アレックスの企みと加速する事態
レオラルドと合流した大成とリリーは、死の渓谷から脱出に成功し、目を覚ました大成はリリーとデートすることになった。
デートはリリーがリードし、レオラルドとネイが出会った橋や2人が初デートした滝を見て回った。
【獣人の国・オルセー国・オルセー城・玉座の間】
レオ学園とアレックス学園の交流試合が終わった後、直ぐに帰国したアレックスは手紙を書いた。
「頼んだぞ、キルシュ。この手紙を巨人族の王、バーネジア殿に渡してくれ」
アレックスは、書いた手紙を空を飛べる鷹の獣人【セブンズ・ビースト】のキルシュに渡して巨人族に届ける様に依頼した。
「ハッ!お任せを!」
手紙を受け取ったキルシュは、深く頭を下げて退出した。
キルシュは背中から生えた翼で大空を飛び、山脈を飛び越えて一直線に巨人族の首都アントロング国を目指した。
【巨人の国・アントロング国・アントロング城・玉座の間】
巨人族の首都のアントロング国にあるアントロング城は、城と言っても大きさが山ぐらい高さがある巨大な城塞だった。
玉座の間は、巨人の王バーネジアと妃のアーネスが椅子に腰かけて談笑していた時、巨大な扉をノックする音が聞こえた。
「どうした?」
「獣人の国のアレックス様の使者であられるキルシュ様が来たと報告が届きましたが、如何されますか?バーネジア国王様」
騎士団の1人は扉を開いて部屋には入らず、お辞儀をして報告した。
「そんなこと決まっているだろ?連れて参れ」
「ハッ!直ちに」
騎士団は、返事をして立ち去った。
少ししてキルシュが玉座の間に訪れた。
「よぉ、キルシュ。久しいな」
バーネジアは両腕を組んだまま、片膝をついて敬礼しているキルシュを見下ろす。
「お久しぶりです、バーネジア様。お元気そうで何よりです」
キルシュは、顔を上げたまま挨拶して頭を下げた。
「アレックスは、元気にしているのか?」
「はい」
「今、獣人の国の情勢はどうなっている?」
「それが、その…」
「いや、良い。どうせ、その報告をしにきたのだろ?」
「はい、実はアレックス様から手紙をお預かりして、お持ち致しました」
「そうか。キルシュ、すまないが、ここで読み上げてくれ。お前達の手紙は文字が小さ過ぎて見えんからな」
「わかりました。では、読み上げます。決戦は、ヤンダマの日に決まった。だが、【四天狼牙】の4人とリゲインを含む元【セブンズ・ビースト】メンバー達が魔人から来た使者に倒されてしまい戦力が大幅に減少した。そこで、決戦の日の10日までに私の国に強力な援軍部隊を送って貰いたい。可能ならば、バーネジア殿にも助力を申し願いたい。以上です」
「グハハハ…。やっと、世界征服する計画を実行する時がきたようだな。しかし、【四天狼牙】やバルト達、元【セブンズ・ビースト】だけでなく、あの【セブンズ・ビースト】で歴代最強で【獣王の片腕】とか半身とか言われていたリゲインまでもが倒されるとはな。その魔人の国からの使者は、かの【ヘルレウス】第1席のローケンスなのか?」
「いえ、違います。バーネジア様の息子であられるバンダス様と同い年の人間の子供です」
「グハハハ…。人間の子供だと、面白い冗談を言うではないか!グハハハ」
「……。」
「ん?おいおい、まさか本当なのか?」
「はい…」
「なるほど、その子供はもしやすると人間の国にいる【時の勇者】の弟か息子なのかもしれんな」
「我々もバーネジア様と同じ考えです。で、その、バーネジア様」
「大体の事情はわかった。本当に困っている様だな。良かろう!我も参加してやるぞ。その前に、直ちに魔人の国へ手紙を出せ!ニールを帰国させろとな。もし、拒むものならば、戦争も辞さないと即急に書いて送れ!」
「感謝します」
(ふ~、これで勝率が跳ね上がったな。いや、これは確実に勝てるぞ!)
