バーネジアとニルバーゴス
大成はリリーとレオ学園から帰宅した際、メイド達から獣王様がお待ちしておりますと伝えられ、玉座の間へと向かった。
玉座の間には、魔人の国にいるはずのウルミラの母親であるウルシアがいた。
ウルシアは、魔王からの伝言を伝えに足を運んでいたのだ。
ウルシアは、魔王の伝言の内容を話す。
それは、巨人族に帰国したニールの護衛と巨人族の王であるバーネジア王がニールの説得に応じず獣王の弟のアレックスに手を貸す場合、バーネジア王の暗殺することだった。
大成と一緒に伝言の内容を聞いたリリーは激怒したが、大成は承諾するのであった。
【獣人の国・パールシヴァ国】
夕暮れ、日が落ちかけて日の光で国を赤く染まる中、大成は小さなリュックサックを背負って巨人の国アントロング国へと向かおうとしていた。
「大成君、待って!」
ウルシアは、慌てて大成を引き止めた。
「あ、ウルシアさん。わざわざ、見送りに来て下さってありがとうございます」
大成は後ろに振り返り、ウルシアに歩み寄る。
「ごめんなさい、大成君」
ウルシアは、頭を下げた。
「え?突然、どうしたのですか?頭を上げて下さい、ウルシアさん」
「ほら、私、冷たい対応をしたでしょう?それに、汚れ役だけじゃなく、全責任を押し付ける様な形にしてしまって本当にごめんなさい」
「そのことなら大丈夫です。気にしてませんから。ウルシアさんの立場上、仕方ないことですので」
「そ、そう?そう言ってくれると助かるわ。ところで、1つ聞いても良い?」
「はい、何でしょう?」
「リリー様に、素性がバレたの?」
「ど、どうでしょう?勘づかれているかもしれませんね」
大成は、ギクッと反応して狼狽える。
「ふ~ん、ただ気になったのよ。リリー様の態度と表情が恋をしている乙女になっていたからね」
ウルシアは、ジト目で大成を見つめる。
「ハハハ…。それは、気のせいでしょうウルシアさん」
苦笑いを浮かべて誤魔化す大成。
「まぁ、良いわ。それより、気を付けてね大成君。大成君なら心配はいらないと思うけど、相手は巨人族。力がズバ抜けているだけでなく、魔力も膨大だから単純な攻撃でも凄い威力があるの。流石の大成君でも、油断すると危険だと思うから一応忠告しとくわ。大成君に何かあれば、ウルミラだけでなく、ジャンヌ様やイシリアちゃん、マキネちゃん達が心配するし、何より敵討ちするために個人で動かれるのが一番怖いの」
「わかってます。それに、ニールさんには悪いのですが、ウルシアさんが言った通りにバーネジア王が止まらなければ暗殺します。それだけでなく、他に巨人族が反旗を起こさない様に反乱分子も始末しますから大丈夫です。そのことも言いたかったのでしょう?」
「ええ、理解が早くって助かるわ。わざわざ詳しく話さないで済むわ。流石ね、修羅様」
「からかわないで下さい。僕はもう魔王修羅ではないですよ。ただの神崎大成です」
「フフフ…。あと、今から言うことは魔王様には秘密にしてね」
「別に良いですけど、何でしょう?」
「正直に言うけど、私達は大成君が魔王様になっても心から忠誠を誓って付き添うつもりよ。大成君の方針も国を思って考えているからね。だから、もし魔王様に戻りたいと宣告してもヘルレウスメンバーは誰も反対や止めはしないわ。そのことは心の隅でも構いから覚えておいてね」
「はい、覚えておきます。でも、今のところ、僕は魔王に戻る気は全くないので。それでは、行ってきます」
「気をつけてね」
「はい」
大成とウルシアは、お互いに笑顔を浮かべて別れた。
【パールシヴァ国・正門】
大成が門番に挨拶している時、背後からリリーが駆けつけた。
「彗星!ま、待って!」
「ん?リリー。わざわざ見送りに来てくれたんだ。ありがとう」
「ハァハァ…。間に合って良かったわ。これを作っていたから遅くなったの。もし、良かったら受け取って欲しいのだけど」
リリーは、小さな袋から取り出したのは銀色のエンゲージ・リングに光の反射によって七色に変化する糸で編み込まれたカラフルな長いミサンガを通したネックレスだった。
レインボー・スパイダーで編んだ紐が自然と切れた時、願い事が叶うというミサンガと同じジンクスがあった。
「ありがとう、リリー」
