デートと花火
デートしていた大成とリリー。
橋の上で紅葉を見ながらリリーの手作り弁当を食べていたが、検問側から煙が上がった。
【獣人の国・パールシヴァ国・王都・入口】
リリーのグッズが販売されることになってから国を訪れる商人や1日でも早く手に入れたいマニアが増えて門番の人数が10人まで増やして検問をしていた。
「それにしても、リリー様のグッズが販売されてから一気に国を訪れる人達が増えたよな」
「だな。そういえば、お前はリリー様のフィギュアはコンプリートしたのか?」
「いや、まだだ。今日発売される戦っている姿のリリー様のフィギュアと販売当初、即売り切れになった伝説のパジャマ姿で口元に枕を抱いているリリー様の2つを持っていない。あ~、糞~!今日、仕事じゃなかったら昨日の夜から店に並んでいたのに!糞~!ところで、お前はどうなんだ?コンプリートしたのか?」
「ああ、俺は今のところコンプリート済みだ。あと、今日発売されるリリー様のフィギュアも友人に頼んでいるから大丈夫だ」
「お前は昔から抜け目がないよな。はぁ~、本当に羨ましい。購入は1人2つまでってルールがなければ、俺も頼んでいたんだが」
「そう気を落とすなよ。そろそろ交代の時間だ。走れば奇跡的に間に合うかもしれないぞ。それに、購入できなくても俺の部屋に来れば見られるぞ」
「嫌みかよ」
「ハハハ…」
他愛もない会話をしていたら、門の内側から門が開き仲間達が現れた。
「交代の時間だ」
「ああ、助かる。それじゃ、お疲れ!」
門番の1人は、走りながら挨拶をして一直線に王都に向かった。
「何だ?あいつ。あんなに急いで何かあったのか?」
「それはな、今日販売されるリリー様のフィギュアを買うためさ」
「ああ、なるほど。それなら、納得いく。それに、早く行かないとな」
交代しに来た門番達は、納得した。
「おい!お前!順番を無視するな!」
「そうだぞ!人間の癖に!」
検問を受けるために並んでいたオタク達が騒ぐ。
「おいおい、順番を守れ!常識だろ?」
門番達は、頭を掻きながら注意するため前に出る。
「私は、あなた方みたいな愚者とは違うのです。私は選ばれた人間ですよ。あなた方と対等なはずはないでしょう?それも、わからないのですか?」
「「何だと!」」
「喧嘩売ってるんか!?あぁ!」
「仕方ないですね」
「お、お前は【アルティメット・バロン】!?なぜ此処に!?」
「ま、まさか、国を落としに来たのか?」
門番達は、武器を構えて【アルティメット・バロン】を警戒しながら尋ねた。
「はぁ、相変わらず馬鹿なお人が多いですね。そんなの決まっているじゃないですか」
「やはり、獣王様達を殺して、リリー様を…」
「違いますよ。今日販売されるマイ・リリー(ハニー)のフィギュアを買いに来ただけですよ。だから、そこを通して欲しいのですが」
「ふざけているのか!?貴様」
「どのみち、我々の国に危害を与えるお前を通すことはできない」
「大人しく、ここから立ち去るならば命まではとならない。だが、立ち去らないと言うのであれば…」
「はぁ、時間がないというのに、本当に鬱陶しいですね。あなた達こそ、私に勝てると思いですか?」
【アルティメット・バロン】は、右手に紫色の魔力を纏う。
成り行きを見ていた検問を受けようと並んでいた者達は、慌てて離れた。
「「ぐぁ!」」
「皆…」
リリーのフィギュアを買うために走っていた門番の1人は、仲間の悲鳴が聞こえたので足を止めて振り返ると紫色の煙が立ち上っており戻ることにした。
「う、嘘だろ…。20人近くいた門番があっという間に倒されるなんて…」
「これが、獣王様と妃様を同時に戦って引き分けたという【アルティメット・バロン】の実力なのか…」
「もし、マイ・リリー(ハニー)のフィギュアが手に入らなかったら、君達のせいです。私は、怒りで国を滅ぼすかもしれません。って、話しても意味がない様ですね。もう息絶えてましたね。それにしても、人の話は最後まで聞く様にと教わっていないのでしょうか?まぁ、良いでしょう。さてと、私も早く急がなければ…おや?」
