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栞とローズ・バレッド

大成とレオラルドの試合は、リーエによって途中で中断し無効試合となった。

【パールシヴァ国・大広間】


大成とレオラルドの試合は途中で中断し、すぐに大広間で会議が行われた。


大広間には、大成、リーエ、ジャンヌ達、レオラルド、【セブンズ・ビースト】のメンバーが集まっており、諜報員から話を聞いていた。


「ロンジ、オルセー国で何があったのだ。詳しく話してくれ」


「はい、昨日の夜ことです。私達が監視していた時、エルフの森から1人の少女が現れまして…。」




【オルセー国・過去】


日が完全に落ち、月は半月で星空も輝いている。


アレックス達の監視の任務を任されたロンジは、仲間のケイシーと共に静まり返った町中を歩いていた。


「ここも、随分と寂しくなったな」

ロンジは、町中を見渡すと閉店した店ばかりだった。


「ああ、仕方ないさ。国民達はパールシヴァ国に帰国したからな。そもそも、ここに国を造ったらいけない場所だしな」


「ん?そうなのか?」


「お前、知らないのか?」


「ああ、そんなこと初めて聞いたぞ」


「そっか、まぁ、知らなくても当然か。随分と昔の話だからな。昔、この場所はエルフと国境の問題で争いをしてお互いに多くの多大な犠牲を出しても決着がつかなかったんだ。そこで、お互いの国は話し合いをして、その結果、この場所は中立地になったんだ。だから、別に通るだけなのは良いが建物を建てたりしてはいけないんだ」


「そうだったのか。だが、何で、お前はそんなことを知っているんだ?」


「俺が小さい頃に、ひいおばあさんに聞いたんだ」


「なるほどな。でも、もし、それが本当なら此処は危険じゃないのか?」


「ああ、また争いが始まるかもな。まぁ、そんなことないだろうと思うけどな」


「違いない。もしもそうだったら、このオルセー国が建国される前に争い事が起きているからな」


「そうだな、眉唾物だな」

笑いながら会話をしていると精神干渉魔法レゾナンスが発動した。


相手は、城壁の上から監視している仲間からだった。

「大変だ!」


「どうしたんだ?そんなに慌てて。定期連絡は終わったばかりだぞ?こっちは、異常なしだ」

ロンジは疑問に思ったが、丁度、交代の時間帯でもあったので再度答えた。


「違う!エルフの森から1人の少女が現れて、こっちに向かって歩いて来ている。な、何だ!?この膨大な魔力は…。う、嘘だろ…うぁぁ…」


「おい!どうした!おい!答えろ!」

「おいおい…冗談だろ…」

ロンジは大きな声を出して確認していると、隣にいるケイシーに肩を叩かれ、ケイシーが指をさしている方角の城壁側に視線を向けると、紅色の巨大な魔力弾が大地を抉り建物を破壊しながら迫ってきていた。


「伏せろ!ぐぁ」

ロンジは、慌てて隣にいる未だに呆然と立ち尽くしているケイシーに飛び付き、ギリギリだったが直撃は免れたが余波で建物の残骸などと一緒に吹き飛ばされた。


ロンジ達は、瓦礫を押し退けて瓦礫の山から脱出した。

「くっ、大丈夫か?」


「ああ、お前のお陰で助かった。本当に、命拾いをした」

ロンジは仲間に手を差し伸べ、ケイシーは手を取って立ち上がった。


「気にするなよ。それより、ここは…」

ロンジ達は遠くに吹き飛ばされており、今いる場所を把握しようと辺りを見渡したが衝撃波によって周囲は瓦礫の山になっており把握できなかったほど町は壊滅していた。


「何だ、これは…。俺達は、悪夢でも見ているのか?」


「うっ」

ロンジは、頭から血が出ており意識が朦朧となり立ちくらんだ。


「おい、大丈夫か?」


「ああ、それよりも早く調査して報告をしないと…」


「調査は、俺に任せろ。お前と違って、俺はお前のお陰でほぼ無傷だからな。お前は、一旦、オルセー国から出て安全な場所で安静したまま待機してな。俺がレゾナンスで状況を報告する」


「しかし…」


「安心しろ。俺は一人で調査はしないさ。他の仲間と合流するつもりだ。それに、まだ、ここには騎士団だけでなく、アレックス様達が滞在しているんだ。相手がどんな化け物だとしても、負けることは決してないさ。少しは、俺を信用しろよな」


