大成と【アルティメット・バロン】
ニルバーゴスとニールの戦いが終わった時、突如、ニルバーゴスの刻印が暴走して騎士団達を吹き飛ばす。
気絶した騎士団達も次々と暴走し、バーネジアと【七巨星】以外は正気を失い、バーネジア達に襲い掛かる。
追い込まれるバーネジアの所に大成が助太刀に入り、暴走したニルバーゴス達を全員気絶させて無力化しバーネジア達を助けた。
しかし、ニルバーゴスやバーネジア達に刻印を施した謎の老人が介入し、バーネジア達の刻印を水晶に回収した。
刻印を失うと共に魔力も吸い取られたバーネジア達は、その場に倒れる。
刻印を吸収した水晶から太古の伝説のガーディアン【ギャラクシー・ワルキューレ】が復活した。
老人は【ギャラクシー・ワルキューレ】に命令し、バーネジア達にギャラクシー・バーストを放つ。
【巨人の国・アントロング国・テレン殿】
退避していたアーネスとニールは、ギャラクシー・ワルキューレの膨大な魔力が更に上昇していることに気付いて崩壊している闘技場の外壁から中を覗く。
「な、何なの!?今まで感じたことのない、この異常な膨大な魔力は!?」
「お逃げ下さい!修羅様!」
【ギャラクシー・ワルキューレ】を直に見たアーネスは顔が青ざめ、ニールは取り乱して大成に駆け足で向かいながら叫ぶ。
「チッ」
【ギャラクシー・ワルキューレ】の標的がバーネジアに変わり、ブラック・バレッドが間に合わないと判断した大成は舌打ちしながらブラック・バレッドを解除してバーネジアや巨人族兵士達を守るためにバーネジア達の前に出て、ギャラクシー・ワルキューレのギャラクシー・バーストを正面から受け止めるという選択肢しかなかった。
「ギャラクシー・バースト」
【ギャラクシー・ワルキューレ】は、抑揚のない声と共に七色に光る光線【ギャラクシー・バースト】を放つ。
「くっ」
大成は、両手を前に出して受け止めようとする。
「も、もう良い。気持ちだけで十分だ。俺達を見捨てて、ここから離れろ。俺達と共に、お前も一緒に死ぬことはない。俺や親父が死んでもニールがいる。ニールなら良き王になって巨人族の人々を導くはずだ。だから…」
力を奪われたバーネジアは立ち上がれず、倒れた状態で大成に逃げるように指示する。
「アーネス様と約束をしました。なので、ここでバーネジア様達を死なす訳にはいきません。くっ!ぐぅぅ」
大成は苦笑いを浮かべて両手で【ギャラクシー・バースト】を受け止めた。
だが、威力に押されて大成の足元は地面にめり込み、次第に後ろにズリ下がっていく。
大成は、両手だけでなく体が持ち耐えれる様に全身に魔力で身体強化していたため、両手を覆う魔力が足らず、手から腕に掛けて火傷して爛れていき血が飛び散って大成の頬や服などに付着する。
「なぜ命を懸けてまで、俺達を助ける。俺を見捨てれば、ニールが王となるだろう。そしたら、お前達が望んだ結果になるだろ?なぜ、そうしないんだ?」
「くっ。確かにバーネジア様の言う通り、そうする人もいるかもしれません。ですが、僕は目の前に助けられる命があるなら救いの手を差し伸べます。それに、せっかくバーネジア様とは分かり合えるチャンスを無駄にしたくはありませんから」
「……。」
呆然と大成を見るバーネジア。
「ぐぉぉぉ」
大成は叫びながら完全に受け止め、腕を上に振り上げて起動をズラした。
起動が反れた【ギャラクシー・バースト】は、雲を突抜けて無音で爆発し、周囲の雲を一瞬で吹き飛ばして球体状に七色に光りと共に衝撃波が大成達を襲った。
「くっ」
「「~っ!」」
大成は腕を目元に当てて衝撃波に耐え、バーネジア達は地面にうつ伏せのまま耐えた。
「アーネス様!ぐっ」
ニールは、アーネスの前に出て衝撃波を自身の体で受け止めて庇う。
「ありがとうございます。大丈夫ですか?ニール様」
「はい、私は何の支障もありません。修羅様のお陰で傷は完治していますから。それより、医療班の準備を」
「ええ」
ニールとアーネスは、医療班達に向かった。
大成達の目の前にいた老人と【ギャラクシー・ワルキューレ】の姿は既になかった。
「……。」
大成は、目を閉じて集中して魔力感知の範囲を広範囲に広げる。
「……いない。退いたのか」
(だけど、何故、退いたんだ?あのまま戦えば、向こうが圧倒的に有利だったはず…。何故だ?)
