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大成とレオラルド

大成は獣王祭が何なのか知らないまま、獣王祭が始まる。

【獣人の国・パールシヴァ国】


ジャンヌ達がラーバス国に帰国してから1ヶ月が過ぎた頃、パールシヴァ国では国の大イベントである獣王際の初日が始まり、国中のあちらこちらに屋台が建ち並んでおり活気に満ち溢れ盛大に盛り上がっていた。


そんな町中に、ジャンヌとウルミラの姿があった。

ジャンヌ達は大成からの手紙が来た時、喜んでいたが内容を読むと獣王祭に出場すると書かれており表情が一変した。


今回は、魔王とミリーナ、ウルシア、ジャンヌ、ウルミラの5人だけが獣人の国を訪れていた。


前回、ジャンヌ達が獣人の国を訪れていた際、ラーバス国の屋敷にある大成の部屋を警備していた騎士団4人は殺害されており部屋の扉は破壊され部屋にあったソウル・ブラッド・ソードと魔王候補であったグランベルクが使っていた魔剣が何者かに盗まれていたのだ。


そのため、国をあげて2本の魔剣の行方を今も捜索している。


ジャンヌ達がパールシヴァ国に訪れた時には、もう獣王際は開催されていた。


「もう!大成ったら何を考えているのよ!獣王祭に出る何て本当に信じられないわ!」


「あの、姫様、落ち着いて下さい。おそらく、大成さんは獣王際のことを何も知らないで武道大会に参加している可能性が高いと思います」

ジャンヌは激怒しており、その隣を歩いているウルミラがオドオドしながら宥めていた。


「わかっているわ、ウルミラ。でも、もし私達が間に合わなかったら大成は獣王になっていたかもしれないのよ!」


「ですね。大成さんだと確実に優勝しますから」


「大成を騙すなんて、許せないわ!」


「姫様、リリーさんの企みじゃないと思います。流石にリリーさんも、こんな抜け駆けみたいなことはしないと思いますので。考えられるのは、おそらくですが…」


「ええ、わかっているわ。お父様と獣王様の企みの可能性が高いわね」


「はい…」

ジャンヌ、ウルミラ、ミリーナ、ウルシアは一緒に歩いている魔王に視線を向けた。


「〜っ!」

図星だった魔王は、びっくっと体を震わして顔を反らした。


「あとで、お父様だけでなく獣王様にもお聞きしないといけないみたいね」


「そうですね」


「「フフフ…」」

ジャンヌとウルミラは、満面な笑みを浮かべたが目は笑っておらず2人の背後に龍と虎が見えるほどの威圧感を醸し出していた。


ジャンヌとウルミラの威圧感は、周囲の人達を遠ざけるほどだった。


「ねぇ、お母さん…。あの、お姉ちゃん達、何だか怖いよ…」


「見ちゃ駄目。あと、近づいたら駄目よ。良いわね?」


「うん…」


「ほら、早く行くわよ」

母親は娘の手を取って、その場から離れた。


「お父様、1つだけお聞きしたいのですが良いでしょうか?」


「〜っ!?」

ジャンヌ達の威圧感を前にした魔王は、素直に答えるしかなかった。




【パールシヴァ城・玉座の間】


ジャンヌ達が玉座の間に訪れると中央にはレオラルド、ネイ、リリーがおり、その両側には【セブンズ・ビースト】のドルシャー、ルジアダがいた。


リリーは、ジャンヌ達の姿を見て気不味そうな表情になり視線を逸した。


「久しぶりだな、魔王。1ヶ月ぶりか?」


「ああ、そうだな。そのくらいだな」


「ところで、どうしたんだ?魔王。何があったんだ?顔が腫れているが、大丈夫か?」

魔王は腕を組み堂々と立っていたが、魔王の両頬は赤く腫れており、紅葉も様な形のビンタの跡がついていた。


「ああ、問題ない。いや、顔の方は問題ないと言った方が正しい…」


「そうか、バレた様だな」


「獣王様、説明して頂けますよね?なぜ、大成をそそのかしたのかを」


「ああ、黙っていたことは謝罪する。言い訳になるが、理由としては修羅殿は強いだけでなく、他人に優しく思いやりがあり、頭も良いだけでなく未知な美味しい料理、見事な武器の製作もできる。何より、我が愛娘が好意を抱いているのが1番の理由だ。そこで、ダメ元で魔王に相談したが魔王は心置きなく承諾した。その時、魔王からの提案で、獣王祭の武道会で優勝したら獣王になることは隠蔽いんぺいした方が良いと助言させれてな。その理由を尋ねたら、修羅殿は少しでも魔人の国に恩を返したがっていると言われた。俺も戸惑い、本当に良いのかと魔王に再確認したのだが、魔王は良いと断言したんでな。それで…」


