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大成とリリー

レオラルドの頼みで、大成はリリーとデートすることになった。

【獣人の国・パールシヴァ国・パールシヴァ城・加治の工房・昼】


朝早く、リリーと昼にデートの約束した大成はリリー達と別れた後、すぐに武器や鎧、装飾品などを製作する加治の工房に向かい、朝食を摂らずに武器を一生懸命に双剣を作っていた。


「ふぅ、できた!どうにか間に合った」

大成は、椅子の上に置いていたタオルを首に掛けてタオルで汗をかいた顔を拭きながら満足げに作った双剣を見つめた。


「ごめんなさい、お忙しいところ、失礼するわね」


「あ、ネイさん。大丈夫です。今、終わったところなので。それで、どうかされましたか?」


「特に、大したことはないの。ただ、そろそろリリーとのデートの時間が迫ってきているから心配で来ただけなのよ。彗星君、支度の準備できている?」


「あ、もう、こんな時間。今、リリーに渡すプレゼントができたところです」


「プレゼント?」


「はい、流石にデートで何もないのは気が引けますので。これをリリーにプレゼントしようかなっと思います」

大成は、ネイに双剣の一刀を渡した。


「す、凄いわ。この双剣は、とても素晴らしいわ!えっ!?まさかとは思うけど、この透き通った剣の刀身の素材って…」

ネイは受け取った双剣の一刀を鞘から抜き、刀身を見て驚愕する。



「ええ、そうですよ。この国の秘法、伝説のクリスタルのウルティマです。さっきも言いましたが、デートなのに渡すプレゼントが何もないのは少しばかり気が引けますのでレオラルドさんに相談したところ。誰も加工ができないから好きに使って良いと言われましたので使わせて頂きました。あ、すみません。時間が押しているので、僕は支度をしてきます」

伝説のクリスタルのウルティマは、保有者の魔力を大幅に増大させることができる。


同じ効果のある大成がマキネのために魔石を加工して渡した手裏剣、クナイ、短剣は、ウルティマには及ばないが一般に販売している物と比べて魔力の増大量と耐久度が数倍違う。


だが、大成が製作した武器は魔力値が6以上のイシリアやジャンヌ達が使用した場合、武器が魔力に耐えきれず壊れてしまうがウルティマは上限なく、膨大な大成の魔力でも耐えることができ強化が可能だ。


しかし、その反面ウルティマはとても硬く、加工するには火加減や道具、工具だけでなく、膨大な魔力で道具や工具を強化しないとウルティマを削ったり加工ができないので普通の加治職業をしている者では誰も加工できずにいたのだ。



「そうね。お忙しい時に引き止めてしまってごめんなさい。最後に1つ良いかしら?」


「何でしょうか?」


「その剣。きっと、リリーはとても喜ぶと思うわ」


「その言葉を聞けてホッとしました。ありがとうございます」


「私は正直なことしか言っていないわ。それよりも、早く支度をしないと間に合わなくなるわよ」


「はい、失礼します」

ネイから双剣の一刀を受け取った大成はチラリと窓の外を見た後、作った双剣を持って自室に向かった。


「はぁ、彗星君、本当にリリーのお婿さんになってくれないかしら。ねぇ、あなた」

部屋に1人残ったネイは、窓側に移動して窓を開けてた。


「気付いていたのか、ネイ」

窓の外に隠れていたレオラルドは、腕を組んだまま窓の真横の壁に背中から凭れ掛かっていた。


「勿論です、彗星君も気付いていましたわ」


「やはり、そうだったか…」


「ところで、何故そんな場所に隠れていますの?」


「あの伝説のウルティマを、どうするのかが気になってな。だが、集中してウルティマで双剣を一生懸命に製作している彗星の姿を見て邪魔する訳にはいかないと思ったのだ。そこで、ここから見守ることにしたのだ」


