牢獄と決闘
ニールは、腹違いの義弟であり巨人族の王バーネジアを説得するために一人で巨人の国へと帰国する。
ウルシアは魔王からの頼みで、獣人の国に居る大成にニールの安全だけでなく、バーネジアの暗殺及び反旗を起こしそうな巨人達の始末を依頼した。
大成は、依頼を引き受けて巨人の国へと向う。
ニールは、ニルバーゴスの提案で宴会に参加したが、毒を盛られて牢獄へと監禁されるのであった。
【巨人の国・アントロング国・アントロング城・地下・牢獄】
毒を盛られたニールは体が痺れており、兵士4人に牢獄に連行され手枷をつけられて投獄された。
「ニール様、あなたは気付いていない。自身が魔人の国から洗脳されていることに。なぜなら、今回の作戦で我々は大きな富を得らます。我々を止める理由がどこにもないのです。暫くすれば、冷静になり洗脳が解けるかもしれません。お願いですので、そこで大人しくしていて下さい」
兵士3人は、すぐにその場を出ていった。
「ニール様。私達は他の者達と違い、ニール様を信頼しております。ですので、今回の行動した理由を教えて欲しいのです」
残った兵士1人は、横に倒れているニールに尋ねる。
「うっ、争いが始まれば…魔人の国は獣王様側に加勢をするでしょう…。争いの規模が大きくなり、お互いに甚大な被害が…出ます…。それに、バーネジア国王様達は用心深く警戒をしているのは獣王様や魔王様、伝説の【漆黒の魔女】であられるリーエ様や魔王修羅様だけと認識している様ですが間違っておられます。現在の魔人の国は失われた魔法を使用できる人達が数人居られ…ます。それに、一番の問題はバーネジア国王様達は…リーエ様と魔王修羅様の実力を…見誤っておられることです…。特に魔王修羅様は、一人でも一国を簡単に制圧できるほどの…実力があります」
体が痺れているニールは上手く声が出せず、呟く様に小声で答えた。
「1人で国を…ですか…」
ニールの話を聞いた兵士は、息を呑み込んだ。
「はい…」
「話して頂き、ありがとうございます。一国を制圧できるほどとは、にわか信じられませんがニール様が仰るなら信憑性が高いです。私に何か、力添えができることがあれば言って下さい。私の名前はキゲルです」
「感謝…します…」
「おい!キゲル早く来い!」
「では、失礼します」
仲間に呼ばれたキゲルは、ニールに会釈をして立ち去った。
(この痺れは、動ける様になるのは2日掛かりそうですね。完全に回復するのは3、4日間ぐらいですかな…。)
ニールは体を動かして引きずりながら格子がある壁に凭れ、顔を上げてため息を吐いた。
そんな時、ニールの影から大成の声が聞こえてきた。
「ニールさん、大丈夫ですか?」
「修羅様…。あの時…元の大きさに戻れとの助言をして下さり…ありがとうございました。お陰で、命拾いしました…。あのまま…だと、私は確実に死んでいました…」
「いえ、ニールさんが僕を全面的に信用していたお陰です。少しでも僕のことを疑っておられていましたら間に合いませんでした。それより、ニールさん。これを飲んで下さい。解毒薬です。医務室から取って来ました」
ニールの影から解毒薬が入った小さな瓶が現れた。
「ありがとう…ございます…」
ニールは、手枷がつけられている両手でゆっくりと小瓶を持ち上げて蓋を開けて飲んだ。
「どうですか?」
「まだ体の痺れは完全には取れていませんが、動くぐらいなら支障はありません」
「それは、良かった」
「それにしても、どうやって此処に来られたのですか?ここは、魔力封じの結界が施されておられますが」
「それはですね、この魔法シャドウ・ゲートは、影の中は異次元なんですよ。だから、影響されなかったと思います。ただ、ニールさんの所に出ますと魔法は唱えられなくなると思いますので、すみませんが、いざっという時にしか出ません」