レオラルドの話を聞いたジャンヌ達は、殺気を放ちながら鋭い眼光で魔王に振り向いて睨みつけた。


「〜っ!お、落ち着け、お前達。む、無論、これには理由がある。私は魔王の座を譲るつもりはない。だが、レオラルドは神崎大成になれば獣王の座を譲っても良いと言ったのだ。だから、神崎大成のことを思ってレオラルドに話しただけだ。獣王になれば権力は勿論のこと、自由に好きな武器作りもでき、大好きなバニーシロップも食べられる。神崎大成からすれば、幸せな環境だと思ったからだ。しかし、神崎大成は我々に恩を感じている。だから、気を遣わない様に獣王祭に優勝すれば獣王になることを伏せたのだ」

(どうだ!この完璧な言い訳。本当は、神崎大成が魔王になるとジャンヌとウルミラとの婚約は確定してしまう。それだけは、何としても阻止しなければならない。そのために魔王の座は譲るつもりはないと口に出したら器が小さい男だと思われてしまうからな。だが、この言い訳は確信をついている。誰も疑わいだろう!きっと、大丈夫なはずだ…大丈夫だよな…)

堂々としていた魔王だったが、最後の最後で内心ではヒヤヒヤしながら不安になった。


「「……。」」

ジャンヌ達は、疑わしい目で魔王を見ていた。


「な、何だ?その信用していない目は」


「お父様も知っているはずです。大成が魔王の座に興味がない理由を。魔王に戻れば、色々な仕事と責任、相談も受けたりなどで自由の時間がなくなるから、お父様が魔王でも文句どころか感謝していると私達と一緒に聞いたはずですが?」


「あ…そうだったな。ワハハ…私としたことが、ど忘れしていた。ハハハ…」


「お父様は、ただ私やウルミラが大成と一緒にいるのが気に入らないだけですよね?」


「うっ、そんなことはないぞ」


「あの、獣王様。獣王祭を中止にできませんか?」


「それは、できん。なぜなら、国をあげての大イベントだからだ」


「お父様が、彗星に勝てば問題ないです…」


「ああ、しかし、こういうのもアレだが全く勝てる気がしない。俺の渾身の禁術メテオ・フレイム・ストライクを片手で受け止めた挙げ句、掻き消したのだぞ。ワハハ…」

レオラルドは、愉快そうに盛大に笑った。


「お父様が全く勝てる気がしないって、あり得るのですか?」


「リリー、大成の実力を過小評価し過ぎよ。魔人の国と獣人の国が協力して総戦力で大成と戦っても、おそらく大成は本気を出さないでも私達に勝てるわ」


「そんなこと、本当にあり得るの?逆に、ジャンヌが過大評価し過ぎじゃないの?」


「過大評価なんてしてないわよ。実際、大成が【時の勇者】に操られた時、私達はリーエ様を含んだ魔人の国の主力戦力で挑んだけど、大成に軽くあしらわれたもの。そして、大成と【時の勇者】の本気の決闘を間近で見て思ったわ。私達と次元が違うことに。大成と【時の勇者】が本気を出したら、私達なんて数秒、もしかしたら一瞬で全滅させられるってね」


「……。」


「そして、大成が言うには敵側に怪しい老人が居て、その老人は自分より強い可能性があるって言っていたわ」


「今まで、そんなご老人の噂や存在すらなかったです。今、大成さん、【時の勇者】さん、ご老人が同時に現れたということは、何か天啓みたいなことがあり時代が大きく変わろうとしているかもしれませんね。姫様」


