式典と小悪魔のシリーダ
式典の準備を手伝おうとしたが、遠慮されたので魔王専用大浴場に向かった大成。
そこで、ハプニングが起こった。
【魔王専用大浴場の前・廊下】
大浴場の事件の後、大成は再び魔法で自身を治癒を施した。
「ハァ~、本当に酷い目にあった…。せっかくの大浴場で入浴できたのに、逆に疲れたな…。でも、いい湯だった」
大成は浴衣を着て、溜め息をしながら廊下を歩いていた。
「ま、魔王様!こ、こちらに、い、いらしゃっいましたか…」
同い年ぐらいのメイドが、息を切らしながら駆けつけてきた。
「ん?どうしたの?何か問題でも起きた?」
訳がわからず、大成は頭を傾げて尋ねる。
「し、式、式典が…。もうすぐ、は、始まりますので、お、お着替えと準備を…」
この広い屋敷をメイド達は、大成を見つけるために走り回っていたのだった。
「あっ!もう、そんな時間なんだ。ごめん。ゆっくりしすぎた。えっと、どこに向かえば良い?」
「案内致しますので、ついてきて下さい」
「助かるよ。ありがとう」
すっかり忘れていた大成は謝罪し、メイドの後ろをついて行った。
【屋敷二階・着替え室】
二階にある着替え室に到着した大成とメイド。
案内された部屋の扉は両扉で、扉全体が紅色で中央には金色のラーバス紋章が描かれていた。
「こちらです、魔王様」
「案内ありがとう。助かったよ」
メイドは扉を開けて、大成が入りやすく扉を支える。
お礼を言って部屋に入った大成は、室内を見て驚いた。
「た、沢山…というより多すぎだろ。これ…」
目に入る視野には、服がビッシリと服が並べてあった。
「魔王様、お待ちしておりました」
室内には別のメイドがおり、両手でスカートの端を軽く摘まんでお辞儀をする。
「遅れて、ごめん」
「いえ、大丈夫です」
「こ、こんなに沢山あったら悩むな」
「い、いえ…。あの、その…」
どんな服にしようかと服を見ていた大成だったが、メイドは言い淀む声が聞こえたので振り向いた。
「ん?」
「あの2着しかありません。申し訳ありません」
「えっ!?」
「魔王様の、そ、その…合うサイズが御用意できませんでした。大変、申し訳ありません」
「ああ、なるほど。仕方ないですよ。だから頭をあげて下さい」
大成は苦笑いした。
メイドは、横に掛けていた服を大成の前に出した。
メイドが出したのは、黒のスーツと黒の袴の着物2着だった。
「魔王様、どちらにされますか?」
「あの、何で袴があるのですか!?」
大成は袴を見て驚いた。
「それはですね。人間と戦争になる前、人間の国に行った時、とても珍しかったのでローケンス様のお息子様にと、私達メイドが購入したのですが…。お気に召さず断れましてので、こちらに保管してました」
悲しそうな表情しながらメイドは説明をした。
「決めた。袴にします」
「え!?いえ…。今回は、おやめになった方が宜しいかと思います。こう言っては失礼ですが、魔王様は人間ですので、ただでさえ心から信用していない人も居られるかと思います。魔王様が人間の国の服を着用して式典に出ますと…その、いろいろと問題が…」
「いや、これにするよ。大丈夫!心配してくれてありがとう」
メイドの話を途中で中断させた大成は袴を選び、袴とローブを受け取った。
大成は着物も袴も黒色を着用して全身を漆黒に染める。
最後に、全体が黒で金色のラーバスの紋章の装飾が施されたローブを上から羽織り会場に向かった。
【屋敷2階・会場】
ステージとなるベランダがある部屋に案内され、大成は気を引き締めて部屋に入る。
そこには、ジャンヌとヘルレウス・メンバーの全員が揃っていた。
ジャンヌとウルミラ以外の皆は、大成を見て満足そうに頷いた。
ジャンヌとウルミラは大浴場の件があったため、すぐに大成から目を逸らした。
ジャンヌは純白のドレス、ウルミラは深紅のドレスを着ていた。
「ジャンヌ、ウルミラ2人とも似合っているよ」
「あ、当たり前よ!で、でも、あ、ありがとう…。大成、あ、あなたも、に、似合っているわよ」
「あ、ありがとうございます。そ、その…た、大成さんも、とても似合っていますよ」
ジャンヌとウルミラは、恥ずかしそうに頬を少し赤く染めた。
「あら?私には、お声がなくて修羅様?」
大きく胸の開いた黒のドレスを着ているシリーダは、大成に近づき、腰を落として妖艶な笑みを浮かべながら大成に尋ねた。
大成の顔の下辺りに、シリーダの大きな胸の谷間があり、大成は視線を向けてゴクンっと息を呑んだ。
「う、うん。シリーダもとても似合っているよ」
「ありがとう修羅様~!」
シリーダはお礼を言いながら、大成に抱きつき自分の胸の谷間に大成の顔を押し付ける。
「「なっ!?」」
ジャンヌとウルミラは、目の前で何が起きているのか一瞬わからなかった。
「や、やわらか…」
両胸に挟まれた大成は、自然と言葉が出た。
大成は慌てて離れ、ジャンヌとウルミラを見ると笑顔でこちらを見ているだけで何も喋らなかった。
それが、ある意味恐ろしかった。
「もう!修羅様、恥ずかしがらずに遠慮なく、どうぞ!」
「ゴホン…。そろそろ時間ですので、お戯れはその辺でお止めください」
再びシリーダが自分の胸の谷間に大成の顔を押し付けようとした時、ニールが止めた。
「お前達、真面目にしろ!」