「いえ、十分です。修羅様が居られると心強いです。ところで、1つお聞きしたいのですが」
「何でしょう?」
「修羅様が此処に来られた理由は、私の身の安全だけではありませんよね?」
「……はい。魔王さんからバーネジア王が止まらなければ暗殺及び、反旗を翻す者達も始末しろと依頼がありました」
「……。」
大成の話を聞いたニールは覚悟はしていたが、それでも言葉を失い、暫くの間、放心して沈黙し、言葉を出そうとするが口が動くだけで声が出ずにいた。
そして、やっとの思いでニールは声を絞り出す。
「修羅様、お願いがあります。どうしようもない者達だと存じていますが、私にとっては欠けがえのない家族なのです。何卒、命だけは…。どうか、お救い下さい。お願いします、修羅様。私の命は差し上げますので…どうか…どうか…」
ニールは、自身の影に向かって土下座をして深々と頭を下げる。
「顔を上げて下さい、ニールさん。僕は…」
大成は、小声で答えた。
【獣人の国・パールシヴァ国】
ジャンヌ、ウルミラ、魔王、ミリーナの4人は騎士団達を連れて獣人の国の首都であるパールシヴァ国に訪れていた。
訪れた理由は、ジャンヌとウルミラが大成が戻らないことに我慢できず、父親である魔王に直訴した。
初めは、魔王はウルシアにしか知らないバーネジア王の暗殺を大成に依頼したことが愛娘達に知られたくはなかったが、ジャンヌとウルミラの可愛さに負けて渋々パールシヴァ国に向かうことになったのだ。
マキネ、イシリア、マーケンスも同行したいと言ったが、これ以上、自国の警備を緩めることはできないと言われ待機することになり、マキネとイシリアは納得出来ずにいた。
「姫様、もうすぐ、大成さんに会えますね」
「ええ、大成は驚くかしら?それに、元気にしているかしら?どう思う?ウルミラ」
「驚くかはわかりませんが、大成さんのことですから、きっと元気にしてますよ」
「そうよね」
ジャンヌとウルミラは、笑顔を浮かべながら会話をする。
「フフフ…。ねぇ、あなた見て。ジャンヌとウルミラちゃんが、あんなに楽しそうに話をしているわ。来て良かったわね」
「そうだな…」
「こ、これは、魔王様!?それに、ミリーナ様方々まで。まさか、魔人の国で何かあったのですか?」
「これは、ネイ殿。いや特にないのだが。今、魔人の国と獣人の国は手紙すら行き来できない状況なのは知っているとは思う。そこで、今どうなっているかが気になってな。様子を窺いに来たのだ」
「そういうことでしたか。ジャンヌちゃん、ウルミラちゃん、リリーはレオ学園に居りますので、もし良ければ会って頂けないかしら?きっと、リリーはとても喜ぶと思うから」
「わかりました」
「はい」
ジャンヌとウルミラはスカートの両端の裾を軽く摘まみ会釈して了承し、レオ学園へ向かった。
【レオ学園】
一限目の授業が終わり、メアリーとメリアはリリーに歩み寄る。
リリーは、朝、メアリーとメリアに大成はどうしたのかと聞かれたので内密するならと約束をして事情を話していた。
「彗星君は、大丈夫ですかね?」
メアリーは、不安な
「大丈夫に決まっているよ…。多分…」
「「はぁ~」」
リリー達は、大成の机に視線を向けてため息を零す。
リリーは、気分を変えるために窓から外を見ると正門にジャンヌとウルミラの姿を見つけた。
「え!?嘘…」
ジャンヌとウルミラを見たリリーは呆けた表情になったが、すぐに立ち上がって慌てて教室を出た。
「「リリー様!?」」
メアリーとメリアは、声を掛けた。
「ネイ様からレオ学園にいるって聞いたけど、リリーは何処かしら?誰かに聞こうと思っても、周りに誰も見かけないし。本当に困ったわ。とりあえず、校舎に入りましょう」