「そうね、希望に満ちた明るい未来なら良いけど、滅びに向かうか未来だけは勘弁だけどね」


「ですね」

ウルミラ達は、頷いた。


「まぁ、獣王祭の武道会のことだが、今日中に修羅殿に伝えれば問題あるまい」


「なぜですか?」


「武道会で勝ち上がった者と俺が戦う決勝は、翌日だからだ。安心すると良い」


「わかりました」


「今日は、大成君の応援と勇姿を見ましょう」

ミリーナは、嬉しそうに手を合わせて微笑んだ。




【リング】


ジャンヌ達が特別席で見守る中、本日行われるのは予選だというのに会場は満席で通路にも人集ひとだかりができているほど注目されていた。


次々に出場選手がリングの上に上がって顔と姿を見せていく中、席に座っている冒険者の狸と狐の獣人は出場者名簿を見ていた。

「獣王祭が行われるのは、そろそろとは思っていたが出場者が思ったメンバーとは違ったな」


「ああ、そうだな。【セブンズ・ビースト】が誰もでないとか予想外だ。キルシュ様、フェガール様は反乱を起こしたから出場できないとしても、第1席のドルシャー様の実力は獣王様の次に強いと言われる実力者だし、特にツダール様、オルガノ様は常に日頃から上を目指している人達だ。こんなチャンスがあれば絶対に出場すると思ったんだけどな。やはり、獣王様には勝てないから出場しないのかな?」


「だったら、ドルシャー様の弟君のデミール様か、ドルシャー様の部隊の副隊長カスケード様が優勝候補か?まぁ、他にも名の通った冒険者や賞金稼ぎがチラホラいるが、この2人は及ばないだろうし」


「カスケード様はわかるが、デミール様は違うだろ?あの方は…」


「お前、知らないのか?数ヶ月前、デミール様は自身が開発した薬で森にいたオーガを真正面から挑んで素手で殴り倒したんだぞ。しかも、無傷だったらしい。」


「マ、マジか?あの魔物指定ランク5のオーガをか。やはり、ドルシャー様と同じ血筋だということか。ん?デミール様の名前が無いぞ?」


「そんなことあるか、デミール様はリリー様を愛していたんだぞ」


「知っている。だが、出場者名簿に名前が載っていないんだ。ほら…」


「……本当だな。じゃあ、優勝はカスケード様が濃厚だな」


「だな」


「お前達、気づかないのか?」


「「ん?」」

隣の席に座っているフードを深く被った老人に声を掛けられたので振り向いた。


「何がですか?ご老人」


「この出場者名簿に書いてある特別出場者の大和彗星は、あの巨人族長の息子様であるバンダス様を軽くあしらった実力の持ち主だぞ」

老人が名簿に指さした時、ちょうど大成がリングに上がった。


冒険者2人は大成を見た。

大成からは魔力が全く感じられなかった。

それどころか、威圧感も全くなかった。


「「ククク…」」

2人は、口を押さえて込み上がってくる笑いを堪える。


「ご老人、それはデマな情報だ」


「だな、あの人間からは魔力を全く感じられないからな」


「はぁ、見る目がないのぅ」

老人は、小さく溜め息を零して呟いた。


そして、試合が始まり、順調に優勝候補者達が勝ち上がっていく。


大成は見られる試合は全部観戦し、自分が戦う時はすぐに相手選手を倒すことはなく、相手の攻撃を避けながら観察してから顎や鳩尾、後ろの首筋に手刀を決めて1撃で倒していった。


優勝候補の相手を倒した大成は、本日最後に戦う相手の試合を観戦するために見やすい席にいた。


そして、優勝候補の【セブンズ・ビースト】第1席のドルシャーの部隊の副隊長のカスケードと同じく優勝候補の盗賊の頭であるオルークの試合が始まった。


誰もが予想していた通り、カスケードが圧倒して戦局を押していた。


「ハッ!ハッ!ハッ!」

カスケードは木製の槍で鋭い突きを連打する。


「くっ」

オルークは、木剣で防ぐのが精一杯で最後の突きによって体勢を崩した。



「そこだ!オラッ!」

カスケードは槍を横に振り抜き、槍はオルークの横腹に直撃した。


「ぐぁ…」

オルークは、リングの上を転がった。


「くっ、流石、【セブンズ・ビースト】第1席の副隊長様だけのことはある。だが…」

起き上がったオルークは、右手をスボンの上を滑らせて容器を取り出して口元に付いた血を拭う動作をしながら他人に見えない様に液体を飲み、容器を握り潰して粉々にした。


(何か飲んだな。何を飲んだんだ?)

