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デミールと獣王際

交渉は破綻したが、【アルティメット・バロン】との決着が着き、アレックス達は投降した。

【獣人の国・パールシヴァ国・パールシヴァ城】


大成達はアレックス達との戦いが終わり、無事に揉め事も治まったのでパールシヴァ国に帰国した。


帰国時、国をあげて喝采の声が飛び交い、急遽、宴を開くことになった。


大成が大広間に入ったら、ジャンヌ達が大成の帰りを待っていた。


「お疲れ様、大成」

「お疲れ様です、大成さん」

「お疲れ様、ダーリン」

「ありがとう、彗星」

ジャンヌ達は大成をねぎらい、リリーは大成と離ればなれになると実感していたので複雑な面持ちで感謝して大成に駆け寄る。


「どうでしたか?大成さん」


「リリー、ごめん。残念ながら、死者はでてしまった。だけど、他は上手くことが運んだよ」

心配した表情で尋ねてきたウルミラに、大成は申し訳なさそうな表情を浮かべて答えた。


「気にしないで、彗星。最悪、全面戦争になって、もっと負傷者が出ていた可能性もあるのだから、全面戦争にならないで終わっただけでも本当に感謝しているわ」


「そう言ってくれると助かるよ…」


「まぁ、大成なら大丈夫って信じていたわ」


「だよね、ジャンヌ。ダーリンが負けるところなんて、想像もできないし」


「でも、大成さんが無事で本当に良かったです!これで、ラーバスに帰れますね!イシリアさんやエターヌちゃん、ユピアちゃんが喜びます!」

ウルミラは、頭を傾けて微笑んだ。


(そうか…もう…)

喜んでいたリリーだったが、大成との別れが近づいていたことを知り、表情に影が射した。


「ん?リリー」

大成は、リリーの表情が暗くなったので気になって声を掛けようとしたら魔王と妃のミリーナが部屋に入ってきた。


「此度は、ご苦労であった神崎大成」

「お疲れ様、大成君」


「はい、大体が計画通りに運んで無事に終わりました」


「ああ、話はレオラルドから聞いている。ところで、大成。お前に1つ頼みがある。」


「頼みですか?」


「ああ、頼みと言っても私の頼みではなく、レオラルドからの頼みだ。今、レオラルド達は弟のアレックス達の処罰について話し合っていてな、忙しいみたいだ。どうにかして、処罰を最低限におさめるために奔走しておる」


「でしょうね。あと、僕にできる範囲でしたら良いですよ。で、その頼みとは何ですか?」


「アレックスの件が片付いたから、私達は明日にでもラーバス国に帰国するつもりだ。だが、神崎大成、お前には、もう2ヶ月はここに滞在して貰いたいとのことだ。もちろん、強制ではないから断っても構わないそうだ」


「「え!?」」

驚きの声をあげたのは大成ではなく、ジャンヌ達だった。


「あの、1つ尋ねても良いですか?」

大成は、気になったので尋ねた。


「何だ?」


「なぜ2ヶ月なのですか?」


「今、お前が通っているレオ学園の2学期が終わるそうだ。区切りが良いこともあるが、その間まで希望する生徒達に体術や武術を教えて欲しいとのことだ。で、どうするのだ?神崎大成」

魔王は大成を見つめる中、離れた場所にいるリリーはギュッと胸元を握り締めて大成の返事を待つ。


「わかりました。あと2ヶ月だけ滞在します。どのみち、アレックスさんとの交渉で最低でも1ヶ月は滞在しないといけませんので」

大成の答えを聞いたリリーは嬉しいそうな表情を浮かべたが、一方、ジャンヌ達は不満な表情になった。


「わかった。このあと、レオラルドと会って話し合いをする予定になっているから。その際に伝えておく」


「はい、お願いします」


「あの、お父様。私達も…」

ジャンヌは、残ろうと提案しようとした。


「はぁ、お前達も残ると言いたいのだろ?だが、それはならん!前から思っていたが、お前達は自分達の地位を軽く見すぎだ。魔人の姫と魔王直属護衛軍であるヘルレウスだぞ。」


