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エルフの森と栞

エルフの森から出てきた栞は一人でオルセー国に奇襲し、フェガール、キルシュ、そして、獣王レオラルドの弟のアレックスを圧倒し、ローズ・バレッドでオルセー国を消滅させた。


それを知った大成達は、エルフ達と交渉することなった。


しかし、エルフの森は結界が張っており、女性しか入れない。


しかも、リーエはエルフの者と仲が悪く森に入れなかった。


そこで、ジャンヌ、ウルミラ、リリー、【セブン・ビースト】のルジアダが代表に選抜されたが、栞の実力を見たレオラルド達は心配と不安があった。


そんな時、【アルティメット・バロン】が大成の女装は可愛いと太鼓判を押し、結局、大成は女装することにきまった。

【オルセー国の跡地】


大成達は馬車で移動しており、護衛のためにケンタウロスの獣人ドルシャーが先頭を走り騎士団達は複台の馬車の護衛のため周りを囲って進んでいた。


目的地はエルフの森ではなく、エルフの森に行く前に亡くなったアレックス達に花を手向けるためオルセー国を訪ることにしていた。


大成が乗っている馬車には、他にジャンヌ、ウルミラ、リーエ、リリーが一緒に乗車しており、大成の左右にはジャンヌとウルミラ、対面側には不機嫌そうに頬を膨らましているリリーと馬車の窓の枠に肘をついてスヤスヤと眠っているリーエがいる。


「そういえば、彗星。なぜ、女装していないの?」

リリーは、フッと思い尋ねる。


「ん?ああ、だって、なるべく、女装はしたくないからね。まずは、エルフの森の結界を直に見てから判断することにしたんだ」


「そう、残念ね」


「そうですね、姫様」

ジャンヌとウルミラは、ボソッと呟いた。


「え!?」

大成はジャンヌとウルミラに振り向いたが、二人は顔を逸らした。



そして、暫くの間、馬車は順調に進んでいたが、突然、馬車と護衛の騎士団達の足が一斉に止まった。


「ん…着いたのか?ふはぁぁ…。」

馬車が立ち止まった時の小さな振動で、リーエは目を覚まして右手で小さな口元に当てて欠伸をした。


「あれ?予定では、まだ時間が掛かるはずなので着かないはずなのですが。ちょっと聞いてみます」

異変に気付いたウルミラが、御者(馬車を運転している人)している【セブンズ・ビースト】の蛇の獣人ツダールに話しかけるため大成の後ろの頭部辺りの位置の高さにある小さな窓を開けようとしたが、ウルミラの豊富な胸が大成の顔を覆う様に当たった。


「う、ウルミラ…」


「はわわわ、す、すみません、大成さん」

ウルミラは顔を真っ赤に染め、慌てて大成から離れて両手で自分の胸を押さえながら大成に背を向けた。


「こ、こっちこそ、その、ごめん、ウルミラ。その、僕が聞くよ」

大成も頬を赤く染めて右手の人差し指で自身の右頬を掻いた。


「お、お願いします」


「あの、ツダールさん、どうかされましたか?」

大成は、後ろにある小さな窓を開けてツダールに話しかけるがツダールは驚愕した面持ちで固まっていた。


「何かあったのかしら?特に何もないみたいけど。ねぇ、リリー。あなた、なぜ止まったのかわかる?」

馬車の窓際に座っていたジャンヌは、窓を開けて少しだけ顔を出して外の様子を窺ったが特に盗賊や魔物も姿はなく、何故、先頭を進行しているドルシャーや騎士団達が止まっているのかがわからなかったので、一度窓を締めて、ジャンヌは頭を傾げながら対面に座っているリリーに尋ねた。


「そんな、嘘でしょう…」

窓から外を見たリリーは、目を大きく見開きながら呟いた。


「ちょっと、リリー。教えなさいよ、どうしたっていうのよ」


「坊や、これは…」

リーエは深刻な面持ちで、大成に声を掛ける。


「うん、やはり、なくなっているね」


「大成、何がなくなっているの?」


「オルセー国だよ」


「「え!?」」

ジャンヌとウルミラは、目を大きく開いて驚愕した。


「この場所からなら見えるはずなんだ。あそこに三本の木があるだろ?普通なら、その先にオルセー国が見えるんだけど。ほら、今は何もないだろ?」

大成はドアを開き、指をさして説明する。


普段は此処からオルセー国が一望できていたのだが、今は黒い影の様な跡しか見えず建物などは一切何も見えなかった。


そのことで、大成、リーエ、獣王以外のリリーやドルシャーを含むオルセー国を見たことのある者達は息を呑みながら呆然と立ち尽くしていたのだった。


特に騎士団達は「一人の少女によって、オルセー国は消滅した」と聞かされていたが、「一人の少女の手によって」と「消滅した」の部分が信じられず半信半疑だった。


そのため、現実を目の当たりしたショックは計り知れなかった。


「マテリアル・ストーンで見たが、本当にパール・シヴァ国より小さいとはいえ、一国が一人の少女の魔法一発で消滅したか…。」

リーエは、消滅して影のように黒くなっているオルセー国の痕跡を見つめた。




【オルセー国の跡地】


あれから、大成達は順調に進んでいたが周りの空気が重くなっており、オルセー国に近付いていくにつれて此処にある筈のない建物の破片などが散らばっていた。


騎士団達は落ちている建物の破片を見て息を呑むと同時に動揺していたが、足を止めることはなく先に進んだ。


そして、最初の目的地であるオルセー国に辿り着いた。


目の前には、跡形もなく消滅して巨大なクレータに変わっているオルセー国があり、その光景を誰もが呆然と眺めた。


「大成、あなたのブラック・バレッドや勇者のシルバー・ブレッドと少しだけ違うわよね」

大成の隣にいるジャンヌが尋ねる。


「そうだね、僕や流星義兄さんのは範囲を絞って貫通力を重視しているのに対して栞のローズ・バレッドは範囲を重視したみたいだ。おそらく、放った魔力弾を途中で行為的に暴発させたんだと思う」