唯一大成だけが、オルークが何かを飲んだことにきづいた。



「確かに、お前は強い。だが、どう足掻いたとしても決して俺には敵わない。降参することを勧める」

オルークの強さを把握したカスケードは、槍を肩に担いで降参するように促した。


「上から目線だなぁ。ここから、本気を出させて貰うぜ」

オルークは、剣を構えて魔力を開放すると同時に全身の筋肉が増強されていき一回り大きくなり、魔力もグングンと高まっていく。


「あり得ない、この膨大な魔力はドルシャー隊長と同等かそれ以上だぞ…」


「油断するなよなぁ?でやぁ!」

オルークは、一瞬でカスケードとの距離を縮めて剣を振り下ろした。


「くっ」

カスケードは、長年に渡る訓練で自然と槍を横に向けて両手で攻撃を防いだが威力に押し負けて後ろにズリ下がった。


「何という馬鹿げた力だ。どういうことだ。まるで、さっきとは別人じゃないか」

カスケードは、驚愕しながらオルークを見た。


「終わりにするぜ!」

「糞っ」

オルークは不敵な笑みを浮かべて再びカスケードに接近し、剣を下から掬うように上に振り抜き、カスケードの槍を弾いて右膝でカスケードの鳩尾に打ち込んだ。


「ぐはっ」

カスケードの体は「く」の字に曲がり、オルークは右肘を振り下ろてカスケードの背中に叩きつけた。


「うっ…」

カスケードは、気絶した。


「しょ、勝者オルーク!」

審判は、カスケードの手を取って持ち上げて勝利宣言をした。


「「ウォォ!」」

「番狂わせだったな!」

「ああ、だが、盗賊の頭が獣王になって良いのか?」

「前代未聞だな!」

「違う、俺達の暮らしはどうなるかが気になるんだ」

「そ、そうか。だけど、きっと獣王様が勝さ。」

会場が盛り上がったが、中には不安な声をあげる者もいた。



「では、3時間後に…」

「いや、このまま続けてで良い」

「ですが…」

「構わないと言っている!なら、ハイ・ポーションを飲ませて貰う」

「わかりました」

審判が大成との試合を3時間後にしようとしたが、オルークは拒否したので、審判はレオラルドに視線を向けるとレオラルドは無言で頷いたので、カスケードはハイ・ポーションを飲んだ。


「では、彗星選手。リングへお願いします」

審判から呼ばれた大成は、観客席から高く飛び上がりリングに着地した。


「オルークさん、一つだけ言って良いかな?」


「何だ?」


「コソコソとデミールさんの薬を使わなくっても良いよ。別に使っても構わないから、今すぐ使いなよ。ドーピング、回復ポーションは禁止されている。だけど、不戦勝じゃあ面白くないからね。どうせ、その薬は盗んだものだろ?」