バーネジアの言葉を聞いたキルシュは、ホッすると共に勝利を確信した瞬間でもあった。
【魔人の国・ラーバス国・屋敷・魔王の間】
獣人の国で大成がリリーとデートしている頃、魔王の間には魔王、妃のミリーナ、ウルシア、それに壁際に騎士団が6人がおり、魔人の国に巨人族の王から手紙が届いていた。
騎士団達が緊張して息を呑む中、魔王は、その手紙を見て表情が険しくなった。
「直ちに、早急にニールを此処に呼んでくれ!」
「「ハ、ハッ!」」
騎士団達は、慌てて一斉にニールを呼びに行った。
「どうしたの?あなた」
ミリーナは、不安な表情を浮かべて尋ねる。
「このままだと、レオラルドが危機に陥るだけでなく、もう獣人の国だけの問題ではなくなるかもしれん」
「どういうことなのですか?」
深刻な表情でウルシアは尋ねた。
「レオラルドの弟であるアレックスと巨人族が手を組んでいるという噂があっただろう?」
「ええ…。って、まさか!?」
「ああ、そうだ。そのまさかだ。ニールの腹違いの義弟であり、今の巨人王バーネジア殿がニールを巨人の国、アントロング国に帰国させる様にとのことだ。確実に、巨人族がアレックスに加勢するだろうな。そうなれば、もう手がつけられなくなるだろう。だが、ニールを帰還させなければ、我々、魔人の国と戦うそうだ」
「どうするの?あなた」
「そんなことは決まっている。ニールの意思を尊重するつもりだ。今まで、ニールには世話になっているからな。ニールが帰国せずに巨人族と戦うことになっても私はニールの意思を尊重する」
「賛成です」
「私もウルシアと同じで賛成だわ。いざとなったら、リーエ様や大成君が助太刀してくれると思うから大丈夫よ、あなた。それに、責任を全てあなただけに押し付けないわ」
ミリーナは、夫の魔王の肩に優しく手を置いて微笑んだ。
「それに、皆もわかってくれるはずです」
ウルシアも、空いている魔王の肩に優しく手を置いて微笑んだ。
「そう言ってくれると何だか救われる。ありがとう、ミリーナ、ウルシア」
小さく口元を緩ませる魔王。
そして、暫く経ち、ニールを呼びに行った騎士団達がニールを連れて戻ってきた。
「魔王様、ニール様をお連れしました」
「入って良いぞ、ニール。他の者は廊下に出て誰も部屋に近寄らすな」
「「ハッ!」」
「失礼します」
ニールはドアを開けて一度お辞儀をし、魔王の前まで歩み寄り片膝をついて敬礼をした。
「突然の召集をして、すまなかった」
「いえ、大丈夫です。ところで、魔王様、私に何かご用ですか?」
「まずはニール。この手紙を読んでくれ。ウルシア」
「はい」
ウルシアは魔王から手紙を受け取り、ニールに歩み寄って手紙を渡した。
「……。」
ニールは、手紙を読んでいくうちに顔をしからめる。
「なるほど、私はアントロング国に帰国すれば良いのですね」
「いや、違うぞニール。お前の意思を尊重しようと思う。例え、帰国したくないのならば、それでも良いと思っている。だから、国のことを気にしないで良い」
「ありがとうございます、魔王様。ですが、私は一度帰国しようと思います。帰国して、バーネジア様にこれ以上、獣人の国に関わることをやめる様に説得して参ります」
「そうか、ならば、ローケンス達を護衛につけよう」
「いえ、気持ちだけで十分です。もし、ローケンス様達が見つかれば、バーネジア様の性格だと殺し合いになりますので」
「わかった。決して無理はするなよ、ニール」
「ハッ!では、今から荷物の整理をして明日の朝、出国を致します」
「うむ、了解した。あと、この事は誰にも話すな。国がざわついてしまうからな」
魔王は、頷いた。
「畏まりました」
ニールは、深くお辞儀をして立ち去った。
「ウルシア、すまないが頼みがある」
「何でしょう?」
