カードと戦う覚悟
勇者と魔王候補達が遭遇し、勇者が魔王候補達を倒した。
勇者側も被害が大きく結局、帰国することになった。
【魔人の国・ラーバス】
魔人の国ラーバスは祭の最中で、盛り上がっていた。
だが、大成達、魔王軍は魔王候補達が脱走したことで、水面下で慌ただしく動き回っていた。
【屋敷2階・会場】
「ま、修羅様!た、大変です!」
騎士団長ギランが、慌ただしく扉を開け大広間に走って入ってきた。
ギランは息を切らしながら、大成の前で敬礼をした。
皆、何事かとギランを見つめた。
「ギランさん、落ち着いて下さい。どうしました?」
大成は、ひとまずギランを落ち着かせた。
だが、ギランの慌てた姿を見て、周りがざわつく。
「魔王候補達と盗賊達の死体がパルキ周辺で見つかり…。近くに、時の勇者が居ました。勇者達は、そのまま人間の国へ戻って行った模様です。それと、魔王候補達の死体の近くに、このカードが落ちておりました」
息を整えたギランは、大成に報告をして、カードを大成に渡した。
大成とローケンス以外は、ギランの言葉を理解できないでいた。
「うむ、「時の勇者」に間違いない。このカードは、先代の魔王様が倒された時にも置いてあったカードだ」
懐から同じ絵柄のカードを取り出したローケンスは、大成に渡した。
ジャンヌとウルミラは、大成の異変に気付いた。
「大成?どうしたの?」
「大丈夫ですか?大成さん?」
大成の顔を見て心配するジャンヌとウルミラ。
だが、大成はカードを受け取り視線を向けたまま、未だに固まっていた。
ジャンヌとウルミラは、カードを覗いた。
カードの絵柄は円が描かれ、円の中の中央に砂時計、左右に剣と鎌が交差した絵が描かれていた。
大成は、このカードに見覚えがあった…。
いや、同じ絵柄のカードを前の世界で使用していた。
そして、今は使用せず、お守りとして持っている。
このカードは、特殊部隊の時、暗殺任務などでアピールのため使っていたのだ。
アピールする意味は、周囲に畏怖を与えるため。
ちなみに、円は日の丸で日本、剣は正義、砂時計は命、鎌は刈ると意味で、日本は正義のため命を刈るというメッセージだ。
問題は、特殊部隊の誰が勇者なのかが問題だった。
魔王候補達を倒すほどの強さを持っている実力者は限られる。
そして、大成は、ある一人の人物を思い浮かべる。
(そんな…いや……。しかし…)
一生懸命に否定しようとするが、逆に正しいと証明になってしまう。
その人物は大成の命を救い、育て、鍛えた。
大成にとっては血は繋がっていなくっても兄のような、そして尊敬、目標となった人物…義兄・大和流星だった。
「「…修羅様…修羅様!」」
「ん?ああ…すまない。何?」
皆の呼び声で、大成は我に返ったが、顔は青ざめ、冷や汗をかいていた。
「大丈夫なの?大成」
「ああ、大丈夫だ」
「本当に大丈夫ですか?大成さん」
「心配かけてごめん。ちょっと考え事していた」
ジャンヌとウルミラは、大成の顔色を窺いながら、心配した。
他の皆も、明らかに様子がおかしいと、わかるほどだった。
「これからのことを話す。まず、俺とシリーダとニールとギランは騎士団を連れてパルキに向かい、「時の勇者」が戻ってきてないかを確認する。他の者はここを頼むぞ!」
大成は、手を前に出し、皆に指示を出した。
「「了解」」
ジャンヌ以外の皆は片膝を床につけ敬礼をし、各自行動に移した。
大成、シリーダ、ニール、ギランは部屋を出た。
ジャンヌとウルミラは、心配しながら大成の背中を見送った。
何だか、胸騒ぎがした2人。
大成は、廊下を歩きながら、どうするか考えていた。
そして、考えた結果。
「もし、「時の勇者」と戦闘になった場合の作戦を伝える。シリーダとニールは隠れていろ。俺が、勇者と一対一で戦い、隙ができたらシリーダとニールは奇襲をし勇者を撃退する。それでも、勝てない場合は、俺を置いてラーバスに戻って話し合え。良いな」
先頭を歩きながら、大成は皆に指示した。
「修羅様は、「時の勇者」を知っているのですか?」
シリーダは頬に手を当てながら首を傾げた。
ニールも気になっていたことだった。
「…いや、先代の魔王とヘルレウスメンバーをまとめて倒したと聞いたからな。少しでも安全にことを納めたい」
「そうだったのね」
「そうでしたか」
大成の答えが、半分は嘘だと気付いたシリーダとニールだったが、それ以上は何も言わなかった。
「油断せずに的確な御指示を出すとは、流石です。ワハハハ…」
一方、嘘だと見抜けないギランは、高らかに笑っていた。
魔王候補達の死体を確認しに死体置場に向かった大成達。
3人とも首が切り落とされていた。
切り口は、とても綺麗だった。
大成は、嫌な予感がした。
それから、大成は連れていく騎士団100名に説明と作戦を伝え、パルキに向かった。
【パルシアの森・魔人の国側】
大成達は、パルキの手前にあるパルシアの森の中にいた。
森の中は、大きな湖があり、霧がうっすらと発生していた。
湖の周りに、鹿みたいな動物たちが水を飲んでいる。
そんな、幻想的な風景を見て、大成の心が落ち着いていく。
途中で、パルシコングというゴリラみたいな魔物に遭遇した。