「はい。ですが、オタクを演じている大成さんを送り出したので、きっと、リリーさんは怒っていると思います」
「ええ、怒っているリリーの姿が目に浮かぶわね」
「フフフ…そうですね」
「ん?噂をすれば」
「ですね」
「ジャンヌ!ウルミラ!あなた達ねぇ!」
リリーは、剣幕を立てながらジャンヌとウルミラに駆け寄る。
「やはり、怒っているわね。リリー、あなたが怒る気持ちはわかるけど、でも、大成じゃなく、彗星は魔法に詳しかったでしょう?」
苦笑いを浮かべながらジャンヌは、リリーを落ち着かせようした。
「今、そんなことはどうでも良いのよ!私が怒っているのは、あなた達が彗星を利用するだけ利用して捨てる様な指示を認めたことに怒っているの!」
リリーは、両手でジャンヌの両肩を掴んだ。
「「え!?」」
ジャンヌとウルミラは、リリーの言っている意味が理解できなかった。
「ちょっと、待って!それは、どういうことなの?」
ジャンヌとウルミラは戸惑い、ジャンヌは尋ねた。
「今更、惚けないでよ!私は知っているのよ!魔王様が彗星にニールさんの護衛だけでなく、バーネジア王の暗殺をするように指示を出したことをよ!それを、あなた達も認めたのでしょう?」
「ニールの護衛…?」
「バーネジア国王様の暗殺ですか…?」
予想もしなかった話を聞いたジャンヌとウルミラは、呆然と立ち尽くしながら呟く。
「え?まさか、2人共、本当に何も知らなかったの?」
リリーは2人の反応を見て、2人が本当に何も知らなかったことに気づいた。
「リリー、お願い!その話を詳しく教えて!」
「お願いします。リリーさん」
「え!?わかったわ。でも、実は言うと私もあまり詳しくは知らないの。だから、知っていることだけなら良いわよ」
「ええ、それで構わないわ」
「ありがとうございます、リリーさん」
ジャンヌとウルミラは深刻な表情で頷く。
「……ということがあったの。だから、今、彗星は巨人の国へ行っているから、この国に居ないわ」
「そんな…。え?姫様!?どちらに?」
ウルミラは両手を口元に当てて呟くと同時に、隣にいたジャンヌが走り出す。
「そんなの決まっているわ!お父様に本当かどうかを直接聞くのよ!何しているの?ウルミラ。ほら、あなたも早く来なさい!行くわよ!」
ジャンヌは走りながら、顔だけ動かしてウルミラを見て説明した。
「は、はい!」
ウルミラは、急いでジャンヌに駆け寄る。
「ちょ、ちょっと待って!2人共!私もついて行くわ!」
リリーは、慌ててジャンヌとウルミラの後を追って学園から出ていった。
【パールシヴァ国・パールシヴァ城・大広間】
大広間にの中央には大きな長方形のテーブルを囲う様に魔王達と獣王レオラルド、妃のネイ、ドルシャー達【セブンズ・ビースト】が勢揃いしており、食事をしながら今までの出来事を話し合っていた。
「短い間に、そんな出来事が立て続けてあったのか?」
「ああ、彗星にはお世話に成りっぱなしだ。彗星が居なければ、今、どうなっていたかわからない。本当に感謝している」
レオラルドは、両手をテーブルに付き、頭を下げる。
「頭を上げてくれ、レオラルド。俺とお前の仲だろ。ん?どうした?レオラルド。お前、震えているぞ」
レオラルドの両手が震えていることに気付いた魔王。
「ああ、これか。あの時のことをフッと思い出してしまってな。俺は、今まで何度も死線を乗り越えて来たが、あの時、彗星殿がオーバー・ロードになった時、一目見ただけだが、今までの中で一番、死というものを実感した。あの瞳と気配…。今も思い出しただけで体の芯から震え出す。情けない話だが、一国の王であるのに恐ろしいのだ…」