「じゃあ、大成もこんなことができるの?」


「やったことはないからハッキリとは言えないけど、やろうと思えば可能だと思う」


「フン、謙遜するな坊や。坊やならば、オルセー国どころか大国であるパールシヴァやラーバスでも魔法一発で滅ぼすことなんて造作もないだろ?」

リーエは、悪戯な表情を浮かべて大成を見る。


「「〜っ!?」」

騎士団達は、強張った面持ちで視線が大成に集まった。


「特殊部隊に所属していた時に、任務だったら栞みたいに躊躇なく国を滅ぼしていたかもしれないけど。今は、敵だとしても大勢いたら流石に躊躇するよ」


「大成さんは今とか昔とか関係なく、絶対にそんなことしません!あっ、その…」


「ありがとう、ウルミラ」

大成は微笑みながら隣にいるウルミラの頭を撫でて感謝した。


「はわわわ…」


「私としたことが、先にウルミラに言われたわね」


「そうね、ジャンヌ。だけど、意外だったわ。ウルミラとは長い付き合いしているけど、ウルミラって、奥手だと思っていたのだけど良いところはキッチリと取るのね。完全に、油断していたわ」

リリーは、ジト目でウルミラを見た。


「そ、そんなことはないです」

ウルミラは両手を前に出して手首を左右に振りながら慌てて否定する。


そんな中、大成達と少し離れたところにいるレオラルドは片膝を地面につけて用意した十字架の墓石に持っている花束をそっと手向けた。


「この大馬鹿野郎…。」

レオラルドは呟いて目を瞑り、自分が子供頃、生まれてばかりのアレックスを嬉しそうに抱きかかえたことや一緒に父親に鍛えられたこと、家族で一緒に暮らしたことなど次々に思い出し、自然とレオラルドの瞳から一粒の涙が溢れ落ち、レオラルドは左手で顔を覆い隠したが指の隙間から次々に涙が溢れて落ちていき地面が濡れていく。


周りにいる騎士団達は初めて涙を流すレオラルドの姿に動揺したが、すぐにドルシャーが騎士団達を睨みつけたことにより騎士団達はビクッと震えながら息を呑み動揺がおさまった。



「レオラルドよ、アレックスを褒めてやれ。どうあれ、お前の弟は王としての使命を最後まで貫いて戦ったんだ。アレックスのお蔭で、あの少女の侵攻は無くなり私達や数多くの民の命が救われたのだ」

魔王は、レオラルドの左側の背後から右手をそっとレオラルドの左肩に置いた。


「ああ、そうだな…。アレックス、お前のお蔭で私達や数多くの民は助かったぞ。心から感謝する。あとのことは、俺に任せて安らかに眠ってくれ」

レオラルドは腕で涙を拭い、瞳に力強さが戻り立ち上がった。


「あの、獣王様…」


「わかっておる。心配するな、ドルシャー。行くぞ、お前達。ここで立ち止まっていたらアレックス達に笑われてしまう。命懸けで俺達を守ってくれた者達に心配させないためにも、今回の件は絶対に乗り切るぞ!」

レオラルドは大きな声で断言し、マントを翻しながら馬車に向かって戻る。


「「ハッ!」」

騎士団達も駆け足で急いで整列を整え、最終目標であるエルフの森へと出発した。




【エルフの森の前】


大成達は、何事もなくエルフの森に到着した。

エルフの森は白い霧に包まれており、薄らと木々が見えるだけで森全体は把握できないでいた。


初めてエルフの森を見るジャンヌやウルミラ、魔王達は、森の何とも言えない不気味さを肌で感じて息を呑んだ。


そんな中、大成は気にせずに森に近づいていき、右手を伸ばして霧に触れたが右手は霧の中に入った。


「あれ?結界と聞いたから弾かれると思ったんだけど。それに、この霧は自然や魔法じゃなくユニーク・スキルだね。物凄く微量だけど魔力を感じられる。しかも、独特の。だから、これは霧じゃなく魔力そのものと言った方が正しいかな。それに、皆はエルフの森と言っているけど、おそらく山だよ。だって、霧みたいなもやで見えないけど術者は、あの辺りにいるからね」

大成は魔力感知の精度を上げると霧から魔力が放たれていることに気付き、右手の掌で白い靄に触れて術者の位置を把握し左手の人差し指で上空を指をさした。


大成の発言に獣人達はざわつく。


「流石だな、坊や。霧じゃないと見破り、しかも、霧みたいな靄の魔力を感知できるとはな。しかも、私でもわからなかったセリーゼの居場所まで探知するとは恐ろしい。本当に、敵ではなくって良かったと心の底から思う」

大成と同じく感知したリーエは、称賛した。


「そんな馬鹿な!?これが、自然で発生した霧じゃないだと!?それに、森じゃなく山だというのか?」

ツダールは、声を荒らげた。


「本当に極微量なので、魔力感知しても感知できなくても仕方ありませんよ」


「なるほど、この霧みたいな靄が結界の役目をしていたのだな」

レオラルドは、右手を顎に当てて大きく頷いた。


「ですね。しかし、これがエルフの森。エルフの森と聞いていたから美しい森を想像していたけど、想像と違って何だか不気味だな」


「そうね、私も初めて見た時はそう思ったわ」


「リリー、取り敢えず森に入れそうだし入ってみても良いかな?」


「ええ、良いわよ」


「え!?た、大成さん。危険です」


「そうよ!」


「大丈夫よ、ウルミラ、ジャンヌ。彗星なら、すぐに出てくるわ」


「え?リリーさん、どういうことですか?」

「見ていたらわかるわ」

ウルミラが聞き返した時、大成が森の中へ入っていた場所から大成が出てきた。


「なるほど、真っ直ぐ進んでも戻される結界か」


「ええ、そうなの。私達、女性は普通に入れる様になっているわ」


「ねえ、大成。森の中は、どうだったの?」


「簡単に言えば、薄い白い靄がかかっている森かな。視界は真っ白というわけじゃなく、少し見えづらい程度で5mほど進んだら追い出される仕組みみたいだ。毒性もないから安心して」


「それで、彗星。結界は、どうにかできそうなの?」


「残念だけど、正直に言うとお手上げだね。弾かれる結界なら高火力で破壊できるけど、この結界は無理だね。まぁ、そもそも、結界を破壊したら逆に敵対心が跳ね上がるから始めからするつもりはなかったけど」