「修羅様!ご無事ですか?」
ニールは、アーネスと医療班と共に大成に駆けつけた。
「僕は大丈夫です、ニールさん」
「良かったです。修羅様に、もしもの事があれば私はジャンヌ様方に顔向けができません。」
「ハハハ…。気にし過ぎですですよ」
「あなた、大丈夫!?」
アーネスは、バーネジアの上半身を起き上がらせて支える。
「くっ、俺は大丈夫だ。しかし、修羅殿よ。誠に申し訳ない。俺達のために、お前は両腕を犠牲に…」
大成の両腕を見たバーネジアは、歯を食い縛りながら悔やんだ。
「両腕を犠牲?あ、これですか?気にしないで下さい。もう敵もいないようですし、よっと、これで治りました」
大成は爛れた両腕に魔力を込めて自己再生を行い、両腕は一瞬で元通りになった。
「「~っ!!」」
バーネジア達は、驚愕したままの表情で固まった。
「ククク、ガハハハ…」
「あなた?」
「大丈夫だ、アーネス。修羅殿よ、お前は何処まで規格外なのだ。元々、俺達に勝ち目はなかったのだな」
「いえ、そんなことありませんが、僕は約束を守りましたので。今度はバーネジア様方が約束を守って頂きたいのですが」
「ああ、勿論だとも。本当に感謝しても、しきれないほどだ。直ちに使者を出したいのは山々なんだが、アレックス達に信頼されている【七巨星】は全員が魔力を吸い取られ魔力枯渇に陥っておる。すまないが、すぐには動けそうにない。それに、俺もだが、全ての兵士達も魔力枯渇に陥っている。今、国の防衛が衰弱しているから、すまないが国の防衛を優先させて頂きたいのだ。10日とは言わん、3日。3日後には、必ず確実に【七巨星】の第1席のドンバネーヤを使者として送り出すと約束する。それで、納得して貰えないだろうか?」
「わかりました」
「あと、すまないが修羅殿。厚かましいと思われてしまうのを承知で、我が国の防衛に力を貸して貰いたいのだが…」
「わかりました。僕で良ければ、力になります」
「助かる、誠に心から感謝する」
「ありがとうございます、修羅様」
バーネジアとニール達は頭を下げた。
その後、3日経ったが何事もなく無事に時は過ぎていった。
だが、魔力を殆ど使い果たして魔力枯渇になったニルバーゴスは目を覚ますことはなかった。
その後、重大なことが判明した。
巨人族の【ワールド・クロック】を守護していた兵士達は気絶させられており【ワールド・クロック】が奪われていた。
守護していた兵士達の話により、犯人は大成達を襲った老人だということが判明した。
(なるほど、あの時、すぐに退いたのは戦闘で【ワールド・クロック】が壊れない様にするためだったのか…。だけど、何故【ワールド・クロック】を?異世界から強者を召喚するために奪った?いや、違うな。月が紫色に変色しないと召喚ができないとジャンヌ、ウルミラから聞いたし。なら、時間逆行する能力が目的?いや、それも違う。あれは最大で一週間程度しか逆行できないはず。じゃあ、考えられるのは秘められた魔力が目的か?)