「私は、ダーリンのためにヘルレウスになったんだけど」


「だろうな。だが、今は私が魔王だ。先に言っておくが簡単には辞めれないぞ」


「そんなの横暴だよ!」


「それほど、ヘルレウスの地位は重い」


「落ち着いて、マキネ。戻るまで、その間は手紙を書いて送るから」


「わかったよ。だけど、ダーリン。私だけでなく、私達それぞれに書いて送ってよね。あと、イシリアとエターヌ、ユピアも忘れずにね」


「えっと、ジャンヌ、ウルミラ、マキネ、エターヌ、イシリア、ユピアで全部で6通かな?いや、マーケンスの分を入れると全部で7通?」

大成は、指を折って数える。


「ん?マーケンスの分は、要らないと思うよ。だから、6通だよ」

マキネは、頭を傾げながら即答した。


「いや、流石にイシリアに手紙を送って弟のマーケンスに送らないのは不味いと思うから、一応、マーケンスの分も書くよ」


「あ、あの、もし大成さんが、大変なのでしたら私のは書かなくっても良いですので…」

ウルミラは、暗い面持ちで言った。


「大丈夫だよ、ウルミラ。正直、大変だけど、ちゃんとウルミラの分も手紙を書いて、それぞれに送るから」


「あ、ありがとうございます」

ウルミラは、胸元で両手を握り締めて嬉しそうに微笑んだ。


ノックが聞こえたので、魔王が了承するとメイド2人が部屋に入ってきた。


「皆様、宴の準備が整いましたので、中庭までお越し下さいませ」

メイド2人は会釈し、大成達はメイドの後をついて行った。



【中庭】


中庭にはレオラルドや【セブンズ・ビースト】達や騎士団、国民達が集まっていた。


レオラルドはドルシャー見て頷き、皆の前に出た。


「静まれ!」

ドルシャーの大きな掛け声で賑やかな雰囲気が一変し、静まり返った。


「もう皆は知っているとは思うが、此度、魔王達、魔人達の協力もあり、まだ完全ではないが、再び、獣人の国が1つになった。それを祝って乾杯!」

レオラルドは、大声で祝杯をあげた。


「「乾杯!」」

集まった者で全員で乾杯をし、盛大に賑わった。


大成の周りにはジャンヌ、ウルミラ、マキネ、リリーがおり、丸テーブルを囲って何があったのかを大成が説明していた。


そこに、【アルティメット・バロン】とメイドのミヨが腕を組んで大成のところへ来て立ち止まった。


「~っ!」

【アルティメット・バロン】はリリーやジャンヌ達を見て、あまりの可愛さに見とれて唾を飲んだ。


「バロン様…」

【アルティメット・バロン】と腕を組んでいるミヨは、不安な表情で【アルティメット・バロン】の組んでいる腕に少し力が入ったことで【アルティメット・バロン】は頭を左右に振って大成に視線を向けた。