「ねぇ、屈んでくれないかしら?」
「あ、ごめん」
リリーは、屈んだ大成の首にネックレスを掛けた。
「って、これって大切なエンゲージ・リングだよね?」
「ええ、そうよ」
「しかも、エンゲージ・リングだけじゃなく、このネックレスの紐になっているは、あの貴重なレインボー・スパイダーの糸で編み込まれてできているみたいだけど。本当に貰っても良いの?これ」
「ええ、良いわよ。本当はエンゲージ・リングだけを渡すつもりだったのだけど、それだと素っ気ない気がして手を加えて手作りした物にしたかったの。それに、本当に彗星が私のことが好きになった時にお互いの指輪を交換して嵌め合った方がロマンチックだと思ったのよ」
「リリー…。僕は…」
「待って!今は返事はしなくって良いわ。だけど、必ず、あなたの方から好きって言わせてあげるんだから。覚悟しときなさい!彗星」
リリーは、顔を真っ赤にして大成に指をさして宣告した。
「ハハハ…。お手藁かに…。じゃあ、行くよ」
大成は、苦笑いを浮かべて直ぐに背中を見せたが耳が赤く染まっていた。
大成の耳が赤くなっていることに気付いたリリーは、小さく微笑んだ。
「気を付けてね!彗星」
リリーは、手を大きく振って見送った。
【ルカンダの森】
獣人の国から巨人の国へ行くにはエルフの森を一直線に通り抜けるのが最短だが、エルフの森には霧の結界が張られており男性は通り抜けることはできない。
そのため、大成はエルフの森を迂回して巨人の国へと向かうため、ルカンダの森を通ることにした。
ルカンダの森は、まるで旅人の方向感覚を狂わせるみたいに鉱物に磁力含まれており、そのため磁力が乱れているのでコンパスもクルクルと回り続け、周囲には多くの木々が生い茂ており視界も悪く、様々な魔物も多く生息しているので【迷いの森】や【恐れの森】と言われるほど恐れられていた。
このルカンダ森には、この森しか手に入らないレインボー・スパイダーやデス・グリズリーがいる。
デス・グリズリーは群れで行動し、一体一体がオーガと同等ぐらいに強く討伐するのが難関だが、デス・グリズリーの体内にある鉱石はゴブリンやウルフなど指定ランクが低い魔物に効く魔物除けに使えるので冒険者や商人、騎士団に大変人気だった。
大成は数多くの様々な魔物に遭遇して奇襲をされたが、大成は攻撃を回避しながら、そのまま無視して通り抜けていく。
そして、森を一直線に抜けた大成は目を大きく開き感嘆した。
「これは、凄いな!まるで、不思議なアリスだったか?鏡の中のアリスだったか?忘れたけど、兎に角、童話に出てくる様な光景だな」
大成の目の前には、山ぐらいの高さのある城塞が反り立ち広がっていた。
「ん?アレはニールさん」
大成は、右手を額に当てて門を見ると門番4人とニールの姿を発見した。
【巨人の国・アントロング国・門】
「久しぶりだな、ニール。よくもぬけぬけと戻って来れたな」
門番の1人がニールを睨み付けながら話し掛けた。
「ホホホ…。あなた達も相変わらず生意気で、お元気そうで何よりですな」
ニールは、笑いながら相手をしなかった。
「「こ、この野郎!」」
「おっと、先に言っときますが、そちらから先に手を出してきた場合、私は自身の身を守るため自己防衛をさせて頂きますので」
ニールは、笑顔を浮かべながら鋭い眼光と殺気を放つ。
「「くっ」」
「ホホホ…賢明な判断ですね。例え、あなた方4人が束になっても、到底、私に勝てません。それに、私、自身が好きで戻って来た訳ではなく、バーネジア王にお声を掛けられて戻って来ただけなので、直ぐに出ていきますのでご心配なく。取り敢えず、申し訳ありませんが急いでいますので門を開けさせて頂きます」
ニールは白髪と白い髭が赤く染まると共に完全巨人化した。
「「~っ!」」
(相変わらず、何て魔力だ…。)
門番達は、ニールの魔力を目の当たりにして怯む。
ニールは、気にせずに両手で巨大で分厚い扉を押した。
巨大な扉は重厚感ある音を立てながら、ゆっくりと開き、ニールがそのまま入国すると再び扉が大きな音を立てて自動的に閉まった。
【ルカンダの森側】
ニールと門番達のやり取りを遠くから見ていた大成。