【アルティメット・バロン】は、王都に入ろうと歩を進めようとしたが、正面から門番1人が走って来た。
「み、皆…。お前は、【アルティメット・バロン】!?お前が皆を…」
「おやおや、また邪魔者が来ましたね。困ったものです。申し訳ありませんが、私は急いでいるので早く死んで下さい!ポイズン・フレイム」
【アルティメット・バロン】は、右手を前に出してユニークスキル、ポイズン・フレイムを唱えて紫色の毒の炎を放った。
「うぁぁ」
「アース・ウォール」
毒の炎が門番に迫る中、突然、炎と門番の間の地面が盛り上がり毒の炎を遮った。
土の壁は、紫色の煙を上げながらドロドロに溶けていた。
「はぁ、誰ですか?私の邪魔立てをする方は」
「り、リリー様…」
門番は尻餅をついたまま、顔だけリリーに振り向いた。
「これは、これは、マイ・リリー(ハニー)。わざわざ、私に会いに来てくれたんだね。やはり、君と私は運命の赤い糸で結ばれているんだ」
「絶対に嫌よ。あなた何かと結婚するものですか!」
「フフフ…。皆の前だからと言って、恥ずかしがらなくっても良いのだよ」
「だから、違うって言っているでしょう!」
「相変わらず、思い込みが激しいな。ロリコン伯爵」
「大成、なぜ君が此処にいるんだ!?」
「なぜだと思う?」
「君を呼んだ人物を考えると獣王しかいないな。そうか、あのネーブルの森の時に乱入したのは大成、君だな?」
「何の話だ?」
「惚けても無駄だよ。あのナイフの投擲技術は、私以外の者にできる者は限られている。総隊長かその妹君の栞様、それか君だけなのだよ」
「ところで、【アルティメット・バロン】。なぜ、あなたがこの国に来ているの?1ヶ月後だと聞いたのだけど」
「リリー(ハニー)、それはだね…」
「これが、お目当てだろ?」
大成は、今日発売されるリリーのフィギュアを下から上へと高く放り投げて渡した。
「彗星、あなた【アルティメット・バロン】に何を渡したの?」
「今日販売するリリーのフィギュアだよ」
「え!?」
「おお、流石、大成だ。わかっているじゃないか」
「目的の物を渡したんだから、大人しく帰れよ。ロリコン伯爵」
「昔から、その呼び方はやめたまえと注意をしているのだが。まぁ、良いだろう。本当はリリー(ハニー)を連れて帰りたいが、目的の物を手に入ったから今日は大人しく帰るとしよう。あ、そうだ。大成、1つ聞きたいのだが、君も当然参加するのだろ?」
「さぁ、何のことだ?」
「フフフ…。昔からそのポーカーフェイスは凄いよ。この私すら全くわからない。だが、君が出る確率はとても高い。フフフ…。楽しくなってきたじゃないか。お礼に1つ忠告しておこう。私は、この世界に来て更に強くなった。今度は勝たせて貰うよ」
「勝手にしろ」
「マイ・リリー(ハニー)。君を連れて帰れなくって本当に申し訳ないと思っている。私も心が痛むよ。だけど、1ヶ月後、必ず君を連れて帰ってみせると約束しよう。それまで、待っていて欲しい。その時は、結婚しよう」
「だから、私はあなたのことが嫌いなの!」
「フッ、照れることはないさ。まぁ、その照れている姿もとても愛くるしくて可愛いよリリー(ハニー)。では、リリー(ハニー)。また会おう」
【アルティメット・バロン】は、背中を見せたまま片手を挙げて振りながら立ち去った。
「人の話を聞きなさいよ!私は二度とあなたに会いたくないし、関わりたくないのよ~!」
リリーの大声が響いた。
「ハァハァ…」
リリーは、息を切らしていた。
「フフフ…」
「何が可笑しいのよ、彗星」
「いや、相変わらずだなって思って」
「あなたは笑っていられるけど。こっちは、大迷惑よ!」
「まぁまぁ、落ち着いてリリー。僕はこのことをレオラルドさんに連絡するよ」
「わかったわ。任せるわ」
「じゃあ、グリモア・ブック、レゾナンス」
大成はグリモア・ブックを召喚してレゾナンスを唱え、レオラルドに事の顛末を伝えるとルジアダとツダールを向かわせると聞き、大成とリリーは、ルジアダ達が来るまで待つことにした。
そして、30分も経たずにルジアダとツダールがやってきた。