大成は呟きながら一人で考えていた時、ニールが駆けつけた。
「修羅様、ここに居られましたか」
「ニールさん、どうかされましたか?」
「バーネジア国王様が、玉座の間でお待ちしております」
「わかりました」
大成とニールは、玉座の間に向かった。
【玉座の間】
玉座の間の奥にはバーネジア、アーネスの2人が椅子に腰かけており、その2人の前に大成、ニール、ドンバネーヤ、他の【七巨星】達がいる。
大成は立ったままだったが、ニール達は片膝を床について敬礼していた。
「修羅殿、色々と世話になった。誠に感謝する。もし宜しければ、我ら巨人の国に移住しないか?持て成しや待遇は最大限にする。もちろん、恋人とか家族を連れてきても構わない。どうだろうか?」
「とても魅力的で嬉しいのですが、僕は魔人の国に召喚して貰った恩がありますので。申し訳ありませんが、お断りさせて頂きます」
「そうか、とても残念だ。だが、時折で良いから近くを通った時でも良いから、その時は訪れてくれ」
「はい、そうさせて頂きます。お気遣いありがとうございます。その時は宜しくお願いします」
「ああ、その時は盛大に宴を開くと約束しよう。本当はもっと話し合いたいのだが、そちらの時間が切迫している様だからな。あとのことは頼んだぞ!ドンバネーヤ」
バーネジアは、ドンバネーヤに視線を向ける。
「ハッ!では、修羅様、ニール様。獣人の国へ参りましょう」
「はい。ですが、オルセー国へ行く前に前にパールシヴァ国に寄って獣王様にご報告をしたいのですが良いでしょうか?」
大成は、尋ねる。
「修羅殿の好きにすると良い。それで良いな?ドンバネーヤ」
バーネジアは、口元を緩めながら肯定する。
「ハッ!私は異存ありません。では、修羅様、ニール様。お先にパールシヴァ国へ参りましょう」
こうして、大成達は獣人の国へと向かった。
【獣人の国・パールシヴァ国】
【ギャラクシー・ワルキューレ】が放った【ギャラクシー・バースト】は、遠く離れた獣人の国にいる者達にも感知ができるほど膨大な魔力だった。
【ギャラクシー・バースト】の魔力を感知したジャンヌ、ウルミラ、マキネ、リリーの4人は、すぐに大成とニールを救うために巨人の国へ向かいたいと獣王レオラルドと魔王に懇願したが、レオラルドと魔王は首を縦に振らず、結局、ジャンヌ達は待つことしかできなかった。
「大成、大丈夫かしら…?あの魔力、一体、誰の魔力だったの?感じたことのない魔力だったわ。だけど、魔力の大きさは、まるで【シルバー・スカイ】の時に、勇者が放ったシルバー・ブレッドぐらいの膨大な魔力を感じたわ。それなのに、大成の魔力は感じ取れなかった」
ジャンヌは、不安な面持ちでグルグルと小さく円を描く様に歩き回る。
「きっと、大丈夫ですよ」
ウルミラも不安だったが、ジャンヌを安心させるために無理やり笑顔を作るが上手く作れないでいた。
「そうだよ、ダーリンなら大丈夫だよ。誰にも負けないよ」
「ええ、そうね。私の彗星が負けるはずがないもの。だから、ジャンヌ、落ち着きなさい」
リリーはマキネに肯定しながら、そっとジャンヌの肩に手を置く。
「そうね、ん?ちょっと、聞き捨てならないわリリー!いつから大成は、あなたのものになったのよ!召喚したのは私とウルミラなんだけど」
「召喚したから何なの?まさかとは思うけど、大成の気持ちを考えずに強制するの?最悪ね」
「無理やりじゃないわよ!大成は、わ、私が、す、す、好きなんだから!リリー、あなたこそ、寝惚けたことを言ってないで、さっさと目を覚ますことオススメするわ。1秒でも早く目を覚まして現実を見た方が、あなたのためだもの」
ジャンヌは、恥ずかしさで顔を赤く染まり、リリーを指をさす。
「へ、へぇ~!言ってくれるわね!そのまま、その台詞をお返しするわ!」
リリーは頬が引き攣り、九本の尻尾を逆立ちながら殺気を放つ。
「やるの?リリー」
ジャンヌも、笑顔を浮かべながら殺気を放つ。
「あら、本当のこと言われて言い返せないからって、今度は暴力で奪おうとするなんて野蛮ね。まぁ、私は別に構わないわよ」
リリーは、口元に手を当ててクスクスと笑う。
「~っ!へ、へぇ~」
ジャンヌから殺気と膨大な魔力を解き放つ。
「ス、ストップです!やめましょう、姫様、リリーさん。周りに、ご迷惑をお掛けしますから」
ウルミラは、慌てて2人の間に割って入った。
「大丈夫よ、ウルミラ。アポロンを1発撃って、すぐに終わらせるから、少しだけしか迷惑が掛からないわ」
