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大成とバーバリアン

崖から落とされ【死の渓谷】に入った大成とリリー。


大成とリリーは、ゴブリン達に襲われるが撃退する。


夜が明けて朝になり、大成とリリーは帰国を目指して進んでいた時、レオラルド達の声が聞こえて駆けつけると、レオラルド達はバーバリアンと交戦していた。

【獣人の国・死の渓谷(けいこく)


「リリー!?それに彗星!」

「「う…リリー様?」」

大成とリリーに気付いた獣王レオラルドは驚愕した声をあげ、満身創痍で倒れている騎士団達は頭を上げる。



「「グォ、グォォ」」

レオラルド達を襲っていたバーバリアン4体は大成とリリーに振り返り、新たな獲物が来たことに喜び、獰猛な笑みを浮かべた。


「俺達のことは良い!だから、彗星。リリーを抱えたまま、そのまま逃げろ!」

レオラルドは、大声で叫んだ。



「話は聞いていたけど、距離があったとはいえ全力で投げた武器が刺さらないどころか掠り傷も殆ど付かないなんて、一体どんな体の構造をしているだ」

大成はレオラルドの声が聞こえていたが逃げる素振りを見せず、バーバリアン達を見てその頑丈さに呆れた。


「だから、言ったでしょう彗星!この渓谷内だと誰もバーバリアンには勝てないって。で、これから、どうするの?逃げるの?逃げるのなら1人で逃げて、私は残って戦うから」


「君なら、そう言うと思ったよリリー。そこで、提案があるんだけど」


「何?私にできることなら、囮役でも何でもするわ」


「いや、囮役は僕がする。僕がバーバリアン4体を引き連れて此処から離れるから、その間にリリー達は避難して欲しい。倒れている騎士団達は気絶しているだけで、まだ死んではいないけど。だからと言って手当てが遅れると取り返しの付かないことになるかもしれないからね」


「それは、わかるけど…」


「今、まともに動けるのは僕だけだ。信用して欲しい。ここで、良いよね?よいしょっと」

大成は、おんぶしていたリリーを近くの木の幹の傍に下ろす。



「そうかもしれないけど、でも、無謀だわ!バーバリアンを4体同時に相手なんて無理よ!」

リリーは、大成の腕を掴んで止める。


「僕は、大丈夫だから」

リリーを安心させるかの様に、大成は笑顔を浮かべて腕を掴まれているリリーの手をそっと優しく剥がした。


「あ……」


「あとのことは任せたよ、リリー」

「彗星…」

大成はリリーに振り返ることなくバーバリアン達に向かって走り、バーバリアンの1体が棍棒を振り上げた状態で大成に向かって走る。


他のバーバリアン3体は、弱っているレオラルドと倒れている騎士団達にトドメを刺すために歩み寄る。


「グォ!」

大成に向かって走っているバーバリアンは、叩きつける様に棍棒を振り下ろす。


(身体強化できない今の状態だと、この攻撃を受け流すのは危険だな。腕が耐えきれずに折れてしまうか)

走っていた大成は、速度を落とさずに右に移動して棍棒を避けてジャンプする。


避けられたバーバリアンの棍棒は地面に衝突し、大きな音を立てながら地面を深く(えぐ)った。


「確かに、お前達は強靭な肉体を持っているけど、どんな生物でも共通した弱点がある!それは、ここだ!」

ジャンプした大成は、空中で回転しながら遠心力をつけた回し蹴りをしてバーバリアンの顔に蹴り入れて地面に着地した。


「グォォ…」

顔を蹴られたバーバリアンは、空いている左手で鼻を押さえて後ろに数歩下がる。


レオラルド達に歩み寄っていたバーバリアン3体は、仲間の呻き声が聞こえたので足を止めて大成に振り返えた。


「これならいける!」

バーバリアンが怯んでいる隙に、大成は姿勢を低くして走ったまま地面に落ちていた剣を拾い怯んでいるバーバリアンに追い打ちを掛けようとする。


しかし、他のバーバリアン3体が大成に迫っており、次々に棍棒を振り回しながら大成に襲い掛かる。


「チッ」

(隙をついて反撃に出て決まれば、相手は怯むはずだ)