「あなた、こう言っては何ですが十分邪魔をしていると思いますわ」


「そ、そうなのか…」


「ええ、そんな所からコソコソと見られていると私でも気になってしまうわ」


「それは、彗星に悪いことをしたな」


「それで、あなた。そんな格好して何処へ行くつもりなのですか?」

ネイはジト目で、夫のレオラルドの格好を見る。


レオラルドの格好は、立派なライオンの(たてがみ)に葉っぱがついた木の枝を無数に突き刺してモサモサに緑が生い茂ていた。


「ん?そんなことは決まっている。あの2人のデートを見守ろうとかと思ってな。目立たない様に変装したのだ、どうだ、完璧だろ?」


「はぁ~」


「どうした?ネイ。この変装は、完璧だと思わないか?」


「いい加減にしなさい!あなた!」

一度、深くため息をしたネイは、大きな声を出した。


ネイの声は、国中に響き渡るほどだった。




【パールシヴァ国・パールシヴァ城・正門】


シャワーを浴びて着替えた大成は、約束した時間よりも20分前に約束の場所で待っていた。


しかし、約束した時間から10分が過ぎてもリリーが来る気配が一向になかった。


「あれ?約束した時間から10分も過ぎたけど、リリーが来ないな。場所は、ここで合っているはずなんだけどな」

大成は、リリーにプレゼントする双剣を背中に背負ったまま辺りを見渡しながらリリーを探す。


「ハァハァ…。ま、待たせて、本当にごめんなさい!」

リリーは、白いベレー帽を押さえながら駆け足で大成に駆け寄る。


「それは別に気にしていないけど、何か大切な用事があるなら日を改めるけど」


「デートより大切な用事なんてないわ!あっ…そ、その、今、言ったことは忘れて!た、ただ、着ていく服を選んでいたら時間が過ぎていただけなの…」

デートが中止になると思ったリリーは、慌てて即答したが本音が出てしまい咄嗟に両手で口を塞いで顔を真っ赤に染めながら小声で訂正した。


「そんなに、心待ちしてくれていたんだ」


「だ、だから、さっき言ったことは忘れて!そんなことより、ほら!早く行くわよ!」

「わぁ」

リリーは頬を赤く染めたまま、誤魔化す様に大成の手を取って歩き出す。


「リリー、言うのが遅れたけど、その服似合っているよ」


「!!あ、ありがとう…。悩んだかいがあったわ」

リリーは、顔を真っ赤にして微笑んだ。


「ところで何処に行く予定?」


「まずは、王都に行きましょう」


「わかったよって、え!?良いの?思いっきり、人目につく場所なんだけど」


「良いわよ、別に」


「いやいや、一国の姫様が知らない男と一緒に歩いているということもだけど、僕は違うけど、敵対している人間なんだけど大丈夫?」


「種族なんて関係ないわよ。だって、今は人口は減っているけど、この獣人の国にも人間の人達は暮らしているもの」


「へぇ~、そうなんだ。意外だったよ」


「わかったなら、早く行くわよ」


「何で、そんなに急ぐ必要が…」


「だって、あまり時間がないし、それに、この前から少し気になっていることがあるの」


「ん?服?それとも、アクセサリー?あ、食べ物?」


「違うわ。少し前に、【玉座の間】の前の廊下を歩いていたら、訪れていた商人の人とお父様の会話が聞こえてたの。今までの中で、とても景気が良くなっているって。それで、気になって商人の人が帰りの支度をしている時に王都で何が流行っているかの尋ねてみたのだけど、苦笑いを浮かべて話をはぐらかされたわ。だから、その日から気になってて。ついでだから、デ、デートをしながらこの目で確認したいのよ!」


「それって…」

(絶対、僕が販売しているリリーのグッズのことだよな…)

大成は苦笑いを浮かべた。


大成は、獣王レオラルドからリリーのグッズの依頼を受けていたのだ。


今まで、リリーは気軽に獣人の国内にある国々に訪れて顔を出して国々の人々から慕われていた。


しかし、シルバー・スカイ事件が各種族に広まり、レオラルドの弟のアレックスによって獣の国は2つに分かれ、内戦が始まるとレオラルドやネイ、周りの者達から危険だと言われて、リリーは顔を出せなくなった。


レオラルドは魔人の国で初めて大成と出会い、大成がオタクの格好をした際、大成が作った精巧な木製のリリーのフィギュアを見た時に国々の人達の寂しさを緩和できるかもしれないと思い、リリーのグッズを王都だけでなく国中に出してみようと考えたのだ。


