【アルティメット・バロン】の部屋とデートの誘い
【死の渓谷】から脱出した後、大成はオーバーロードの影響で目を覚まさずにいた。
そんな中、大成の異常な強さが気になったリリーは父である獣王レオラルドに尋ねる。
レオラルドは、前に魔王に無理に言って大成が出場した魔王決定戦のマテリアル・ストーンのコピーを貰っており、その映像をリリー達と一緒に見て共に驚愕した。
【獣人の国・オルセー国・オルセー城・【アルティメット・バロン】の部屋】
【アルティメット・バロン】の部屋は、部屋中の壁に隙間なくリリーの色んな姿のリアルな絵のポスターが貼られており、棚や机、ベッドの上にはフィギュアや様々なグッズが飾れて埋め尽くされていた。
このポスターやフィギュアなどグッズは全て、大成が販売している品物だった。
【アルティメット・バロン】は、部屋の中央にある木製でできている等身大のリリーのフィギュアを見つめて歩み寄る。
「おはよう、愛しい愛しいのマイ・リリー(ハニー)。今日も、君はとても可愛く輝いているよ。君のことを想うだけで、こんなにも胸が苦しく、私は死にそうになるほどに胸がときめいてしまう。きっと、君も私と同じなのだろう。私達は、お互いに好きで好きで愛して眠れない日々が続いている。だけど、大丈夫さ。こんなにも、お互いに愛しているのだから。きっと、神様が逢わせてくれるはずさ。私と君の運命の赤い糸は、誰にも切れやしない。しかし…嗚呼、私も君と同じく一刻も早く君に会いたい。マイ・リリー(ハニー)、君は今は何処で何をして私を想っているだろうか?だが、どんなに離れていても君の想いは私に届いているから大丈夫さ」
【アルティメット・バロン】は、等身大のリリーのフィギュアを優しく両手で持ち上げてクルクルとダンスをしているかの様に踊り、最後にフィギュアの額にキスをする。
「額のキスで、ごめんよ。誓いの唇同士は、やはり本物の君と決めているからね。ところで、先ほどからそこで立ち尽くしている君達は私に何か用でもあるのですか?」
【アルティメット・バロン】は、視線をドアへと向ける。
部屋のドアは開いており、そこに鷹の獣人キルシュと狼の獣人フェガール、それに数名の騎士団が呆然と立ち尽くしていた。
キルシュ達は、【アルティメット・バロン】の行動を見て思考停止をしていたのだ。
「そ、そうだ。アレックス様から伝言を預かったのだ」
キルシュは、顔を引き攣ったまま要件を話す。
「いえ、その必要はないです。私は、これから大事なリリー(ハニー)とのデートをする場所を探さなければならないのです。ですので、とても忙しい身なんですよ」
「おい!アレックス様の伝言なんだぞ!」
フェガールは、前に出て怒鳴る。
「よせ!フェガール!」
キルシュは、フェガールの肩を掴んで止めた。
「でもよ!キルシュ」
「キルシュ君、君の判断は正しい。それに比べ、フェガール君。君はアレックス様を強調しているが、私にとってアレックス様と言われようが特に関係ないはずですよ。君達が反乱を起こした時、君達から私に契約したでしょう?その内容を思い出してみたまえ、私に自由を与えるから此方につけと君達から提案したはずです」
「くっ」
【アルティメット・バロン】の言っていることは正しかったので、フェガールは歯を食い縛った。
アレックス達が反乱を起こした時、実力を認めているレオラルドが異世界から召喚した隆司達【四天狼牙】と、そして召喚した時、レオラルド達全員が変質者を召喚してしまったと思った【アルティメット・バロン】を勧誘したのだ。
特に【アルティメット・バロン】は、人間の国から侵略に来た【聖剣】である鷹と虎、カナリーナとサリーダの4人を纏めて1人で相手して足止めをしたことにより有名になっていた。
「ああ、勿論だ。だから、話しを聞くだけでも聞いてはくれないだろうか?それに、【アルティメット・バロン】お前にもメリットがある」
キルシュは、話だけでも聞いて貰える様に下手に出て話す。
「そうですね。タダで衣食住をさせて貰っていることだし、話だけでも聞いて差し上げましょう」
「お前!いったい、何様もつもりだ!」