「え!?ちょ、ちょっと、姫様。アポロンなんて使ったら、迷惑どころじゃないですよ!この辺り一帯が吹き飛びます。お願いですから、落ち着いて下さい。あの、マキネさん、見ていないで手伝って下さい!お願いします!」
「え~、ごめんね、ウルミラ。面倒臭いから、私はパ~ス。あとは、頑張ってね。バイバイ」
マキネは後ろに振り返り、手を振りながら立ち去る。
「ちょっと、マキネさん!?お願いします、手伝って下さい!私一人では無理です!マキネさ~ん」
ウルミラはオドオドしながら、立ち去るマキネと喧嘩しているジャンヌ、リリーを交互に見ながら、その場で叫んだ。
【パールシヴァ国・検問】
大成達は、パールシヴァ国に辿り着いた。
門番をしていた獣人の騎士団達は、ドンバネーヤを見て驚愕しながらも仕事を全うするべく、恐る恐る強ばった表情を浮かべながらドンバネーヤの前に立ち塞がった。
ドンバネーヤの肩に座っていた大成は、飛び降りて門番達の前に音を立てずに着地した。
「門番の皆さん、お疲れ様です。大丈夫です」
「ほっ、修羅様でしたか。では、無事にことが運んだということですね?」
「はい。ですので、通らせて貰っても良いですか?」
「いえ、申し訳ありませんが念のために獣王様の許可を取らせて下さい」
「わかりました」
門番達は獣王レオラルドに指示を仰ぎ、入国の許可が得られた大成達は入国してパールシヴァ城に向かって歩く。
城の手前まで辿り着いた時、ウルミラの泣いている様な声が微かに聞こえてきた。
「ん?空耳か?ウルミラの声が聞こえた様な…。って、え!?何でマキネがここに?」
大成は頭を傾げると、城から出て来たマキネの姿を見つけて驚いた。
「あ、ダーリン!お帰り~!」
「「え!?」」
「大成!」
「彗星!」
マキネは大成に抱きつき、マキネの声を聞いたジャンヌとリリーは喧嘩をやめて笑顔を浮かべながら大成に駆け寄る。
「心配を掛けたみたいで、ごめん。ん?ウルミラ、何かあった?」
大成は、呆然と立ち尽くしているウルミラに気付いた。
「た、大成さ~ん。帰って来て下さって、本当にありがとうございます。もう、私1人じゃあ、どうしようもなくって…あと、本当に心配しました」
ウルミラは涙を浮かべながら、大成に駆け寄り飛びついた。
「うぉっと。本当に心配させてごめん。ところで、ウルミラ、何かあった?」
大成はウルミラの頭を撫でながら尋ねる。
「「な、何もないわよ!」」
ジャンヌとリリーは、あたふたしながら答えた。
「そうだ、リリー。ニールさんのお陰で、巨人族は今回の件は動かず干渉しないと約束ができたから、もう大丈夫。あとの問題は、アレックスさん達と【アルティメット・バロン】だけだ」
ウルミラが落ち着いたので、大成はゆっくりと離れて説明する。
「滅相もありません。何を仰られておられるのですか、修羅様。今回の件は、私だけの手柄ではありません。修羅様の活躍もあってからこそ、あの強敵相手でも誰も死なずに事が上手く運びました」
ニールは、ニッコリと微笑む。
「ほ、本当なの!?巨人族達は、動かないって!」
リリーは、瞳を大きく開く。
「ああ、本当のことだ、リリー姫。この俺、【七巨星】第1席ドンバネーヤが命を懸けて保証しよう」
ドンバネーヤは、力強く頷いた。
「ありがとう、彗星!」
「うぉっ!?」
「あっ!ちょっと、リリー。大成から離れなさいよ!抱きつくならニールにしなさいよ!」
「アハハ…。まぁ、姫様。今は…」
ウルミラは、苦笑いを浮かべる。
「じゃあ、私も!えい!」
「マ、マキネさん!何をしているのですか!大成さんから離れて下さい!」
ウルミラは、力ずくでマキネを引き離そうとする。
「ちょっと、本当に苦しいんだけど…」
大成は、苦しい声で訴える。
「ホホホ…」
「何やってんだ、お前達は…」
ニールは微笑み、ドンバネーヤは呆れた表情で頭を掻いた。
「ところで、大成。あの膨大な魔力を放っていた人は倒したの?」
「人ではないんだけどね。そのことについては、ちょっと此処では話せない。城で、レオラルドさんと魔王さん達に話すからジャンヌ達も来て貰って良いかな?一緒に聞いて欲しいことがあるんだ」
「わかったわ」
大成の表情が深刻な表情に一変し、ジャンヌ達も真剣な面持ちに変わった。
【パールシヴァ城・玉座の間】
「失礼致します。リリー様及び修羅様方がお戻りになられました」
メイドは、ノックして扉越しで声を掛ける。
「わかった。入って構わない」