「どうかしたの?彗星。もしかして、何か知っているの?」

疑う視線で大成を見るリリー。


「い、いや、何も知らないよ。それより、早く行こう」


「そうね、行きましょう」

リリーは、微笑みながら大成の腕を組んで歩を進めた。




大成とリリーは手を繋いで、城から王都に繋がっているクネクネと不規則に蛇行している煉瓦レンガで作られた長い下り坂を会話をしながら歩いて下っていた。


そこに、3人組の盗賊の獣人達が大成達の前に現れた。

「オイオイ!今日は何だか暑くねぇか?」

中央の男は、わざとらしく掌で扇ぐ。


「「そうッスね、兄貴」」


「兄貴、原因はアイツらですぜ!」


「ん?オイオイ!暑いと思ったら、お前らが原因か」

兄貴と呼ばれている中央の男は、大成達に指をさす。


しかし…。

「へぇ~、アルンガは小さい頃からあんな性格だったんだ」


「そうなのよ、昔から威張り散らかしていたのよ。俺は獣王の弟のアレックスの息子で強いんだぞってね」

大成とリリーは男達を気にしておらず、会話をしながら男達の横を通り抜ける。


中央の男は指をさした状態で固まっていた。

「「あ、兄貴…」」

連れの仲間達は心配した声を発し、中央の男は怒りで顔を真っ赤にして体を震わせる。


「おい!ちょっと待てや!コラ!シカトするんじゃねぇよ!おい!立ち止まれ!聞こえているんだろ!お前ら!」

中央の男は激怒し、殺気を放ちながら大成達に振り向いて大声をあげた。


「ん?僕達に何か用ですか?」

大成は、足を止めて振り向いて尋ねる。


「ああ!何か用ですか?じゃ、ねぇんだよ!ふざけてんじゃねぇよ!この人間風情が!ん?おっ!お嬢ちゃん、可愛いな」


「あ、兄貴…」

左側にいる男は、リリーを見て声を震わせた。


「どうしたんだ?」


「あ、兄貴、この娘…。り、リリー様ですぜ!間違いねぇっス」


「何だと!?おいおい!良いのか?この国の姫様であろう者が、国内が荒れている状況だとというのに男とコソコソ隠れて呑気にデートなんて。しかも、相手は敵対している人間だぜ。そんなに男に飢えているなら、こんな坊主と遊ぶよりも、俺達と遊ぼうぜ?坊主よりも楽しく、そして、優しく気持ちよくしてやるぜ」


「断固としてお断りするわ!だって、あなた達は、そこら辺にいるゴブリンと大差がなさそうだもの」


「ああ!この海女(あま)が!下手に出てやりゃ、調子に乗りやがって!せっかく優しくしてやろうと思ったが、こうなったら痛い目に合わせないとわからないみたいだな!やれ!お前達!」


「「へい、兄貴。うぉぉ!」」

左右の男達は、腰に掛けてあったナイフを抜いて大成達に襲いかかる。


「もう!せっかくのデートなのに!」

「リリー、ここは僕に任せて」

リリーは激怒して前に出ようとしたが、大成は先に手を横に伸ばしてリリー止めて前に出た。


「姫様の前だからといって格好つけたいのはわかるが、逃げずに立ち向かうとはな。その判断が命取りになることを思い知れ!」

兄貴と慕われている男は、獰猛な笑みを浮かべる。


「「死ねぇ!」」

ナイフを持っている男達2人は、大成に斬りかかる。


「やはり、この程度なんだ。動きが遅いし、動きに無駄が多いですよ」

大成は、ナイフが振り下ろされる前に男達の間を通り向けると同時に男達の首筋に手刀で攻撃した。


「「ぐっ」」

男達は気絶して、その場に倒れた。


「な!?」

気絶した男達から兄貴と慕われている男は、驚いた声をあげる。


「あの、あなた達がこれから先、二度とこんな真似まねをしないと誓うのなら見逃してあげますけど、どうします?」


「ふ、ふざけるな!嘗めんじゃねぇぞ!俺をそこの2人と一緒にするな!ウォォ!」

男は、魔力と殺気を解放して腰に掛けてあった剣を抜いて大成に斬りかかる。


「ほぉ、これ程の魔力があるのですね」

男の魔力と殺気を目の当たりした大成は、関心しながら体を傾けて攻撃を避けていく。


「糞が!」


「1つ気になったから尋ねますが、この剣筋を見ると、あなたは先ほどの2人とは違い、魔力だけでなく剣術の心得がありますよね?」


「それがどうした!」


「どうして、こんな盗賊みたいな生き方をしているのですか?それほどの実力があれば十分に騎士団や冒険者になれると思いますし、安定した収入も確保できてお金には困らないと思いますが」