「日頃、任務をサボっている奴に言われてもな」

ロンジは、ジト目でケイシーを見た。


「おいおい、今、それを言うか普通」

バツが悪そうな顔をするケイシー。


「ハハハ…わかった。済まないが、後は頼んだぞ」

「ああ」

ロンジは半壊した建物に手をついて、ゆっくりと歩いて離れていく。


「ロンジには、ああ言ったが。魔王修羅殿みたいな化け物じゃないことを祈るしかないな。何だ、これは…」

ケイシーは現状把握するために一度戻り、抉れた大地と壊れた建物を見て絶望した面持ちで立ち止まった。


それから、すぐのことだった。


上空から、無数のミサイル・ランチャーのミサイルが山なりの軌道を描きながら数十発が落ちてくる。


「何だ?アレは?何かのマジック・アイテムか?」

初めて見るミサイルにケイシーは、どんな物かは知らなかったが危険だと本能が告げていたので落下してくるミサイルから慌てて離れた。


次々に、ミサイルがランダムに着弾していき、各箇所で爆発してあらゆる物を破壊し吹き飛ばしていく。


気が付けば、あっという間に数多くの建物が破壊され燃えあがり、薄暗かったオルセー国は赤く灯った。


しかし、まだミサイルは容赦なく降り注ぐ。


「うぉぉ…冗談じゃねえ!何なんだよ!本当によ!次から次へとよ!」

ケイシーは走りながら、燃え盛る周囲と飛んでくるミサイルを見て呟く。



「「ぎゃあ…」」

「悲鳴っ!?近いぞ。まだ被害が受けてない向こうからしたな。……行きたくないが、行くしかないよな…」

爆発音以外に近くから数人の悲鳴が聞こえ、ケイシーは恐怖で震える手をギュッと握り締めて覚悟して悲鳴がした方角へと走り出す。


「悲鳴がしたのは、この辺りだよな。念の為にマテリアル・ストーンを使っておくか」

ケイシーは、建物の影に隠れてマジック・アイテムのマテリアル・ストーンに魔力を込めると、マテリアル・ストーンは輝いて空中に浮かんだ。



「な、何なんだ!?貴様は」

騎士団達が剣を構えていて、その足元には仲間の騎士団達が倒れており、目の前に着物姿の少女がいた。


「なぜ、この国、オルセー国に奇襲をしたんだ?お前は、自分で何をしでかしたのかわかってやっているのか?これは、立派な侵略行為だぞ!しかも、見た感じ貴様1人の様だが」


「あなた達程度なら私1人で十分よ。それに、私には大和栞って名前があるわ。あと勘違いしているみたいだから言っておくけど、先に条約を破って侵略したのはあなた達よ」


「栞か何か知らないが、条約って何のことだ?」


「私は知らないけど、昔にエルフ族と獣人族との間に結ばれた条約みたいよ。この区域は、中立地帯でお互いに建物など配置しない契約だったと聞いたわよ」


「そんな契約は、知らん」


「はぁ、獣人は、所詮、野生の獣と同じ頭脳しか持ち合わせていないみたいわね」


「「何だと!!」」


「何を怒っているの?事実じゃない」


「ふざけるな!」


「はぁ、これだから頭の悪い人は嫌になるわ。獣は獣らしく大人しくしていれば良いのに…。仕方ないわね、英雄達の鎮魂曲(ソード・レジェンド・レクイエム)

栞の周囲に沢山の様々な伝説の剣が現れ、栞が持っていた扇子を横に振ると剣が騎士団達に向かって飛んでいく。


「「なっ!?」」

騎士団達は剣で防ごうとするが、持っている剣がへし折れて串刺しになったり、避けても栞が放った剣の数が多く串刺しなったり斬られたりしていった。


あっという間に、騎士団達は全滅した。


「おいおい、何だ?あんな魔法は見たこともないぞ。しかも、あの数の騎士団達を相手に瞬殺かよ。冗談じゃねぇ、俺も此処から離脱しないと命がいくらあっても足りねぇよ…」


「あら、何処に行こうとしてますの?」

「〜っ!?」

ケイシーは離脱しようと思った瞬間、背後から栞の声が聞こえて背筋が凍り、恐る恐る振り返ると冷酷な瞳をした栞がおり、ケイシーは恐怖で尻もちをついた。


「生きていたいなら、ここに来ないですぐに逃げていれば良かったのに。運が悪い人というよりも、その出歯亀体質が運の尽きね。残念だけど、あなたも此処で死んで貰うわ」

栞は、扇子を振り下ろそうとした。


(だ、駄目だ、殺される)