大成は反撃できるチャンスを窺うことにしたが、バーバリアン達の絶妙な連携により隙がなかった。


「くっ、これほど強い魔物が連携まで取れるとか予想外だ」

(こうも絶妙な連携されると俺1人では倒せそうにないか。だが、このまま避け続けてリリー達が撤退するまでの時間は十分に稼ぐことはできる)

大成は、バーバリアン達の猛攻を下がりながら体を傾けたりして、どうにかギリギリで躱しながらリリー達が撤退し始めたのを確認した時だった。


突如、大成の背後から気配を消した別のバーバリアン2体が現れ、その中の一体が大成に向かって棍棒を斜め上から振り下ろす。


「彗星!危ない!後ろよ!」

レオラルドにお姫様抱っこされて撤退をしていたリリーが叫んだ。


「グォォ!」

「くっ」

大成は背後から現れたバーバリアン1体の攻撃はジャンプして避けることしかできず、大成はジャンプして攻撃を避けたが、もう1体のバーバリアンは同時には攻撃せず大成の動きを窺っていた。


そして、大成がジャンプしたところにタイミングを合わせて背後から現れたもう1体のバーバリアンが棍棒を横に振り抜く。


「しまっ…」

大成は咄嗟に両腕をクロスにしてガードしたが、空中にいたため踏ん張りは利かず勢い良く絶壁に叩きつけられた。


「がはっ…」

絶壁に叩きつけられた大成は、背中を強打する。


「……。」

大成は頭から出血しており、うつ伏せに倒れ気絶した。


バーバリアン達は警戒しながら、ゆっくりと大成に歩み寄る。


「彗星!早く起きて逃げて!お願いだから目を覚まして!」

リリーは、涙を流しながら大きな声で叫ぶ。


リリーの声がうっすらと聞こえた大成は、意識を取り戻したが意識は朦朧としていた。

(ああ…俺としたことがしくじった…。もう立ち上がれそうにない…。リリー、俺のことは良いから早く逃げるんだ…)

大成の意識が失いそうな時だった。



「それ以上、彗星に近づかないで!」

リリーは、バーバリアンを睨みつけながら腰に掛けていたゴブリンから回収したボロボロのナイフを後ろを向いているバーバリアン達に向けて投擲する。


投擲したナイフはリリー達から一番近いバーバリアンの背中に当たり、当たったバーバリアン1体がリリー達に振り向く。



振り向いたバーバリアンは激怒しており、額に青筋を浮かべてリリー達に向かって走り出す。


「うぉぉぉ」

部下に肩を借りて撤退しようとしていたドルシャーは、バーバリアンがレオラルド達に向かっているのに気付き、最後の力を振り絞って大剣を握り締めレオラルド達を庇う様に前に出る。


