決着と【死の峡谷】
アルンガとリリーの勝負が始まり、試合開始早々、リリーは切り札の1つ【ソーラー・レイ】を使い、巨人族の長の息子であるバンダスを倒すことに成功した。
しかし、アルンガ達は強くリリー達は追い詰められていき、大成、リリー、メアリー、メリアの4人になる。
更に追い討ちにバンダスが目覚め、怒り狂ったバンダスはリリーに牙を剥き、大成は身を呈してリリーを守ったが、吹き飛ばされて絶壁に叩きつけられた。
その衝撃で、絶壁が崩れて瓦礫が大成を飲み込んだ。
しかし、瓦礫の中、リリーの回復魔法【セイント・ベル・ツリー】によってリリー、メアリー、メリア3人の思いを知った大成は、アルンガの仲間達を一瞬で気絶させ、バンダスも倒した大成は、アルンガの肋骨を折り、アルンガとリリーを戦わせることにした。
【リリーVSアルンガ】
「「ハッ!」」
「うっ」
「くっ」
リリーとアルンガは、お互いに木製の双剣で激しい攻防を繰り広げている。
そんな中、少し離れた場所ではメアリーとメリアは心配した面持ちで戦いを見守り、その隣には大成が折れて倒れている木の幹の上に座って観戦していた。
「あの修羅様、リリー様はアルンガ様に勝てますか?」
「どうだろう?先ほどから見ているけど、剣術はリリーの方が一枚上手だけど今は魔力枯渇状態だから集中力も欠けていて動きに切れがない。一方、アルンガは力で勝っていたけど鳩尾を殴られて肋骨にヒビが入っているから此方も満足に動けず、強みの力強い斬撃が打ち込めないみたいだ。だから、どちらも五分五分かな。あと、メアリー。普段通りに接して欲しいな」
「わかりまし…。わかったわ、彗星君」
「ところでさ、何でわざわざリリー様とアルンガ様を戦わせたの?あのまま彗星がアルンガ様を倒しとったら終わっていたのにさ」
「さっきも言ったけど、これは元々2人の勝負だから最後の決着は2人でつけるのが一番良いと思ったんだよ。だから、アルンガが気絶しない程度に手加減して鳩尾を殴って肋骨を折ることで対等な条件にしたんだ」
「うぁ~」
メリアは、大成を軽蔑した目で見る。
「何?メリア。その目は…って、え?メアリーも!?」
「だってねぇ、メアリー」
「ええ、そうね」
メアリーとメリアの反応を見た大成は、何も言わずに黙ることにした。
リリーは、アルンガと鍔迫り合いになっていたが、頭の中は大成のことで一杯になっており戦いに集中しきれないでいた。
(彗星が見せたあの強さとあの独特の雰囲気、間違いないわ。やっぱり、今まで私を助けてくれたのは彗星なんだわ)
「戦いの最中に何を考え込んでいるんだ!俺を舐めているのか!」
「きゃっ」
鍔迫り合いをしていたアルンガは、強引に力でリリーを撥ね除けてリリーの体勢を崩し木剣で斬りに掛かる。
「「リリー様!」」
メアリーとメリアが悲鳴をあげる。
(そうよ、あの人が、彗星が見ている前で無様に負けるなんてみっともない姿を見せられないわ)
「ハッ!」
リリーは、右手の木刀でアルンガの攻撃を受け流しながら左手の木刀を内側から外側に向けて凪ぎはらいアルンガの左側の横腹に決まった。
「ぐぁ、くっ」
アルンガは苦痛の表情を浮かべ、左膝を地面に付いて木剣を持ったまま左手で横腹を押さえながら右手の木剣を横に凪ぎはらう。
しかし、苦し紛れのアルンガの攻撃は力がなく、リリーは簡単にアルンガの攻撃を左手の木刀を下から上に弾いて右手の木刀で上から下斜めに振り下ろす。
「くっ」
アルンガは、地面を転がって攻撃を避けて起き上がった。
「今だわ!」
この機を逃さない様にリリーは、追い討ちにするためにアルンガに接近する。
「俺達の方が有利だったんだ!なのに、こんなことがあってたまるか!糞が~!」
アルンガも雄叫びをあげながらリリーに向かって走る。
「オラ!オラ!オラ!」
自棄になったアルンガは、腕だけの力で左右に握っている木剣を振り回した。
リリーは、冷静にアルンガの猛攻を全て受け流したり、弾いたり、回避して反撃する。
(せっかく、あの人が、彗星が見てくれているんだもの。私は、守って貰うだけの女の子だと思われたくないわ。私だって戦えるところを見せないとね)
魔力枯渇状態になって体が怠い状態になっているリリーだったが、憧れと想いの人・大成が自分を見ているとわかっていたので、とてもキツイ状況でも自然と笑み溢れていた。
そして、次第にリリーの動きが鋭くなり、反撃するリリーの手数が増えていく。
「な、何だ!?くっ、俺の反応が鈍くなっていってきているのか…。いや、逆だ。徐々にリリーの動きが鋭くなっていっているだと!?リリーの魔力は底無しか!?ぐっ…」