ケイシーは、恐怖で体がびくとも動かず死を覚悟した。


その時、上空から鋼の様な羽が無数に飛んできて、栞はバック・ステップして回避したことでケイシーは助かった。


飛んできた無数の羽は、地面に深く突き刺さっていく。


栞とケイシーが上空を見ると背中から生えた翼を羽ばたかして空を飛んでいるキルシュがいた。

「何をしている、今のうちに早く逃げろ!」


「は、はい。ありがとうございます!キルシュ様」

ケイシーはすぐに立ち上がり避難していたら、フェガールとすれ違った。


「おい、小娘。よくも同胞達を殺してくれたな。仇は取らせてもらうぜ」

フェガールは、殺気を出しながら栞の前に出る。


「はぁ、今度は小鳥さんと子犬ちゃんが私のお相手みたいわね?」


「嘗めるなよ!誰が子犬だ!雷狼、雷步!」

フェガールは全身に稲妻を纏い、雷步を使って神速で栞の背後を取った。


「貰った。死ね、ライジング・ストリーム!」

フェガールの得意な雷歩の神速から繋げるライジング・ストリームを使い、右拳に稲妻が収束して殴りにいく。


しかし、フェガールの右拳が空を切った。


「何だと!?」


「あら?何をそんなに驚いているの?まぁ、スピードは合格だけど攻撃が単調なのよ。そんな攻撃が通用するわけないでしょう?まずは、1匹ね。魔力発勁」

栞はフェガールの背後に回っており、扇子をポンとフェガールの背中に当てると同時に魔力を流し込む。


本能で危険と察知したフェガールは、体を逸らすが完全に避けることはできず吐血した。


「ガハッ、ハァハァ…。小娘…。一体、な、何をした?」


「あら?もう少し威力を上げれば良かったみたいね。だけど…」

栞は右手首だけを動かして扇子を上に向けると地面から大剣が勢い良く突き出る。


「ぐぁ」

瀕死状態のフェガールは、立っているのが背一杯だったため避けることはできず、大剣が突き刺さり体が宙で浮いた状態で絶命した。


「フェガール!よくも!エア・アーマー」

キルシュは、叫びながら風の鎧を纏い上空から降下する。


「フラガラッハ」

栞は扇子を前に突き出すと突き出した扇子の前に一振りの剣が出現し、キルシュに向かって放った。


キルシュは右に旋回して剣を避けたが、剣がキルシュを追尾する。


「くっ、この剣は追尾機能があるのか!」

キルシュは、上空に上昇してグルグル飛び回るが一向に剣を振り切れなかった。


(こうなれば、障害物の多い下で巻くしかないな)

キルシュは急降下して低空飛行し、ジグザグに飛び回り障害物を利用する。


剣は急転向できず障害物に衝突してスピードは下がるが、すぐに加速してキルシュを追い掛ける。


(これでも、駄目か。ならば…)