「獣人の国、パールシヴァ国に行って欲しい。神崎大成と獣王レオラルドに、この事を報せて神崎大成にニールの護衛を頼んで欲しい。無論、2人の承諾を得らなければならない。断られることはないと思うが、断られたら一度帰国してくれ。断られなければ、神崎大成がパールシヴァ国に帰国するまで、神崎大成の代わりにリリー姫の護衛を頼む」
「わかりました」
「では、支度して参ります」
「本当にすまない」
「お気になさらないで下さい。では、失礼します」
ウルシアは、左右の手でスカートの裾の両端を軽く摘まみ会釈をして退出した。
「できれば、バーネジア王がニールの説得に応じて貰えれば丸く収まるところだがな。バーネジア王の性格からすると、おそらく、無理だろうがニールならやれるかもしれん」
魔王は、右手で顎を触りながら話す。
「そうなると良いわね」
ミリーナは、微笑んだ。
「ああ、そうだな」
魔王は、優しく頷いた。
【ラーバス学園・教室】
学園中に、チャイムが鳴り響く。
「ふぁ~、面倒だから各自自習だ。お前達、サボるなよ。すぅ~」
マミューラは、欠伸しながら教壇の机に凭れ掛かりながら眠りについた。
「はぁ、ところでジャンヌ。大成君は、いつ戻ってくるの?」
イシリアはマミューラを一瞥してため息をして、ジャンヌに歩み寄る。
「わからないわ。獣人の国の内戦がおさまるまでだもの」
肩を落として落ち込むジャンヌ。
「あ~あ、早くダーリン戻って来ないかな?」
「そうですね…。って、え!?マキネさん!?どうして、ここに!?」
落ち込んでいたウルミラは肯定したが、マキネの声に気付いて驚きながら振り向く。
マキネは、空いている窓に腰掛けていた。
「ヤッホー、ジャンヌにウルミラ、それにイシリアにマーケンス」
マキネは小さく手を振って教室に入り、クラスメイト達の間を通ってジャンヌ達に歩み寄る。
「ねぇ、あの人誰?どこかで見たことがある様な」
「確か、ゴブリン・ロードの時に居た人だよ」
「マ、マキネ姉!まさか編入したのか?」
クラスメイト達がざわめく中、マーケンスは驚愕した表情で尋ねる。
「ううん、違うよ。ただ暇だったから遊びに来ただけ」
「はぁ、マキネ、あなたねぇ。暇だからといって来たらダメでしょう」
「それなら、大丈夫だよイシリア。シルバー・スカイ事件の時にマミューラさんから暇だったら、いつでも学園に遊びに来て良いぞって言われたんだよ」
「「はぁ~」」
ジャンヌ達は、寝ているマミューラを見てため息をした。
「う~ん…。うるさいぞ、お前達。お、マキネじゃないか。来ていたのか」
目を覚ましたマミューラは、目を擦りながら上半身を起こす。
「お久しぶりです。マミューラさん」
「そうだ、前から聞こうと思っていたんだが、お前達に1つ聞いても良いか?」
「良いですけど。何でしょうか?」
「前から思ったのが、ジャンヌ達は大和の何処というよりも、どんな姿や仕草が好きなんだ?」
「「え!?」」
ジャンヌ達は、予想外の質問に驚愕すると同時に顔を真っ赤に染める。
「う~ん、やっぱり私はダーリンが本気で怒った時のあの冷酷な瞳かな。あの瞳を見ると闇というかダーリンに吸い込まれそうになってゾクゾクしちゃう」
大成の冷酷な瞳を思い出したマキネは、両手で自身を抱き締めながら悶える。
「「……。」」
「あなただけよ、マキネ」
「だな。流石の私も、あの瞳は恐怖したな」
マキネの姿を見たクラスメイト達は呆然と立ち尽くし、ジャンヌ達は突っ込み、マミューラは肯定し、ウルミラとイシリア、マーケンスは苦笑いを浮かべた。
「で、イシリアは?」
「私は戦っている姿ですね。あの全く無駄のない洗練された動きは、まさに美しく見とれるほどです」
大成の戦っている姿を思い出したイシリアは、胸元で両手を握り思い出に浸る。
「アハハハ…イシリアらしいな。まぁ、確かにアレは踊りを舞っている様に見えて芸術でもあるな。で、ウルミラは?」
「わ、私ですか!?」
「そうだ」
「わ、私は、そ、その料理を始める時に腕を捲る仕草です…」