「遅くなってしまって、申し訳ありません」
ツダールとルジアダは、頭を下げて謝罪した。
「話は聞いていますので、あとのことは私達にお任せ下さい。リリー様達はデートの続きをどうぞ」
ルジアダは、口元がニヤリとなった。
「ル、ルジアダ!」
リリーは、顔を真っ赤に染めて大声を出す。
「さぁさぁ」
ルジアダは、リリーと大成の背中を押して門を閉めた。
「ちょっと、ルジアダ!何を勝手に」
「彗星君、リリー様のことお願いね!リリー様、いってらっしゃい。楽しんで来て下さいね」
ルジアダは、ウィンクして小さく手を振る。
「もう!ルジアダったら」
「せっかくだし、行こうかリリー」
大成は、リリーに手を差し伸べる。
「ルジアダの言う通りに動くのは釈然としないけど、わかったわ」
リリーは、頬を赤らめて大成の手を取った。
それから、大成とリリーは王都の店を回った。
初めは、王都の人達がリリーに気が付いて騒ぎになるかと思ったが、リリーのグッズの目当ての人達が多く、殆どの人達はリリーのグッズに夢中になって誰もリリーに気付かなかった。
「何か釈然としないわね」
「まぁまぁ、その方が動きやすいし面倒にならなくって良いと思うよ」
「それは、そうだけど…」
「あっ、ちょっと待ってて」
「彗星!何処に行くのよ?もう!」
「待たせて、本当にごめん」
「何処に行っていたのよ!?」
「いや、人混みの中で、これがチラッと見えて気になったから」
大成は、紙袋からコスモスの髪飾りを出して見せた。
「わぁ~、可愛いわね」
「ちょっと失礼するよ。これで良し!うん!とても似合っているよ。リリー」
大成は、コスモスの髪飾りをリリーの頭につけて満足そうに頷く。
「あ、ありがとう…」
リリーは、視線を外して頬を赤めながら恥ずかしそうにお礼を言った。
「ねぇ、彗星」
「ん?」
「あなたは、どうして私達獣人のために命を懸けてまで助けてくれるの?」
「それは、僕が【時の勇者】と戦って寝込んでいた時、レオラルドさんが魔人の国に侵攻しようとした弟さんのアレックスさんの侵攻を防いでくれたのもあるけど、一番の理由はリリーがジャンヌ達の大切な親友だったこともある。それに僕の夢のためでもあるんだ」
「夢?」
「僕の夢は、いつか、この世界に争いが消えて種族などの違いに関係なく、皆が平等で笑顔で笑える平和な世界を僕は目指しているんだ。まぁ、国民の中の一部の人達から馬鹿げているとか無理だとか言われているけどね。僕だって十分わかっている。例え、争いに巻き込まれて死ななくても寿命がいくらあっても夢に辿り着けない可能性が高いことはね。それでも、この命がある限り目指してみようかと思っているんだ」
大成は空を見上げながら夢を語り、最後に右手を斜め上に伸ばして太陽を掴む様に拳を握った。
「素敵な夢だけど、どうして命を懸けてまで目指すの?だって、こう言っては何だけど、彗星は元々この世界の住人じゃないでしょう?それなのに、そこまでするの?それに、彗星の立場や実力なら自分勝手に好きに自由に生きることもできるでしょう?」
「確かに、この世界だと僕は自由に過ごせると思う。この力は、元々は復讐するために死に物狂いで努力して手に入れた力なんだ。だから、今度は多くの人達のために役立てたいと思っている」
「ごめんなさい、何だか辛いことを思い出させてしまって。ねぇ、あっちに馴染みの店があるの。新鮮なフルーツ盛りを取り扱って美味しいのよ。だから、買いに行きましょう!」
リリーは、店を指差して大成の手を取って一緒に走る。
「これはこれは、リリー様。お久しぶりです」
「お久しぶり、マリーさん」
「今日は、どのフルーツ盛りにします?この時期だとマルバスが美味しいですよ」
「じゃあ、私はマルバスでお願いするわ。彗星は何にする?」
「じゃあ、僕も同じので」
「わかったわ。マルバス2人分ね。ナタリー、お願いマルバス2つ採って来て頂戴」
「わかったわ。お母さん」
おばさんは、大きな声で指示を出すと裏から少女の声が返ってきた。
そして、裏の勝手口が開き、娘のナタリーが裏の庭からもぎたてのマルバス2つをザルに入れて持ってきた。