「ふぅ、良かった。ニールさんは無事に入国できたみたいだ。さて、バーネジア王は、どんな決断をするのか不安だな。できれば、ニールさんの説得に応じてくれれば丸く収まって助かるけど。それに、交流戦で気絶させたはずのバンダスが意識がないまま起き上がり禍々しい魔力を纏っていたのも気になる。まぁ、ここで考えるよりも行動に移すのが、今やることだよな。グリモア・ブック、シャドウ・ゲート」
成り行きを見守っていた大成は、ホッと胸を撫で下ろし、バンダスの件を思い出し表情が険しくなり、すぐにグリモアを召喚して闇魔法シャドウ・ゲートを唱えると自身の影の中に吸い込まれた。
【アントロング国】
ニールは巨人化を解除し、元の人間の大きさに戻って街中を歩いていた。
周りには巨大な店が建ち並び、多くの巨人達が居たが、ニールに気付き、慌てて道を開けて片膝を地面について敬礼する。
だが、敬礼している多くの者達はニールに向けて殺気を放っていた。
ニールは殺気に気付いていたが、特に気にした様子も見せず城へと向かう。
【アントロング城・玉座の間】
玉座の間には、ニールの目の前に3人の巨人族が椅子に座っていた。
巨人族の王バーネジアと妃のアーネスは怪訝な表情をしており、そして、バーネジアとニールの父親であり先代の王ニルバーゴスは無表情でニールを見ている。
「久しいな、ニール」
ニルバーゴスは、少し嬉しそうな表情で話し掛けた。
「はい、父上もお元気そうで何よりです」
「ニール、何故お前が招集されたかわかるか?」
「はい、獣人の国への奇襲するためです」
「わかっているなら話が早い。お前にも手伝って貰う」
「そのことなのですが、申し訳ありませんが私は参戦は致しません。あと、大変、厚かましいかと思いますが、獣人の国とはこれ以上、関わらない方が宜しいかと」
ニールは、深く頭を下げて謝罪をする。
「何だと!?貴様!これは、我々、巨人族の領地を増やせる。絶好の機会だぞ!まず、獣王の弟のアレックスに手を貸してやり獣人の国を制圧し、その後、獣人と我々で我らの天敵である魔人の国を制圧し、更に魔人族の武力を加え、あの【時の勇者】がいる人間の国へと進行し、最後にアレックスを裏切れば全て手に入れる絶好のチャンスなんだぞ!」
2人の話を聞いていたバーネジアは、ニールの答えに激怒して大きな声を出しながら立ち上がった。
「わかっております。ですが、我々が動けば獣王レオラルド様と同盟を結んでいる魔人の国が動きます。そうなれば、争い事は戦争に発展して被害が拡大します。それに…」
「知っているさ。魔人の国には、伝説の【漆黒の魔女】であるリーエがいるのだろ?だが、こっちは魔力値10の者が親父、俺、アーネス、お前に、アレックスの5人がいる。それに比べ、相手は魔王、獣王、リーエの3人だ。それだけじゃない、獣王と妃2人を相手にして引き分けたという【アルティメット・バロン】もいる。勝機は十分ある。それに、俺達と相性が悪い魔人の相手は魔人と相性の良い獣人に任せ、俺達は相性の良いレオラルド軍の獣人を相手にすれば良い」
バーネジアは、右手を前に出して開いていた手を力強く握り締める。
「違います。それも、あるのですが、魔人の国には魔王修羅様が居られます」
「「魔王修羅だと!?」」
「~っ!?」
ニルバーゴスとバーネジアは驚愕した表情で声を荒げ、アーネスも驚愕した表情を浮かべたが両手で口元を覆い声を押し殺した。
「見え透いた嘘をつくな!」
「嘘ではありません。これは極秘な話なのですが、人間の国と同盟が結べたのは修羅様が【時の勇者】と一対一で戦い、引き分けたことにより結ばれました」
「「~っ!?」」
「やはりな…。」
バーネジアとアーネスが言葉を失ったが、ニルバーゴスは腕を組んだまま一度目を瞑って納得した。
「気付いておられていたのですか?」
「気付たというよりも、僅かな可能性として予想してバーネジアとアーネスとも話していたが、それが現実になるとはな」
「なので、もうアレックス様とは手を切った方が宜しいかと存じます」
「予想外ではあるが、勝利するのは我々だ」
「ああ、親父の言う通りだ!俺達には刻印がある!」
「刻印ですか?」
「ああ、この刻印は力を増幅させる効果がある」
バーネジアは、右腕の袖を捲り上げて腕から背中へと続いている紫色の頭のない龍の刺青を見せた。