「じゃあ、女装するのね!」


「あのさ、リリー。何で、そんなに嬉しそうなんだ」


「だって、気になるじゃない。あの【アルティメット・バロン】が美少女だと太鼓判を押すぐらいだから。ねぇ、ジャンヌ、ウルミラ。あなた達も気になるでしょう?」


「えっと、その…まぁ、そうね…気になると言えば気になるわね…」


「…はい」

ジャンヌとウルミラは、申し訳無さそうにチラッと大成に視線を向ける。


「はぁ、じゃあ、予定通りに着替えてくるから待ってて」


「「ええ!」」

「はい!」


「はぁ、何で3人共そんなに良い返事をするかな…本当に…」


「待て!神崎大成。お前の出番はない。お前の代わりに私がエルフの国に向かうからな」


「ん?えっ!?」


「「……。」」

「お、お父様…」

魔王の姿を見たジャンヌは頬を引き攣り、他の者達は言葉を失った。


魔王の姿は白のワンピース姿だが、筋肉質の骨格はそのままで、髭は剃り赤色の口紅をつけ、肩辺りの長さの金髪のカツラをつけていた。


「ん?どうした?皆者、静まり返って。そうか、私のあまりにもの美貌に言葉を失ったのだな。どうだ?ジャンヌ、ウルミラ。結構、自信があるのだが」


「お父様、はっきり言って全く似合ってないです。というよりも不気味で怖いです。早く、元の服装に着替えて下さい」


「なっ!!ウ、ウルミラ、そんなことはないよな?」

魔王は、恐る恐るとウルミラに視線を向けて尋ねる。


「あ、あの、何だか、夢に出てきそうで嫌です」

ウルミラはオドオドしながら魔王から視線を合わせず、傷つかない様に気を配って言ったつもりだった。


しかし…。


「そ、そんな馬鹿な…。そんなはずはないはずだ…。ハッ、ミリーナ!」

ショックを受けた魔王は血の気が引いて顔が青ざめ四つん這いになったが、フッと最後の希望である妻のミリーナに振り向いて尋ねる。


「あら?あなたは誰ですか?私は、あなたの様な人は存じあげませんけど?」

ミリーナは、右頬に右手を当てて頭を傾げながら冷たい笑顔で夫である魔王を見る。


「〜っ!?」

魔王は、開いた口が開いたまま固まっていた。


「くっ、ま、まぁ、見ておれ!この私の美貌でエルフの結界を突破して見せるぞ!」

気を取り直した魔王は、エルフの森へと足を踏み込もうとした瞬間だった。


エルフの森を包んでいる霧の様な靄が一点に凝縮して右拳の形になり魔王の顔面を殴り飛ばした。


「ごほっ、む、無念…」

魔王は、後ろに吹き飛びながら地面を転がり仰向けで倒れて呟いて気絶した。


周りは呆然と倒れている魔王を見ていたが、リーエだけは口元に手を当ててクスクスと笑っていた。


「獣王様、これは…」


「うむ、初めて見る結界のパターンだな。まさか、防衛システムも備わっているとはな」

ドルシャーとレオラルドは、冷静に物事を見ていた。


「今の見たら、何だか女装するの嫌だな…。きっと、アレは痛そうだし…」

大成は、倒れている魔王を見て溜息を零した。


「何をしているんだ、坊や。ほら、次はお前の番だぞ。私も協力したのだからな。棄権はしないよな?」

リーエはクスクスと笑いながら大成の背中を叩き、最後に大成を睨んだ。


「はぁ、わかっているよリーエ。だけど、協力の話は、リーエから持ち掛けただろ?」


「何か言ったか?坊や」


「何も。じゃあ、行ってくるよ」

大成は肩を落として馬車に向かい、馬車の中で用意していた服に着替えることにした。


そして、暫く時間が経ち馬車のドアが開き、一人の少女が現れた。


少女は薄いピンクの口紅をしており、髪の毛は黒髪で腰のあたりまで伸び、首元にはフリルのついたチョーカー、服装は全体が黒で所々にフリルや赤色の刺繍が入ったゴシック・ロリータのドレスを着ており、黒の日傘をさして現れた。