キルシュは、そのまま栞に接近する。


「へぇ、なかなかやるわね」

栞は、右腕を上げると地面から無数の剣が突き出る。


「その技は、一度見た。もう見切っているぞ!」

キルシュは高速で低空飛行したまま、無数の剣を避けながら栞に迫る。


「フフフ…1度見せただけで、ここまで避けるなんてあなた結構やるわね。だけど、私の技を見切ったと思わないことよ」

栞は、不敵な笑みを浮かべると地面から剣が突き出るスピードが格段に速くなった。


「なっ!?何だと!ぐぁ」

キルシュは咄嗟のことで対応できず、地面から突き出た剣が全身に纏っている風の鎧は意図も容易く貫通し、左側の腹部と翼、右足の太股に剣が突き刺さった。


「はい、あなたも、これでおしまいね」

栞は、振り上げていた右腕を下に振り下ろすと空中から大剣が降下する。


「糞ぉぉ…」

キルシュは、頭だけ動かして頭上を見上げた瞬間に串刺しになり絶命した。


魔力感知した栞は、夜空を見上げると巨大な火球が降下してきていた。


「プリトウェン!」

栞は回避が間に合わないと判断し、すぐに扇子を大きく頭上の高さで横に振りながら唱えると頭上に巨大な盾が現れたと同時に巨大な火球が盾に直撃した。


建物の屋根にいたアレックスは、ジャンプしてフェガールとキルシュの近くに着地した。


「くっ、済まぬキルシュ、フェガール。間に合わなかった」

アレックスは、キルシュとフェガールの姿を見て歯を食い縛りながら目を閉じ謝罪をした。


アレックスが遅れたのは、栞がミサイル・ランチャーで砲撃したミサイルが妻のコーデと息子のアルンガに直撃し虫の息になっていた。


アレックスは、キルシュとフェガールが先に自分達が向かうので最後を見届けて下さいと言われたので最愛の妻と息子の手を握り締めて最後を見届けた。


そのため、合流が遅れたのだった。


灼熱の炎中から栞の声が聞こえてくる。

「あら?随分と遅かったわね。あなたが、この国を造った、えっと、名前は確かアレックスさんでしたわよね?あなたの自慢のお仲間さん達は、全員死にましたわよ」

栞は膨大な魔力を解き放ち、突風が吹き荒れて周囲の灼熱の炎は一瞬で鎮火した。


栞の周りには大きなクレータができて赤黒く地面が溶けていたが、栞とその近く周囲は何もなかった様に無傷だった。


「渾身の一撃が無傷か…。ところで、お前は魔王修羅と知り合いなのか?」

自分の渾身の一撃が無傷だったが、アレックス自身が今の冷静な心境に驚いていた。


恐怖どころか、妻や息子を殺され復讐心で怒り狂うかと思ったが、今は冷静なっている。


どうしてかとフッと考えたら、頭に思い浮かんだのは世界征服が失敗して国民達を説得する立場になった際、自分の欲望と野望のため他人の身内を死なせたことを実感して後悔したことだった。


しかも、自分や身内は死ぬまで戦わずに降伏した。


いつか、自分や家族に報復があるだろうと思い、受け止める覚悟をしていた。


今の状況は天罰がくだったのだと実感し、その憎しみよりも自分の死を受け止めていたことに気付いた。


「?魔王修羅って誰なの?」


「嘘は、ついてないみたいだな」


「あなたはここで死ぬ運命なのだから、私がわざわざ嘘をつく理由がないわ。疑わなくっても良いわよ」


「そうだな、俺はお前に勝てないだろう」


「ところで、なぜ魔王修羅って中二病くさい人物の名前が出てきたのか聞かせてくれるかしら?」


「良いだろう。お前の纏う雰囲気が何となく魔王修羅に酷似しているからだ。年齢も同じぐらいだった。それに、魔王修羅もお前と同じ人間で異世界から召喚されたと聞いたのだが、こちらの勘違いの様だ。気にするな」


「私と同い年の人間…。魔王修羅って、まさかと思うけどこの男の子?」

栞は目を閉じて集中してイメージし、右腕を上げると幼い頃の大成の銅像を作り出した。


「ああ、この銅像よりも少し青年って感じだ。やはり、知っていたのだな」


「〜っ!!で、大成はどこにいるの?知っているのでしょう?教えてくれるなら、痛みなく一瞬で殺してあげるわ。でも、教えなければ拷問し、その後で獣人の国を滅ぼしていくわよ」

栞は目を大きく開き輝かせて一瞬でアレックスに接近し、反応しきれずに驚愕した表情を浮かべているアレックスを脅す。


「他の獣人の国を襲わないと、約束するならば教えよう」


「良いわよ、約束するわ。これで良いわよね?で?」


「……。わかった、お前を信じよう。おそらくだが、魔王修羅はまだ魔人の国へ帰国はせずに、今はパールシヴァ国におるだろう」


「パールシヴァ国ね。ありがとう、ちゃんと約束は守るわ」

栞は袖で見えない左手を前に出すと膨大な魔力が一点に収束していき周囲の瓦礫が余波で吹き飛び、栞の左袖も捲れ隠れていた左手が表に出た。

栞の左手には拳銃が握られていた。


その拳銃の銃口に、膨大な魔力が収束し圧縮され高密な魔力になる。


「最後に、言い残すことはある?」


「いや、約束を守ってくれるならば何もない。だが、フッ、お前のその技も魔王修羅に似ている。その技、魔王修羅はブラック・バレッドと名付けていたか」


「そうなのね。私の魔力は紅いからローズ・バレッドって名付けているわ」


「そうか、取って置きの切り札で殺してくれるならば本望だ。さぁ、殺れ!」


「わかったわ。さようなら、最後に花の様に美しく儚く散りなさいローズ・バレッド」

栞は高くジャンプし、左手の拳銃の引き金を引く。


銃口から、高密度に圧縮された真紅の魔力の弾丸が放たれた。


「……。」

(兄貴、幼い頃から迷惑を掛けて本当にすまなかった)