大成の言葉で会場がざわめく。


「ほぅ、気付いていたのか」

オルークは、目を細めて大成を見る。


「偶々、見えただけさ」


「どうだかな。だが、良いのか?この薬は、先程の薄めた薬はとは違い、原液だ。それが、どういう意味かわかっているのか?」


「別に構わないさ。それでも、僕が勝つから」


「言うじゃないか!ガキが!薬を使わせたことを後悔するなよ!」

オルークは殺気と膨大な魔力を解き放ちながらポケットからポーションを取り出して飲み、空になったポーションを投げ捨てた。


「ククク…。これは、凄い、凄いぞ!体中から魔力がみなぎる。いや、湧いてくると言った方が正しいな!フハハ!」

オルークは、盛大に笑いながら膨大な魔力を解き放ちながら自身の手や体を見る。




【特等席】


会場がオルークの膨大な魔力を目の当たりにして言葉を失い、会場は静まり返っていた。


「嘘…。お父様と同等の魔力…。彗星は勝てるの?」

心配になったリリーは、不安になり父であるレオラルドに尋ねた。


答えたのはレオラルドではなく、ウルミラだった。


「大丈夫ですよ、リリーさん。この程度の魔力じゃあ、大成さんの足元にも及びませんので」

ウルミラは、リリーを安心させるかの様に優しく微笑みながら答えた。


「え!?」

信じられない様な表情を浮かべるリリー。


「はぁ、大成を信じて黙って見ていなさい。大成の戦いをね。凄いわよ」

一度ため息を吐いたジャンヌは、リリーを一瞥して含みのある笑みを浮かべた。




【リング】


殺気と膨大な魔力を解き放つオルークと魔力どころか気配すら全く感じない大成を見て、観客達は大成を心配していた。


そして、試合が始まった。


「行くぞ!ガキ!一瞬で終わらせてやる!」

試合開始した瞬間、オルークは一瞬で大成に接近して剣を振り下ろす。


しかし、攻撃を大成に避けられ、カウンターで鳩尾に大成の右膝が入ってオルークの体が「く」の字になり、大成の右肘が背中に叩きつけられ、オルークは地面にうつ伏せの状態で倒れた。


オルークが、先程カスケードを倒したパターンになっていた。


「糞がぁ!」

激怒したオルークは、剣を振り回しながら立ち上がった。


大成は、上半身を傾けて紙一重でオルークの剣を避けると同時に右足のハイキックでオルークの顔面を蹴りを入れた。


「ぐぉっ」

オルークは、鼻血を出しながら数歩だけ後ろにたじろいだ。


「このぉぉ、お?」

オルークが大成に飛び掛かろうとしたが、先程の大成のハイキックによって脳震盪が起き、視界がグラついて足元がおぼつかなくなっていた。


「ハッ!」

大成は、両手でオルークの頭を掴んで引き付けながらジャンプして右膝をオルークの顔面に叩きつけた。


「ガハッ…」

オルークは倒れなかったが、完全に意識が朦朧としており足元がフラつく。


「これでも、倒れたいとか呆れるほどのタフさだな。だが、これで終わりだ」

大成は最後にオルークの額にビコピンすると、オルークの巨体が宙を舞い、白目を向いて口から泡を吹きながら仰向けに倒れた。


「……。勝者…彗星…」

審判は目の前の状況が信じられず、間を置いて勝利宣言したものの、疑問形な勝利宣言をした。


「「……。」」

観客達も、信じられずに言葉を失っていた。



【特等席】


「「……。」」


「ほら、大丈夫だったでしょう?リリー」

大成の強さを目の当たりにしたリリーとレオラルドとネイが言葉を失っていたところにジャンヌが自信満々に尋ねた。


「そ、そうね…」


「まさか、こうも一方的な展開の試合になるとは…」


「ええ、そうね…あなた…。あのリーエ様が自身より強いって仰っていたのが理解できたわ」


「ああ、まだリリーと同い年の子供だというのに。これほど、凄まじい強さとは恐ろしい才能だ。俺達は運が良かった。もし、我が国に【時の勇者】が攻めて来た場合はヤバかった。そして、アレックス達が魔人の国への侵攻するのを阻止して正解だったな」