ウルミラは恥ずかしくなり、両手で真っ赤になった顔を隠した。
「そういえば、あいつは料理も上手かったな。また、色んな料理を作って貰いたいな。最後にジャンヌ、お前は?」
「私は、そ、その、大成のあの無垢な笑顔…が…す、好き…です…」
ジャンヌは、恥ずかしそうに頬を赤らめ目を反らしながら左右の人差し指をくっつけたり離したりして小声で答えた。
「よくもまぁ、大勢の前でそんな恥ずかしいことを言えるな。流石、魔人の姫様だけのことはある」
「~っ!?マ、マミューラ先生!」
顔を真っ赤に染めて声を荒げるジャンヌ。
「な、何よ?マキネ、イシリア。2人共、ニヤニヤして」
ジャンヌは、ジト目で2人に視線を向けた。
「いや、ベタだなって思っただけだよ。ねぇ、イシリア」
「そうね。大成君と出会う少し前まで殆どのものに興味を示ささずツンツンしていたジャンヌが、ここまで変わるとは思っていなかったわ。改めて思うと、本当に恋って凄いわね」
「な、何を言っているのよ!私は、そんなに変わってないわよ!ねぇ、ウルミラ」
「え、えっと…その…」
ウルミラは、オドオドしながら言い淀むのであった。
【獣人の国・レオ学園】
レオ学園は連休が終わり、生徒達が続々と登校しているが、皆は足を止めて視線が一ヶ所に集中する。
皆の視線の先には、リリーがオタクの格好した大成の片腕に抱きついて登校している姿があった。
「な、何でだ…?何でリリー様があんな奴と!?一体、何があったんだよ!」
「まぁ、彗星君は実は強かったし、こうなる可能性が高かったわよ」
「それでも、あんな格好した奴とリリー様が…。」
「なったものは、仕方ないわよ。男なら潔く認めなさい」
「おはようございます!リリー様、彗星君」
「おはようなのだよ、メアリー氏」
「おはよう、メアリー」
大成とリリーは後ろからメアリーの声が聞こえたので振り返るとお辞儀をしているメアリーの姿があり挨拶をした。
「ん?ところで、メリア氏はどうしたのだよ?」
大成は、メリアの姿がないことに気付いて尋ねる。
「メリアでしたら、この前、彗星君が教えてくれながら一緒に作ってくれたサンドイッチを、今朝、お母様が作ってくれたので沢山食べていたので遅れると思います」
「そんなに気に入ってくれて、嬉しいのだよ」
「はい、特にたまごサンドイッチが絶品でした!」
「それは、良かったのだよ」
「ねぇ、彗星。サンドイッチって何よ?」
「それは、リリー様。食パンに…って、リリー様は知らないのだよ。だから、今日学園が終わって帰宅したら作ってあげるのだよ」
「フフフ、楽しみしているわ」
リリーは、嬉しそうに微笑んだ。
「おっはよう~!リリー様!彗星!」
駆けつけたメリアは、笑顔を浮かべて勢いよく大成の背中から抱きついた。
「うぉっ、メリア氏、おはようなのだよ」
「おはよう、メリア。ところで、彗星から離れなさい」
「え~、良いじゃんリリー様。独り占め良くないよ~」
メリアは、抱きついている腕にギュッと力を込めて頬を膨らます。
「ひ、独り占めとかじゃないわよ!彗星が嫌がっているでしょう」
「そんなことないよね?彗星」
「ま、まぁ…」
「彗星!あなたねぇ!良いから離れなさい、メリア」
「嫌だ!」
「良いから離れないよ~!」
リリーは、メリアの腰に手を回して必死に引き剥がそうとする。
「ちょっ、メアリー見てないで助け…」
大成は、引っ張られそうなるので踏ん張りながらメアリーに助けを求めた。
「フフフ…。それより、行きましょう彗星君」
メアリーは、微笑みながら大成の腕にしがみつく。
「メ、メアリー!?」
「メアリー!?あなたもなの!?」
驚く大成とリリー。
「あ~、ずるい!メアリー」
メリアは頬を膨らませ、大成達は学園に向かうのであった。
そんな光景を見ていた周りの皆は、ざわついていた。
「これは、悪夢か?あのメアリー、メリア姉妹までもが…。嘘だ、誰か嘘だと言ってくれ…」