思い出したレオラルドは恐怖で体が震えだし、震えている右手の手首を震えを抑える様に左手で力強く握る。
「それは、恥じることはない。私だって同じだ。己よりも圧倒的に力がある者が殺気を放っていたのだ。恐れない奴なんて誰もいないさ。もし仮に居たとしても、そいつは精神が崩壊しているだけだ。それに、私達は喜怒哀楽だけでなく、恐怖を感じるからこそ互いに支え合い協力して克服し乗り越えようと努力する。そうだろ?」
魔王が話すと周りにいるミリーナやドルシャー達は笑顔を浮かべて頷いた。
「そうよ、あなた」
ネイは、優しく夫のレオラルドの肩に優しく手を置いて微笑んだ。
「フッ、ああ、そうだな」
レオラルドは目を瞑り頷き、妻のネイの手を優しく握った。
自然とレオラルドの震えが止まっていた。
場の雰囲気が和んだ時、突如、扉が大きな音を立てながら盛大に開かれた。
「お父様!」
ジャンヌは両手で扉を勢いよく開け、険悪な表情を浮かべてズカズカと父親である魔王に歩み寄る。
「ひ、姫様!?」
ジャンヌの後ろにいたウルミラはオロオロしながら止めようとしたが、ジャンヌは怒りで我を見失っており、此処が獣人の国で、今、大事な会議をしていることを忘れていた。
「ん?ジャンヌ、どうしたんだ?」
「リリーから聞きました!大成を1人でニールの護衛だけでなく、バーネジア国王の暗殺まで依頼したのは本当なのですか?」
「え!?あなた、本当なの?」
ミリーナが驚愕した表情を浮かべて確かめる。
「そ、それについてはだな。被害をなるべく出さないためにだな…」
大成の心の中にいた幼い大成を思い出したジャンヌは、右手で自身の胸元を掴んだ。
「お父様も一緒に大成の心の中に入った時、大成の気持ちを知った筈です。なのに、何故、大成に制圧ではなく、暗殺の指示を出したのですか?お願いですから、もうこれ以上、大成に人を殺めさせないで下さい!」
「それは無理だ。勿論、神崎大成の気持ちは知っている。だが、ジャンヌよ、お前も知っているはずだ。バーネジア王の性格を。バーネジア王は、勝つまで戦い続けるだろう。だから、暗殺しないと止まらん」
「そ、それは…」
「それに、神崎大成は承認した」
「それは、私達のために仕方なくだと思います」
「ああ、おそらくだがそうだろうな。だが、もし本当に嫌ならば、断ることもできたはずだ」
「お父様は卑怯です!大成が断らないと知っていて依頼したのでしょう?」
「それのどこが悪い。神崎大成1人の犠牲で多くの人々が救われるのだ。今できる最善の手だ。私は、国のためならば利用できるものは全て利用するつもりだ」
「「~っ!」」
ジャンヌとウルミラは、怒りで歯を食い縛る。
「ジャンヌ、ウルミラ落ち着いて。ダーリンなら、きっと大丈夫だよ。ダーリンは誰も暗殺なんてしないと思うから」
マキネは、ジャンヌとウルミラの後ろに移動して2人の肩に手を置いた。
「マキネ」
「マキネさん」
「大丈夫だよ」
ジャンヌとウルミラは顔だけマキネに振り返ると、マキネは微笑んだ。
「フン」
魔王は、面白く無さそうに腕を組んで顔を逸らす。
「ところで、マキネ。どうしてここにいるの?」
「ダーリンに会いたかったから、こっそりとついて来たんだ」
「あなたね…」
「マキネさん…」
ジャンヌ、ウルミラだけでなく、魔王達も呆れた。
「ゴホン、話は終わったか?」
レオラルドは、魔王とジャンヌ達に尋ねる。
「ああ、すまないレオラルド。迷惑を掛けたな」
「そ、その、大変、申し訳ありません!大事な会議中に…」
魔王は普段通りのままだったが、ジャンヌは取り乱して深く頭を下げた。
「いや、この件は冷静さがなくなるのも仕方ない。さて、落ち着いたところで、これからの打ち合わせを始めよう」
レオラルドは、真面目な表情を浮かべて威圧感を放ちながらテーブルに両肘をついて顔の前で両手を絡み合わせて握り締めた。