「よせ!フェガール!すまない、【アルティメット・バロン】。だが、話だけでも聞いてくれて感謝する。では、アレックス様の伝言をそのままに伝える。此方はリリーを完全に諦めると同時にリリーを捕らえた場合、リリーをお前に引き渡す。その代わり、今度の作戦に助力して欲しい。お前の力が必要なのだ。お前には、獣王と妃のネイの2人の相手をして貰いたい。伝言は以上だ」
キルシュはアレックスの伝言を【アルティメット・バロン】に伝えた瞬間、【アルティメット・バロン】が殺気を放った。
「「~っ!?」」
「「ヒィ…」」
キルシュとフェガールは強張った表情で息を呑み、後ろの廊下に待機していた騎士団達は腰を抜かして尻餅をついた。
「ところで、キルシュ君。君達、さっきリリー(ハニー)を捕らえた場合、私に引き渡す?と言いましたよね?」
「あ、ああ…」
「その言い方だと私がリリー(ハニー)に嫌われているみたいに聞こえるのは私だけですか?」
「誰が、どう見ても嫌われているだろ…」
尻餅をついた騎士団の1人が小さく呟いた。
その瞬間、【アルティメット・バロン】は瞳を大きく見開き、素早く動いてキルシュとフェガールの間を通り抜けて廊下で呟いた騎士団の目の前に移動した。
キルシュとフェガールは、【アルティメット・バロン】を止めようとしたが体が対応できなかった。
それほど、【アルティメット・バロン】の動きは速かったのだ。
「聞こえてましたよ。君は、面白い冗談が言えるみたいですね。だけど、世の中には言って良いことと悪いことがあります。大人の貴方ならばわかるでしょう?」
「も、申し訳ありません。【アルティメット・バロン】様。この通り、心から謝罪します。ですから、命だけは…」
恐怖のあまり、騎士団は体をガクガクと震わせながら冷や汗を流し土下座をして深々と頭を下げて命乞いをする。
【アルティメット・バロン】は笑顔を浮かべながら、そっと土下座をしている騎士団の肩に手を置いた。
「安心して下さい。私は優しいので。だから、顔を上げなさい」
優しい口調で【アルティメット・バロン】は話す。
「は、はい!ありが…うっ…」
騎士団はホッとして頭を上げた瞬間、【アルティメット・バロン】から顔を鷲掴みにされ持ち上げられた。
「ど、どうして、こんなことを為さるのですか…。先ほど…」
「私は間違ったことは言ってません。私は優しいですよ。だからこそ、せめて苦しまない様に殺して差し上げます。安心して死になさい」
「「止めろ!【アルティメット・バロン】」」
キルシュとフェガールは、叫びながら止めに入ろうとする。
しかし…。
「ポイズン・フレイム」
キルシュとフェガールが止めに入る前に【アルティメット・バロン】は、自身のユニーク・スキル【マゼラン】の能力で毒の炎を発動した。
「ぎゃぁぁぁ…」
顔を鷲掴みにされた騎士団は、勢いよく目と口から紫色の炎が吹き出し、そして、一気に全身に炎が広がり、あっという間に全身が真っ黒に焦げて炭化した。
騎士団が燃えると共に紫色の毒ガスが発生し、周囲に広がる。
「あがっ」
近くに尻餅をついている騎士団の1人が毒ガスを吸い込んでしまい、苦しそうな表情で両手で喉を押さえて死んだ。
「「ヒィ…」」
他の尻餅をついている騎士団達は恐怖し、尻餅をついたまま必死に下がったり、四つん這いになって必死に離れようとする。
「「お前っ!」」
キルシュは剣を抜き、フェガールは左右の手に魔力を込めて鋭い爪に変化させ、二人同時に【アルティメット・バロン】に襲い掛かる。
しかし、【アルティメット・バロン】は一瞬で2人の間を通り抜けて2人の背後を取った。
背後を取られたキルシュとフェガールは、驚愕すると共に死を覚悟した。
だが、【アルティメット・バロン】から攻撃されなかった。
キルシュとフェガールは心臓の鼓動が高鳴り、ゆっくりと恐る恐る【アルティメット・バロン】に振り返る。
「そちらがやる気でしたら、私も自衛のために攻撃をさせて貰いますがどうします?」
「先ほどはすまなかった。俺達は、お前と争う気は毛頭ない」