「糞!俺は、今までメアリーにアプローチして頑張っていたんだぞ!それなのに、こんなのあんまりだ」
「お前、アプローチって、ただ毎日、挨拶をしていただけだろ?」
「仕方ないだろ!メリアは別だけど、リリー様とメアリーはガードが硬いし、話し掛けづらいんだぞ」
「まぁ、それは言えてるな。メリアは話しやすいけど、異性としては見てくれないし、相手にされていないことはわかるからな」
「「はぁ~」」
特に男子達の動揺は凄かったが、最後に一斉にため息を吐いた。
「本当、男子って肝心な時は頼りがないと言うか、ヘタレだよね」
「それは、言えてるよね」
「そうだね」
女子達は、男子達の会話を聞いて呆れていた。
【レオ学園・教室】
リリー、メアリー、メリアの3人がいる場所には、女子達が集まっていた。
「リリー様、死の渓谷に落ちた時は、とても心配しました」
「私もです」
「心配させて、ごめんなさい」
「いえ、でも、ご無事で本当に良かったです。あの、ところで、どういう心境の変化なのですか?」
「何が?」
「惚けないで下さい」
「そうですよ!」
「な、何を言っているのか、わからないのだけど」
「もう、惚けないで下さい。リリー様やメアリーちゃん、メリアちゃんは、今まで彗星君のこと意識するどころか、全く相手にしていなかったじゃないですか。なのに、今はラブラブじゃないですか?」
「ら、ラブラブって、何よ!?」
「そ、そうですよ」
「そ、そうだよ!」
リリーは動揺しながら惚け、メアリーとメリアも動揺しながらリリーに賛同する。
「惚けたってダメですよ。誰が見てもイチャイチャしているってわかります。もう、見ているこっちが恥ずかしくなるほど熱々でしたよ」
「「~っ!?」」
顔から湯気が出そうなほど真っ赤に染まるリリー達。
一方、大成達、男子達はというと。
こちらも、大成を取り囲む様に大成の周りに男子達が集まっていた。
「なぁ、彗星。今でも、俺は信じられねぇなんだ」
羊の獣人ヒースは、真顔で大成に尋ねる。
「ん?死の渓谷から生還したことを言っているのかな?」
「いや、それもあるけど、俺達の目の前であのバンダス様を殴り飛ばしたり、アルンガ様を軽くあしらったことだ」
「どこに、そんな爪を隠していたんだ!このこの!」
タヌキの獣人ダラスは、大成の肩に手を掛けて空いている手の人差し指で大成の頬をツンツンする。
「正直、自分でも驚いているのだよ。無我夢中だったから覚えてないのだよ。気が付けばバンダス氏とアルンガ氏が目の前で倒れていたり、蹲って弱っていたのだよ。おそらく、奇跡的に火事場の馬鹿力が出ただけなのだよ」
「だよな」
「いやいや、それでもありえねぇだろ?普通」
ダラスは納得したが、ヒースは否定した。
「でも、よく耳にするだろ?命の危険が迫った時は走馬灯が見えたり、信じられない力が出たり、思った通りに事が進んだりとか」
「まぁ、そうだけどさ…」
ダラスの説得に納得できなかったヒース。
チャイムがなり、教室に教師が入って来た。
「さぁ、授業を始めるから席につきなさい」
「「は~い」」
クラスメイト達は渋々と自分達の席に向かい、そして、授業が始まった。
【獣人の国・パールシヴァ国・パールシヴァ城・玉座の間】
レオ学園から帰宅した大成とリリーは、玄関で待機していたメイド達にレオラルドから話があると伝えられて玉座の間に赴いていた。
玉座の間にはレオラルドとネイ、ドルシャー【セブンズ・ビースト】達だけでなく、反乱を起こしたリゲイン達もいた。
場の雰囲気が重かった。
「2人共、学園から戻って来たばかりですまない」
椅子に腰かけているレオラルドは、両手を組んだまま謝罪する。
「あの、一体どうしたのですか?」
リリーは、深刻な表情で尋ねた。
「そうだな。では、直接説明して貰おう。ウルシア」
「はい」