「ここから、先へは行かさん!」

「グォォ!」

「ぐぁ」

バーバリアンに立ち向かったドルシャーだったが、怪我と疲労で足腰に力が入らず簡単にバーバリアンの棍棒の一振りで吹き飛ばされ地面を転がった。


「ドルシャー!くっ」

「お父様!」

リリーを抱えて離れようとしたレオラルドだったが逃げ切れないと悟り、リリーを横に下ろして双剣を抜いて再びバーバリアンに立ち向かう。


「グォ!」

バーバリアンは、棍棒を叩きつける様に振り下ろす。


「うぉぉ」

レオラルドは怯むことなく足を止めずに接近し、棍棒が頭を掠めて血が飛び散ったがギリギリ躱してバーバリアンの懐に潜り込んだ。


「ハァァァ!」

レオラルドは、後のことは考えずに全てを出し尽くすかの様に一太刀一太刀に全身全力を込めて連撃を繰り出す。


そのため、体に力が入りポーションで治りかけていた傷口が開く。


それでも、レオラルドは歯を食い縛って激痛を耐えながら攻撃の手を緩めない。


今まで、たまにしかバーバリアンの体に掠り傷ぐらいしか傷つけられなかったが、今回は一太刀一太刀、確実にバーバリアンの体に傷をつけてダメージを与えていた。


「グガ…」

バーバリアンはレオラルドの猛攻に怯み、両腕を閉じて防御に専念する。


レオラルドは、この攻撃では決定打に欠けてバーバリアンを倒せないことはわかっていた。


しかし、それでも攻撃をし続けるのには理由があった。


少しでも攻撃の手を緩めれば、反撃をされ呆気なく倒されてしまうであろうと本能が訴えていたのだ。


だが、猛攻をしていたレオラルドは、次第に疲労で攻撃の手数が減っていく。


バーバリアンは、レオラルドの手数が減ってきていることに気付いていた。


そして、レオラルドは攻撃の手数だけでなく一太刀一太刀の威力も衰えていき、バーバリアンは腕を閉じたまま前に出てレオラルドの斬撃を弾きながら体当たりをしてレオラルドの姿勢を崩した。


「グォォ」

バーバリアンは、棍棒を振り上げて勢いよく振り下ろす。


「ぐっ」

避けることができないと判断したレオラルドは、双剣をクロスにして棍棒を受け止めた。


しかし、バーバリアンの力に耐えきれず徐々に押されて姿勢が低くなっていき片膝を地面についた。


「グォォ!」

バーバリアンは、空いている左手で拳を握りレオラルドの右半身を殴り飛ばした。


「ぐぁっ」

レオラルドは地面を転がりながら背中から木の幹に衝突し、すぐには立ち上がれなかった。


バーバリアンはリリーに振り返り、ゆっくりとリリーに歩み寄る。


「あの頃の私とは違うわ!」

足を挫いていて自力で立ち上がれないリリーは落ちてあった剣を拾って杖代わりにして立ち上がった。


「グガガガ…」

バーバリアンは、嘲笑いながら棍棒を振り上げる。



「駄目だ…リリー…。逃げろ…」

大成はバーバリアン5体が近づく中、自分のことよりもリリーのことを心配し、倒れたままの状態で必死に左手を伸ばす。


(俺は、こんな所で無様に倒れたままで何をしているんだ。目の前にいるリリーを助けないといけない状況なのに。立ち上がれ!立ち上がるんだ!このままでは、あの、あの時と同じで……)

両親を目の前で殺された光景が甦った大成。


「「グォォ!」」

虫の息の姿の大成を見て余裕に満ちた表情で大成に近づいていたバーバリアン達だったが、大成がゆっくりと立ち上がった姿を見た瞬間、大成の纏う雰囲気が今までよりも比べ物にならないほど危険だと本能が訴え、余裕に満ちた表情から一変、恐怖により切羽詰まった表情に変わり雄叫びをあげながら一斉に走り出して大成に襲い掛かる。


立ち上がった大成は、無言で顔を伏せたまま落とした剣を拾って体勢を低くして走り出した。


大成の動きは、まるで怪我をしているとは思えないほど速かった。


「「グォォ!」」

バーバリアン達は、迫ってくる大成に次々に棍棒を振って攻撃する。


「……。」

大成は、走る速度を落とすことなく鮮やかに棍棒を躱していきながらバーバリアンの間を駆け抜けて行くと同時に握っている剣でバーバリアン達の足首を斬りつけてアキレス腱を斬っていく。