「一体、その刺青は何処で?それに、身体は大丈夫なのですか?」
「今のところ、体調に問題はない。寧ろ、力がみなぎっているぐらいだ。あと、この刺青はな。シルバー・スカイ事件から数日後に、突然、魔王の叔父のグランバスが色んな種族のビンゴ・ブックのリストに載っている奴等を数人連れて訪れてな。その中の怪しい人間の爺さんが唐突に力を与えてやると言い出し、初めは怪しんだが、せっかくだから実験に部下に試してみると格段に魔力や力が増した。そこで、何が目的なのか尋ねてみたんだがグランバス達はユニーク・スキルらしいのだがグリモア・ブックの所持者を探しているみたいだ。その情報が情報が入り次第、教える約束をした」
「何故、グランバス様達はグリモア・ブックの所持者を探しておられるのですか?」
「俺も気になって尋ねてみたんだが、秘密だと言ったから、そんな怪しい計画には賛同せんと断った。そしたら、グランバスは渋々と所持者を人柱にすると口にした」
「人柱ですか?」
「ああ、人柱にしたら何が起きるのかまでは教えてくれなかったけどな」
ニルバーゴスは、髭を触りながら笑う。
「よく言うな、親父。元々、断るつもりはなかっただろ?」
「まぁな。せっかく、力を得られるチャンスを棒にするわけないだろ?」
(一刻も早く、このことを修羅様と魔王様に報告せねば…)
ニールは、頭を下げた状態で険しい表情を浮かべた。
「で、ニール。お前はどうする?」
「私は…」
「待て、返事をするのは宴の後で良いだろ?」
「宴ですか?」
「ああ、せっかく息子が帰ってきたのだ。盛大に祝おうではないか」
「大変、恐縮なのですが…」
「ニール、親父が言っているのだ。今日1日ぐらいは滞在しろ、これは命令だ」
「……畏まりました」
「決まりだな」
バーネジアは、手を数度叩くと兵士達がやって来た。
「バーネジア王様、如何されましたか?」
「宴だ!宴の準備をしろ!無論、盛大にだ!」
「「ハッ!直ちに!」」
兵士達は一度会釈をして、直ぐ様、駆け足で部屋を退出した。
【アントロング城・中庭】
日が完全に落ち、夜空には朧月がのぼりかかっている時刻。
アントロング国は城だけでなく、国中で宴が始まっていた。
周りの巨人達はざわつき、皆の視線はニールに集まっていた。
「おい、ニール。巨人化しないと乾杯ができないだろ」
バーネジアは、ニールを睨みつける。
「ご存知だとは思いますが、巨人化すると暴走する恐れがありますので」
「嘘をつくな、ニール。俺はお前の父親だぞ。お前のことは知っている。お前の巨人化は、感情がより強く昂る。だから、戦闘では破壊衝動が激しくなるのだろ?たが、宴の時は違うだろ?このことは、お前が子供だった頃に気付いた。巨人化して、友達と遊んでいる時は問題ないなかったが。喧嘩した時は、正に破壊神の様に暴れまくり何もかも破壊して国を半壊させ、いや、それどころか止めようとした母親までも…」
ニルバーゴスは、腕を組んで説明する。
「父上!その話はやめて頂きたい!」
ニールは、大声を出すと共に殺気立つ。
「「~っ!?」」
ニルバーゴスとバーネジア以外の者は、ニールの殺気に怯み息を呑み込んだ。
「ああ、すまない。俺が悪かった」
「親父が謝っているんだ。機嫌を治せ、ニール。それよりも、皆が待っている。乾杯するぞ」
「畏まりました」
ニールは、巨人化してテーブルの上に置かれている酒の入った大きな木製のジョッキを持ち上げた。
「親父、挨拶を頼む」
「ああ、わかった。じゃあ、ゴホン。バーネジアの代わりに俺が挨拶させて貰う!久しぶりの息子との再会に乾杯!」
「「乾杯!」」
ニルバーゴスの大きな声での挨拶と共に、国内の人々は一斉に大声を出してジョッキを上に掲げる。
まるで流れる様に次々に料理が運ばれて必死に食べる者、会話しながら食べたり飲んだりする者、そして、酔って踊る者がおり場の雰囲気は盛大に盛り上がり賑やかになった。
「おい、ニール。もっと飲め飲め!」
ニルバーゴスは酒樽を開けて息子のバーネジアに酒を注ぎ、ニールにも酒を溢れるほど注いだ。
「なぁ、ニールよ」
「何でしょうか?父上」
「場所を変えるぞ。ついて来い、ニール」
「畏まりました」
「バーネジアも来い」