壁際にいたウルシアは、中央で片膝をついてレオラルドとネイに敬礼しているドルシャー達の前に出る。
「我が魔人の国に巨人族の王で在られるバーネジア王から一通の手紙が送られてきました。その内容は、我が魔人のヘルレウス、【ジャイアント】のニールを巨人族に帰国させろとのことです。帰国させなければ、武力行使も辞さないとのこと。それで、ニールはバーネジア王に獣人の国に関わらぬ様にと説得するために帰国しました。ですが、バーネジア王の性格だと反抗するニールを始末する可能性があります。そこで、魔王様からの伝言があります。彗星君を巨人族の国に向かって貰い、ニールを安全を確保して貰いとのこと。その間は、私がリリー様の護衛に当たります。如何でしょうか?あと、最後に彗星君。もしバーネジア王が止まらなければバーネジア王を暗殺せよとのことです」
「え!?あの、冗談ですよね?だって、見つかれば一国が相手になる可能性が高いということですよね?しかも、一国の王を暗殺した場合、国家転覆罪の罪で各国から指名手配されるじゃないですか?」
「はい、ですが冗談ではありません。もし仮に国家転覆罪になったとしても、魔人の国に滞在している間は我々が安全を保証するつもりです」
素っ気なく答えるウルシア。
「そんな危険な場所に魔人の国は彗星を一人で行かせるだけでなく、大犯罪である国王の暗殺までさせるおつもりなのですか?」
リリーは、怒りで体が震えながら大声で尋ねる。
「はい、こちらが大人数を出さば、もう戦争は避けられません。例え、彗星君の代わりにヘルレウスの誰かに行かせて見つかっても同じです。もし見つかっても無名な彗星君なら、そんなに大事にはならないので。かといって、ニールの安全確保だけしてもバーネジア王が止まらなければ、アレックス様と協力してあなた方との戦争が始まり、我々はあなた方に協力しますが戦争の規模が拡大するのは目に見えてます。なので、バーネジア王が止まらなければ暗殺するしかないのです」
「あなたねぇ!」
激怒したリリーは、殺気と魔力を放つ。
「わかってやれ、リリー」
レオラルドは、腕を組んだまま目を瞑って宥める。
「で、ですが!お父様!」
「……。」
ウルシアは気にした様子もなく、リリーを見つめるだけだった。
「何か言いなさいよ!」
ウルシアに飛び掛かろうとしたリリーだったが、大成に肩を掴まれて振り返った。
「えっ!?彗星?」
「リリー様の気持ちは嬉しいけど、落ち着くのだよ。ウルシア様の言っていることは正しいのだよ。それに、ウルシア様も不本意なのだよ。ウルシア様の言う通り、これは致し方ないのことだよ。もし、ローケンス様が変わって貰ってもバーネジア王を確実に暗殺できるとは思えない。かといって、ローケンス様とかに同行して貰って見つかった場合も戦争は回避できないのだよ。かといって、少人数の騎士団達を同行して貰っても戦力にならないし、ただ見つかりやすくなるからデメリットしかないのだよ」
大成は、頭を振りながら説明をした。
「じゃあ、私が同行するわ!」
「それは、駄目なのだよリリー様。危険なのだよ。それに、もし捕まれば人質になって大変なことになるのだよ。わかって欲しいのだよ」
「……。わかったわ。だけど、彗星。1つ約束して」
「守れる約束なら良いのだよ」
「絶対に生きて私のところに戻ってきてよね」
リリーは、胸元を押さえながら心配した表情を浮かべる。
「勿論なのだよ」
大成は微笑みながら、リリーの右手の小指と自身の小指を掛け合わせて指切りをした。
「うん…絶対だからね…」
リリーは、頬に涙が流れて目を擦る。
「ああ、心配してくれてありがとう、リリー」
大成は、優しくリリーを抱き締めた。
こうして、大成は巨人の国へと向かうのであった。
大変、遅くなりましたが、
あけまして、おめでとうごさいます。
今年もよろしくお願いします。
次回、巨人の国の話です。
もし宜しければ、次回もご覧下さい。