皆の視線が馬車から出てきた少女に誰もが驚きの表情を浮かべて息を呑み、ジャンヌ達女性陣でも少女に釘付けになるほど見惚れた。


なぜなら、誰がどう見ても美少女にしか見えなかったからだった。


少女は馬車のステップの階段を降りてゆっくりとジャンヌ達の方へ歩み寄るが、誰もが少女に見惚れており顔だけ動かすだけで声も出さずに呆然と立ち尽くしている。


少女がジャンヌ達の前まで歩み寄ったが、ジャンヌ達も呆然と立ち尽くしたままだった。


「ん?どうしたんだ?皆、シーンと静まり返って」


「ククク…。これは、これは予想以上だな」


「何だよ、リーエ」


「ククク…さぁな」


「まぁ、良いや。ん?」


「「可愛い!キャ〜!」」

ミリーナとネイは、大成に駆けつけて抱き締めた。


ウルシアは、遠くから大成達を見て微笑んだ。


「あの、すみません。そろそろ離れて頂いても良いですか?装が乱れるので…」


「「あ、ごめんなさい」」

ミリーナとネイは、慌てて大成を放した。


「ん?ジャンヌ、ウルミラ、リリーどうかした?」


「あなた、本当に大成よね?」


「そうだけど?」


「す、凄い、凄いです!大成さん!どこからどう見ても美少女です!ですよね!姫様、リリーさん!」

ウルミラは両手で、大成の両手を握り締めてハイテンションで二人に振り返って尋ねる。


「ええ…そうね…」


「これは、予想していた以上の可愛さだわ…。本当に女の子にしか見えないわ。それに、何だか女として嫉妬してしまうわね」

ジャンヌは目がキョトンとして呟き、リリーは口元に手を当てて大成の足元から頭を見て複雑な面持ちになる。


「そんなことはないと思うけど?って、何で殺気を放っているのジャンヌ」


「だって、そういうふうに言われたら、何だかイラッとしたのだけど」


「ジャンヌの気持ち、よくわかるわ」


「ですね。あ、でも声はどうしようもないですよね」


「ああ、それなら、ア、ア、ア〜。これで、どう?」


「え!?どうなっているのよ!」


「前の世界では潜入捜査、囮捜査とかで女装していたからね」


「もう、大成は何でもありなのね」


「ですね」


「ゴホン、では修羅殿。森の結界を通れるか試して貰っても良いか?」

レオラルドは、わざと咳をして依頼する。


「わかりました」

再び、大成は森の中へと入ろうとする。

霧の様な靄の結界は魔王の時と違い変化することなく、すんなりと大成は森の中へと入ることができた。


そして、少し時間が経ち、森から大成が現れた。


「大成、どうだったの?」


「大丈夫だったみたい。無事に結界を通り抜けれたよ。森の奥は、靄がなくて晴れていて明るく想像していた感じの風景だった」


「うむ、それは良かった。では、早速だが頼むぞ」


「「はい」」

大成、ジャンヌ、ウルミラ、リリー、ルジアダの5人はエルフ国を目指すため、エルフの森の中へと足を踏み込んだ。


大成達の姿が見えなくなり、ミリーナは未だに気絶している魔王に振り返った。


「あなた、いつまでそんな馬鹿な格好をしたまま気絶しているのですか?大成君達は、もうエルフの国に向かいましたよ」


「ん?ああ…そうか、着替えてくる」

ゆっくりと魔王は立ち上がり、肩を落とした状態でトボトボと一人、着替えるためにその場から離れて馬車に行った。


その背中は寂しかった。



【エルフの森】


大成達は霧の様な靄が掛かっている真っ白な森の中を10mほど歩いて進むと靄が嘘の様に消え、目の前には間伐され太陽の光が差して明るく御伽噺などにでくる神が住む様な神秘的で綺麗な森林地帯が広がっていた。


「わ〜、綺麗です!」


「ええ、とても素敵な森ね。ところで、リリー。エルフの国はどっちの方角に行けば良いの?」


「あ、えっと…。そ、その私、今回が初めてなの。エルフの森に入ったのが。ルジアダ、あなたわかる?」


「申し訳ありません、リリー様。私も初めてエルフの森に入ったのでわかりません」


「誰もわからないなんて、これからどうするのよ」


「おそらく、あっちだと思う」


「なぜ、わかるのですか?修羅様」

ルジアダは、驚いた面持ちで大成に尋ねる。


「魔力感知したら、この坂を登った先に大勢の魔力を感知できましたので」


「え!?この森に入ってから、すぐに私は魔力感知をしましたが何かに阻害されて全くできないのですが…」


「私も魔力感知ができないのに感知ができるなんて、流石ね!彗星」

ルジアダが驚くが、リリーは当たり前の様に彗星を称賛した。


大成を先頭に暫く森の中を歩いて行くと、次第に滝の音が聞こえてきた。


そして、少し進んだ先に大きな滝が見えた。


「ここで、一先ず休憩にしないかな?」


「ええ、そうね。私は、賛成だけど」


「はい!私も賛成です」


「良いわね、ルジアダは?」


「賛成します」

こうして、大成達は滝で休憩をすることにした。


ジャンヌ、ウルミラ、リリーの3人は靴と靴下を脱いで滝の近くにある大きな岩の上に座り両足を冷たい水につけており、大成は右手を額に当てて陽射し防ぎながら間近で滝を見上げて満足そうな表情を浮かべ、一人だけ離れた所にいるルジアダは大成達から大丈夫だからと言われたが敵か魔物が来ないか見張っている。


「ねぇ、ところで大成」

ジャンヌは裸足のまま、大成に歩み寄り尋ねる。


「ん?何?ジャンヌ」


「さっきから気になっていたのだけど、その胸は本物なの?」


「流石に本物じゃないよ、僕は男だよ」

大成は、苦笑いを浮かべて答えた。


「でも、どう見ても本物しか見えないけど?その、触っても良いかしら?」


「うん、別に良いけど?」


「じゃあ、その失礼するわね。え!?嘘、何これ!?本物みたいな感触するのだけど!」

ジャンヌは恐る恐る大成の胸を触ったり揉むと本物の胸の感触がして驚愕した。


「彗星、私も触らせて!」


「あ、あの、大成さん。私も良いですか?」

リリーとウルミラも大成に駆け寄る。


「別に良いけど」


「嘘、まるで本当に本物みたい…」


「す、凄いです…。あの、一体、何でできているのですか?」


「そう言ってくれると嬉しいかな。頑張って作ったかいがあったよ。素材は樹脂だよ。ほら、少し前から発売しているフィギュアも樹脂で作っているんだ。樹脂だと木製と違って型を作れば簡単に大量生産ができるし、軽いし、落としても割れることもないからね」


「でも、それなら装着しているから樹脂の切れ目とかあるでしょう?全然、見当たらないけど?」

ジャンヌは、ジッと大成の胸を凝視する。


「ああ、それはね。この胸は胸元だけじゃないんだ。肩付近と首の喉仏の下までの広範囲の加工しているんだよ。肩付近まであれば服で覆えば見えなくなるし、首の喉仏の下まで伸ばして作っているから切れ目の上にチョーカーで覆えば男性特有の喉仏と一緒に隠せれるからね。ほら、ここに切れ目があるだろ?」

大成は、右手でチョーカーを少しだけ捲って見せた。


「でも、よく見た目だけでなく、感触も本物みたいに作れたわね。まるで、何度も女性の胸を触ったみたいに…。あっ!まさか、大成。あなた、リーエ様の…」

ジャンヌは感心しながら口にした瞬間、すぐにリーエの「私も協力したのだからな」という言葉を思い出して殺気を放ちながら大成を睨みつける。


ウルミラやリリーも、少し遅れて気付いて大成を見た。


「いや、違うんだ。確かに、そうなんだけど。違うんだ。リーエが自分で提案して言い出したんだ。それは、本当だから。僕は見た目だけで良いと思って作ってたんだけど、製作中にリーエが来て「作るのなら完璧な物を作るべきなんじゃないのか?坊や。手を抜くのは関しないな」と言われて、それで…」