アキレス腱を切られたバーバリアン達は、通り過ぎていった大成に振り向こうとしたが踏ん張りがきかずに倒れて大成を追うことができなかった。


大成は、身動きができないバーバリアン達を完全に無視してリリーを襲い掛かっているバーバリアンに向かって一直線に走る。



リリーに向かって棍棒を振り下ろそうとしていたバーバリアンは、仲間の呻き声が聞こえて振り向くとすぐ側まで大成が迫っていた。


「グォォ!」

バーバリアンは、大成に向かって棍棒を横に振り抜く。


しかし、大成に当たらず棍棒は空振りに終わり、目の前にいたはずの大成の姿は消えていた。


バーバリアンは握っている棍棒に違和感を感じて振り返ると、そこには棍棒の先端の上に大成が立っており、大成は不敵な笑顔を浮かべて棍棒の上を走り出す。


「グォォ!」

バーバリアンは、棍棒を力強く振り回して大成を振り落とそうとするが大成は落ちずバーバリアンに迫る。


バーバリアンは、左手で大成を掴んで握り潰そうと手を伸ばすが、大成はジャンプしてバーバリアンの左手を躱してそのまま降下しながら見上げているバーバリアンの顔面に踵落としを入れ、すぐにバーバリアンの顔面を踏みつけて高くジャンプする。


「グガッ」

バーバリアンは仰向けに倒れたと同時に、ジャンプしていた大成が降下しながら倒れているバーバリアンの喉仏に右足の膝を叩きつけて首の骨を折った。


「ガッ…」

バーバリアンは、白目を向いて吐血しながら絶命した。


「「……。」」

誰もが息を呑み、驚愕した表情で倒したバーバリアンを見下ろしている大成の姿を見つめていた。


勝利の喜びよりも、大成の纏っている雰囲気が禍々しかったため誰もが声が出せずにいた。


(彗星、どうしたの?彗星は殺気を放っていないのに、この身の毛がよだつ様な恐ろしい気配…。まるで猛獣…ううん、これはもう伝説の悪魔だわ…。それに、彗星の瞳は何?とても冷たく冷酷な瞳。しかも、あんなに瞳孔が大きくなったり小さくなったりしているなんて異常だわ…)

「彗星、ありがとう」

背中を見せている大成から今までとは全く雰囲気が違うことに気付いたリリーは息を呑み、戸惑いながらお礼を言った。


「ねぇ、彗星。ところで、あなた大丈夫なの?」

大成の様子が普段と違うことに心配したリリーは、握っている剣を杖代わりにして大成に向かおうとする。


「くっ、ま、待て、リリー」

「お父様?」

リリーは、レオラルドに止めら振り返る。


「ぐっ、ハァハァ…リリー、今の彗星は普段とは違う。いや、もう別人と言っても過言ではない。だから、今の彗星に近づくのは危険だ。うっ…」


「でも…」

リリーが反論しようとした時、大成は剣を握り締めたまま残りの身動きができないバーバリアン達に向かって歩み寄る。


バーバリアン達は近づいてくる大成に向かって棍棒を投げつけるが、大成は余裕で避けながら歩みを止めずバーバリアンに近づく。


そして、大成が近くまできたのでバーバリアン達は殴りに掛かる。


大成は回避すると同時に、バーバリアンの手首や腕の関節を剣で斬っていき、自分の間合いまで接近した。


そして、大成は身動きができないバーバリアン達の息の根を止めていった。


大量の返り血を浴びた大成は、ゆっくりとリリー達に振り向こうとする。


「「~っ!」」

誰もが大成の放っている異常な威圧感を前にして体の芯から恐怖しており、ガチガチと歯ぎしりが鳴り全身の震えが止まらず表情が強張り、中には過呼吸に陥り気絶する者が続出した。