アレックスは、その場から動かずに目を瞑ったままの状態で謝罪をした。


真紅の弾丸はアレックスの心臓を撃ち抜き、地面に衝突した瞬間、大爆発を巻き起こした。



「マジかよ!これは、逃げ切れねぇ…。糞!レゾナンス」

離れて成り行きを見ていたケイシーは、必死に大爆発から逃れようと走って逃げていたが逃げ切れないと悟り、走りながら精神干渉魔法レゾナンスを使った。


「おい!ロンジ聞こえるか?」


「ああ、お前は大丈夫か?」


「時間がない!伝えるからよく聞け!マテリアル・ストーンに事の顛末は録画した。俺は生きて帰れそうにない。残りの魔力をマテリアル・ストーンに注いで上空に飛ばす。あとで、回収してくれ。最後に、お前と会えてよかったぜ…」


「おい!冗談はやめろよな。おい!ケイシー!」

ロンジの叫び声と共にケイシーは、真紅の大爆発に飲み込まれた。


激しい真紅の光が当たりを照らした。


そして、光が収まるとオルセー国は跡形もなく消し飛んでおり深い谷底になっていた。


上空から真紅の薔薇の花びらの様な形をした魔力の残り滓が降り注ぐ。



オルセー国から離れていたロンジは、薔薇の花びらの様な形をした魔力の残り滓が舞う中、両膝を地面につけたまま呆然と立ち尽くしており目から涙が溢れていた。


そして、上空に光るケイシーが命を賭して守ったマテリアル・ストーンが見えたことで我に返り、右袖で涙を拭って立ち上がり走った。


そして、ジャンプして空中でマテリアル・ストーンを掴んで地面を転がった。


「馬鹿野郎!いつも自分の命を優先し、時々、任務を失敗してもヘラヘラしていただろうが…。日頃、しないことをするから死ぬんだぞ…大馬鹿野郎…」

ロンジはすぐに立ち上がらず、仰向けのまま左腕で目元を隠して呟いた。


腕の隙間から涙が溢れていた。


マテリアル・ストーンは、そこまでの映像を映し出し、ゆっくりと映像が揺らいで消えた。


部屋に静寂が訪れていた。


「よく生き延びて報告をしてくれた。そうか、アレックス達は死んだのだな。あの馬鹿共が…」

レオラルドは、歯を食い縛り拳を強く握り締める。


「それにしても、栞って何者なの?魔力発勁やローズ・バレッド。まるで、大成と同じだわ。あの【時の勇者】を思い出してしまうわ」

ジャンヌは、大成に振り向いて尋ねる。


「ああ、栞は僕と違い、流星義兄さんと血の繋がった正真正銘の妹だよ。前の世界では、実力も僕と大差ないぐらいだった」


「お前達は、本当に化け物兄妹だな」

リーエは、腕を組んで呆れた表情を浮かべる。


「栞様は、実力が大成と同じです。この中で栞と真正面から渡り合えるのは大成だけでしょうね。でも、栞は大成に好意を抱いてるので結婚するからという条件を出せば確実に大丈夫ですよ」

【アルティメット・バロン】が、右手の中指で眼鏡をクイッと持ち上げながら助言する。


「なっ!おい!ロリコン伯爵!」


「事実でしょう?大成。それとも、ここにいる者達を束にして戦わせるつもりですか?そんなことをしても、勝てないとわかっているでしょう」


「「……。」」

【アルティメット・バロン】の言葉に誰も言い返せれなかった。


「神崎大成が、大和栞を相手にするとして。これから、どうするのだ?レオラルドよ」


「うむ、そうだな。本当に困った事態になってしまった。今度は弟ではなく、エルフとの揉め事になってしまったからな」


「そもそも使者を送ろうにも、こちらの印象は最悪です。手紙を渡せずに殺されるか、もし仮に渡しても結末は同じかもしれません。しかも、エルフの森には結界があり、女性ではないと通れないです。そこで、大変恐縮なのですが、リーエ様…。」