「言ってくれれば、私も協力してあげたのに…」

ジャンヌは、少し俯きながらボソッと呟いた。


「ん?何か言った?ジャンヌ」


「な、何でもないわ!な、なるほどね。で、それ以上の…その…こ、行為はしたの…関係を持ったの…?」

慌てたジャンヌは、恥じらいと不安が混ざった表情を浮かべながら顔を真っ赤に染めて恐る恐る尋ねる。


「なっ!断じてしてないよ!それは、神に誓うよ」


「そ、そう。なら、今回は特別に許してあげるわ」

ジャンヌは、ホッと胸を撫で下ろして微笑んだ。


「ありがとう、で良いのかな?じゃあ、そろそろ出発しよう」

大成達は、エルフの国を目指して出発した。



大成達は、小さな魚の群れが気持ち良さそうに泳いでいる透明な小川を沿うように坂道を登りながら順調に進んでいた。


今までとは違い、川沿いなので足元は土じゃなく掌サイズの石が密集している。


「大成の言っていた通り、森じゃなく山ね」


「そうですね」


「あら、ジャンヌ。もう疲れたの?」


「リリー、誰も疲れたって言ってないわよ」

ジャンヌ達は、他愛のない会話しながら歩いている。


今は、大成にばかり魔力感知を使わせぱなしなのは申し訳ないと思い、ジャンヌ達は日頃から鍛えている五感での気配探知を行い警戒しながら進んでいた。


その時、大成とルジアダが何者かが近付いて来ていることに気づいた。


「皆様、正面から凄いスピードで複数の生体反応が近付いて来ています!」

ルジアダは、剣を抜刀して警告する。


「「わかったわ!」」

「わかりました!」

ジャンヌ達は足を止めて、それぞれ武器を出して戦闘態勢をとる。


すると、正面からエルフの戦士達が現れた。


「お前達は、何者だ?」


「私は、パールシヴァ国から参りました獣王レオラルドの娘のリリーと申します。此度、オルセー国の件で獣王レオラルド様の代理としてお詫びに参りました。我々は、エルフの国と事を構えるつもりは一切ありません」

リリーは大成達の前に出て、左右の手で左右のスカートの端を摘んでお辞儀をし話した。


「なるほど、大体のことはわかった。だが、1つ聞くが入国許可書を持っているのか?」


「残念ながら持っていません。ですが、獣王レオラルド様からの手紙を直接エルフの国王であるトネル国王様にお渡ししたいのですが」


「そうか、持ってないのだな。それは、残念だが認められない。だが、そうだな。そこの黒髪の少女」


「え!?私ですか?」

大成は、人差し指で自分を指さした。


「そうだ、俺の女になるなら上に相談してやっても良い」


「あ!ズルいぞ、お前!何、抜け駆けしているんだ!」


「「そうだぞ!」」


「こういうのは、早いもの勝ちだろ。それに、こう見えても俺はエルフの国では上位の地位を持っている。わかりやすくいえば、お前達のところだと上位貴族といえばわかるか?で、どうだ?」


「あ、結構です、遠慮します」

大成は、キッパリと迷わずに断った。


「な!?」


「「アハハ…」」

エルフの戦士達は、盛大に笑った。


「よくも貴様!この俺に恥を掻かせてくれたな!容赦はせん!死ね!」

エルフの戦士は、背中に背負っている筒から矢を一本取り出して大成に向かって射る。


見ていたジャンヌ達おろか狙われた大成も焦ることはなかった。


左手で日傘を持っている大成は日傘を持ったまま、飛んでくる矢を右手の人差し指と中指で掴んで止めた。


「「なっ!?」」

エルフの男達は、驚愕の声をあげる。


「上層の方へ連絡して頂けませんか?」


「嘗めるな!」

矢を射ったエルフの戦士は、再び矢を射ろうとする。


「はぁ、お返しします」

大成は右腕を横に振って矢を投擲し、矢は射ろうとしているエルフの戦士の左頬を掠めて後ろにある木の幹に刺さった。


「なるほどな。流石、獣人の姫様の護衛するだけのことはあるといったところか」

矢を射ろうとしているエルフの戦士は構えを解いて真面目な面持ちになり頬の傷を親指で拭いながら納得し、再び弓を構え、他のエルフの戦士達もヘラヘラしていた表情が引き締まっていた。