「はい、お母さん。採ってきたわよ。もう、人使いが荒いんだから。マルバスは梯子を使わないと採れないから、お父さんがいる時だけにって前から言っているでしょう。え!?リリー様!?」
ナタリーは、文句を言いながら母親のマリーにマルバスを手渡すと同時にリリーに気付いて驚いた。
「こんにちわ。ナタリーさん」
「こ、こんにちわ、リリー様」
「ごめんなさい、そうとは知らずに頼んでしまって…」
「え、い、いえ、そんなことはないです。ただ母親に悪口を言いたかっただけですので気にしないで下さい…。って、ええ!?り、リリー様!?そ、その方は…」
ナタリーは、大成の存在に気付いて指をさす。
「そうよ、リリー様のカ・レ・シ!なのよ」
マリーは、面白そうに小指を立てながら反対の手で口元に押さえて微笑む。
「ちょっと、マリーさん!?」
顔を真っ赤に染めてリリーは大声をあげる。
「ええ~!!か、彼氏ですか!?ほ、本当ですか!?リリー様!」
「シーッ、声が大きいわよ。ナタリー」
マリーは、人差し指を口元に当てて注意する。
「も、申し訳ありません、リリー様」
「誰も気付いていないから大丈夫ですよ、ナタリーさん。だから、顔を上げて下さい」
「ありがとうございます。で、そ、その…ほ、本当に彼氏…なんですか?」
「え、えっと…」
「まぁ、そうなるかな」
言い淀んでいたリリーだったが、大成は頷きながら肯定した。
「ええ!?本当ですか!?リリー様!」
「こら!ナタリー」
再び、マリーは娘のナタリーを注意する。
「あっ!?すみません。あの、ほ、本当に彼氏なんですか?恋人なんですか?」
「だから、そうだって」
苦笑いを浮かべる大成。
「あの男嫌いのリリー様が…」
「余計なお世話です」
「しかも、相手が人間の男だなんて…。なら、リリー様はこの人間とあんなことやこんなことを…」
「ちょ、ちょっと、何を勝手に変な想像しているのですか!まだ、そこまでしてないです!」
顔を真っ赤に染めながら大声で否定するリリー。
「これは、夢よ。そう、きっと私は悪夢を見ているんだわ。アハハ…。早く、悪夢から目を覚まさないといけないわね」
想像に浸っているナタリーは、フラフラとした足取りで壁際に向かい、頭を大きく振りかぶる。
「「あっ!」」
ナタリーの行動を見た大成とリリーは止めようとしたが、その前にナタリーは引き攣った笑みを浮かべながら自ら壁に思いっきり頭を打ち付けて気絶した。
「「……。」」
大成とリリーが呆然としている中、母親のマリーだけは平然としており包丁でマルバスの皮を剥きながら仕事をてきぱきとこなす。
「あ、あのナタリーさんは…」
大成は、呟く様に尋ねる。
「ほっといて良いわよ。いつもの事だから。そのうち目を覚ますから大丈夫よ。それより2人共。はい、お待たせ」
マリーは、左右の手に自分で作ったフルーツ盛りの器を持っており大成とリリーにそれぞれに渡した。
「「ありがとうございます…」」
大成とリリーは、フルーツ盛りの器を受け取った。
「ねぇ、彗星」
「わかっているよリリー。ほっとくのも流石にちょっとね。グリモア・ブック、ヒール」
大成は空いている左手にグリモア・ブックを召喚し、グリモア・ブックは自動的にページが捲れてヒールを発動した。
緑色の光がナタリーの全身を覆った。
「わざわざ、すまないね。思い込みの激しい娘のために」
「いえ、気にしないで下さい」
「う、う…」
ナタリーは、手で頭を押し当てながら目を覚ました。
「あれ?私は、何でここで寝ていたの…。あ!そうだった!」
「夢じゃなかったんだ…。リリーが結婚したら、私も誰かと結婚しないといけなくなるから、リリー様!お願いですから結婚しないで下さい!」
「どういう意味ですか?」
リリーは、頭を傾げて尋ねた。
「リリーが結婚しない間は私は結婚せずに自由に過ごし、リリー様が結婚したら、その時は私も結婚するって、お母さんと約束したんです」
「なるほど」
「彗星、なるほどじゃないわよ。何を納得しているのよ!もう!」