ドルシャーが、リーエを見る。


「行ってやっても良かったのだが、先に言っとくが、私はエルフの森には入れないぞ」


「え?もしかして、リーエはおと…」

大成は驚いた顔で尋ねようとしたら、闇魔法禁術ブラック・ジャック・ナイフが頬を掠めた。


「おい、坊や。私の何処が男だって言いたいのか?なぁ、言ってみろ。どこからどう見ても幼気(いたいけ)な可愛い少女だろ?」


「……。」

大成は周囲を見渡したが、誰も大成と視線を合わさない様に頭を背ける。


「まぁ、良い。私は初代エルフの女王と仲が悪かったのだ。それで、エルフの森の中は入れないんだ。だから、少しでも力のあるものが使者として行かなければならないな」


「ルジアダ、すまないが頼まれてくれるか?」

レオラルドは、ルジアダに依頼する。


「ハッ!」


「お父様!私も行きます!」

リリーは、手を挙げて立候補する。


「話を聞いていただろ?とても、危険なんだぞ」


「じゃあ、リリーの親友として私も行くわ」


「わ、私も行きます。お役に立てるか、わかりませんが…」

ジャンヌとウルミラが立候補する。


「仕方あるまい、娘達が行くならば私も行こう!」

誰も予想していなかった人物、魔王が名乗り上げ、誰もが言葉を失った。


「魔王、娘達が心配なのはわかるが、そもそもお前は男だろ。それと、ウルミラは止めとけ」

リーエは呆れた面持ちで魔王を見て溜息を零し、ウルミラを見て制止させる。


「どうしてですか?リーエ様。やはり、私だと戦力にならないのですか?」


「いや、戦力として十分合格だ。だが、お前の性格に問題がある。今、エルフの国は王子の結婚相手に相応しい女性を探しているみたいだ。お前達の実力なら相応しいと判断されるだろう。だから、条件に求婚を求められる可能性が高い。それに、エルフの国は女性の割合が少なくなっているみたいだ。他のエルフの男共に迫られる可能性が高い。ウルミラは、優しくて気が弱そうだからな。相手から、強気で来られたら断れないだろ?」