とうとリリーの攻撃の手数が勝り、防戦一方となったアルンガは歯を食い縛りながら必死に耐えていたが、左手に握っていた木剣が空高く弾き飛ばされた。
「くっ」
リリーは、アルンガの首元に木刀をの剣先を突きつける。
「アルンガ、私の勝ちよ。約束通り、私を諦めなさい」
「……。わかった、俺の敗けだ…」
敗北を認めたアルンガは、ぐったりと頭を下げると同時に終了のブザーが鳴り響いた。
【観客側】
「「リリー様!」」
「流石、リリー様だ!」
「そうだな!やはり、正義は勝つ!ってな」
「「……。」」
リリーが勝利してブザーが鳴り響く中、リリー達を応援していた観客は盛大に盛り上がり、アルンガ達を応援していた観客は静まり返っていた。
「おいおい、ただの人間があのバンダス様を倒したぞ…」
「ああ…。しかも、たったの1発だったな…」
「一体何者なんだ?あの人間の子供は」
「さぁ、知らないが、獣王様がわざわざ魔人の国から連れてきたと噂で聞いた。だが、魔王の片腕と言われているローケンスの息子のマーケンスだったらまだわかるが、そもそも魔人じゃなく人間だからな」
「その前に本当に、あの子は子供なの?いえ、人間なの?普通に考えたら、可笑しいでしょう?人間の子供が、巨人族のしかも長の息子さんであるバンダス様と同等かそれ以上の魔力を保有しているとかあり得ないわ」
アルンガ達を応援していた観客は、未だに信じられない表情で呟く。
【観客・獣王側】
獣王の背後で立っているドルシャーは口元を綻ばせて目を瞑り、隣に立っているルジアダとオルガノはホッと胸を撫で下ろした。
椅子に座っている獣王レオラルドは勝利して当たり前の様な表情で頷き、隣にいる妃ネムは嬉しそうに手を叩いている。
アレックスの妻コーデ達が信じられずに言葉を失っている中、獣王から少し離れて椅子に座っている獣王の弟であるアレックスは苛立ち、左拳を振り下ろして肘掛けを粉砕した。
「糞!何だ?あの人間の餓鬼は!まさか、【時の勇者】なのか?」
「彗星は【時の勇者】ではないぞ、アレックス」
「だったら、誰なんだ?教えろ!兄貴」
「残念だが教えられない。もし、お前が心を入れ替えて反乱を止めると言うならば教えてやるが」
「前も言っているが、反乱ではない!これは革命だ!獣人を幸せにする為のな!」
アレックスは立ち上がり、獣王レオラルドに振り向く。
「そのために、お前は他の種族と争うのか?多くの犠牲が出るぞ」
「ああ、それは百の承知だ。だから、犠牲を減らすために俺は巨人族と同盟を結んだ。まず、この獣人の国を手に入れ、その後に弱っている魔人の国を支配する。そして、魔人族を利用して人間の国などを支配していく。未来の子孫達のために必要なのだ!なぜ、それが伝わらないんだ、兄貴」
「アレックス、もう1度冷静に考え直せ。頂点に立たなくても他の種族達と手を取り合い、協力していく関係の方が憎まれることもなく幸せになると俺は思う。お前も、そう思わないか?」
レオラルドも立ち上がり、手をそっとアレックスに差し伸べたが、アレックスはレオラルドの手を叩いた。
「何を寝惚けたことを言っているだ!兄貴!兄貴こそ、現実を見ろ!恐怖で支配して、裏切らない様にするのが一番安全だ!」
「アレックス、今も本当にそう思っているのか?」
「だったら、何だ?」
「このままだと、お前達を止めなくてはならん。お互い、取り返しのつかない事態になるぞ。アレックス」
「そう思うなら、俺の計画実行してくれ。もし、実行に移してくれるならば、兄貴が獣王のままでも良いと俺は思っているが」
「そんな計画に、俺が賛同すると思っているのか?」
「なら、仕方ないな」
「アレックス、今日は大勢の観客もいるから見逃してやる。だが、次に会った時も考えが変わっていなければ、例え弟でも容赦なく取り押さえるからな。心しておけ」
「ああ、肝に命じておく。行くぞ、お前達」
アレックスは、そのままコーデ達と一緒に退出する。
「ああ、そうだ。兄貴」
アレックスは振り返る。
「何だ?」
「言い忘れていたが、愛娘のリリーを守れるかが楽しみだ」
「アレックス!貴様っ!何を企んでいる!」
「じゃあな。兄貴」
「待てぇ!」
「あなた!」
「「獣王様!」」
アレックスに詳しい話を聞こうとしたレオラルドだったが、それと同時にネイ達の悲鳴に似た声が響いた。
【リリー側】
アルンガに勝利したリリーは、ホッと一息吐いて大成達の所へと向かおうとしたがアルンガに話し掛けられた。
「リリー、最後に聞きたいことがある」
「何?」