パルシコングは、木から木へと移動しながら、攻撃を仕掛けてくる。
力はオーガには及ばないが、オーガより機敏で力はある魔物だ。
パルシコングは、右手で殴ってきたので、大成は回避した。
パルシアコングの拳が木に当たり、木は音をたてながら薙ぎ倒れる。
「木が倒れるぞ回避!」
騎士団に注意を促すローケンス。
「「くっ」」
騎士団は慌てて回避する。
そして、すぐにパルシコングを視線を向けた騎士団だったが、パルシコングは既に倒れていた。
大成は回避した瞬間、手に魔力を集中し村雨で、パルシコングを胴体を一線し、上半身と下半身に切断したのだった。
それから、先に進むと何回か魔物と遭遇したが、大成が村雨を発動させ1人で討伐していった。
普通、この森の魔物は騎士団3人で倒す魔物を、1人で倒す大成の強さと村雨の切れ味に騎士団は驚いた。
騎士団も同じことはできるが、自分達だと剣よりも切れ味が悪く、今まで使えないと思っていた技術だったからだ。
しかし、騎士団の半数が大成の村雨を見て、あとで練習しようと心に決めるのだった。
【パルシアの森・パルキ国付近】
「そろそろ、魔王候補達の屍が発見された場所に着きます」
ギランが、前に出て案内した。
「修羅様、ここです」
「案内ご苦労」
着いた場所は、木々が倒れており血のあとが生々しく残っていて、盗賊達の死体が残されていた。
「これから、打合せ通り捜索する。各班に別れて探せ。もし、発見した場合は直ちに俺に報告しろ!決して、こちらから攻撃するな!良いな!」
「「ハッ!」」
大成以外の皆は一斉に片膝をつき敬礼し、緊迫しながら捜索を開始した。
騎士団は、陣形を確認しながら慎重に行動に移る。
大成は木に登り、上から探して見つからなければ、近くの木に飛び移り探すを繰り返した。
だが…結局、見つからず勇者達は帰国したと判断し、大成達はラーバスに戻ることにした。
【ラーバス国】
大成達は、ラーバスに帰国した。
騎士団は、何事もなかったので笑いながらだったが、大成は深刻だった。
(もし…義兄さんなら、たぶん戦うことになるだろうな)
大成は、直感でそう感じていた。
長年、共に過ごしていたから、わかることがある。
大成が少しでも長く生き残れる様に鍛えるのではなく、流星は自分と対等に戦える人が欲しいと思い、鍛えているのだと。
最後、別れる時も流星以外の隊員は、一般人として生きて欲しいと大成に言ったが…流星は、もっと強くなれだった。
たぶん、話し合いしても無駄に終わり、流星とは戦うことになると思い、大成は覚悟を決めた。
そして、屋敷が見えるところまで着いた。
ジャンヌとウルミラは、門の前でずっと待っていた。
大成の姿が見えて傍へ駆けつけた。
「た、大成。良かった無事で」
「大成さん。心配しました」
ギランの報告を聞いた時、大成の様子が明らかに、おかしかったので心配していた。
「心配かけてごめん。何事もなかったよ。皆も、この通りに大丈夫だ」
大成は、心配するほど顔に出ていたのかと思い、苦笑いしてジャンヌとウルミラの頭を撫でた。
「ん?その服は制服?」
ジャンヌとウルミラは、制服みたいな服を着ていることに気付いた大成。
「そうよ。そろそろ学園が始まるから、サイズ調整していたのよ」
「私は姫様の計らいで、同じクラスになれました」
ジャンヌとウルミラは、くるりと、その場で回り、皆は見とれていた。
「へぇ~良いな。僕も通えるかな?あっ、でも魔王としての仕事もあるから無理か…」
大成は、施設に保護して貰っていたので、通ったことない学校に興味があったが、魔王としての役目があると思い、諦めた。
「えっ!?大成あなた、学校に通いたいの?男の子って勉強するのが嫌だとか言って怠けているけど」
「そうなんだ?僕は、施設で保護して貰っていたから学校に通ったことないんだ」
大成の理由を聞いて、ジャンヌとウルミラが同情したので、大成は苦笑いした。
「そういうことなら、任せて!私がどうにかするわ」
胸を張るジャンヌ。
「それは、良いですね」
賛同するウルミラは両手を合わせて、笑顔になっていた。
「いや、でも魔王として何か仕事とかあるんじゃない?」
そんな、デタラメな2人の話を聞いて大成は苦笑いした。
「いえ、特にありませんわよ。まぁ、時々ある程度ですわ。何か、ありましたら私が報告に参りますわ」
シリーダが口元に手を当てながら、会話に参加した。
「そうなのですか?では、お言葉に甘えさせて貰います。ありがとうございます、シリーダさん。」
「構いませんわ。修羅様のためですもの」
大成に向けて、シリーダはウィンクした。
ジャンヌとウルミラにジト目で見られ、大成は苦笑いした。
「これで、決まりね。あとは、任せなさい」
「ごめん。あと、1つお願いが…」
「何?」
頭を傾げるジャンヌ。
「魔王とバレないようにしたい。普通に通って、普通に友達を作ってみたいんだ」
「わかったわ。でも…。大成、こう言うのも悪いと思うけど、あなた人間だから難しいかもしれないわよ」
「わかっているよ。それでも普通に接して貰いたい」
「わかったわ」
「ありがとう。これからも、宜しく」
大成は、笑顔でお礼を言った。
次回、学園生活が始まります。
遅れて申し訳ありません。