「そうね…。」

最悪の状況を想像したレオラルドとネイは、背筋がゾッとした。


「ねぇ、ジャンヌ。彗星って、一体何者なの?」


「前の世界では、【時の勇者】と同じ特殊部隊で何番隊かの隊長と総副隊長をしていたみたいよ」


「そうなのね…」

リリーは、呟きながら大成に視線を向けた。


大成は、笑顔を浮かべて特等席にいるジャンヌ達に手を振った。




【リング】


「あの、審判の方。お願いがあるのですが」


「何でしょうか?」


「見て頂いた通り、無傷で試合が早く終わりましたので、連戦しても大丈夫だから獣王様と続けて戦いたいのですが」


「獣王様、どう致しますか?」

審判は、レオラルドに尋ねる。


先に声をあげたのはジャンヌだった。

「ちょ、ちょっと、話が違うわよ!」


「そうです!」

ウルミラもジャンヌに賛同する。


しかし、観客達は盛り上がっていたので断ることできない雰囲気だった。


レオラルドは腕を組んだまま、目を瞑って考えていた。


レオラルドは、今すぐにでも大成と戦ってみたいと強い願望があったが、大成を騙したのは自分という負目もあったので予定通りに断ることを決めて目を開き断ろうとした。


「残念だが、予定通りに明日…」


「待て、レオラルド。このまま、試合をしてみたらどうだ?お前のことだ。今すぐにでも、神崎大成と戦ってみたいのだろ?」


「あなた!?」

「お父様!?」

「「魔王様!?」」


「落ち着けお前達。レオラルド、お前なら行動できる範囲が限られたリング上でならば神崎大成に勝てるだろ?」


「だが、もし負けたら…」


「気にすることはない。今回の件は、私にも責任がある。もし負けたとしても、その時はその時だ。だが、愛娘のためと思って手は抜くなよレオラルド」


「ククク…誰に物を言っているんだ、魔王。この俺が、そんなことするわけがないだろ?」

レオラルドは、嬉しそうに笑みを浮かべた。


「そうだったな」

魔王も笑みを浮かべて頷いた。


そんな時、ジャンヌの影から声が聞こえた。

「面白そうなことになっているな」

ジャンヌの影からリーエが現れた。


「「リーエ様!」」


「お願いですリーエ様。試合を止めて下さい。もし大成が勝利したら獣王になってしまいます」


「別に良いと思うが?私的には、坊やが人間の国につかなければ問題ないと思っている。特に魔人の国以外で獣人の国ならば親しみもあるから尚の事だな」


「そんな…」

ジャンヌとウルミラは、絶望した表情になった。


「あの、獣王様。どうされますか?」

審判が再確認する。


「返事遅れて、すまんな。今から試合をしよう」

レオラルドは、二階にある特等席のベランダから飛び降りリングに着地した。


「待たせたな、修羅殿。遠慮はいらん、手加減は無用だ」

レオラルドは、笑みを浮かべながら羽織っていたマントを放り投げた。


「もちろんです。全力で行かせて貰いますよ。バニーシロップのために。ん?リーエ」


大成の影からリーエが現れた。


「すまないが、坊や。これを付けて戦ってくれないか?」


「ブレスレット?」


「ああ、ただのブレスレットではないがな。これは、相手と同じ魔力しか出せない効果がある」


「リーエ様!」


「レオラルド、お前の気持ちはわかるが、国民の前だ。そのことを理解しろ。本気の坊やと戦いたいなら、別の機会にすると良い」


「くっ」


「で、どうだろうか?坊や」


「わかったよ」

大成は、リーエからブレスレットを受け取り右手首に付けた。


「では、ノルス。試合開始を宣言したら直ぐに此処から離れ、結界を最大限まで上げろ」


「は、はい、わかりました。では、試合開始!」

ノルスは固唾を飲んで試合開始の宣言をし、すぐにその場から離れると1枚だった結界が三重になった。


「ウオォォ!」

結界を確認したレオラルドは、過去にあった親友を失った不幸な出来事を思い出す。


レオラルドの魔力と魔力の濃密さが増していき、全身から勢い良く炎が吹き出し、次第に赤色の炎は青色へと変化して全身に灼熱を纏った。


レオラルドの全身から放たれる灼熱は、リングでは勿論のこと結界に守られている観客席にいる観客達もが暑く感じるほど高熱を帯びていた。


「ほぅ、これは予想外だな。ククク…面白くなるかもな」

リーエは、口元に手を当てて笑みを浮かべた。


「す、凄い…。結界に守られているはずなのに、何て熱さなの。それに、いつもは赤い炎なのに今は見たことのない青色の炎。こんなお父様の姿をは見たことないわ」


「そういえば、リリーは見たことはなかったわね。あなたが生まれて間もない頃、盗賊達が取締りを厳しくしたお父さんを恨み、無関係な子供を人質にしてリゲインの兄であったリノークが代わりに命を落とした出来事があってね。その時、お父さんは激怒して、今の姿になったの。そして、騙し討ちした盗賊達は全員が跡形もなく焼死したのよ。お父さんに近付かれただけで盗賊達の鎧は溶けて肉体は燃え上がっていたわ」


「大成…」

「大成さん…」

ジャンヌとウルミラは、不安な表情を浮かべる。



「行くぞ!修羅殿」

レオラルドは、足元が爆発して大きな音を立てると同時に一気に加速して正面から接近する。


まるで、雷魔法の雷歩の様な神速の速さだった。


「ウォォ!」

レオラルドは、右拳で殴りにいく。


大成は冷静にタイミングを見計り、カウンターを狙って右拳で反撃にでた。


しかし、大成はレオラルドの拳を避けた思ったが直前でレオラルドの拳が揺らいだ様に見えた瞬間に左頬に当たり、大成の拳はレオラルドの左頬に決まったかの様に見えたが蜃気楼の様に揺らいで左頬を掠めただけだった。