「そうですか。それにしても、見て下さい。こんなに精巧にリリー(ハニー)のフィギュアを作れる天才がいるとは感謝感激ですね。まさに歴代に残るほどの偉人です。神の手、ゴッドハンドをお持ちになっている。その人が、誰かを恨んで殺したい人が居られるのならば無償で暗殺を引き受けて差し上げたいぐらいです。そのお礼に、等身大のビギニ姿のリリー(ハニー)…いや、スクール水着の姿でスクール水着の胸元に【りりー】とヨレヨレの名前が書かれているのも捨てがたいですね。ハイレグも良いです。いや、体操服姿のリリー(ハニー)も、勿論、ブルマ姿で体操座りの格好ですよ。あと着物姿やサンタクロース姿、セーラー服、ワンピース姿、ナース、バニー、眼鏡をかけた女教師、スチュワーデス、バスガイド、それに、やはりバスタオル一枚の憐れもない姿なども是非とも作って頂きたい。そのためならば、この世界を征服をして差し上げて良いほどに。2人共、そう思いませんか?」
【アルティメット・バロン】は、思考がついていけずに呆然と立ち尽くしている2人に尋ねる。
「な、何を言っているか良くわからないが、それは個人差があるから答えようがない。それよりも、一つ聞くが何故仲間を殺したのだ?土下座までして謝罪をしたのだぞ?」
「私を馬鹿にしたのですから、許すはずがないでしょう?殺されるのは、ごく当然だと思いますが。何が気に入らないのです?それとも、お二人は私と戦うおつもりですか?もし、そうでしたら容赦はしませんが」
【アルティメット・バロン】は、威圧感を醸し出し殺気を込めてキルシュとフェガールを睨みつける。
「「くっ」」
キルシュとフェガールは、【アルティメット・バロン】の威圧感と殺気を前に歯を食い縛しばり耐える。
「フフフ、そんなに怯えないで下さい。あと私は、あなた方に助力はしませんので」
「ど、どうしてもか?」
「どうしてもです。私は、自分の目的や気分以外に無駄に戦う愚ではありません。時間は限られているのですよ。有効に使わないと勿体無いではないですか。それに私は、前の世界にいた同じ部隊だった戦いが好きな総隊長や副隊長と違いますので。では、私は忙しいのでこれで…」
「待って欲しい!デートするなら取って置きの場所がある。どうだろうか?助力してくれるならば、特別に教えるというのは」
(こんなことで、意見が変わるとは思えないが…)
キルシュは、苦し紛れに説得する。
「それなら、良いでしょう。で、私はどうすれば良いのですか?」
【アルティメット・バロン】は、迷わずに即答した。
「あ、ああ…。すまないが、アレックス様に直接に聞いてくれないか」
「わかりました。良いでしょう、窺うとしましょう」
【アルティメット・バロン】は、満足そうな笑みを浮かべて頷いた。
【パールシヴァ国・深夜】
「う、ぅ~ん…」
月明かりが大成を照らし、大成が目を覚ました。
【死の渓谷】から脱出してから2日が経っていた。
大成は上半身だけ起き上がると、寝ているベッドの隣にはリリーが椅子に座って大成に凭れ掛かっており、両手で大成の左手を握ったまま小さな寝息を立てながら眠っていた。
「こんな遅くまで看病してくれていたんだ。ありがとう、リリー」
大成は、ベッドから降りて代わりに優しくリリーをベッドに寝かせて毛布をかけた。
「入って来て良いですよ」
大成は、リリーと自分しかいない部屋で言葉にする。
ドアが開き、1人のメイドが部屋に入って来た。
「流石、修羅様。お気づきになられておられましたか。お目覚めたようで何よりです」
「ご迷惑をお掛けしました。あの、僕は何日ぐらい寝てましたか?」
「2日です。あと、お目覚めになられたばかりで申し訳ありませんが、獣王様がお目覚めになられ次第に相談があるそうで、速急に来て欲しいとのことです」
「わかりました。レオラルドさんは、どちらに居られますか?」
「ありがとうございます。獣王様は、【玉座の間】に居られます」
「わかりました」
大成は、レオラルドがいる【玉座の間】へと向かった。
【パールシヴァ国・玉座の間】
玉座の間には、レオラルドとネイの2人と壁端に騎士団達が数名いた。
「彗星、目覚めたばかりですまない」
「いえ、僕も倒れてしまい、ご迷惑お掛けして申し訳ないです」
「いや、彗星のお陰で俺達は誰も死なずに済んだ。感謝しきれないほどだ」