「確かに、お前の言う通り、俺は冒険者をやっていた。こう言ってはなんだが、結構、名も通って裕福な暮らしをしていたさ」


「だったら、何故こんな馬鹿げたことをしているのですか?」


「魔族と人間族が起こしたシルバー・スカイ事件で内戦が始まり、俺がいた国、ノーガンド国は反乱軍に襲われ、俺は自国の騎士団達と協力して戦い、傷つきながらも必死に家族や国民を守っていた。だが、獣王を裏切ったキルシュやフェガール達【セブンズ・ビースト】達が現れた瞬間、国民を守っていた騎士団達は国民を見捨てて一目散に逃げ出したんだ!そして、五分五分だった戦況は一瞬で変わり、あっという間に敗北した。気が付けば、俺は道のど真ん中で気絶していた。目を覚ました俺は急いで家に向かったが、家は崩壊して瓦礫の山になっていた。俺は必死になって瓦礫を取り除いたさ。手や腕を怪我しても痛みに堪えながら必死にな。少しでも早く家族を見つけて助けようと死に物狂いに。そして、家族を見つけた…。そう見つけたんだ…。目の前には妻と息子と娘の3人が既に息を引き取っていた…。妻は息子と娘を庇う様に抱き締めたままの状態で背中から出血して血塗れで倒れて死んでいた。その時、俺は悲しみと共に思ったんだ。こんな国は滅べば良いとな。何故、俺はあの時、国のために戦ったのか、そして、何故、あの時、俺は家族だけ連れて逃げなかったのかを後悔した」


「あなたが国を憎む理由はわかった。だが、あなたがやっているのは家族達を殺した憎き反乱軍と大差がないと思います。きっと、あなたの家族達も、そんなことを望んでいないはずです」


「黙れ!黙れ!黙れ!お前に何がわかる!死ねぇ!」

男は全力で剣を振り下ろす。


「少しはわかります。僕も目の前で両親を殺されたので」

大成は片手で剣を振り下ろそうとしている男の手首を掴んで止め、もう片方の手で男の胸ぐらを掴んで一本背負いをして地面に叩きつけ右拳で男の鳩尾を殴った。


「がはっ」

男の体は一瞬「く」の字になり、気絶した。



「あ、ありがとう、彗星。そ、その…」

大成の両親が殺されたこと知ったリリーは、複雑そうな面持ちになっていた。


「気にしないで良いよ、リリー」


「そう…」


「あ、そうだ、リリー」


「何?」


「はい、プレゼント」

大成は、慌てて肩に担いでいた双剣の入ったバッグをリリーに渡した。


「え!?これは何?」


「双剣だよ、僕からのプレゼント。リリーのために作った自作の双剣なんだけど。まぁ、僕の手作りだから見た目とか気に入らないかもだけど」


「ううん、ありがとう彗星。とても大事にするわ。ねぇ、彗星。ここで鞘から抜いても良い?」


「別に構わないよ」


「握り心地も手に吸い付く様で馴染んで良いわ。じゃあ、抜くわよ」

リリーは、ゆっくりと鞘から剣を抜くと刀身が太陽の光を反射しながら七色に輝き出す。


「わぁ~!綺麗。って、えぇ!?これって、まさか…」


「そう、伝説のクリスタルのウルティマで作ったんだ。レオラルドさんに相談したら使って良いと言われたからね。一応、リリーの魔力の性質に合わせて作ってみたんだけど。念のために、双剣に魔力を流して貰っても良いかな?」


「わかったわ」

リリーは、目を瞑って双剣に魔力を流す。


魔力を流された双剣は、鮮やかな緑色に力強く輝く。


「嘘…信じられないわ。少ししか魔力を流していないのに。こんなに魔力が増大するなんて…。1年前にウルティマの素材の状態を確認するために魔力を流したけど、こんなに魔力が増大しなかったわよ」

リリーは、目を大きく見開いて驚愕した。


「さっきも言ったけど、この双剣はリリー専用に作ったからね。リリーが使用した場合は魔力は増大するけど、逆に他の人が使っても魔力は増大はしない様になっているから注意して欲しい」


「わかったわ。でも、その心配は無用よ。だって、誰にも貸すつもりはないから」

リリーは、双剣を鞘におさめて笑顔を浮かべて大切そうに双剣を抱き締めた。


「本当にありがとう、彗星。ごめんね、私、プレゼントを用意していないの」


「いや、気にしないで良いよリリー。君が、そんなに喜んでくれただけでプレゼントした甲斐があったから」


「ううん、こんな素敵なプレゼントを頂いたから、お礼をしないといけないわ。だ、だから…」


「ん?」

リリーは、恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めながら両手を大成の頬に添えて背伸びをして大成にキスをした。