「お前は【ソーラー・レイ】、【セイント・ベル・ツリー】を連続で使った。既に魔力枯渇になっているはずだ。なのに、今も身体強化を維持している。一体どうやって、この短期間でそんなに魔力量を増やしたんだ」
「残念だけど、私の魔力量は以前とそんなにかわらないわ。あなたの言う通り、私は既に限界よ」
「嘘をつくな!限界だったら、今も維持している身体強化は何だ!限界だったら維持できないだろ!」
「ええ、そうね。だけど、不思議なことに好きな人が見てくれている前では自然と体の内側から力が漲ってくるものよ。覚えておくと良いわ。じゃぁね」
「リリー!後ろだ!」
「え!?」
リリーは大成の傍に向かおうとした時、大成の忠告され振り向くリリー。
バンダスは、禍々しい深紫色の魔力を纏って起き上がった。
「今日中は目を覚ますはずがないんだが。ましてや、起き上がれないはずがない。ん?何か様子が変だ」
大成は、バンダスの異変に気付いた。
「バンダス!やめろ!」
「ヨク…モ…コノ…オレヲォォ!」
アルンガは大声を出して止めようとしたが、バンダスは白目を向いたまま木刀を振り下ろす。
「うっ…」
疲労で立ち眩みしたリリーは、ふらついて片膝を地面についた。
「「リリー様っ!」」
メアリーとメリアは叫んだ。
「きゃっ」
リリーの悲鳴と同時に土埃が舞う。
恐る恐る目を開けるリリー。
目の前に大成が左手を挙げてバンダスの振り下ろした巨大な木刀を受け止めていた。
「大丈夫か?リリー」
「ええ、ありがとう。彗星」
「何かに取り憑かれているか、何者かに操られている様だ」
「そうみたいわね」
「リリー!上だ!」
大成は、大声を出して警告する。
「えっ!?あれは、キルシュ?」
リリーは、真上を見上げると【セブンズ・ビースト】ナンバー2の鷹の獣人キルシュがおり背中に生えている大きな翼を広げてばたつかせ、上空から鋼の様な鋭い無数の羽を飛ばす。
羽は、空気を切り裂きながら凄いスピードでリリーに降り注ぐ。
「チィ」
大成は左腕を曲げて直ぐに腕を伸ばして左手で掴んでいたバンダスの巨大な木刀を押し返し、反応できていないリリーに飛びついた。
「きゃっ」
リリーは大成と一緒に地面を転がり続けることで、無数の羽は地面に深々く突き刺さっていく。
「オマエ…タチ…ユル…サナイ…」
大成とリリーが転がっている中、バンダスは大成達に向かって木刀を横に凪ぎはらう。
「ぐっ」
リリーに木刀が直撃しないように、大成はわざとバンダスの木刀を自身の背中で受け止めた。
しかし、踏ん張りが利かず、2人は遠くまで吹き飛ばされ、とても高さがある崖から落ちる。
「やばい、グリモア・ブック。ん?あれ?何で?それに、魔力が全く使えない」
大成は、【グリモア・ブック】を召喚して風魔法エア・バーストで空を飛ぼうとしたが、【グリモア・ブック】は召喚できず、魔力が全く使えないことに気付いた。
大成とリリーは、崖から真っ逆さまに落ちる。
「きゃ~!」
崖から落ちる中、リリーは目を瞑り大成にしがみついて悲鳴をあげる。
「くっ、このままだと魔力が使えないから身体強化もできず、確実に2人共死ぬ」
大成は左手でリリーを抱き締め、右手でリリーの腰に掛けてある2本の木刀のうち1本を抜いて崖に突き刺す。
崖に木刀を突き刺したことにより、ガクンっと振動と共に落下スピードは遅くなったが、止まることはなくガリガリと崖を削りながら降下していく。
だが、突き刺した木刀が硬い石に衝突し、木刀は衝撃に耐えきれずボキッと折れた。
大成は、すぐに折れた木刀を捨ててリリーの腰に掛けてあるもう1本の木刀を抜いたが、1本目の木刀が折れた衝撃により、崖との距離が離れてしまい2本目の木刀を突き刺すことができなかった。
「くっ」
大成は、リリーを抱いたまま下を見ると森が広がっており木々が生い茂ていた。
「この高さなら助かる。リリー、僕にしがみついて欲しい」
リリーは、力強く目を瞑りながらギュッと大成にしがみついた。
大成は、両手でリリーが振り落ちない様に抱き締めて自分が下になる様に体を動かす。
そして、2人は森に落下した。
「ぐっ」
ボキボキと木の枝が折れていく中、大成は右手で太い枝を掴んでどうにか止まった。
大成は左手でリリーを抱えたまま、右手を離して地面に着地する。
「リリー、もう大丈夫」
大成は、リリーを離した。
「それよりも、ここは何処だろう?リリー、ここが何処か知っている?」
「ええ、ここは【死の峡谷】よ…」
リリーは、強張った表情で答えた。
2人がいる場所は、誰もが恐れている【死の峡谷】だったのだ。
次回、【死の峡谷】です。
もし宜しければ、次回もご覧下さい。