【巨人の国・アントロング国・アントロング城・大広間】
夜遅く宴が終わり皆が寝静まった頃、明かりが付いてない真っ暗な大広間に1人の影があった。
「……。」
先代の巨人王のニルバーゴスは、深刻な表情を浮かべながら右手で口元を当てて考え事をしていた。
目を覚ました巨人王のバーネジアは、廊下を歩いていたら大広間の扉が少しだけ開いていたことに気付いたので覗いてみる。
「ん?親父?」
バーネジアは、扉を上げて壁際に埋め込まれている魔石に手を当てて魔力を流して明かりをつけた。
「どうした?親父」
気になったバーネジアは、歩み寄りながら尋ねる。
「ああ、バーネジアか。ちょうどいい、お前に聞きたいことがあったんだ。ニールが言っていたことだが、本当だと思うか?」
「ん?ああ、ニールが全力を出したが魔王修羅にパンチ一発で気絶させられたことか?」
「そうだ。もし仮にだが、ニールが言っていたことが本当に事実だったら今回の作戦は失敗する可能性がある」
「そんなこと気にしていたのか?他種族から【暴君】と言われていた親父らしくもない。そんなのハッタリに決まっているだろ。認めたくないが、一時とはいえ、ニールは俺達よりも強かったのだぞ。そんなことはありえない。ただの脅しに決まっている。普通に考えてみろ?俺達は最高ランクの魔力値10でこの世界の種族の中で身体強化は一位か二位を誇る巨人族なんだ。相手が竜人なら、まだ信憑性があるが魔王修羅は人間だと報告で親父も聞いている」
「そうだが…」
ニールの真剣な表情を思い出していたニルバーゴスは、ハッタリとは到底思えず言い淀む。
「親父、悩むな。その迷いがニール思惑だ。周りが不安になるぞ」
「そうだな、悪かったバーネジア。少し、外の空気でも吸ってくる」
「その方が良い。じゃあな、親父」
「ああ」
ニルバーゴスの立ち去る背中は、迫力のあるいつもとは違い何だが弱々しいかった。
父親のニルバーゴスの姿が見えなくなるとバーネジアは、壁を強く叩いた。
「糞!そうさ、そんなことは決してない…。そんなことがあってたまるもんか…。影で努力をし続けて、やっと、やっとの思いで俺も魔力値が10に到達したばかりなんだぞ…。糞…ふげけるな…」
バーネジアは、悔しい表情を浮かべて左腕を壁に押しつける様に密着させて頭を左腕に当てるのであった。
【アントロング城・地下・牢獄】
朝早く、ニルバーゴスは牢獄に閉じ込められているニールに合いに来ていた。
「おはようございます、ニルバーゴス様。何か私にご用ですか?」
「ほう、もう喋れるまでに回復したのかニール。お前に聞きたいことがある」
「私の決意は変わりません。ご協力の件は、ご遠慮させて頂きます」
「そう言うと思っていた。聞きたいことは、別にある。もし、俺達巨人の国と魔人の国が争えば、お前はどちらにつく?」
「……。魔人の国です」
すぐにニールは答えを出さず、暫し間を置いてニルバーゴスの目を見て答えた。
「そうか」
「ですが、それは今回の場合です。もし、逆に魔人の国が先にこの国を攻めようとするならば立場は一転して、私はこの国を守るために魔人の国と戦います」
「そうか、ならば俺と戦え」
「「ニルバーゴス様!?」」
兵士達は声をあげるが、ニルバーゴスが手を挙げて制止した。
「その、ニルバーゴス様。戦えと申しますと?」
「一対一での決闘に決まっておるだろ。もし、決闘でお前が俺に勝った場合、今回の件は手を引く様にバーネジアを説得をしてやる。だが、ニール。お前が負ければ、逆に今回の件に手を貸して貰うぞ」
「……畏まりました。その決闘を受けましょう」
「よし、決まりだな」
「ニルバーゴス様!その様な大事なことを勝手に決めて良いのですか?」