「~っ!?」

大成は、突然のことに驚愕して目を大きく見開いた。


「そ、その、私のファーストキスよ。これで、足りるかしら?」


「あ、ありがとう、リリー。おつりが出るぐらいだよ」


「そ、そうかしら?それは良かったわ」


「でも」


「何?」


「ドルシャーさんが見ている前だったけど良かったのかな?」


「え!?」


「り、リリー様!?な、何をなさっているんですか!?」


「べ、別に良いじゃない。ドルシャー、あなたに関係ないわ。それより、何故、あなたが此処にいるのよ!今日は模擬戦する予定だったはずでしょう」


「そ、それは…その…何と言いましょうか…」


「おそらく、もう終わったんじゃないのかな?」


「え!?」


「だって、模擬戦の内容を見たらドルシャーさんやルジアダさん達【セブンズ・ビースト】の人達対一般の騎士団達だったからね。どんなに騎士団達の頭数が多くっても流石に勝てないよ」


「流石、修羅殿。これからは、修羅殿に訓練のメニューを相談した方が良いですね」


「大体の事情はわかったわ。だけど、何故ここにいるの?ドルシャー」


「そ、それは…」


「ねぇ、それはって何?」

笑顔を浮かべて尋ねるリリー。


「おそらく、レオラルドさんの依頼だと思う」


「うっ…」


「はぁ、当たりみたいわね。もう!お父様ったら!」


「まぁ、落ち着いてリリー。きっと、レオラルドさんはリリーのことが心配なんだよ。リリーは、大切な娘であり、この国のお姫様だからね」


「それは、そうだけど…。でも、ドルシャー!あなたは、もう帰りなさい!着いてきたら絶対に許さないから!」


「で、ですが…」

ドルシャーは、リリーの気持ちも理解できていたがレオラルドから頼まれた依頼を放棄する訳にはいかず言い淀む。


「そうだよ、リ…」

「何?彗星」

「いえ、何でもありません」

ドルシャーに助け船を出そうと言いかけた大成だったが、リリーの威圧感とギロリと睨まれて最後まで言えなかった。


ドルシャーは、大成に救いの手を求めるかの様に視線を向ける。


(すみません、ドルシャーさん。僕の力不足です。僕にはどうすることもできません。ここは大人しくリリーの言うことを聞いた方が賢明かと…)

大成は、苦笑いを浮かべながらドルシャーに目で語りかけた。


(そ、その様ですね…)

ドルシャーは、引き下がるしかなかった。


「わかりました、リリー様。ですが、くれぐれもこの獣人の国の姫様であることを忘れずに」


「わかっているわ」


「では、私はコイツらを連行しますので。修羅殿、リリー様を頼みます」


「任せて下さい。この命を懸けてリリーをお守りしますので」


「アース・クリエイト」

ドルシャーは、大成の言葉を聞いて一度会釈をし、土創成魔法で台車を作り出して気絶している男達を拘束して台車に乗せて台車を引きながら立ち去った。



「邪魔者は居なくなったし、行きましょう彗星」

リリーは、大成に手を差し伸べる。


「そ、そうだね」

大成は、苦笑いを浮かべながら手を取った。




【パールシヴァ国・町】


王都に到着した大成とリリーは、手を握ったまま町の中を歩いていた。


町の中は、多くの人が店を見ながら行き来している。


「見て見て!商人の人が言っていた通り、とても賑わっているわね」


「そ、そうだね…」

嬉しそうに微笑むリリーだったが、大成は悪戯が親にバレた様な表情になった。



店から店主とおぼしき男が出てきて、大声を出す。

「さぁ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。私の店には、最近販売された勇敢に凛々しく戦っているリリー様のフィギュアが販売しているよ!」