レオラルドの許可と共に扉が開く。
玉座の間には、獣王レオラルド、妃のネイ、現在及び元【セブンズ・ビースト】のメンバー、魔王、妃のミリーナ、ウルシアがテーブルについており真剣な表情で腕を組んでいたり、カップを手に取って飲み物を飲んでいた。
「お帰りなさい、どうだった?大成君」
ミリーナは持っていたカップをテーブルに置き、大成達に向いて微笑みながら尋ねた。
「どうにか、無事に思惑通りに事が進みました。あと、此処だと【七巨星】第1席のドンバネーヤさんが部屋に入れませんので、ベランダに移動して頂きたいのですか」
「わかった、良かろう」
レオラルドが承諾し、大成達はベランダに移動した。
「で、どうだったのだ?詳しい詳細と報告を頼もうか」
レオラルドは、腕を組んだまま尋ねる。
「わかりました。先に結果を報告します。今回の件は無事に当初の予定通りに事が運び、巨人族は干渉しないことになりました。ですが、とても重大な問題が発生しました。おそらくですが、全種族に対して危機があるかと思います。まず、これまでの経緯から順を追って説明を致します」
大成は、謎の老人、【ギャラクシー・ワルキューレ】の復活、巨人族の【ワールド・クロック】が盗まれたこと、魔王の叔父が指名手配されている者達を集めて【グリモア・ブック】の所有者である自分を探していること、刻印のことなどを報告した。
「まさか、そんな事態が起きていたとは…」
「それに、叔父が何か企んでいるだと!?」
獣王レオラルドは謎の老人と【ギャラクシー・ワルキューレ】に驚愕し、魔王は叔父が話に出てくるとは夢にも思わず驚愕した。
「おそらく、マーラの復活だな。あやつ、グランバスは、魔人の国にいる間はマーラの復活させるための資料を集め、研究に没頭していたからな。その可能性は極めて高い。その結果、【ワールド・クロック】と【グリモア・ブック】の所持者が必要なんだろう。グランバスは、魔人こそが世界を統べるべき人種だと思い込んでいるからな」
ジャンヌの影からリーエが現れて手摺に腰掛けて説明した。
「「リーエ様!?」」
「お久しぶりです、リーエ様」
大成以外は驚愕した声をあげるが、大成はマイペースに話し掛ける。
「久しぶりだな、坊や。まぁ、今は私のことを気にするよりも話を進めてくれ。あと前にも言ったが敬語はいらんし、私のことはリーエで良いと言っているだろ。坊やの方が私より強いのだからな」
「わかったよ、リーエ。僕、個人的にですけど一番警戒すべきは、謎のお爺さんと【ギャラクシー・ワルキューレ】ですね。その2人は、僕か【時の勇者】じゃないと対処できないと思います。【ギャラクシー・ワルキューレ】の方は一対一で勝てるとは思いますが、お爺さんの方は、正直に言いますと勝てるとは言い切れません」
「待て、リーエ様でも勝てないと言いたいのか?貴様は」
魔王は、鋭い眼光で大成を睨む。
「ああ、腹が立つ話だが坊やの言うことは正しい。ジンガは兄である初代竜王ラークスや私と同等の力を持っていた。そのジンガの力を上乗せされたのなら、間違いなく、流石の私でも手に負えそうにない」
「あと、この件が終わり次第、僕は人間の国へ行き、このことを報告してきます」
「わかった。それよりも、これからどうするのだ?修羅殿。何か提案とかはあるのか?」
レオラルドは、頷きながら大成に視線を向ける。
「はい、あります。ドンバネーヤさん、レオラルドさん、リゲインさん、リーエは、僕と一緒にオルセー国に同行して貰いたいのですが」
「え?お父様は、ここで待機なの?」
ジャンヌは、頭を傾げる。
「うん、魔王さんは国の防衛をお任せします」
「仕方ないわね。じゃあ、大成。お父様の代わりに私が同行するわ!」
ジャンヌは仕方なさそうな表情で手を挙げるが、口元は嬉しそうにニヤけていた。
「ジャンヌ、あなた達はダメに決まっているわ。これは、私達獣人の問題なのだから!ということで、私が同行するわ!良いでしょう?彗星」
リリーは、嬉しそうに笑みを浮かべながら尋ねる。
「ごめん、皆の気持ちは嬉しいけど、大勢になると警戒が強まって交渉する前に争いが始まる可能性が高くなるからね」
「それだけじゃないだろ?坊や。このメンバーの人選には理由があるだろ?ドンバネーヤは巨人族の代表としてレオラルドと一緒に交渉、リゲインは此方に寝返ったと知らしめるのと同時に争いになった場合レオラルドの楯役。そして、私と坊やは武力行使を思い止めさせるためと、争いになった場合に制圧するため、あとは謎の爺さんと【ギャラクシー・ワルキューレ】が介入した時の保険だろ?」