「ここは、私が相手するからジャンヌ達は手を出さないで欲しい」


「嫌よ、私達も加勢するわ!」


「いや、ジャンヌ達は遠くからエルフ達の戦い方を見て欲しい」


「わかったわ、だけど、次からは私達も戦うわよ」


「うん、わかったよ。それで、良いですか?ルジアダさん」


「はい、了解しました。ですが、相手を殺さないで下さい」


「もちろんです。なるべく、これ以上、関係を悪化しないように努力しますので安心して下さい」


「お願いします」

ルジアダが了承し、ジャンヌ達は大成から離れた。



「貴様!どこまでも俺を嘗めるんだ!なら、こちらも俺一人で戦ってやる」


「熱くなり過ぎだ。相手は珍しく上玉なんだ、誤っても殺すなよ」


「わかっている!躾けてやるだけだ。ウィンド・アロー」

エルフの戦士は、矢に風魔法を纏わせて放つ。


矢は普通は減速していくのだが、放たれた矢は逆にどんどん加速していく。


大成は動かず、矢は大成の左頬の近くを通り抜けて木の幹を少し抉って突き刺さった。


「どうだ?反応できなかっただろ?今度は、容赦なく当てるぞ。そうだな、今なら謝罪をして俺のものになると誓えば特別に許してやらないこともない」


「いえ、結構です。そちらこそ、早く、上の方に連絡して頂けませんか?」


「こ、この!ツイン・アロー!」

エルフの戦士は、片手で二本の矢を持って矢に魔力を込めて二本同時に放つ。


同時に放たれた二本の矢は加速しながら、大成に一直線に向かう。


大成は右腕を横に振り返り、飛んできた二本の矢を何事もなかった様に掴んで受け止めて、再び、矢2本を投げ返した。


「何だと!?くっ」

エルフの戦士は、驚愕しながら慌てて横に飛び込む様にして避ける。


しかし、目の前に大成が迫っていた。


「シャイニング・ウィザード」

大成は走りながら加速した状態で右膝で、態勢を崩しているエルフの戦士の顔面を撃ち抜く。


「がはっ」

エルフの戦士は後ろに転がりながら、木の幹に激突して幹に凭れ掛かる様に倒れた。


「「嘘だろ…」」

エルフの戦士達は呟きながら、大成を見ていた。


「大成!頭!」

ジャンヌは、慌てた表情で教える。


「頭?」

大成は、訳がわからずに頭上を見上げた。


「違います!カツラが取れてます!」

大成が走ったことでカツラが外れて落ちていた。


「あ…ヤバっ…。エヘ」

ウルミラの指摘でわかった大成は、慌てて後ろに落ちているカツラを拾ってかぶりエルフの戦士達に微笑む。


「一番可愛いと思った奴が男なら、こいつら全員、男だな」


「ああ、間違いない!獣王の娘というのも嘘だろ!」


「よくも、俺達を騙しやがって!容赦せんぞ!」

「「〜っ!?」」

エルフの戦士達は激怒しながら魔力を開放して殺気を放つが、一瞬で魔力と殺気は霧散し顔から血の気が引き青ざめながら怯えた。


なぜなら、大成の後ろにいるジャンヌ達が激怒しており、恐ろしいほどの殺気と圧倒的な魔力を開放していたからであった。


大成は、恐る恐る後ろにいるジャンヌ達に振り返る。


ルジアダは頬を引き攣りながら隣にいるジャンヌ達を見ており、ジャンヌ達からは禍々しく、それでいて瞳には地獄の灼熱をたぎらせいた。


ジャンヌからは高熱が放たれており周囲に陽炎が揺らぎ、ウルミラからは冷気が放たれおり周囲にダイヤモンドダスト現象が起き空気が凍りつきキラキラと光り、リリーは九本の尻尾が逆立っており周囲にある植物がリリーの魔力に反応してみるみると巨大化していく。


「ねぇ、あの人達。今、何て言ったの?私の聞き間違い?」

ジャンヌは、笑顔を浮かべていたが目は笑っていなかった。


「いいえ、私達が男だって、はっきりと口に出して断言したわよジャンヌ」


「じゃあ、やっぱり、私の聞き間違いじゃないのね」


「はい、私もそう聞こえましたので!」

ジャンヌやリリーだけでなく、普段は優しいウルミラも笑顔を浮かべていたが背後に般若の姿が見える。


「ねぇ、大成」

目が居座っているジャンヌは、ドスの利いた声で大成に尋ねる。


「は、はい!何でしょうか?ジャンヌ様」

大成は、ピーンと背筋を伸ばす。


「この人達の相手は私達がするわ。良いわよね?」


「イ、イエス、マム!」

大成は、素早く背筋を伸ばして右手を額に当て軍人の敬礼し身を退、ジャンヌ達はゆっくりとエルフの戦士達に歩み寄る。



怯えているエルフの戦士達は震えながら後ろに数歩下がることしかできず、地面から盛り上がっている木の根に足を取られて転倒した。


エルフの戦士達はすぐにジャンヌ達に視線を向けたが、目の前には笑顔を浮かべているジャンヌ達がいた。


「「誰が!男よ!」」

「誰が男ですか!」

「「ひぃ…」」

完全に戦意喪失しているエルフの戦士達は、何もできずにジャンヌ達にボコボコにされて縄で縛られた。


「リリー様方、少しは落ち着かれましたか?」

ルジアダは、頬を引き攣りながらジャンヌ達に尋ねる。


「フー、ええ、少しはね」

リリー達の表情は和らぎ、殺気も威圧感もおさまっていた。


「気をつけろ!上だ!」


「「〜っ!?」」

大成の警告によって、ジャンヌ達は上を見上げると人間少女・栞が木の枝に立っていた。


そして、続々とエルフの戦士達が現れた。


「フフフ…やっぱり、私に会いに来てくれたのね大成。とても、嬉しいわ」


「栞…」


「あなたが、オルセー国の皆を!」

リリーは、九本の尻尾を逆立てながら殺気を放ち栞を睨みつける。


「ん?それは、元々、あなた達が悪いのでしょう。それで、恨むのはお門違いよ。それなら、始めから国を造らせないようにしなさいよ。これだから、獣人は所詮、獣と変わらないのよ。私達は長い間、我慢していたのよ。それなのに、あなた達は何もしないで放置していたから、私が動くことになったのよ。逆に、報酬を貰いたいぐらいだわ」


「くっ、そうだとしても、あなたほどの実力があれば殺すことはなかったでしょうが!」

リリーは、双剣を握り締めて栞に飛び掛かる。


「「リリー!」」

「リリーさん!」

大成達は、慌ててリリーを止めようとしたがリリーは止まらなかった。


「「栞様!」」


「大丈夫、あなた達は手を出さないで頂戴」


「「ハッ!」」


「まずは…」

栞が、クスリと口元を歪めた。


だが、栞の背後から雷を纏ったルジアダが雷歩を使って迫っており、栞は挟まれる状態に陥る。


「フフフ…まずは2匹ね」

ルジアダの動きも見えていた栞は冷静に体を傾けて袖で隠れて見えない右手をリリーに、同じく袖で隠れて見えない左手をルジアダに向けた。


「二人共、体を捻ろ!」

大成は大声で警告すると、パンっと乾いた音が響いた。


「「うっ…」」

リリーとルジアダは体を捻ると同時に栞が撃った弾丸が命中し、空中で体勢を崩して地面に落ちそうになった瞬間、大成がジャンプして空中でリリー、ルジアダを担いで地面に着地した。