「「うぉぉ!」」

店主の声が聞こえた客達が、一斉にその店に向かう。


今度は別の店からおばさんが出てきて、負けじと大きな声を出す。

「何の!うちの店は、即売り切れになったパジャマ姿で口元の位置に枕を抱いて上目遣いの可愛らしく愛くるしいリリー様の伝説のフィギュアが再入荷したよ!」


「「うぉぉ!」」

客達は、分かれておばさんの店に移動する。


更に別の店から若い男が出てきて、こちらも宣伝する。

「何の!何の!俺様の店には、他の店には取り扱っていないリリー様の特大ポスターや様々なフィギュアが揃っているぞ」


「「うぉぉ!」」

客達は、凄い勢いであっちこっちの店に押し寄せていく。



「「……。」」

大成とリリーは、そんな王都の光景を呆然と立ち尽くして見ていた。


「ねぇ?彗星」


「な、何かな?リリー…」


「皆が持っているお人形やポスターは、以前、あなたが持っていた物と同じよね?」

リリーは、笑顔を浮かべて明るい声で尋ねながら大成に振り返るが目が笑っていなかった。


「アハハ…な、何のことかな?~痛っ!?」

大成は冷や汗をながしながら苦笑いを浮かべてリリーと手を繋いで手を外して立ち去ろうとしたが、リリーの手にギュッと力が入り逃げられなかった。


「ねぇ?これは、どういうことかしら?彗星」


「しょ、正直に話すよ」

大成は、レオラルドの気持ちや考えも説明した。



「はぁ~、事の顛末(てんまつ)はわかったわ。でも、どうして教えてくれなかったの?」


「ごめん、本当はリリーに話そうと思ったのだけど、レオラルドさんからリリーは恥ずかしがって却下するから秘密にする様にと言われて…」


「うっ…。でも、流石のあなたでも1人じゃあ、こんなに大量に量産できないわよね?どうやったの?」


「それは、鋳造って言って金属を熱で溶かして鋳型という型に流し込んで作った奴だから簡単に量産が可能なんだ」


「へぇ、そんな製造方法もあるのね」


「まぁね。それより、そろそろ何処かの店に入って昼食にする?」


「そのことなんだけど…お、お弁当を作ってきたの…。だから…」


「ありがとう、リリー。じゃあ、せっかくだし、ここから少し離れているけど、あの丘の上…いや、あの橋の下で食べない?」

少し離れた所に川が流れており、煉瓦の橋もいくつか架かっていたが、大成は、その中でも一番離れた王都の一番端にある唯一の一基だけ煉瓦ではなく古い木製でできた木橋を指差した。