「「ん?」」

「え!?」

【アルティメット・バロン】と面識がないジャンヌ達は頭を傾げ、リリーは嫌な表情を浮かべた。


レオラルド達は【アルティメット・バロン】とミヨの監視役としてドルシャー達をつけようとしたが、大成が責任は自分が取るから自由にさせてあげて欲しいと進言した。


レオラルド達は渋ったが、1番活躍をした大成が頭を下げたので承諾したのだ。


そういうことで、今は【アルティメット・バロン】とミヨは国内では自由に動き回っている。



「大成、君と少しだけ話がしたいんだ。良いかな?」


「ん?別に構わないよ。じゃあ、ちょっと話してくるから」

大成は、席から立ち上がった。


「彗星…」

【アルティメット・バロン】と知らないジャンヌ達は気にしなかったが、リリーは立ち上がり不安な表情で大成の心配をする。


「大丈夫だから、リリー」

大成は苦笑いを浮かべてリリーを(さと)し、【アルティメット・バロン】とミヨと一緒に人気のない場所に移動した。


「聞いたよ、大成。私達は国内から出られないが、こうして監視もなく、自由に動き回れているのは君のお蔭だということをね。本当に感謝していますよ」


「ありがとうございます、大成君」

【アルティメット・バロン】とミヨは、頭を下げて感謝した。


「昔からのよしみだし、特に気にする必要はないよ」


「ああ、そうだな。はっきり言うと、前の世界では、君が毎回、私の邪魔をするから最低な奴だと心の底から憎んでいましたが、今は君と出会えたことに感謝すらしているぐらいです」


「あ、あの、バロン様…」


「ゴホン、すまない。さっきも言ったが、大成。君には、とても感謝していますよ。君のお蔭で、ミヨがどれほど私のことを心配し愛しているのかを知り、本当の愛とは何なのかを知りました。これからは、もし、君が助けが必要な際には惜しまなく力を貸すと約束しよう」


「ありがとう、もしの際には力を借りるよ。ロリ…いや、今はロリコン伯爵じゃなくなったから、この世界ではバロンさんって呼べば良いのかな?」


「ええ、バロンで構わないですよ」

【アルティメット・バロン】は、微笑みながら大成と握手をした。


こうして、無事に宴は終わった。




【検問】


翌日の午前中、魔王やジャンヌ達は魔人の国へと帰国するので大成やレオラルド達は国の出入りする検問の前まで見送りをしていた。


「大成、早く戻ってきてよね。皆が、あなたの帰りを待っているのだから」


「うん、わかったよジャンヌ。僕も、早く、皆に会いたいからね」


「大成さん、体には気を付けて下さい」


「うん、気を付けるよ。ウルミラ達も、体には気を付けてね」


「はい!」


「ダーリン、忘れず絶対に手紙を送ってよね」

マキネは、大成を指差した。


「うん、絶対に書いて皆に送るよマキネ。でも、僕は手紙を書いたことも送ったことも、あまりないから内容は期待しないで欲しいかな」

(今、思えば、前の世界では電話やメールなどあったし、痕跡が残らない様に伝書鳩とか使っていたから手紙は殆ど書いたことない。唯一、児童施設で正月のハガキは書いたことはあるぐらいかな。)