「ぐっ」

大成は倒れることはなかったが、後ろにズリ下がった。


「掠めるとはな」

レオラルドは、右手の人差し指と中指で自身の左頬を触りながら笑みを浮かべた。


「効きました、良い一撃です。それにしても、厄介ですね。全身に纏っている灼熱によって陽炎を発生させ、蜃気楼の様に相手を惑わすなんて。でも、それがわかれば何とかなります」

大成は、右手の手の甲で左頬に触れた。



「ワハハ…。まさか、初見で当てられるとは思わなかったぞ。何とかなるか…。ならば、楽しめそうだ!行くぞ!インフェルノ!」

レオラルドは腰を落とし、左手をリングに押し付けて炎大魔法インフェルノの唱えるとリングから吹き上げる様に炎の壁と思われるほどの広範囲の炎が大成を襲う。


「ハッ!」

大成は、右手に魔力を集中させながら剣をイメージした魔力剣村雨を作り出して右手を振り下ろし、炎の壁を真っ二つに斬り裂いた。


しかし、目の前にいたはずのレオラルドの姿はなかった。


魔力感知した大成は、すぐにバックステップをすると大成がいた場所にレオラルドが上空から両足から降下してリングを破壊しながら着地した。


リングの破片は、レオラルドの纏う灼熱の炎により真っ赤に溶かされて雫の様に飛び散った。


レオラルドは、姿勢を低くして大成に迫る。


大成は目を瞑り、魔力感知の精度を限界までに研ぎ澄ましていく。


レオラルドの全身を纏っている灼熱の炎は魔力なので、始めは炎の形になっていたが、魔力感知の精度を上げるにつれて徐々にレオラルドの身体の形に認知できていく。


「目を瞑って、何を企んでいるか知らんが。これで終わりだ!ヘル・フレイム・インパクト!」

レオラルドは右拳に巨大な青色の炎を纏い、大成に殴りいく。


レオラルドの右拳が迫る中、大成は目を瞑ったままレオラルドの右拳が届く前に正確に左手でレオラルドの右腕を掴み、カウンターで右肘をレオラルドの鳩尾に入れた。


「何だと!?ぐぁ…」

レオラルドは、呼吸が一瞬止まり怯んだ。


その隙に、大成は左手でレオラルドの腕を掴んだまま右手も添えて背負投げをし、レオラルドを地面に叩きつける前に大成は空中で逆さになっているレオラルドの側頭部に蹴りを入れた。


レオラルドの体は、横回転してリングの上に倒れた。


「……。」

レオラルドが纏っていた炎は掻き消え、立ち上がる気配がなかった。


観客の誰もが大成が勝ったと思い、ざわつき出した瞬間、レオラルドがゆっくりと立ち上がり、背中を反って上空に雄叫びあげた。


レオラルドの魔力が更に上がり、再び全身から青色の炎を解き放ちながら獣の様に大成に飛び掛かった。



【特等席】


「ヤバイな。レオラルドの奴、完全に意識が飛んでいる。ただ本能で動いているだけだ」

リーエは、口元に手を当てて深刻な表情を浮かべた。


「あなた…」

「お父様…」

ネイとリリーは、レオラルドの姿を見て手に力が入った。



「グオォ!」

レオラルドは、大成に飛び掛かった。


大成は後ろに下がるのではなく、逆に前に踏み出してレオラルドの懐に入り、右手の掌底打ちでレオラルドの顎を下から上へに撃ち抜いた。


「ガハッ」

レオラルドは後ろに倒れながら、視界に妻のネイと愛娘のリリーの姿が見えた。


(一体、俺は何をしているんだ…。妻と愛娘の前で、こんな無様な姿を晒しているんだ…。あんな顔をさせて…)