「そうなのですか?大成さん」
ウルミラは、不安な表情を浮かべた。
「そうだね。リーエが言ったことは、大まかにあっているよ。ただ、リゲインさんがレオラルドさんの楯という部分だけは違うから、そこは訂正しとくよ。という訳だから、リリー、ジャンヌ、ウルミラ、マキネ」
「はぁ、わかったわ」
ジャンヌ達は、素直に引いた。
もし仮に、大成がジャンヌ達の中で1人を連れて行くつもりだったのなら反対するつもりだった。
「もし戦闘になった場合、僕は【アルティメット・バロン】の相手をしますので、皆さんは他を任せます」
「ああ、任せるぞ。【アルティメット・バロン】が一番厄介だからな。弟のアレックスは俺が相手をする。あと、ナイジェルからの報告だと全員がオルセー国に滞在しているそうだ」
レオラルドは、両腕を組んだまま力強く頷く。
「ナイジェルって、確か【セブンズ・ビースト】ナンバー4の熊の獣人でしたよね?」
「そうだ、修羅殿。この日のために、忍ばせていたんだ」
レオラルドは、右手を前に出して握り締める。
「フフフ…決まったな。では、準備できしだいオルセー国に向かうとするか」
「「ハッ!」」
指示を出したリーエは、口元がニヤリと笑っており鋭い八重歯が見えた。
【オルセー国・オルセー城・玉座の間】
三日月がオルセー国を照らす中、玉座の間には一人アレックスが椅子に腰掛け足をテーブルに置いてキルシュの報告を思い出して笑みを浮かべる。
「待っていろ兄貴。あと、もう少しで目標の第一歩、この獣人の国を俺が手に入る。そして、次に魔人族、その次は…ククク…アハハ…。」
アレックスの笑い声は、オルセー城に響き渡った。
だが、翌日、大成達とドンバネーヤがオルセー国に訪れた。
「ん?アレックス様、巨人族のドンバネーヤが来たようです」
キルシュは、窓ガラスから外を見たらドンバネーヤの姿があった。
「その様だな」
「ククク…。相変わらず馬鹿デカいな」
フェガールは、不敵に笑う。
「アレックス様!た、大変です!」
騎士団が慌てて部屋に入ってきた。
「どうした?巨人族が来たのは知っている。通してやれ」
「そ、それが、ドンバネーヤ様がご訪問されましたが、そ、その獣王レオラルド様達とご一緒に同行されてます」
「な、何だと!?糞!一体、どうなっている!騎士団は【アルティメット・バロン】を呼んで来い!」
「ハ、ハッ!」
騎士団達の報告を聞いたアレックスとキルシュ達は、胸騒ぎがして直ぐ様ドンバネーヤ達のもとへと向かった。
【オルセー城・検問】
「おい!ドンバネーヤ!これは、どういうことだ!」
アレックスは、激怒しながら尋ねる。
「アレックス様、大変申し訳ありませんが、我々、巨人族は今回の件は手を退かせて頂きます」
「どういうことだ!説明しろ!」
「我々、巨人族はこれからは相手から手を出されない限りは、こちらからは手を出さないという平和的な方針に切り替わりました」
「ふ、ふざけるなっ!」
「アレックス、そういうことだ。お前の計画は、最早、完全に破綻し潰れたのだ。もう反旗を翻すのはやめろ。今なら、まだ軽い処罰で済ませてやれる。しかし、これ以上、お前達が状況を悪化させると、流石の俺でも庇いきれなくなる。それでも、強行した場合、その先にあるのは満たされる未来ではなく、ただ全てを失う最悪の未来になるぞ。その命をも落とすことになる。お前も、そこまで馬鹿ではないだろ?」
「……。糞!何故だ!何故、こうも失敗するんだ!」
「もう、良いだろ?アレックス。これ以上、反旗を起こしても、お前達に勝機はない。だから、大人しく投降するんだ」
「ククク…アハハ…。」
「何が可笑しい?アレックス」
「「上だ!」」
大成とリーエは、誰よりも先に上空に膨大な魔力を感知して警告する。
レオラルド達は、すぐに上空を見上げると深紫色のドラゴンと、そのドラゴンの背の上に立って大成達を見下ろしている【アルティメット・バロン】がいた。
「今だ!殺れ!【アルティメット・バロン】」
「マゼラン!ポイズン・ブレスです」
アレックスの掛け声に従うように【アルティメット・バロン】は自身のユニーク・スキル【マゼラン】で召喚したドラゴン【マゼラン】に命令する。
【マゼラン】は首を振りながら大きな口を開き、口から毒のブレスを吐き出す。
「攻撃が来るぞ!毒攻撃だから大幅に距離を取れ!周囲の空気が毒ガスになるから気を付けろ!」