「じゃあ、何があったのか出来事を書いて欲しいかな」

マキネは、人差し指を大成の唇に当てて微笑んだ。


「う、うん、わかったよマキネ」


「そうよ!大成君、あなたが帰って来たら宴を開きましょう!」

ミリーナは、笑顔で提案した。


「そこまでして頂くのは…」


「良いでしょう?あなた」


「そうだな、良いだろう」


「決まりね!」


「何だか、ありがとうございます」


「気にすることはない。それよりも、そろそろ帰るぞ」

魔王の呼び掛けで、ジャンヌ達は魔人の国ラーバス国へ帰国するために歩き始めた。


大成達は、ジャンヌ達の姿が見えなくなるまで見送った。


ジャンヌ達の姿が見えなくなり、大成は複雑な面持ちに変わり振っていた手をゆっくりと下ろした。


「ジャンヌちゃん達、帰ってしまったわね、リリー」


「はい」


「寂しくなるわね」


「はい…。いえ、そんなことはないです」


「リリー、提案があるのだけど。もし、彗星君が魔人の国へ戻る際に貴女も魔人の国に行っても構わないわよ」


「え!?」


「好きなんでしょう?彗星君のこと」


「え!?きゅ、急に、ど、どうしたのですか?」


「どうなの?」


「いえ、あの、その……」

リリーの顔は真っ赤に染まった。


「誤魔化さなくても良いのよ」


「……はい、ですが…」


「私達のことは気にしないで良いわよ。その代わり、たまには帰って来て顔を見せて欲しいの」


「わかりました。ありがとうございます、お母様」

リリーは母のネイに抱きついてお礼を言い、ネイは優しく娘のリリーの背中に手を回して優しく撫でた。


そして、2人は手を繋いで先に城へと戻った。



「ところで、修羅殿」

レオラルドは、目の前にいる大成の肩に手を置いて呼んだ。


「どうされましたか?レオラルドさん」


「獣王際を行おうと思っている。ネイと魔王個人には了承は得ている。あとは、リリーお前の確認だけだ。どうだろうか?」


「僕にも確認が必要なのですか?」


「ああ、お前に頼みたいことがあるのだ」


「はい、わかりました。ところで、獣王際は祭りなのですか?」


「ああ、祭りだ。それで、修羅殿にお願いしたいのが。獣王際にメインイベントがあっての。そのイベントというのが武道会なのだ」


「え?祭りなのに武道会が開かれるのですか?」


「そうだ。そこで、頼みというのは修羅殿にその武道会に参加して欲しいのだが」


「え?僕がですか?」


「そうだ」


「えっと、僕は獣人じゃないのですけど?」


「構わない、代々伝統で獣王の権限で1名だけだが、他種族の参加を参加させることができる。もし、優勝した場合、好きな願い事が叶えることができるのだ。ただし、実現的に可能な範囲だがな。例えば、修羅殿が毎日食べるほど大好物なバニーシロップを毎日、年中、好きな時に好きなだけ食べることも可能だぞ」


「~っ!本当ですか?」

大成は目を輝かせる。


「ああ、本当だ。だが、優勝するには、獣王際という名の通り、その武道会の最後に獣王である俺と戦い勝たなくてはならない」


「その時は、全力で戦わせて貰いますよ」


「ワハハハ…無論だとも!楽しみにしておるぞ!で、確認するが、武道会に参加し出場してくれるか?修羅殿」


「勿論です!是非、参加させて頂きます。そうだ、忘れる前に、早速、このことを手紙に書きたいので失礼します」


「ああ、わかった」

レオラルドは了承し、大成は手紙を書くために城へと向かった。


「はぁ~。大事なところを伏せて話したからな。何だか騙している様で気が引ける。だが、魔王からの提案だしの。何より、愛娘リリーのためでもある。許してくれ、修羅殿」

レオラルドは深いため息を吐き、空を見上げた。




【レオ学園】


翌朝、大成とリリーはレオ学園に登校していた。


「「おはよう」」

「「おはようございますリリー様、彗星君」」


「リリー様!とうと、獣王際するんですね!」

メアリーは、手を胸元で合わせて嬉しそうに話し掛けた。


「え!?」


「誰か好きな人でもできたのですか?ひょっとして、あの後、アルンガ様と親密な関係になったのですか?」

メリアは、頭を傾げながら尋ねる。


「「きゃ~!」」


「ちょっと待って!どういうこと?何の話?」


「え?リリー様、本当に何も知らないのですか?私達は、てっきり、リリー様が獣王際を開催するって決めたのかと思ってましたが」

メアリーは、チラシを見せてリリーに渡す。


「冗談じゃないわ!平和になったのは嬉しいけど。何で、よりにもよって獣王際なのよ!私は何も聞いてないわよ!だって、獣王際って…」

チラシを受け取ったリリーは、体を震わせた。


「あれ?リリーは知らなかったんだ?」


「え!?彗星は知っていたの?」


「昨日、レオラルドさんから聞いたよ。そして、勧められたんだ。獣王際の恒例イベントの武道会があるから特権で僕も出場してくれないか?って、それで、出場することになったんだけど。リリーが嫌なら中止かな?」


「え?え!?本当なの?彗星、あなた出場するの?」

驚いたリリーは、両手で大成の左右の肩を掴んで揺らす。


「あ、うん。そうだけど、ちょっと、力を抜いてよリリー」


「あ、ご、ごめんなさい」


「そっか、残念だな。でも、リリーが嫌なら仕方ないか。無理強いさせるのは嫌だし。優勝するば、毎日、年中バニー・シロップが食べられると聞いたから、やる気があったんだけど…」


