
ナイディカの村の人達は、ここの魔物を狩りして食糧にしているので、沢山の魔物を殺さない方が良いと大成は判断したのだ。
パルシアの森は魔物は強いが単体が多かったのに対し、ナイディカの森の魔物は弱いが賢く群で襲ってくる。
大成は周囲を警戒しているので、このまま真っ直ぐ進めば、また魔物が待ち構えているのが気配で把握していた。
「ハァ~。急いでいるのに、面倒だな」
タメ息を吐いた大成は苛立ちが込み上げ、殺気と威圧感を顕にした。
「「~っ!」」
その瞬間、場の空気が一瞬で変わり、ジャンヌとウルミラは背筋がゾッとし体が震える。
気が付けば冷や汗を掻いており、ここに居たくない、早く逃げたいと思わせるほどだった。
大成は自分達に直接殺気を向けてない状態で、今の状態ということは、直接に向けられたら気が狂うかもしれないとジャンヌとウルミラは思った。
「2人とも、すまない。ん?」
大成は走りながら、ジャンヌとウルミラが震えているに気付き謝る。
それと同時に、すぐに魔物達の気配が自分達から離れていくことに大成は気付いた。
「魔物でも恐怖を感じるのか。2人共、すまないがこのままで行く。キツイなら距離を取って来るか、町側のルートで来てくれ」
「た、大成、私達を嘗めないでくれるかしら」
「そ、そうです」
「すまない」
大成は、ジャンヌとウルミラを見て苦笑いしながら謝った。
「スピードを上げて行く」
「「えっ!?」」
「ん?」
驚いた声をあげた2人に、大成は振り向く。
「な、何でもないわ」
「な、何でもありません」
ジャンヌとウルミラは、今でも8割の速さで走っていた。
大成は2人のペース配分がわかっており、わざと言ったのだ。
なぜなら、長い間、恐怖を感じたままだと身体に良くないので、大成は強引に引き離すことにした。
大成はスピードを上げ、ジャンヌとウルミラも全力で走ったが徐々に大成との距離が離れていく。
「くっ。は、速い」
「で、ですね」
「でも、見てウルミラ。枝とか除去されているわ」
「あっ、本当ですね」
ジャンヌとウルミラは、大成の優しさに気付き頬を緩ました。
だが、2人は疲労で徐々に走っている速度が遅くなっていった。
大成は、あとから2人が通ると思い、飛び出ている枝などを右手に村雨を発動して除去しながら進んでいたのだ。
【ナイディカの森前・ナイディカ村側】
ローケンス、イシリア、騎士団達は、村人達を保護していた。
追手は来なかったので、これからどうするかをローケンスは悩んでいた。
そんな時、ナイディカの森から異常な魔力と威圧感だけでなく、殺気というには生温いほどの死を実感させるほどの化け物が物凄いスピードで急接近してきていることを皆は把握した。
「ローケンス様っ!」
「「た、た、隊長!」」
騎士団全員が顔を歪めさせ、必死にローケンスを呼んだ。
「ああ…わかっている。皆の者、配置につき炎魔法以外の魔法を準備!これから、化け物退治するぞ!とりあえず、イシリア。お前は逃げろ」
死ぬ可能性が高いので、ローケンスは軍に関係ない娘だけでも逃がそうとする。
「「了解!」」
騎士団達は、陣形を組んで魔法を唱えながら準備をする。
「嫌です。私も、最後までお父様と一緒に戦います」
あまりの恐怖でイシリアは、涙を溢していた。
「くそ、時間がない。なら、イシリア。俺から、あまり離れるなよ。総員、魔法を放てぇ~!」
ローケンスの合図と共に、騎士団達は森に魔法を放つ。
森の中から黒いローブを纏った影が見えたが、夜なので周囲は暗く動きも速すぎてハッキリとは見えない。
黒いローブを纏った者はスピードを落とさず、次々に飛んでくる魔法を最小限で避けながら急接近してくる。
「な、なぜだ。百を超えている魔法を避けることができているのだ!?」
騎士団達とイシリアは驚愕し、腰に掛けている剣を抜刀して構える。
だが、騎士団達とイシリアは、相手のプレッシャーを受けて気絶したり、尻餅ついたり、身体が震えて武器を落とす者など動けぬ者しかいなかった。
そんな騎士団達に、黒いローブを纏った者が襲い掛かろうとする。
その時、後衛にいたローケンスが騎士団達の前に出て、大剣を上から振り下ろす。
黒いローブを纏った者は、左前に一歩前に出て攻撃を回避した。
「くっ、だが、これでどうだぁ!」
ローケンスは大剣を地面に当て、その反動で斜め上に斬撃を繰り出した。
この技術は、大成が使っていた技術だ。
黒いローブを纏った者は驚いた様子もなく、これも難なく回避する。
そして、膨大な魔力を右手に纏わして手刀を繰り出す。
「すまない、マリーナ、イシリア、マーケンス…」
ローケンスは瞳を閉じ、死を覚悟した。
「~っ!」
騎士団達は、強烈なプレッシャーを受けて声も出せないほど怯んでいる、そんな中…。
「お、お父様~!!」
イシリアは、父であるローケンスの名を叫んだ。
皆は息を呑んで、これから起こるであろう光景を見たくはないが目が外せないでいた。
だが、黒いローブを纏った者の手刀はギリギリ、ローケンスの首筋の手前で止まった。