リーエは、チラリとウルミラを見る。


「そんなことはないです!私は、心に決めた人が居ますので!あ、あ、あの、その…」

ウルミラは力強い目でリーエの目を見てハッキリと断言したが、そっと大成の方を見た瞬間、顔が真っ赤に染まりオドオドする。


「ククク…そういえば、そうだったな。心配はいらない様だ。しかし、ウルミラは勿体無いことをしたものだな」

リーエは水晶で状況を見ていた時、ウルミラがラプラスのナンパを拒否したことを思い出して笑った。


「何がですか?」


「坊やがラプラスだった時、求婚されたのだろ?あの時にOKの返事を出していれば、今頃は幸せになっていたかもしれないぞ」


「わ、私は、ラプラスさんの大成さんではなく、大成さんが好きなので全く後悔はないと言えば嘘になりますが、それでも、後悔はありません!あ、あの、その…うぅ…」


「フフフ…。ウルミラは可愛いもんだ。なぁ、坊やもそう思うだろ?」


「ウルミラ達は、昔から可愛いですよ。それに、ウルミラは優しくて芯が強いから大丈夫でよ」


「あわわ…」

ウルミラは、恥ずかしさのあまり顔が更に真っ赤になる。


「全く、坊やは可愛気が無いな。少しは照れるなりしろ。しかし、やはり、このメンバーでも心配だな」


「それでしたら、私も同行しましょう」


「いや、ウルシアはミリーナの護衛をして貰う」


「わかりました。ですが…」


「ところで、エルフの結界の男女の判別の仕方はご存知ですか?」

ウルシアが言い淀んだ時、魔王が尋ねる。


「残念だが、何もわからぬ。リーエ様は、何かご存知ですか?」

レオラルドは頭を振った後、リーエに尋ねた。


「いや、正確には知らんが、おそらくだが魔力感知もしているであろう。主に視認の可能性が高い」


「視認ならば、女装でいけるか」


「「え!?」」

魔王は右手で顎を触りながら頷くと、同時に周りの者達は驚愕の声をあげた。


「いやいや、魔王。まさかとは思うがお前、そのガタイで女装するつもりか?」

リーエの表情が引き攣った。


「娘達のためならば、この私は美女になりましょうぞ」

誰もが魔王が女装した姿を想像し言葉を失い、静寂が訪れた。


「女装で可能性があるならば、大成に女装を頼めば良いと思いますよ。女装した大成は、ここの誰よりも美少女に化けれますよ。私が保証します」

【アルティメット・バロン】が、爆弾を投下する。


「「え!?」」


「そんなことあるわけがないだろ!」

皆の視線が大成に集まり、大成はすぐに否定した。


「坊や、彼女達が危険な場所に行こうとしているのだぞ?心配じゃないのか?」

リーエは、面白そうな表情を浮かべて大成を見る。


「……はぁ、わかったよリーエ。だけど、準備に時間が掛かるから早くても明日の昼になる」


「ククク…構わないさ。あと、一段落したら坊やはジャンヌ達に答えを出せ」


「ん?答えって?」


「本気でジャンヌ達を愛しているなら、行動を取れと言っているのだ。これは、ジャンヌ達のためでもある。このまま関係がズルズルと長く続くのはジャンヌ達も諦めが付かず良くないだろ?だから、坊やがジャンヌ達に興味が無ければキッパリと断われ、もしジャンヌ達が好きならば抱け」


「いやいや、ちょっと待って!抱けって、可笑しいだろ!話が跳び過ぎだろ!まだ、僕達は未成年だぞ。そういうのは、早すぎるだろ!そこは、言葉だけで十分だと思うけど」


「そうです!リーエ様。まだ、ジャンヌやウルミラには早過ぎです!」

魔王一人だけ、大きな声を出して阻止しようとする。


「良いから、あなたは黙ってて!」


「むぐ…」

しかし、魔王は背後から妻ミリーナに口を塞がれた。


「坊やこそ、何を言っているんだ。ジャンヌ達は、もう子供が産める歳頃だぞ。坊やの世界ではどうか知らないが、この世界では普通のことだ。13歳で結婚している奴もいる。才能があれば、冒険者や騎士団になって稼げるからな。坊やの実力ならばジャンヌ達全員を養っていけるだけの収入を稼げているだろ?武器や人形を売って、大層儲けていることも知っているぞ」


「いや、お金のことは別に構わないけど。気にしているのはそこじゃなく、ジャンヌ達って言っていることだよ。複数の女の子と関係を持つってことだろ?それは、ジャンヌ達に対して失礼だろ?」


「ククク…優しいな坊やは。優秀な坊や遺伝子を持った子供を、沢山、後世に残すのが魔人の国や世界のためになるだろ?」


「だから、魔人の国とか世界のためとかじゃなく…。はぁ、ジャンヌ達もリーエに言いたいことはあるだろ?この際、ハッキリと言った方が良いと思う」


「大成、私はリーエ様に賛同するわ。まぁ、確かに独り占めはしたいけど、皆、平等に愛してくれるなら別に良いわよ」


「わ、私もです…」

ジャンヌは恥ずかしそうに顔を反らして言い、ウルミラは顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうに小声で呟いた。


「私も気にしないわ!」


「ちょっと、待って。リリー、何故、あなたが話に入ってくるのよ!」


「当たり前でしょう。だって、彗星は獣王になるのよ。イコール、私の夫になるのだから当然じゃない?逆にジャンヌ達が、私に頭を下げる立場でしょう?」


「はぁ?リリー、あなた何言っているのよ。試合は途中で中断したから無効試合になったはずよ」


「それは、そうだけど。でも、あの試合を見た人達は彗星が勝ったと思うでしょう?」


「例え、思っていても無効試合は無効試合よ!」


「だそうだぞ、坊や。覚悟を決めろ」


「わかったよ、リーエ。この問題が一段落したら、ジャンヌ達に、再度、確認して考えるよ」


「「〜っ!」」


「良かったわね、あなた達」

ミリーナは、顔を真っ赤に染めたジャンヌ達を見ながら優しく微笑んだ。


「「はい!」」

ジャンヌ達は嬉しそうな面持ちで頷き、魔王以外の者達も微笑んだり口元を緩めた。


「何ということだ…。」

魔王1人だけ、この世が終わったような表情で四つん這いになっていた。

次回、栞と再開です。


皆さん、ゴールデンウィークはどうでしたか?楽しめましたか?


私は、ゴールデンウィークに旅行で江の島に行く予定だったので、3日前にコロナの予防接種3回目を打ったのですが、副作用で体温が39.4度まで上昇し、結局、キャンセル料を支払ってゴールデンウィークが終わりました。


もっと、早目に打てば良かったと後悔してます。

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