「それは、良かったです。ところで、話というのは?しかも、こんな深夜まで起きられているとは」
「ああ、気になっていることがあってな。先日、弟のアレックスが動き出したという報告が入ったのだ。その報告によれば、自分のことでしか動かない、あの【アルティメット・バロン】が出てくるそうだ。それと、アレックスから会談要請の手紙が来たのだが、アレックスは勝利のためなら何でもする奴だ。それなのに、今回の会談は1ヶ月後なのだ。何か可笑しいとおもってな。普段のアレックスならば、俺達が完治する前に、それこそ明日にでも会談をするはずなのだが…。考えられるのは、わざと会談の話をチラつかせることで、此方に隙を作り出して不意打ちで襲って来るという可能性が非常に高い。そこで、彗星。これからは愛娘リリーの護衛を頼みたいのと、会談の際は、一緒について来てはくれないだろうか?」
「あのロリコン伯爵が関わるなら、会談が1ヶ月後というのも頷けます。アイツは、相手が弱っている者や弱者には興味がないので。ですが、レオラルドさんが言う通り、油断せずに警戒を強めてリリーの護衛を致します」
「ロ、ロリコン伯爵だと?ま、まぁ、合ってはいるな。ゴホン、感謝する彗星。もし争うことになった場合、彗星には【アルティメット・バロン】の相手を頼みたいのだ。悔しいが正直に言えば、俺1人では【アルティメット・バロン】に勝てない」
「それは、別に構いませんが、ロリコン伯爵の能力など詳しい情報を教えて欲しいのですが」
「無論だ。【アルティメット・バロン】の魔力値9で、能力は【マゼラン】という名前のスキルで数多の毒で攻撃を得意とする。当然、毒に触れるのも危険だが、それよりも、発生した毒ガスがとても厄介だ。接近戦闘はできないうえ、風向きによっては風魔法を使用せざるを得ない。俺とネイは、【アルティメット・バロン】と戦った時は接近されないように牽制しながら戦ったのだが、さっきも言ったが勝負はつかず、周りの者達は「あと少しで勝利していた」とか言っているが、どちらかと言えば、良く俺達2人が耐え忍んだといえよう。もし、【アルティメット・バロン】が退かずに、あのまま戦っていたら負けていたのは俺とネイだ。それに、【アルティメット・バロン】は毒攻撃だけでなく、戦闘センスと実力は間違いなく獣人の国では1番だろう」
「なるほど、わかりました」
「ところで1つ尋ねるが、彗星から見て【アルティメット・バロン】の力量はどのくらいなんだ?」
「今まで戦ったことのある中では、5本指に入るぐらいに強い相手ですね。体術とナイフの使い方が一流で、昔から毒の武器を使用していました。正直に言えば、戦いたくはない相手です」
「勝算はどうだ?」
「前の世界では、負けたことはありません。ですが、この世界でとなるとわかりません」
「そうか…」
1度、目を閉じて小さく頷くレオラルド。
「ねぇ、彗星君。あなたの中で誰が1番厄介なの?やはり、【時の勇者】なの?」
ネイは、重たい雰囲気を変えるために話題を変える。
「いえ、確かにこの世界では【時の勇者】は最強だと思いますが、僕がいた世界には僕や【時の勇者】の師である老師がおり、その老師が一番強いかと思います。何せ、僕と【時の勇者】がタッグを組んでも1度も勝ったことがありませんので」
「彗星がいた世界には、そんなご老人もいるんだな」
「確かに見かけはご老人ですが、戦っている姿を見たら正に闘神ですよ。あれは…」
老師を思い出した大成は、苦笑いを浮かべた。
「是非、1度は直に見てみたいものだな」
「ええ、そうね、あなた。私も見てみたいわ」
ネイは微笑みながら、レオラルドに賛同する。
【パールシヴァ城・庭園・朝】
レオラルドの話を引き受けた大成は自分の部屋には戻らず、気分転換に庭園で花を見ながら散歩していた時、目の前にリリーが息を切らして現れた。
「ハァハァ…ここに居たのね…」
「おはよう、リリー。そんなに、息を切らしてどうし…うわぁ」
リリーは、目を潤ませながら大成に飛びついた。
「本当に心配したんだから…。うぐっ、あのまま…ずっと目を覚まさないかと思ったんだから…うぅ…」
リリーは、大成の胸元に顔を埋めて泣いた。