「わかった」
ニルバーゴスの指示でニールとバーネジアは、ニルバーゴスの後をついて行った。
【アントロング国・アントロング城・裏庭】
ニールとバーネジアは、父であるニルバーゴスに裏庭へと案内された。
裏庭には奥に丸テーブル1卓と椅子が3脚が置かれており、ニール達はそれぞれ椅子に腰掛けた。
「「……。」」
表側からの賑やかな声が小さく聞こえるだけで、ニール達は無言のままだった。
「率直に言おう。ニールよ、今回の作戦に手を貸せ。お前の力が必要だ。無論、報酬はやる。獣人の国と魔人の国が手に入った暁には、その片方の国をお前にやる。そこで、お前が王になり好き勝手にしていいぞ。どうだ?魅力的は条件だろ?」
「確かに魅力的ですが、残念ながら私は一国の王としての器ではありませんし、先ほどもお伝えしましたが魔人の国が動きます。【漆黒の魔女】であるリーエ様だけでなく、魔王修羅様も動き…」
「それは、聞いた。だが、そんなに恐れるほどの相手なのか?たかが、2人だぞ。こちらには、獣王とその妃の2人を同時に相手にして引き分けた【アルティメット・バロン】もおる。どこに不安がある?」
「不安ではありません。勝利することはできないと断言できます。【漆黒の魔女】リーエ様は伝説になっておられるほどの強さがありますが、特に修羅様はリーエ様を凌ぐほど、別次元の強さです。修羅様なら、一国を相手にしても難なく制圧できるほどの強さがあります。実際、シルバー・スカイ事件後のことなのですが、【時の勇者】に操られた修羅様と私は全力で戦ったことが1度ありますが、一発で気絶させられました」
「「な!?」」
ニールの発言に驚き、声が出たニルバーゴスとバーネジア。
「普段の修羅様は温厚ですが、身内や仲間が傷付くと豹変します。ですので、巨人の国を思うのであれば、もうアレックス様達とは、これ以上、関わらないで頂きたい」
「どうしてもか?」
「はい」
「そうか…。最後に1つ聞くが、もし、このままアレックスに協力すると言ったら、お前はどうするつもりだ?」
「例え反感を買い、ここで死ぬ定めだとしても、私は巨人族の未来を守るために全身全霊を尽くし父上達を止めさせて頂きます」
「そうか、お前の決意はかわらないか…。とても残念だ。では、仕方あるまい」
「私も残念で…うっ…」
ニールはジョッキをテーブルに置いて立ち上がろうとしたが、立ち上がろうとしたと同時に目眩が起きて崩れる様に椅子から落ちて倒れた。
「こ、これは…」
「お前のことだ。命を落とすとしても意思は通すと思っていた。悪いが、お前に負ける気は毛頭ないが、ここで負傷する訳にはいかんからな。卑怯な手口ですまないが、これで終わりだニール」
ニルバーゴスは、椅子に掛けてあった斧を握りニールに近づいて斧を振り上げた。
「うっ」
ニールは体が痺びれており身動きができず、必死に頭だけを動かして悔しそうな表情を浮かべて斧を振り下ろそうとしている父・ニルバーゴスを見上げる。
「さらばだ、ニール。我が息子よ。苦しまないように一撃で終わらせてやろう。それが、父としての役目だ」
「くっ」
斧が目の前まで迫ってくる中、ニールは巨人化を解いて人間の大きさに戻った。
その一瞬の判断によって、斧はニールの頭を掠って大きな音を立てながら地面を抉り、クレーターができた。
「な、何事ですか!?」
大きな音を聞きつけた兵士達が驚愕した表情で駆け寄る。
「フッ、あのギリギリの状況で見事な判断だ。やはり、お前をこのまま殺すのは実に惜しい。獣人の国と魔人の国を制圧が終わるまで牢獄に入っていろ。制圧が終われば、その思いが変わるかもしれんからな」
ニルバーゴスは、不敵に笑う。
「親父の言うこともあるな。最難関の竜人の国もある。お前達、ニールを牢獄に入れろ!無論、念のために魔力封じの手錠をもつけてな」
バーネジアは、兵士達に指示を出した。
「え!?その、バーネジア国王様。お言葉ですが牢獄は既に魔力封じの結界が施されておられます…」
兵士の1人は、戸惑いながら尋ねる。
「念のためだ!良いな?」
「「は、ハッ!」」
兵士達は、ニールを掴み上げて牢獄へと連れて行った。
投稿が遅れて、大変、申し訳ありません。
もし宜しければ、次回もご覧下さい。