ローケンスは、シリーダを睨んだ。
「ごめんなさいね」
「そろそろだな。皆、頼むぞ!」
シリーダは素直に謝罪し、大成の掛け声で皆は気を引き締めた。
そして、時間になり音楽が鳴り響き、式典が始まった。
【屋敷2階・ベランダ】
先にジャンヌが、2階のベランダから姿を現して司会をする。
「では、これより式典を始めます」
ジャンヌの開始式の言葉で、続々とヘルレウス・メンバー全員が現れた。
ジャンヌが中央、その左右にヘルレウス・メンバーが立ち並んで手を振る。
ジャンヌの司会によって、式典はテンポ良く進んでいった。
「今日、この国ラーバス国の魔王になられた神崎大成様から、一言」
ジャンヌが紹介で辺りが静まり返り、屋敷の奥から一人の人影が現れた。
その人影は大成だった。
大成は、威圧感を醸し出して皆の前に出る。
集まった皆は、大成の服装を見てざわめき出したが、すぐに大成の纏う雰囲気を感じ取り押し黙る。
「此度、集まって貰い感謝する。すまないが、挨拶は簡単に済ませる。本日持って魔王になった神崎大成だ」
大成は周りの戸惑いを気にせずに堂々と挨拶をして、本題に入った。
「俺の目標は、まず、この国ラーバス国の復興だ。わかりやすく言えば先代魔王の時、いや…それ以上に活気を上げることだ。そのためには、皆の協力が必要不可欠だ!力を貸してくれ!そして、気になっている者達が多い人間達の関係のことだが、同盟を築こうと思う。正確言えば、人間だけではなく他国とも友好関係を築こうと思う!できる限り、無駄な血は流さないようにしたい。もし、相手が侵略してくるならば、俺が先頭をきって戦うことを、この場で誓おう!最後に俺からの、ささやかなサプライズだ!グリモア・ブック、ファイア・ワーク!」
大成は、ユニーク・スキル、グリモアを召喚して屋敷の上にグリモアを移動させ、複合魔法ファイア・ワークを唱えた直後、グリモア輝きながら花火を連射して夜空を色鮮やかに彩る。
「今宵は盛大に盛り上げるぞ!」
大成は、勝手に締め括った。
皆は、夜空に彩る花火に釘付けになっていが、やがて…。
「「ウォォォ!」」
「魔王修羅様!バンザーイ!バンザーイ!」
「ラーバスに栄光あれ!」
「「栄光あれ~!」」
大成の言葉で我に返った人達は、盛大に大成を称え、喜び、盛り上がった。
用意されていた料理を手に取り、花火を見ながらワイワイと賑やかに食事を始めるのであった。
【屋敷2階・会場】
「ふぅ~、終わった」
大成は、一息ついて屋敷内に戻ろうとして振り返った。
「大成、あなた、何勝手に締め括っているのよ。もう!でも…まぁ、良いわ」
不機嫌そうな顔を浮かべていたジャンヌだったが、言葉とは裏腹に口元は笑っていた。
「見事なスピーチでした。お疲れ様です、大成さん」
ウルミラは笑顔で大成のローブを受け取り、ローブをハンガーに掛けた。
周りのヘルレウス・メンバーの皆も頷いたり笑っていた。
メイド達は、急いでジャンヌ達がいる部屋に料理を運んで準備をしていた。
準備が終わり、皆、テーブルに集まり飲み物を片手に取った。
「これから、忙しくなると思うが、皆よろしく頼む!かんぱ~い!」
「「了解!」」
皆、片膝ついて敬礼した。
「あれ?」
(あれ?ここは、普通かんぱ~いって掛け声する流れだよね?)
そう思いながら、大成は苦笑いした。
【屋敷2階・ベランダ】
大成達は、ベランダで夜空を彩る花火を見ながら食事をした。
「大成、ありがとう。あなたのお蔭で、素敵な式典になったわ」
「ですね。ありがとうございます、大成さん」
ジャンヌとウルミラは、大成の傍に歩み寄り、笑顔でお礼を言った。
「良かった。満足して貰えて」
大成は笑顔で答え、そのあと周りを見渡した。
会場ではローケンス、シリーダ、ニールは3人で集まり、今後のことを話し合っていた。
外は集まった人達が、肩を組んで歌ったり踊ったりしており、エターヌやナイディカ村の人達、マキネは大成が見ていることに気付き笑顔で手を振り、大成も笑顔で手を振り返す。
「2人とも、ちょっと良い?」
「何?私は良いけど」
「私も、特に構いませんが」
ジャンヌとウルミラは、頭を傾げた。
「良かった。ついてきて」
大成は2人を連れて、ある部屋に向かった。
【別館の屋敷2階・隠し部屋】
初めてジャンヌ達と出会って美咲を倒してた後、パーティーが開催された時に2人に案内された場所。
そう、2人のお気に入りの隠し部屋だった。
左右に林があり、中央には湖が見える場所だ。
今回は月は幻想的な紫色ではなかったが、代わりに夜空に彩る花火が湖にも写し出されて、とても綺麗だった。
「お、覚えていたのね…大成…」
「大成…さん…」
「うん。あの時の風景はとても印象的だったからね。久しぶりだから、とても懐かしいな」
ジャンヌとウルミラは、嬉しさのあまり涙が溢れて大成に抱きついた。
「ありがとう、大成…」
「ありがとうございます、大成さん…」
「どういたしまして」
大成は、優しく2人を抱きしめた。
そして、3人はお気に入りのベランダから夜空を見上げ、色鮮やかに彩る花火を眺め続けた。
次回は、魔王候補達が主になります。
投稿遅れて大変、申し訳ありません。
用事が続きそうなので、3日に1話ぐらいのペースで投稿します。