「彗星が出場するなら、私は獣王際の開催は賛成よ!その代わり、武道会では絶対に手を抜かないで優勝してくれるって約束するならね」


「優勝できるかは約束はできないけど。手を抜くつもりはないよ。本気で優勝を狙うつもりだよ」


「そういうことなら早退して、今からポーションを発注して集めないといけないわね」


「ポーション?僕が、回復魔法で負傷者を治療すれば良いと思うけど?」


「そんなことしたら、彗星の魔力が消費するじゃない。本当に優勝を狙っているなら少しでも勝率を上げることを考えなさい」


「うん、そうだね」


「そうと決まったら行くわよ、彗星」


「わかったよ」

リリーは、嬉しそうに大成の手を取って教室から出て行った。




【獣人の国・ロノルの森】


ポーションの発注するためにリリーと大成は、ロノルの森にいた。


ロノルの森は、この森にしかない木がある。


その木は、魔物除けの道具に使われるので、ロノルの木と言われている。


ロノルの木は爽やかで良い香りなのだが、魔物は嫌がる香りを発している。


なので、ロノルの森には魔物が全く居ないのだ。


かといって、森なのに高低差が激しく誰も住まない。


「ところで、リリー。ポーションを発注しに行くんだよね?こんな森に誰か住んでいるの?」


「ええ、物好きな人が居るのよ。ドルシャーの弟なんだけど、この世界で調合成功率が1番高いの人なの。なんだって、失敗したことがないのだから」


「へぇ~、それは凄い人だな。僕でもポーションの製作10回に1回は失敗するのに」


「成功率は誰も勝てないわよ。だって、ユニーク・スキル【調合】なんだから」


「え!?調合って魔法じゃないよね?それなのに、ユニーク・スキル【調合】って、じゃあ、魔法が使えないんだ…」


「そうよ。でも、魔力はドルシャーには及ばないけどツダールぐらいあるの。本人も【セブンズ・ビースト】のメンバーになろうと人一倍に頑張っていたのだけどね」


「そっか、残念だったね。でも、獣人は主に身体能力が高いから接近戦で戦うから、別に魔法が使えなくても大丈夫だと思うのだけど?しかも、その人はドルシャーさんの弟さんだんだし、ドルシャーさんと同じケンタウロスだよね?普通に良いところまで行ったんだろうな。次回、チャンスがあればなれるかもね」


「えっとね、デミールは確かにドルシャーと血が繋がった弟なんだけど、ケンタウロスじゃなくって、馬人間なのよ…」


「ん?ケンタウロスじゃなくって、馬人間?」


「まぁ、ここで話すよりも直に会えばわかるわ」

リリーと大成は、森の奥へと進んで行く。


そして、数十分歩いた先に大きな洞窟があった。


「着いたわ、ここよ」

リリーと大成は、洞窟の中に入って行く。


洞窟の中は、迷路の様に分かれて複雑になっていたが左右の壁に埋められている魔石によって照されており明るかった。



「デミール、いるの?」

リリーは、何度か大声を出しながら奥へと進んでいく。


「左側にいるかも」

魔力感知した大成は、1番魔力が高い前方に3つに分かれている洞窟の左側を指差した。



「よしっと、今日の分の調合は終わったな」


「こんにちわ、デミール。久しぶり…ね…」

洞窟からデミールの声が聞こえたので、リリーは挨拶しながら分かれた洞窟に入ると言葉を失い入口で立ち止まった。


(この人、デミールさんだっけ?【アルティメット・バロン】と同じ臭いがするな)

大成はデミールを見てニッコリと笑みを浮かべていたが、内心はドン引きしていた。


頭が馬で首から下の体がソフトマッチョな人間男性のデミールは化粧台の椅子に座っており、鏡を見ながらコットンに小麦粉の様な真っ白な粉を付けて立派な茶色の顔の毛を白くしていた。