「私、まだ結婚したくないんです。だから、リリー様。結婚しないで下さい」
「勝手に私を巻き込まないで下さい!」
「ナタリー、あなたが交わした約束でしょう?約束は約束だから守って貰うわよ」
「そんな…」
「では、私達はこれで…」
リリーは、逃げるように大成の手を取って店から出て行った。
「リリー様~!」
ナタリーは、すがる思いでリリーに手を伸ばしたが容赦なく扉が閉まった。
大成とリリーは、駆け足で店から離れていた。
「良いのかな?」
「良いに決まっているわ。こっちが迷惑よ」
「まぁ、確かに。で、これからどうする?日が落ちてきているから帰る?」
「ちょっと、一緒に寄って欲しいところがあるのだけど」
「別に構わないよ」
「ありがとう、彗星」
リリーは、大成の前に出て両手を後ろで組んで前屈みで嬉しそうに微笑んだ。
【シリニスの森】
大成とリリーは、手を繋いで人気のない森の中へと進んだ。
日が落ちた森の中は薄暗く、虫の鳴き声が響いていた。
そして、暫く歩き続けるとゴーっと大きな音が聞こえ来ると正面に大きな滝が見えた。
「凄いでしょう?彗星」
「イグアスの悪魔の喉笛みたいだ…」
「悪魔の喉笛とか失礼ね!」
「いや、そのごめん」
「まぁ、そうかもしれないわね。実のところ、本当なのか知らないけど、歴史ではここで各種族の王様達が力を合わせて初代魔王と壮絶な戦いを繰り広げてできた傷痕がこうして滝になったと言い伝えられているの。それと、お父様とお母様がデートした場所でもあるの。だけど、残念だわ。明るかったら綺麗だったのだけど」
「いや、夜でも綺麗見れるよ」
「何を言っているの?暗くって殆ど見えないじゃない」
「こうすれば、大丈夫。グリモア・ブック、ファイア・ワーク」
大成はグリモアを召喚し、グリモアは上空に舞い上がり無数の花火を打ち上げる。
夜空一面に花火によって色鮮やかに染まり、それと同時に滝も色鮮やかに照らされた。
「~っ!とても綺麗…」
リリーは、呆然と色鮮やかに照らされた滝に見とれたまま小さく呟いた。
「気に入っていくれて良かったよ」
「ええ!とても綺麗だわ!ありがとう!彗星」
リリーは、胸元で両手を合わせて微笑んだ。
大成が打ち上げた花火はパールシヴァ国を照らしたことで、国民達は突然のことに驚いたが攻撃ではないと把握し、外に出ていた人達は足を止めて空を見上げ、家の中にいた人達は窓を開けて上半身を出して空を見上げる人や子供を抱いてベランダから花火を見て笑顔を浮かべた。
【パールシヴァ国・パールシヴァ城・玉座の間】
「獣王様!た、大変です!」
騎士団の1人が慌てながら玉座の間に入って来た。
「落ち着け、知っている。心配するな、おそらく大成の仕業だ。お前は、他の者達や民達に心配するなと伝えろ」
「ハッ!」
騎士団は、敬礼して退出した。
「それにしても…。ねぇ、あなた。色鮮やかで、とても綺麗ですね」
「そうだな、光の花が打ち上げられているあの辺りはシリニスの森か?」
「そうですね。私達が初デートした場所です。あの子が、誰かと2人きりであの場所に行くなんて…」
「それほど、本気なんだろう」
「ですね。あなた、寂しいですか?」
「そんな訳が…。いや、寂しくないと言えば嘘になる。だが、それ以上に嬉くもある。しかし、その反面、国民達と魔王達魔人の国の反応がな…。お前は、どうなんだ?ネイ」
レオラルドは、妻のネイの瞳を見て素直な気持ちを打ち上げた。
「そうですね、あなたの言う通り彗星君は人間ですので皆の反応や魔人の国の反応が心配です。ですが、リリーが本当に彗星君のことが好きならば全力で力になるつもりです」
「俺も同じ気持ちだ。リリーが幸せになるならば、この獣王の座を捨てることも命を懸けることも惜しまないつもりだ」
「フフフ…。あなたって親バカなのですね」
「何を言う、お前こそ」
ネイは微笑みながらレオラルドに寄り添い、レオラルドはネイの肩に手を置いて引き寄せる。
「フフフ…。そうですね」
ネイとレオラルドは、夜空を色鮮やかに照らす花火を眺めた。
ご覧ありがとうございます。
もし宜しければ、次回もご覧下さい。