「ここは、僕に任せて下さい。ハッ!」
レオラルドは大成達を止めたが、大成は右手に魔力を込めて斜め上に突き出して魔力波を飛ばして毒のブレスを防ぐ。
大成の魔力波で毒のブレスは、周囲に飛び散った。
「に、逃げろ!」
「「うぁ」」
反乱軍の騎士団達は慌てて逃げるが、逃げ遅れた者は毒を浴びると共に鎧が溶けたり、そのまま死んでいく。
「まずは、落とすか」
大成は挙げていた右手を振り下ろすと共に右手に村雨を発動し、マゼランの左翼を切り落とした。
「チッ、流石、大成ですね。発動兆候が尋常じゃないですね」
【アルティメット・バロン】は舌打ちしながら飛び降り大成達の前に着地し、【マゼラン】は地面に衝突した。
「久しぶりですね、大成」
「俺は、お前に会いたくはなかった」
「それは、私もですよ。大成、君は、いつもいつも私の邪魔ばかりをする。君は、私の天敵ですよ。けれども、それ以上に、私は君を尊敬もしているのですよ。その年で圧倒的な強さ、1つ1つの動作に無駄がなく実に美しい。この私に尊敬されるのだから、少しは喜んでも良いかと思いますよ。私が尊敬する人は極一握りなのですから。他に、君以外に尊敬しているのは師匠と総隊長、そして、可愛い栞ちゃんだけです。なので、もっと喜んで下さい」
「そんなことで喜べる訳がないだろ。はぁ、まぁ良い。ロリコン伯爵、今回お前に用はない」
「残念ながら、そちらになくても此方にはあります。ん?な、な、何という美少女。可愛らしさだけでなく、何処となく大人びいている。そして、気高さと美しさが醸し出されている!実に素晴らしい!私の伴侶に相応しい!」
【アルティメット・バロン】は、大成の隣にいるリーエを見て興奮する。
「おい、坊や。何だ?この変態は」
怪訝な表情になるリーエ。
「前にも言ったよ、リーエ。こいつは、幼女好きの変態だって」
「君の名前は、リーエって言うのですか?とても心に響く良い名前です。実に君の気品さ、美しさ、可愛らしさを感じらせる素敵な名前だ!君に合ってます!いや、その名前は君にしか合わない名前です!ああ~、何という神の導き!ここで、私と君が出逢えたのは運命の赤い糸で結ばれているからこそ。さぁ、今すぐ私と結婚しようリーエ。君を幸せにできるのは私だけだ!さぁ、恥ずかしがらず私の胸に飛び込むと良いでしょう。さぁ、さぁ!さぁ!!」
【アルティメット・バロン】は、両腕を広げて微笑む。
「き、気持ち悪い!さっさと、私の前から消えろ!」
ドン引きしたリーエは、勢いよく右手を突き出して魔力波を放った。
魔力波は、無防備な【アルティメット・バロン】に直撃した。
「ぐぁ」
【アルティメット・バロン】は、吹き飛ばされて城壁に衝突したが背中から毒を放ち、城壁を溶かして通り抜けて両足で踏ん張り立ち止まった。
「フハハハ…。何と!実に素晴らしい魔力!君の私に対する愛の強さがビシバシと伝わってきましたよ!」
「おい、坊や。今すぐ、何とかしろ。あの変態を!」
リーエは大成の胸ぐらを掴んで引っ張り、【アルティメット・バロン】を指差した。
「わ、わかったよ。落ち着いて、リーエ。ところで、ロリコン伯爵」
「何だね、大成。今、リーエと良い感じにラブラブな雰囲気だというのに。また、私の邪魔をするのかね?」
「いや、何処がラブラブだ。それより、1つ教えてやる。お前、リーエが何歳か知っているのか?」
「それは、勿論12歳前後ではないのですか?美味しい時期です」
「アレックスに聞いていないのか?リーエは、お伽噺に出てくる【漆黒の魔女】だ。先祖返りの吸血鬼だ」
「な!?ほ、本当なのですか!?では、その美貌で千歳を越えているのですか!?」
「そうだ」
「フフフ…アハハ…。素晴らしい!実に素晴らしいではないですか!不老ですよ!永遠の12歳ぐらいのままの姿!まさに私の理想の伴侶です!この運命の出会いに感謝致します。ありがとう、大成。君には感謝してもしきれないほどだ!アハハ!」
「おい、坊や。余計に酷くなったぞ!どうしてくれるんだ!おい!」
「あれ?」
「あれ?じゃないだろ!」
「痛っ、ごめん。これは、完全に予想外だった」
「兎に角、責任もってどうにかしろ!わかったな、坊や」
「わ、わかったから、ポカポカ殴らないでよ。本当に痛いから」
「ゴホン。【アルティメット・バロン】、話はもう良いだろ?約束通り、こいつらを始末してくれ」
アレックスは、【アルティメット・バロン】に頼んだ。