「おや、リリー様!お久しぶりですぞ!わざわざ、会いに来てくれるなんて嬉しいですぞ!」


「失礼かもしれないけど、何で化粧なんてしているの?」


「それはですね。ここ数年、日に当たって日焼けをしない様に朝は洞窟に籠って頑張ったのですが、なぜか毛が白くならなかったんですぞ」


「それは、そうよ。だけど、何で白に拘っているのよ」


「え!?」

デミールは、固まった。


「どうしたのよ?デミール。固まって」


「お、幼い頃、リリー様が仰っていたではありませんか?」


「何か言ったかしら?」


「4歳の頃ですぞ。私が「好きな男性がいますか?」とお尋ねした時、「う~ん、いないかな」とお答え下さったので、私が「でしたら、どんな男性が好きですか?」とお尋ねした時、リリー様が「もちろん!白馬の王子様かな」っと!それを聞いた時、私はリリー様の理想の男になるために、この茶色の毛が白くするために日焼けしない様に数年も洞窟に籠っていたのですぞ!」


「リリーが好きな人は白馬の王子様だったんだ」


「ち、違うの!彗星。誤解なのよ!白馬の王子様じゃなくて、白馬に乗った王子様なのよ。それに、今は…」


「なるほど、そういうことでしたか。ならば、来るのですぞ!バッファロー!」

納得して頷いたデミールは、大声を出して右手の指を加えて指笛を鳴らす。


洞窟の入口からパコパコと華麗なリズムが聞こえてきた。


そして、豪華な馬具を装着した白馬がやってきた。


「トォ!うんしょっと…」

デミールは、大きな声を出しながら目の前に立ち止まった白馬のバッファローに苦戦しながら股がった。


「どうですかな?リリー様!白馬に乗った白馬の王子様ですぞ!私のことが好きになられましたか?」

デミールは、リリーにウィンクしながら口元に笑みを浮かべて輝いている白い歯を見せる。


「わぁ~。これが、リリーの理想の人なんだね!」


「だから!違うの!」


「「え!?」」

大成とデミールは訳がわからず、キョトンとした表情を浮かべてお互いに視線を合わせて頭を傾げた。


「な、何が違うのですかな?」

デミールは、焦りながら尋ねる。


「本当にごめんなさい、デミール。悪いのだけど、今は…その…ね…。」

リリーは謝罪をし、左右の人差し指をくっつけたり離したりしてモジモジしながら頬を赤らめて大成をチラリと上目遣いで見る。


大成は訳がわからず頭を傾げたが、デミールはリリーの態度を見て察した。


「おい!そこの、お前!今から、私と決闘をしろ!」

デミールは、殺気を放ちながら大成を指差した。


「え!?」


「漢ならば武器や魔法は使わず、拳と筋肉で語り合おうぞ!いざ、尋常に勝負だ!」

デミールはタキシードを脱ぎ捨て、ふんどしにネクタイという姿になり、そのネクタイにはネクタイピンの構造した灰色の液体が入っているポーションがネクタイについていた。


デミールは、そのポーションを手に取り飲んだ。


「来た!来たぞ!ビンビンに来たぞ!ウォォ!」

デミールの体は1回り大きくなり、ソフトマッチョからヘビーマッチョへと変貌していく。


「フフフ…アハハ…。見るがよい!そして、見て崇めよ!この私の見事な筋肉とありふれるほどみなぎっている膨大な魔力と生命力を!ワハハハ…」

変貌したデミールは、腰に手を当てて勝利を確信して勝ち誇った様に高らかに大声で笑った。


「えっと、ドーピングはありなのですか?」


「これは、ただのドーピングではない!さっき飲んだポーション、マッスルポーションは私のスキルで作った品物だ!だから、一切、問題ないぞ!なぜなら、それが私の力なのだからな!ワハハハ…」


「はぁ、そうですね…。で、勝敗はどうします?」

大成はリリーに視線を向けるとリリーは両手を合わせてウィンクしたので、説得できないと判断した大成は諦めて溜め息をし決闘を受けることにした。


「気絶か、もしくは参ったかと言わせるか、痛とか、やめてくれと言ったら負けで良いか?」


「わかりやすいですね。わかりました」

(決闘が始まったら速攻で参ったと言えばいいかな)