「え!?」


「やっぱり、丘の上か綺麗な橋の所の方が良かった?」


「ううん、違うの。彗星、あなた知っていたの?」


「ん?何が?」


「あの橋のこと」


「いや、何を言っているのか知らないけど。選んだ理由は、ただ、あの橋だけ随分古いし、とても珍しかったからだけど。何かあった?」


「あの橋はね、お父様とお母様が出会った場所でお弁当を食べた場所なの」


「へぇ~、ロマンチックだね」


「そうでしょう」


「それでは、いきましょうか。リリー様」

大成は、会釈しながらリリーに手を差し伸べる。


「フフフ…。ええ、そうね。エスコートよろしく頼むわ。彗星」

「お任せ下さい」

リリーは、微笑みながら大成の手を取った。




【木造作りの橋の下】


大成とリリーは木橋に辿り着き、大成は大きく目を見開いて木橋を見ていた。


「これは…」

大成は少し木橋から離れて斜めから橋全体を見る。


「彗星、どうしたの?」


「凄いな。まるで、青森県にある鶴の舞橋に似ているんだ」


「青森?鶴の舞?」

聞いたことのない言葉に頭を傾げるリリー。


「えっと、僕がここに召喚される前の世界にあった国に、この橋と似ている橋があるんだ」


「へぇ、彗星がいた世界は素敵なのね。私も見てみたいわ」


「もし一緒に戻れたら、その時は色んな場所を案内するよ」


「約束よ」

リリーは、右手の小指を立てて前に出す。


「わかった。約束するよ」

大成は、笑顔を浮かべながらリリーと指切りをした。



「せっかくだから、橋の中央で食べましょう」


「流石に皆の邪魔にならない?」


「そんなことないわ。だって、ここは王都で一番端で店とか何もないから誰も来ないのよ」


「そうなんだ。こんなに景色が良いのに」

大成とリリーの目の前には、山があり紅葉で木々は赤く染まっており、山を囲う様に広がっている湖が鏡の様に山の紅葉を映し出していたのだった。


「でしょう。私も、お母様とお父様から連れて貰うまで知らなかったの」

リリーは、トレジャーシートを敷いて弁当を取り出す。


「彗星、ご飯にしましょう」


「ありがとう、リリー」

大成は、お礼を良いながら靴を脱いでトレジャーシートの上に腰を下ろした。


「どういたしまして、はい」

リリーは、弁当箱を大成に渡す。


「美味しそうだね」


「失礼ね。美味しそうじゃなくて、美味しいに決まっているわ」


「じゃあ、いただきます」


「ど、どうかしら?」


「うん、とても美味しいよ。リリー」


「良かった」

大成の笑顔を見てホッと胸を撫で下ろすリリー。


リリーは、大成が美味しそうに食べている姿を見ていると縁談のことを思い出した。


獣人の国は獣王の息子がいなければ、娘は15歳に婚約しなければならないと言う古い仕来たりがあった。



リリーは13歳であるため、遅くとも14歳の半ばまでに獣王際という名の獣人の国で最強の男を決める祭りを行い、その男と婚約しなければならない。


リリーは、その掟が嫌だった。

顔も知らない強い男とよりも好きな人と結ばれたいと心から思っていた。


母・ネイが妊娠して魔力が使えない時に盗賊がネイを襲い、ネイは必死に逃げてリリーを産んだ。


しかし、リリーを産んだ際、子供が産めない体になってしまった。


ネイは、夫のレオラルドに自分を側室にして、他の女性を妃にして男の子を産んで欲しいと願ったことがあったが、レオラルドは頭を縦に振ることはなかった。


そのため、ネイはリリーが10歳の時に泣きながら好きな人と結婚できない運命にさせたことに謝った。


リリーは、その時に掟を知り、仕方ないと思った。


しかし、時が経つにつれてフッと思ったのだ。


自分が結婚する相手は、もしかしたら自分の歳よりも2倍以上も離れた年上の人や、アルンガみたいに乱暴で横暴な性格な人かもしれないと…。


そう思った時から、リリーは眠れない日々が続いたこともあった。


それからは、なるべく考えない様にした。

それでも、思い出す時は考えても仕方のないことだと腹をくくった。


そして、今年になって月が紫色に変化した際、父・レオラルドから異世界から召喚すると聞いたリリーは少し希望の光が射した。


しかし、結果は圧倒的な実力を持った者はアルンガと同じ乱暴で横暴な【天狼】と呼ばれる様になる隆司か、歳が3倍以上も離れており思い込みの激しい変質者の【アルティメット・バロン】だった。


リリーは、言葉を失って自失し呆然と立ち尽くした。



そして、内戦が始まり、国が2つに分かれた際に掟通りにならないと思いホッとしたリリーだったが掟は掟だと周りから言われて思い通りにならず、いつ獣王際を開始するのかと急かされる日々が続いている。


今のところ、自分の婚約者になりそうなのは同い年で幼馴染みのアルンガと変質者の【アルティメット・バロン】だとリリーは思っている。


そんな嫌なことを思い出している時、大成から名前を呼ばれた。


「リ…リリー?リリー?」


「あっ、ごめん、彗星。何?」


「いや、リリーがボーっとして箸が止まっていたから心配したんだけど」


「心配させて、ごめんなさい。ただ少し考え事をしていたの。もう大丈夫だから」


「なら、良いけど」


(はぁ~、彗星が私達獣人の国に召喚されたら良かったのに。よりにもよって、ジャンヌ達、魔人の国に召喚されるなんて。魔人の国とは同盟関係だから、もし彗星を奪ったら争いになるわよね…。わ、私ったら何を考えているの)

リリーは苦笑いを浮かべて箸を動かしながら、頭の中で考えて落ち込むと同時に恥ずかしくなって顔が赤く染まり勢いよく頭を左右に振り思考を止めた。


「ん?」

大成はリリーの顔が赤く染まったことには気付いたが、リリーの思考や心の中までは見抜けずに頭を傾げる。


「ご馳走さま、とても美味しいかったよリリー」


「喜んで貰えて良かったわ。と、ところで、彗星」


「ん?」


「獣王際っていう祭りがあるのだけど…」


「祭り?」


「ええ、その祭りに…」

(ごめんなさい、お父様、お母様、皆。魔人の国との関係が険悪になるのを承知です。それでも、私は…)

リリーは、決心する。


その時だった。


「リリー!あれは?」

「何?」

リリーは、大成が指差した場所に視線を向けると王都の中央の門付近から紫色の煙が立ち上っていた。

投稿が遅れて、申し訳ありません。


もし宜しければ、次回もご覧頂けたら幸いです。

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