「イ、イシリア!?」
「えっ!?ど、どうして…。私の名前を…」
黒いローブを纏った者とイシリアは、驚いた様な声を出した。
「ん?こ、これは、ま、魔王様!ご無礼をお許し下さい」
ローケンスは目を開け、目の前の黒いローブを纏った人物が大成だということに気付き、慌てて片膝を地面について敬礼をする。
騎士団達も、大成が纏っている黒いローブに見覚えがあった。
金色の刺繍があり、背中にラーバスの紋章が施されていた。
誰もが知っている魔王だけが羽織ることを許されているローブだった。
そして、大成は左手で被っていたフードを外して素顔を見せる。
「「申し訳ありません」」
騎士団達は驚愕し、一斉に敬礼をして謝罪をした。
「いや、部下の鎧を把握してないことや魔物に絡まれない様にするためとはいえ、殺気を出したままの俺も悪かったから気にするな。それよりも、村の人達は無事か?」
大成は、ローケンスに振り向き尋ねる。
ローケンスの部隊は、普通の鎧とは違う黒色だった。
「はい、全員無事でしたが…。修羅様が配置した騎士団50人のうち39人が命には別状はないのですが負傷してます。なので…」
「ああ…わかった。ワイド・ヒール」
大成はローケンスの話を途中で止め、光魔法ワイド・ヒールを唱えて負傷している者を治癒した。
「治った…」
「「うぉぉ~!あ、ありごとうございます」」
負傷していた騎士団達は、自分達の身体を見たり動かしたりして驚く。
そんな中、森の方から2人の人影が見えた。
「や、やっと、森を抜けたわね…ウルミラ」
「そ、そうですね…」
ジャンヌとウルミラだった。
2人は、息を切らせながら大成達に歩み寄る。
村の人達の方からもエターヌとマキネが、駆け足で大成のもとに駆けつけた。
「お、お兄ちゃ~ん!」
「ダーリン、お久しぶり!」
エターヌとマキネは、大成に飛び付き抱き付いた。
「「あっ!」」
歩いていたジャンヌとウルミラは、慌てて大成に駆け寄る。
「大成から離れなさいよ、マキネ」
「大成さんから離れましょう、エターヌちゃん。女の子が人様の前で異性に抱き付くなんて、ふしだらです」
ジャンヌはマキネを、ウルミラはエターヌを大成から引き離した。
「え、え、え~!?」
イシリアは叫び、皆はイシリアに振り向く。
「ま、魔王修羅様って、た、大成君だったの!?」
イシリアは驚愕したまま、大成を指を指した。
「あっ!お、俺は大和大成ではない」
大成は狼狽え、慌てて誤魔化そうとする。
「う、嘘よ。だって、ローブの下に学園の制服だし、髪の毛も染色した蒼色が残っているわよ。そして、なぜ大和って知っているの?」
次々に、指摘しながらイシリアは突っ込む。
「イシリア、このことは秘密にして欲しい。頼むよ」
大成は項垂れ、諦めて頼むことにした。
「わかったわ、大成君。いや、修羅様って言った方が良いのかしら?」
「アハハハ…。大成で良いよ」
「わかったわ。大成君」
魔王と知ったら堅苦しい接し方になると思っていた大成だったが、いつも通りに接してくれるイシリアに素直に感謝した。
「ねぇ、大成君。あれだけの魔法を避けることができるのは、体術だけという訳ではないでしょう?」
イシリアが大成に尋ねる、皆も前から薄々気になっていた。
「ん?ああ、別に隠すことないことから教えるよ。小さい頃、抗争中に頭を怪我して視力障害になってね。一点集中しても周りが見える様になったんだ。それで、視界に入っているものは全て見えている。ところで、マーケンスの姿を見かけないけど?」
「マーケンスなら、お風呂に入っていたから来てないわ。私も強引にお父様についてきただけだから」
「そ、そうなんだ…」
大成の質問にイシリアは自信満々で答えた。
大成は苦笑いをしながらローケンスに苦労しているなと目線を送り、ローケンスは苦笑いを浮かべた。
「これから、どうします?修羅様」
ローケンスが、大成に尋ねる。
「まずは、村を取り返す。だから、小さいことでも良いから相手の情報を教えてくれないか?」
大成は、ローケンス達から情報を聞いた。
敵はラゴゥバルサ国という国の騎士団達で、魔人の国ではラーバス国の次に戦力の高い国が突如、襲ってきた。
人数は、ざっと見て300人。
村を復興した際に、村の周りに防壁を作っていたので、時間稼ぎができ死者を出すことなく避難することができた。
ラゴゥバルサ国は、魔王が勇者に討伐された時から軍事に力を入れ過ぎて国の情勢が不安定になり破滅に向かっているとの噂もあった。
情報を聞いた大成は、今回の侵略は弱体化したラーバス国を支配して資源を得るのが目的だと思い、そのことを皆に話した。
皆は、納得して頷く。
「騎士団達は、ここで村の人達を警護しろ、俺達は村に向かう。良いな!」
大成は、ローブを翻しながら右手を前に出して皆に指示を出す。
「「了解!!」」
皆は、一斉にその場で敬礼をした。
次回、ラゴゥバルサの騎士団を一掃します。
今回も、予定より話が進まなかったです。
大変申し訳ありません。