「ウォォ…」

意識を取り戻したレオラルドは、倒れそうな状態だったが踏ん張り堪えた。


「ハァハァ…まさか、同じ魔力にしても、これほどの差があるとはな」

レオラルドは、大きく肩を上下させながら左手の甲で口元についている血を拭った。


「あれだけ殴られた挙げ句、最後の掌底打ちは完全に無防備な状態で決まったはずなのですが、それでも倒れないとは驚きを通り越して敬意を払います。それほど、強い意志や思いがなければ、今こうして立ってはいないはずなので」


「ああ、妻や愛娘の姿が見えたんでな。2人の前で、みっともない姿は見せたくはない。次の攻撃に俺の全てを出し切るつもりだ。制限させている俺が言うのも変だが、今のお前が出せる全力を出して貰いたい」


「わかりました、手加減はしません。ですが、その代わり観客席にいる皆さんを避難させて貰えませんか?」


「わかった。ドルシャー」


「ハッ!畏まりました。直ちに」

試合は止まり、ドルシャーの指揮の下で観客達は避難して観客席には誰一人もいなくなり無人となった。


居るのは、特等席にいるジャンヌ達だけであった。


ネイとリリーが心配し、ジャンヌ達が見守る中、大成とレオラルドの試合が再び再開された。


「避難は終わったようだな。これで、お互いに思う存分、全力を出せるな」


「はい」


「ウォォ!」

レオラルドは、両手を挙げた状態で残りの魔力を全て使い果たす様に凄まじい膨大な魔力を放つと同時に今まで以上に勢い良く青色の炎が全身から放出する。


その高熱を放っている膨大な炎に変化した魔力がレオラルドの頭上で巨大な球状と変化した。


レオラルドの近くにあるリングの石板は、火球の放つ高熱により赤く染まり溶けて、ブクブクと沸騰しだした。


避難した観客達は、遠くから離れた背の高い建物から見ており、レオラルドが作り出した巨大な火球は、まるで青い太陽だと思えた。


「ハァァ!」

大成も膨大な漆黒の魔力を全身から放出し、右手の人差し指、中指、親指を立てて銃の形にしてれに向けて指先に魔力が集中し圧縮していく。


「いくぞ!魔王修羅!これが俺の全力だ!メテオ・フレイム・ストライク!」

レオラルドは、挙げていた両手を振り下ろして頭上に作り出した巨大な青色の火球を大成に向けて放った。


「ブラック・バレッド」

大成は、指先から高圧縮した漆黒色の小さな魔力弾を放った。


魔力弾は、巨大な火球と正面衝突した。


大成のブラック・バレッドの威力を知っているジャンヌ達を除く誰もが、大成が放った小さな魔力弾は巨大な火球に飲まれ消滅したと思った。


その瞬間、突如、巨大な火球の中央部に大きな穴が開き弾けて消滅し、漆黒の魔力弾は驚愕して目を大きく見開いているレオラルドの頬を掠め、リングを囲っていた禁術でも耐えれる頑丈な多重防御結界をいとも簡単に貫通し、観客席に衝突すると大爆発が起きた。


レオラルドは、魔力弾の方向に振り向いて腕を顔の前でクロスにして爆風に耐えた。


大爆発は、闘技場の外側を囲うように5枚の多重防御結界があるが、そのうちの3枚を破壊した。


大成は、レオラルドに迫る。


レオラルドは、接近してくる大成に気付いたが反応が遅れた。


「ハッ!」

大成は、右拳を放ったが途中で止めた。


大成とレオラルドの間にリーエが割り込んだのだ。


大成の拳は、リーエの顔面ギリギリで止まっていた。


「リーエ様!?」

「これは、何の真似かな?リーエ」

レオラルドは取り乱したが、大成は冷静に尋ねた。


「すまんな、坊や、レオラルド。本当は水を差すつもりは全くなかったんだが、そういう訳にもいかなくなった。突如、急用ができたものでな」


「急用?」


「ああ、今さっき、オルセー国を見張らせていた者から報告が来たのだ」


「アレックスさん達が行方をくらませたとか?もしくは、反旗を翻したのかな?」

大成は、考えられることを口にした。


「いや、もっと深刻な状況だ。オルセー国が滅んだと報告があった。しかも、まだ幼い1人の少女の手によってだ」

リーエは、深刻な面持ちで話した。

次回、少女です。


もし宜しければ、次回もご覧下さい。

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