「リリー、ルジアダ!」

「リリーさん!ルジアダさん!」

ジャンヌ、ウルミラは大成達に駆け寄る。


「大丈夫ですか?リリーさん、ルジアダさん」


「うっ、私は大丈夫だけどルジアダが…」

リリーは、左手で撃たれた右肩を押さえて答えた。


大成の声に少し反応が早かったリリーは致命傷は免れたが右肩を撃たれ、反応が遅れたルジアダは右肺を撃ち抜かれていた。


「大成、お願い」


「わかっているよ、ジャンヌ。幸いなことに弾丸は貫通している。これなら、簡単に治せる。グリモア・ブック、ワイド・ヒール」

大成はグリモアを召喚して回復魔法ワイド・ヒールを唱えると、少し大きな魔法陣がリリーとルジアダの真下の地面に浮かび上がり魔法陣からホタルのみたいな優しい緑色の光が湧き出して二人を優しく包み込み傷を癒やした。


「ありがとう、彗星」

「ありがとうございます、修羅様。助かりました」


「ところで、リリー、ルジアダ。何をされたの?」


「それが、何も見えなかったわ。ただ、気付いたのは彗星に言われたから動いたら破裂音と共に何かが肩を貫通したことと火薬の匂いがしたぐらい」


「私もです。修羅様の言葉がなければ、確実に死んでいました」


「大成、あなたは見えたんでしょう?」


「ああ、おそらく、栞は始めから左右の手に前の世界の武器の拳銃を隠し持っていたんだ」


「【時の勇者】さんが使っていた武器ですね」

ウルミラは深刻な表情で大成と流星の戦いを思い出す。


「私達は知らないわ。で、その拳銃って何?」


「簡単にいえば、鉛の玉を物凄い速さで飛ばす武器で当たりどころが悪ければ即死したりする。武器自体がコンパクトで殺傷能力が高い強力な武器だ。流星義兄さんは弾の補充が必要ない魔力弾を使っていたから魔力感知でどうにかできたけど、栞は鉛の弾丸だから魔力感知しても意味がないんだ。それに、手元は裾で隠しているから引き金を引く動作も見えないから厄介だ」

大成が説明し終えた時、栞が大成達に歩み寄る。



「話は、それぐらいで良いかしら?それにしても、そこそこ魔力があるから期待していたのだけど。あなた達の実力は、こんなものなの?正直、大したことはないわね。ガッカリしたわ」


「よく言うわね、拳銃とかいう武器のお蔭でしょう」

リリーは、栞を鋭い眼光で睨みつける。


「フフフ…」


「何が可笑しいのよ」


「だって、あなたの言い分だと剣士が強いのは剣のお蔭と言っているのと同じじゃない?まぁ、良いわ。じゃあ、この二本の木の枝だけであなた達を相手をしてあげるわ。これでも、ハンデが足りないかしら?それとも、あなた達は大成に守られるだけの存在なのかしら?もし、そうだとしたら大成にくっついているだけの金魚の糞ね」