しかし、大成は振り向く直前にその場に倒れた。

大成の背中の傷は既に開いており、傷を防いでいたリリーのカッターシャツは血が滲み出して真っ赤に染まっていた。


この場を覆っていた圧倒的な威圧感は嘘のように消えたが、誰もが呆然と立ち尽くしていた。


「ハァハァ…彗星!きゃ」

誰よりも早く我に返ったリリーは、剣を杖代わりにして急いで大成に向かう途中で躓いて転けた。


「「ハァハァ…リ、リリー様っ」」

騎士団達は急いでリリーに駆けつけたかったが、過呼吸に陥っており体が動かなかった。


「くっ、医療班!」

「「ハッ!」」

レオラルドの掛け声により、離れて待機をしていた医療班達がレオラルドのところに集まる。


「俺よりも、先に彗星を診てやってくれ」

「ですが、獣王様も…」

「良いから!俺よりも早く診れ!」

「「は、はい!」」

レオラルドの大声により、医療班達は大成のもとに駆け寄り診察が始まった。


大成の怪我を見た医療班達は驚愕する。

「おいおい…嘘だろ…」


「何でこんな怪我を負った状態で動けていたんだ?」


「こんな怪我をしていたら、我々、獣人でも激痛で気を失っていても可笑しくないぞ…。それなのに、獣人よりも、体がひ弱な人間が…しかも、この子は子供だぞ…」


「ありえない…信じられないわ…」

医療班は言葉を失い、手が止まっていた。


「何をしている!手が止まっているぞ!手を動かせ!俺達の恩人なのだ!ここで、死なす訳にはいかん!何としてでも助けるのだ!これは命令だ!」


「「は、はい!」」

レオラルドの言葉で、我に返った医療班達は手を動かして応急処置を始める。


大成の応急処置が終わり、レオラルドや他の皆の応急処置が終わって、レオラルドはリリーを、ドルシャーは大成を担いで多くの重症者は出たものの誰も死なずに無事に【死の渓谷】から脱出しに成功し、獣人の首都である【パールシヴァ国】に帰還した。




【パールシヴァ国・パールシヴァ城・医療室】



「彗星…」

大成は医療室のベッドで寝ており、リリーは大成の横にある椅子に座って大成の手を両手で握り、リリーの後ろには獣王レオラルド、妃のネイ、そして【セブンズ・ビースト】達が心配した表情で見守っていた。


「リリー、彗星君なら大丈夫よ。医師の先生も言っていたでしょう。病院に辿り着いた時には、既に怪我はもう完治していて命に別状はないって」

ネイは、リリーの背後から優しく抱き締める。


【死の渓谷】から脱出した瞬間、大成は意識は失っていたが自動的に自己再生が発動し、大怪我していたにも関わらず傷は一瞬で完治したのだった。


「はい…」

リリーも医師からの話は聞いていたが、それでも大成のことが心配でいた。


「そうだぞ。あの彗星が、こんなことで死ぬわけがない」


「でも、怪我は完治しているのに、なぜ目を覚まさないのですか?それに…」


「どうした?リリー」


「彗星がバーバリアンを倒した時…まるで人が変わった様に、とても怖かったです。お父様は、何かご存知ですか?」


「……。ああ、知っている。いや、知っていると言うよりも聞いたと言う方が正しいか。リリー、お前の頼みで彗星を勧誘するために魔人の国へ行った時に魔王から聞いた話なのだが、今回の彗星の異変はオーバーロードという状態になったことが原因だ」

レオラルドは話して良いのか悩んだ末、話すことにした。


「ゾーンではなく、オーバーロードですか?」


「そうだ、己の力を100パーセント発揮している状態をゾーンというだろ?」


「はい、極稀ですけど普段より視野が広くなって自分の思い通りに動けたり、物事が上手く進んだりした体験があります」


「俺もある。今回、彗星が使ったオーバーロードだが己の力を100パーセント発揮するゾーンよりも、己の力を発揮している状態だ。その場合、体だけでなく、精神にも凄い負担が掛かるみたいだ。おそらく、そのため目を覚まさないなのだと思う。だが、数日経てば目を覚ますだろう」


「あの、オーバーロードは、100パーセント以上に発揮していると言うことですよね?ですが、そんなことができるのですか?」


「俺や魔王、リーエ様も含め、誰一人もできないだろう。だが、彗星はできるみたいだ。リーエ様とローケンス達に聞いた話なのだが、以前、魔王を決める大会で彗星がその状態になったことがあったそうだ。その映像を記録したマテリアル・ストーンのコピーを無理を言って貰った。まだ俺も見ていないが、ここで見てみるか?」