「貴様!俺が息子に負けるとでも言いたいのか?」
「い、いえ、そ、その様なことは微塵も思っておりません。ですが、この件は事が大きいのでバーネジア国王と話し合った方が宜しいかと…」
「大丈夫だ。負けることは決してない。だから、問題ない」
「で、ですが…。いえ、何もありません」
兵士達は、ニルバーゴスに睨まれて言い止まった。
「わかれば良い。それよりも、大事な決闘なのだ。せっかくだ、由緒正しいテレン殿の闘技場で行う。即急にリングの準備を整えよ」
「「ハッ!」」
兵士達は、駆け足で部屋から出ていった。
「ニール、解毒剤だ。リングの準備ができたら此処から出してやる。おそらく、2日後になるだろう。それまでに、体を治せ。だが、決して脱獄などは考えるなよ」
「ええ、せっかく頂いたチャンスを不意には致しません」
「フフフ…ハハハ…。楽しみにしているぞ。ニール」
(悩んでも仕方ない。あとは運命に従おうではないか)
ニルバーゴスは、吹っ切れた表情で盛大に笑いながら立ち去った。
「修羅様、申しにくいのですが1つ頼み事があります」
「わかってます。決闘には一切手出しはしませんよ」
「かたじけない」
ニールは、頭を下げた。
そして、2日が経ち予定通りに決闘の準備が完了した。
【闘技場・テレン殿】
観客席は満員になっており、特別席にはバーネジアと妃のアーネスが椅子に腰掛けている。
「親父の奴、勝手に決めやがって」
ニルバーゴスが相談なしに勝手に決めたことにバーネジアは激怒しており、肘掛けに右肘を置いている右手で拳を強く握り締めた。
「落ち着いて、あなた。どうせ、お父様が勝つのでしょう?」
「まぁ、そうだが。もう少し、身勝手な行動を自粛して欲しいものだ」
最後に深くため息をするバーネジア。
「フフフ…そうね」
口元に手を当ててアーネスは微笑んだ。
闘技場のリングの上には誰もおらず、闘技場の入り口から巨人族の最高幹部【七巨星】の中の第1席ドンバネーヤが司会するためにリングに上がると観客達が盛り上がった。
ドンバネーヤが手を挙げると、観客達は静まり返る。
「忙しい中、集まってくれて感謝する。本日は、異端児ニールと先代の国王ニルバーゴス様の決闘を行う。お前達、盛大に盛り上げてくれ!」
「「うぉぉぉ!」」
ドンバネーヤは大きな声で話して最後に右拳を握り力強く上に掲げると観客達は盛大に盛り上がった。
「では、お2人に入場して頂こう。西門からは異端児ニール!」
「……。」
観客が盛り上がっている中、ニールは無言でリングに向かう。
「東門から先代の国王ニルバーゴス様!」
「グハハハ…」
ニルバーゴスは、両腕を組んだまま盛大に笑いながらマントを揺らしてリングに向かう。
ニールとニルバーゴスはリングに上がり、ニールは巨人化して白髪と白い髭が赤く染まった。
「申し訳ありませんが、勝たせて頂きます」
「グハハハ…。言うではないか、そうではなくてはな。俺を楽しませてくれよ、ニール」
ニルバーゴスは盛大に笑ったが、瞳は強い闘志が宿っていた。
ニールとニルバーゴスは膨大な魔力を解き放ち、2人の魔力が闘技場に吹き荒れる。
2人の膨大な魔力によって、観客達を押し黙らせるには十分だった。
「くっ、ル、ルールは知っているとは思うが、武器や道具の使用は一切禁止、己の肉体のみで戦うこと。勝敗は、気絶、降参、死んだら敗けとなる以上。では、これより試合を開始する。試合開始!」
(2人共、とんでもない魔力だ。この試合、一体どうなるんだ!?)
ドンバネーヤの試合開始の合図により、ニールとニルバーゴスの試合が始まるのであった。
投稿遅れて申し訳ありません。
次回、ニールVSニルバーゴスです。
もし宜しければ次回もご覧下さい。