「フフフ…。私の力を思い知ると良い!いくぞ!ホアチャ!」

デミールは、素早い動きで大成に襲い掛かる。


しかし、デミールはドーピングで自身の体が1回り大きくなっていることを忘れており、いつもは気にせずに素通りできていた大成とリリーがいる入口側の高さが低いところに頭を強打した。


「ぐはっ、見事なり…ですぞ…」

デミールは実力を出しきった感じに満足気な表情で親指を立ててグッドサイン出しながら仰向けに倒れ、そのまま後頭部を強打した。


洞窟に鈍い音が響いた。


「くぅぅ…。い、痛いですぞ~!」

デミールは、叫びながら頭を押さえて倒れたまま左右にのた打ち回る。


次第にデミールの体は元に戻っていく。


「えっと、これって…」


「はぁ、彗星、あなたの勝ちよ」


(僕は何もしてないんだけど…。っていうよりも、負けるつもりだったのに…)

リリーは冷たい目でデミールを一瞥して溜め息を吐き、大成は複雑な表情を浮かべた。


「薬草、薬草!」

痛みが軽減したデミールは立ち上がり、両手をふんどしの中に突っ込んで沢山の薬草を取り出して左右の手で口に運びムシャムシャと食べる。


(え~!この人って、この世界で1番の調合師なのに、何でポーションじゃなく、薬草なんだろう?それに、ふんどしの中から取り出した薬草を食べるなんて…)

大成とリリーは、デミールの姿を見てドン引きしていた。


「それより、リリーって、何と言うか…。変わった性癖の人が好きなんだね」

大成は、不憫そうな表情を浮かべて隣にいるリリーを見る。


「ち、違うの!私は…」


「隠さなくっても大丈夫だよ。このことは誰にも言わないから安心して」


「だ・か・ら、人の話を聞きなさい!」

リリーは、右拳を握り締めて全力で大成にボディブローを決めた。


「ぐはっ」

完全に油断していた大成はくの字になり、お腹を押さえて地面に倒れた。


「ずっと言っているけど、誤解なのよ!わかった?」


「……は…い…」

大成は蹲ったまま、途切れ途切れの声で返事をした。



腰に手を当てているリリーの目の前には、身を縮込んでいる大成とデミールが横に並んで正座をしていた。


「貴方達、よく聞きなさい!ここに訪れたのは、獣王際で大量のポーションが必要だったから、デミール、貴方に頼みに来たの」


「はい、任せて下さい」


「頼むわよ!デミール」


「大船に乗ったつもりでいて下さい。ふぅ、さてと…。まずは、自己紹介するですぞ。私はデミール。さっきは、突然、決闘を挑んで悪かったですぞ。だが、そのお蔭で、お前の強さは十分わかりました。あの強烈な見事な1撃。攻撃をくらった時、私は確かに見ましたですぞ。天から天使が舞い降りて来くる光景を。そして、幼き頃を思い出して、何だか心が癒えて余裕が生まれましたですぞ。この私に勝つほどの、絶対的な強さは、まさしく神の領域ですぞ!お前になら信用して任せられる。リリー様を頼んだですぞ!」

幼い頃を思い出して心が癒されたデミールは、涙を流しながら大成に手を差し伸べる。


「何だかわからないですけど、よろしくお願いします」

(僕は、何もしていないのだけど…)

大成は、苦笑い浮かべながら握手した。



それから、リリーと大成は森でポーションに必要な薬草などを採取してデミールに渡して森を出た。


獣王際が開催されると広まったことで、国中の武術に自信がある者達は商売など営業を休業し、ひたすら訓練に明け暮れた。


そして、1ヶ月が経ち、誰もが待ちに待った獣王際が開催されるのであった。


遅れましたが、明けましておめでとうございます。

今年も宜しくお願いします。


次回、獣王際です。


次回もご覧頂けたら幸いです。

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