「わかりました。約束は守りますよ。ですが、リーエちゃんは殺さず、私が貰いますよ?なぜなら、私の妻なのですから。」
「誰が、貴様の妻だ!」
リーエは、大声を出しながら【アルティメット・バロン】を指差して全否定する。
「わかった、好きにすると良い」
「おい!勝手に決めるな!」
「まぁ、リーエ落ち着いて。あとは、任せて欲しい。お前の相手は俺だ、ロリコン伯爵」
大成は、優しくリーエの肩に手を置いた。
「君は、また私の邪魔をするのですね。大成」
「そういうことになるな」
「大成、君が相手ならレオラルドやネイとは違い、様子見は必要ないでしょう。出し惜しみせず、始めから全力で行かせて貰いますよ。マゼラン!ドラゴン・コネクト・シンクロ!」
【アルティメット・バロン】は、高くジャンプする。
翼が復活したマゼランは咆哮しながら低空飛行をしてジャンプしている【アルティメット・バロン】を背中に乗せると巨大な球体になって【アルティメット・バロン】を覆うと共に【アルティメット・バロン】の放たれる魔力によって周囲に竜巻が囲う様に等間隔に4箇所に発生した。
【アルティメット・バロン】の魔力が急上昇していく。
そして、球体が中央に集まって収縮していき、左右の手に毒の深紫色の短剣を持ち全身にドラゴンの鎧を纏った【アルティメット・バロン】の姿が顕になった。
「な、何だ?この膨大な魔力は…。以前とは比較にならないほど桁違いに魔力が上がっているだと!?」
1度、【アルティメット・バロン】と戦ったことのあるレオラルドは、前とは比べ物にならないくらい【アルティメット・バロン】の魔力が上がっていることに気付いた。
「これが、今の私の力です。どうですか?大成。驚きましたか?」
「楽しめそうだ」
「君なら、そう言うと思いましたよ。では、参りますよ」
【アルティメット・バロン】は、背中に生えている翼を羽ばたかせて低空で大成に突っ込む。
【アルティメット・バロン】の周囲の地面に生えている草は枯れていく。
「ここは、俺に任せて下さい。レオラルドさん達は邪魔が入らない様にしてくれませんか?」
「ああ、わかった。任せろ」
レオラルド達は、それぞれアレックス達の前に移動する。
「ハァァ!」
大成は、腰に掛けている剣を抜いて魔力を込めて【アルティメット・バロン】に斬り掛かった。
【アルティメット・バロン】は、右手の短剣で大成の剣を防ぎ、【アルティメット・バロン】は左右の毒の短剣を交互に振りながら高速の連続突きを放った。
「くっ」
「どうしました?大成。まだまだ速度を上げて行きますよ。そうだ、1つ忠告しておきます。気を付けて下さいね、この毒の短剣が少しでも掠れば君でも死にますので、精々、私を楽しませて下さい!」
大成は後ろに下がりなから体や頭を左右に傾けたり剣で【アルティメット・バロン】の猛攻を防いでいくが、【アルティメット・バロン】の攻撃は当たっていないにも関わらず、大成の上半身の服は所々が溶けて破れていく。
「流石、大成。この高速の連続攻撃でも掠り傷すらつけることができないとは驚きです。ですが、これならどうします?ポイズン・フェザー・レイン」
【アルティメット・バロン】は、自身の翼から無数の毒の羽を飛ばす。
「チッ」
大成は、左に大きくジャンプして距離をとる。
「お、お止め下さい!【アルティメット・バロン】様!ぐぁ」
「「うぁ」」
無数の毒の羽は地面に刺さったり、逃げ回っている警備の獣人の騎士団達の背中に刺さり騎士団達は死んでいく。
「あの至近距離で避けるとは驚きです。ですが、逃がしませんよ、大成。クロス・ポイズン・ファイア」
低空飛行していた【アルティメット・バロン】は、両足を地面について腕をクロスし大成に振り向くと同時にクロスした腕を外側に開いてX状の紫色の毒の炎を大成に向けて放った。
「ハァァ!」
大成は、握っている剣に魔力を込めて振り下ろして毒の炎を真っ二つに切り裂く。
「これで、終わりか?ロリコン伯爵」
「もちろん、そんなことはありませんよ。さっきの攻撃で、準備は整いました。行きますよ、ヒドラの領域」
【アルティメット・バロン】は不敵に笑いながら右手に握っている短剣に魔力を込めて上に挙げると、大成の周り一帯に散らばった毒が所々盛り上がり首の長い龍へと変貌し大成を囲んだ。
投稿が遅れて、大変、申し訳ありません。
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