レオラルドは、胸元のポケットからマテリアル・ストーンを取り出した。


「はい」


「お前達、ドアと窓の鍵とカーテンを閉めろ。これは、魔王達から公にするなと釘を刺されているからな」


「「ハッ!」」

レオラルドに言われてドルシャー達は、ドアと窓の鍵を確認してカーテンを閉める。


「よし、これで外部からは見られないな。では、マジック・ビジョン」

確認したレオラルドは、マテリアル・ストーンに魔力込めて呪文を唱えた。


レオラルドを中心に映像が映し出された。


映像は、ボルダ国であった魔王決定戦で選手の入場と同時に司会者ミクが選手の個人個人の説明しているところから始まった。


他の選手達が大成を囲んでおり、一斉に襲いかかる。


大成は、無駄のない動きで選手達を倒していく。


そんな大成の戦いを見ていた【セブンズ・ビースト】達は驚いて言葉を失っていた。


そして、エヴィンが追い詰められ大成の両親を召喚し、大成がオーバーロードになった瞬間、大成の姿が消えたと同時に参加選手達は悲鳴をあげて倒れていく。


魔人の国や獣人の国だけでなく、他国から強者と警戒されていた【シャーマン・エヴィン】が何もなす術なく大成に圧倒され、気がつけば大成に片手で首を鷲掴みされて持ち上げられており、最後は首の骨を握り潰されて死んだ。


リングは血で紅く染まり、ただ大成一人だけが立っていた。

空を見上げている大成の瞳を見て、リリー達はゾッと背筋が凍りついた。


バーバリアンを倒した時と同じく、大成の瞳は冷たく冷酷さだけでなく、瞳孔が大きくなったり小さくなったりして、まだ獲物をしとめ足りないとマテリアル・ストーンの映像越しからでも伝わってくる。


誰もが息を呑んだ。


「あの時の彗星と同じだわ…」

リリーは胸元を握り締め、呼吸を整えて小さく呟いた。


そして、映し出されていた映像は終わり部屋が真っ暗になった。


暫くの間、リリー達は言葉を失い呆然と立ち尽くしており、誰もがカーテンを開けるのを忘れていた。


そして、ネイが壁に埋め込まれている魔石に魔力を流して部屋に光を灯した。



「おいおい…。何だあの強さは。もう子供と言う以前に人間じゃないだろ。いや、もう、あれは化け物だ」

オルガノは震える声で呟く。


「驚くのは、まだ早い。【漆黒の魔女】であられるリーエ様から聞いた話だが、この映像よりも桁違いに彗星は更に強くなっているそうだ」


「あれ以上なんて、想像できませんが」


「正直、俺もだ。だが、あのリーエ様が言うのだから本当なのだろう。あと、人間の国との関係は対立ではなく、友好関係を築いていくつもりだ」


「何故ですか?獣王様」

「そうだぜ!なぜ、今さら」

ルジアダとツダールは、納得がいかなかった。


「まずは、落ち着け。リーエ様と魔王達に聞いたんだが、【時の勇者】は今の彗星と同等の力を保有しているそうだ。そんな奴と争い、例え勝ったとしても国に大きな被害を被るのは明白だ」


「ですが…」


「ああ、わかっているさドルシャー。人間達と会談して、対等な同盟の時の場合だけに友好関係を結ぶ予定だ」


「でもよ、獣王様。あの人間共が、今さら友好関係を結ぶとは到底思わないぜ。獣王様も、心の中ではそう思っているんだろ?」

オルガノは、レオラルドに疑う視線を向ける。


「確かにな。だが、この話は極秘だが、この前、魔王達と話し合い、この内戦が無事に終息次第、彗星が【時の勇者】に声かけをして魔人の国、獣人の国、人間の国での三国会談を行う予定になっていている。その際、彗星にも同行して貰い、説得してくれるそうだ」