栞は、足元に落ちていた木の枝を二本拾って左右の手に持ち笑みを浮かべた。


「「〜っ!」」

ジャンヌ達は怒りが込み上がり、一斉に栞に飛び掛かった。


「ちょっ…」

「大成は手を出さないで!私達を馬鹿にしたことを後悔させてあげるわ!」

双剣を持ったジャンヌが先頭をきって栞に接近し左右の剣で攻撃するが、栞は余裕の表情で左右の木の枝で防いでいく。


「姫様!」

ウルミラは栞の左側から接近し、スライドするグリップがついている矛でグリップを利用して高速の突きを連打する。


栞は右側に移動しながらウルミラの突きの連打を避け、ジャンヌとウルミラの二人が見える位置取りをする。


しかし、背後から双剣を持ったリリーと右手に剣を振り上げているルジアダが迫っていた。


栞は高くジャンプしてリリーとルジアダの攻撃を避けると共に、空中で反転して木の幹を蹴り飛ばしてリリーとルジアダに勢いをつけて木の枝で反撃をする。


「「きゃっ」」

リリーは双剣をクロスにし、ルジアダは剣を横に構えて空いている左手を刀身を支えて栞の攻撃を防いだが威力に押し負けて吹き飛ばされ近くの木の幹に背中から衝突した。


「リリー、ルジアダさん!」

「リリーさん、ルジアダさん!」

ジャンヌとウルミラは心配して二人に声を掛ける中、栞は着地と同時にジャンヌとウルミラに迫る。


ウルミラは矛を両手で握り締めて構え、真正面から栞に立ち向かう覚悟をする。


栞が一直線に迫ってくるので、ウルミラは自由に伸縮できる矛を伸ばしたり短くしたりして高速の突きを連打する。


栞は、身体を最小限に左右に動いて突きを全て躱していく。


しかし、ウルミラは最後の突きを繰り出して避けられた直後、突きから横に薙ぎ払いに繋げる。


栞は右手に握っている木の枝を左側に伸ばして、ウルミラの攻撃を防ぎながらウルミラの懐に入り、左手の木の枝を内側から外側に振ってウルミラに攻撃をしようとした。


しかし、木の影から気配を消したジャンヌがジャンプして身体を捻りながら栞の背後から首を狙って斬撃を繰り出す。


「〜っ!」

栞は本能でウルミラへの攻撃を止めると同時に屈んでジャンヌの攻撃を避け、回転しながら左手の木の枝で空中にいるジャンヌに攻撃する。


「くっ」

ジャンヌは剣で防いで上空に弾き飛ばされたが、空中で身体を回転させて体勢を整えて着地した。


ウルミラは、栞が体勢を崩している隙を見逃さなかった。


「【流水の舞】」

ウルミラは矛についているグリップをスライドさせたりしてリーチを変化させながら連撃を繰り出す。


栞が体勢が万全な状態だったらウルミラの連撃を避けながら反撃に転じられるのだが、今の状態では防ぐことしかできなかった。


しかし、ウルミラの一撃一撃が重く、栞はウルミラの連撃を防いでいたが、すぐにこのままだと不味いと判断して危険性が高くなるが可能な攻撃は受け流すことに切り替えた。


身動きが取れない栞にジャンヌ、リリー、ルジアダが追い打ちをかけようとする。


その時だった。


「少しだけ、本気を見せてあげるわ」

栞から今までとは比べ物にならないほどの膨大な魔力と威圧感が解き放たれ、栞は左手に持っていた木の枝を捨てて空いた左手で難なくウルミラの矛を受け止めた。


「えっ!?」

ウルミラは驚愕した瞬間に栞から矛を引っ張られて引き寄せられる。


「うっ」

栞は左手に掴んでいる矛を引いてウルミラを引き寄せ、右手の木の枝の手元でウルミラの腹部を強打して気絶させた。


栞はすぐに後ろに振り返り、襲い掛かってきているジャンヌ達に向かって歩く。


正面からリリー、左側から雷を纏ったルジアダ、右側からジャンヌが迫ってくる。


栞は、正面のリリーが右手の剣を振り下ろそうとしていたので、一歩前に出て振り下ろされる前に左手でリリーの右手首を掴んで受け止めた。


栞はリリーの右手首を掴んだまま横に振り回し、左側から迫っていたルジアダにぶつけて手を放して二人を吹き飛ばした。


「貰ったわ!」

ジャンヌは栞が振り返る暇を与えなかったので、渾身の一撃を与えられると思っていた。


しかし、栞は右手を振り持っていた木の枝をジャンヌに向けて投擲する。


「くっ!」

ジャンヌはギリギリで左手の剣で木の枝を弾いたが、その一瞬の間で栞はジャンヌに振り返っていた。


ジャンヌは右手の剣を振り下ろし、栞は右手を伸ばしてジャンヌの胸部を狙いを定めた。


「そこまでだ!」

大成は一瞬でジャンヌと栞の間に入り、左手でジャンヌの右手首を、右手で栞の右手首を掴んで二人の攻撃を途中で止めた。


「大成、何で止めるのよ?」


「お互いの実力はわかっただろ?栞。ジャンヌ達は、ただ僕に守られるだけの存在じゃなかっただろ?」


「まぁ、そうだけど…。」


「ジャンヌ達も、もう良いだろ?」


「わかったわ」

大成は二人が力を抜いたのを確認して手を放した。


ジャンヌと栞は素直に戦闘態勢を解き、ジャンヌ達は武器をおさめた。


「で、栞。頼みたいことがあるんだ」


「わかっているわ。案内すれば良いのでしょう?」


「助かるよ、栞」

大成は、笑顔を浮かべた。


「その笑顔は卑怯よ」

栞は、頬を赤く染めて呟く。


「ん?何か言った?」


「何もないわ!それより、大成。いつまで、その格好しているの?まぁ、似合っているから、私はどちらでも構わないけど」

栞は、悪戯ぽく笑みを浮かべる。


「あ、そうだった」


「あの、栞様。本当にコイツらを連れて行くのですか?」


「そうよ、それに第一、これは私達が勝手に決めて良いものじゃないわ。下手をすると戦争に発展するでしょう?あとのことは、トネルさんの判断に任せるわ。それが、一番良い判断だと思わない?」


「はい、納得しました。それなら、なぜ戦われたのですか?」


「私は、この人達の実力を確かめたかっただけよ。まぁ、奥の手は見られなかったみたいだけど」

「それは、お互い様でしょう」

栞はジャンヌ達を見渡し、ジャンヌ達は栞を睨んだが栞はジャンヌ達を気に入った様で微笑んだ。


「まぁ、そういうことだから、あなた達は先に戻ってトネルさんや皆に知らせなさい」


「「ハッ!畏まりました」」

エルフの戦士達は、一斉立ち去った。


「それにしても、大成。あなた、昔から人種なんて気にしていなかったけど。でも、まさか、人間じゃない人種でも気にしないのね」


「人種なんて、些細なことだろ?それに、僕はもう人間でも、魔人でも獣人ですらないしね」


「え?どういうこと?」


「あ、そういえば言ってなかったね。あと、栞に他にも色々と話すことがあるんだ。まずは、そうだな。僕についてから話せば一通り説明できるかな。僕がこの世界に召喚された日…」

大成は、今まで出来事を話しながら栞と一緒にエルフの国へと向かった。


「どんな形であれ、生きてくれてありがとう大成。フフフ…またこうして、あなたに会うことができて、とても嬉しいわ。それにしても、とうとお兄様と引き分けに持ち込めたのね!とても凄いじゃない!」


「まぁ、人間を辞めて、やっと引き分けに持ち込めた感じだったけどね。それより、栞も生きていてくれて嬉しいよ」


「ありがとう、大成」

普段、大人びている栞だったが年頃の少女の様に満面な笑みを浮かべた。


「……。」

大成は栞に見惚れていたが、背後いるジャンヌとリリーは頬を膨らませて大成の左右の頬を摘んだ。


「痛っ!?な、何?」

大成は、慌ててジャンヌ達に振り返って尋ねる。


「「何も!」」

ジャンヌとリリーは、頬を膨らませたまま顔を背けた。


「あの、栞さん。行き止まりなのですが」


「心配しないで、ここで合っているから大丈夫よ」


「なるほど。おそらくだけど、どのルート通っても頂上にはつけない様になっているんだな」


「どういうことなの?大成」


「森の結界と同じ結界が張られているんだ。だから、ずっと山を登っても彷徨い続けるだけになる」


「流石、大成。よくわかったわね。それじゃ、」

栞が胸元で手を2度叩くと、栞の前に白い靄が渦状に現れた。


「こっちよ!」

栞は、正面に出現した白い靄の渦状に入り、大成達も栞の後に続いて入った。




【エルフの森・洞窟】


大成達は、洞窟の中に転移していた。


洞窟の中は、壁に自然の魔鉱石がまばらにあり、様々な色でサイズが大小、強弱と灯り明るかった。


「わぁ〜、綺麗ですね!姫様」


「ええ」

ジャン達は幻想的な空間に見とれ、周りの壁を見ながら歩く。


「ところで、栞さん。なぜ、あなたは、そんなに強いの?それに、彗星とはどんな関係なの?」


「そうね、もう少し時間が掛かるから暇潰しに話してあげるわ。まず、私は…」

リリーに尋ねられた栞は、一度、後ろにいるリリー達に振り返り、嬉しそうに微笑みながら過去を話し始める。

次回、栞の過去の話です。

もし宜しければ、次回もご覧下さい。


コロナには気を付けて下さい。


予防注射3回受けても、2度掛かり3回と掛かってしまうこともあるので。

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