「ごめん、リリー。心配させて」
大成は、優しくリリーを抱きしめた。
「ここに居られましたか、彗星殿…。も、申し訳ない」
大成を探していたドルシャーは、大成を見つけたが大成とリリーが抱きついているのに気付いて謝罪をすると共に後ろに振り向いてその場を離れようとする。
「おはようございます。ドルシャーさん」
「ド、ドルシャー!?こ、これは、そ、その…」
大成は普段通りに挨拶したが、リリーは狼狽えてた。
「私は、何も見ていませんので大丈夫です。リリー様」
「ち、違うの!誤解なのよ、ドルシャー」
「ところで、ドルシャーさん。僕に何かあって来られたんじゃないですか?」
「あ、はい。ですが、そ、その…」
ドルシャーは、気まずそうにリリーを見る。
「ん?私が居たらダメなの?」
「いえ、そんなことは…」
「なら、言いなさいよ」
「わかりました。彗星殿、獣王様から伝言です。リリー様が大変心配していらしゃったので、申し訳ないですがリリー様を誘って2人で何処かデートをして欲しいとのこと」
「~っ!!」
ドルシャーの話を聞いたリリーは、瞬間湯沸し器の様に一瞬で顔が真っ赤に染まる。
「お、お父様~!」
リリーは顔を赤く染めたまま、父であるレオラルドの所へと走って行った。
「「……。」」
大成とドルシャーは呆然と立ち尽くしたまま、リリーを見送った。
「ところで、彗星殿。その…」
「わかりました、ドルシャーさん」
大成は、笑顔を浮かべて頷いた。
【玉座の間】
「あなた、どうしたの?」
「ん?どうした?」
「いえ、昨日はアレックスさんのことで険しい表情を浮かべていたのに、今日は嬉しそうに笑顔を浮かべていますから」
「わかるか?流石、最愛の妻だ。今日朝一に、ドルシャーに彗星に伝えるように頼んだ。愛娘のリリーは、彗星からデートに誘われたら嬉しがるだろう。そのリリーの顔を想像するだけで…なぁ…」
想像したレオラルドは、表情がニヤける。
「その提案は悪くはないと思いますが、あなたが実行するといつも…」
ネイが言いかけた時、扉が勢い良く開かれ開く音が部屋に響く。
「お父様!」
「「おはよう、リリー」」
「どうした?そんなに顔を真っ赤に染めて。何か良いことがあったか?それとも、着て行く服の相談か?ならば、この前、買ってやった服はどう…」
レオラルドは何も知らないフリをしながら顎に手を当てて嬉しそうに話していたが、威圧感を醸し出して歩み寄って来るリリーに気付いた。
「やはり、ドルシャーの言っていたのは本当だったのですね。惚けないで下さい、お父様!」
「はぁ~」
レオラルドの隣の椅子に座っているネイは、ため息を吐いた。
「お父様!何を勝手に頼んでいるんですか!私が、そう言いましたか?」
「な、何故、バレたんだ?」
「あなた、ドルシャーに口止めをしていなかったのでしょう?」
「くっ、ドルシャー。彼奴がドジを踏むとは」
「ねぇ、リリー」
「何でしょう?お母様」
「お父様が強引に逢い引きしたことに、あなたが怒るのはわかるわ。でも、本当はリリーは嬉しいんじゃないの?」
ネイは、リリーに歩み寄り優しく抱き締める。
「そ、それは…」
「ねぇ、彗星君。今日、リリーとデートして貰えるかしら?」
ネイは、扉の前にいる彗星に依頼した。
「え!?」
彗星がいるとは思っていなかったリリーは、振り返る。
「勿論、良いですけど。でも、良いのですか?一国のお姫様が、誰とも知らない男とデートしている所を周りの者達に見られても」
「構わないわ。だって…」
「だって?」
「ごめんなさい、彗星君。それは、秘密だから」
「……わかりました。あ、そういえば、僕はまともな服が一着もないのですが」
「それは問題ない、確かまだアルンガの服があったはずだ。使うと良い」
「わかりました、ありがとうございます。じゃあ、リリー。もし良ければ、今日お昼に僕とデートしてくれないかな?」
大成は、微笑みながらそっとリリーに手を伸ばした。
「何か、ずるいわ。でも、嬉しいわ」
拗ねた表情を浮かべていたリリーだったが、幸せそうに微笑みながら大成の手を取った。
次回、リリーと大成です。
もし宜しければ次回もご覧下さい。