「しかし、彗星殿が如何に【時の勇者】と同等の実力があっても果たして人間共が会談に応じてくれるのでしょうか?」

ツダールは、顎に手を当ててレオラルドに尋ねる。


「彗星と【時の勇者】は、血は繋がっていないが、前の世界では実の兄弟の様な間柄だったそうだ」


「それなら、人間達が会談に応じる可能性はありますわね」

「私も、そう思うわ」

ルジアダとネイは微笑みながら賛同する。


「ああ、俺もそう思っている。だから、なるべく被害を出さずに早く内戦を終わらすぞ」


「「ハッ!」」

ドルシャー達は、その場で片膝を床について敬礼をした。



【獣人の国・オルセー国・オルセー城・玉座の間】


【ジャッジメント・スタジアム】から帰国したアレックス達。


アルンガはリリーとの勝負に負けたことにショックを受けて自室の部屋に篭っており、アレックス、コーデ、キルシュ、フェガールの4人は【玉座の間】に集まっていた。


「糞が!何だ、あのガキは!全て、あのガキのせいで計画が台無しだ!」

アレックスは、右拳を振り下ろしてテーブルを粉砕した。


「落ち着いて、あなた」


「ハァハァ…。すまない、コーデ」


「アレックス様。おそらくですが、あの子供がリゲイン達や【四天狼牙】を倒した可能性が高いかと思われます」

深刻な表情でキルシュは、考えを述べた。


「だろうな」


「で、これからの方針は、どうするんだ?アレックス様」

フェガールは、最大の問題を尋ねる。


「キルシュが言ったが、元【セブンズ・ビースト】だけでなく、【四天狼牙】も倒され、正直、こちらの戦力は半減どころか驚くほどに衰退している。だが、リリーとあのガキを【死の渓谷】に落とすことには成功した。おそらく、兄貴はリリーを必ず救出するだろう。しかし、その救出に多くの被害を出す。攻めるなら今だ。兄貴達に時間を与えて態勢を整えれたら、こちらが不利になる。そこで、やむ終えないが駄目元で【アルティメット・バロン】に助力を求めようかと思っている。彼奴(あやつ)の思考は理解できないが、強さだけならば獣人の国で1番だろう」


「それは難題だぜ、アレックス様。アイツはアレックス様が掲げた実力主義には賛同して此方についているが、アイツが俺達に突き出した条件は自由だ。自分が気に入ったリリーやメアリー、メリアなど幼い女の子にしか興味がなく、動かないと思うぜ」

フェガールは、ため息を吐く。


「ああ、勿論、重々承知している。悔しいが、今回の大会で我が息子はリリーとの勝負に敗れ、リリーを諦めるしかなくなった」

息子のアルンガが負ける姿を思い出したアレックスは、体を震わせながら拳に力が入る。


「そこでだ。こちらは、リリーを完全に諦めると同時にリリーを捕らえた場合は引き渡すと言えば、リリーに執着している彼奴(あやつ)ならば助力に応じる可能性が高いだろう。俺は、計画や息子のアルンガの将来を(ことごと)く潰して追い込んだガキを自らの手で粛清する。そのため、彼奴(あやつ)には兄貴とネイと戦って貰う。その間、キルシュとフェガールはドルシャー達を頼む」


「「ハッ!お任せを」」


「まぁ、警戒するのは相手はドルシャーぐらいなもんだな」

フェガールは、余裕に満ちた表情を浮かべる。


「ああ、確かにナイジェルやルジアダ達は大したことはないが油断は禁物だぞ、フェガール」


「わかっているさ、キルシュ」


「この件は、俺達の運命がかかっている。キルシュ、フェガール、何としてでも彼奴(あやつ)の説得を頼むぞ」


「「ハッ!」」

キルシュとナイジェルは、敬礼をした。

投稿が遅れて、申し訳ありません。


次回、久しぶりに前の世界では大成の仲間であり、同じ特殊部隊だった【アルティメット・バロン】が登場します。


もし宜しければ、次回も御覧して頂ければ幸いです。



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