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大成とバンダス

勝者の言うことを聞くっていうアルンガの提案を承諾したリリーは、大成、メアリー、メリア達メンバー10人を選出した。


一方、アルンガは巨人族の(おさ)の息子であるバンダスを勧誘していた。

【魔人の国・ラーバス国・屋敷】


魔人の国ラーバス国内は快晴だったので、ジャンヌ、ウルミラ、エターヌ、マキネ、イシリア、ユピアの6人は中庭でレジャーシートを広げて昼食を終え紅茶を飲んでいた。


「はぁ~」

ジャンヌは紅茶を一口飲み、深いため息を吐いた。


「どうかされましたか?姫様」

隣に座っているウルミラは、小さく頭を傾げながら尋ねる。


「ううん、大したことはないわ。ただ今頃、大成は何をしているのかなっと、ふと思ったの」


「違うでしょう?ジャンヌ。大成君が、早く帰って来ないから、ため息が出たのでしょう?」

イシリアは、指摘する。


「うっ…そ、それは…」

言い当てられたジャンヌは、恥ずかしくなり頬が赤く染まる。


ジャンヌの反応を見たエターヌ達は、クスクスと笑った。



「だけど、ダーリン。ジャンヌの言う通り、今、何をしているのかな?」


「エターヌが思うには、お兄ちゃんはトラブルに巻き込まれているんじゃないかな?」


「ユピアも、そう思います」


「ハハハ、それは言えているね。ダーリン、いつも何かしらのトラブルに巻き込まれているからね」


「そうだとしても大丈夫ですよ。大成さんなら、きっと、どんなトラブルでも上手く乗り越えていると思います」

心から大成を信じているウルミラは、迷うことなく笑顔で答えた。


「ええ、そうね。だって、私達の大成だもの」

風が優しくジャンヌの金色の髪を揺らし、ジャンヌは手で髪をかきあげながら獣人の国の方角の空を見上げて笑顔を浮かべた。




【獣人の国・【ジャッジメント・スタジアム】】


観客達は、スタジアムの観客席に集まっていた。


リングの中央には大成が作ったリアル中継できるマテリアル・ストーンが複数配置されており、その周りには【セブンズ・ビースト】ナンバー7である蛇の獣人ツダールの指揮の下、マテリアル・ストーンが映像を映し出すために必要な魔力を流す役割の獣人の騎士団達がいる。



豪華な特等席の右側の入り口から、獣王であるレオラルド達が現れ、反対側の左側の入り口からはアレックス達が現れた。


レオラルドは椅子に腰掛け、その隣の椅子に妃のネムが腰掛ける。

レオラルドとネムの護衛役として2人の背後にはケンタウロスの獣人ドルシャー、虎の獣人ルジアダ、猪の獣人オルガノの3人が立って待機した。


レオラルドから少し離れた隣には、反乱軍のアレックス、その隣には妻のコーデが椅子に腰掛け、2人の背後には鷹の獣人キルシュ、狼の獣人フェガール、熊の獣人ナイジェルが立って待機する。



「久しぶりだな、兄貴。こうして顔を合わせるのは何ヵ月ぶりか」


「ああ、そうだな。お前も元気しているみたいで良かったぞ、アレックス」


「フン、その見下した態度も今日限りだ兄貴。手始めにリリーを頂く。そして、後にこの国もな!」

アレックスは、邪悪な笑みを浮かべながら右手を前に出して握り締める。


「俺は、お前を1度も見下したことなんてない。ただ心配しているだけなんだがな…」


「それが、見下しているというんだ!俺は、もう兄貴に心配されるほど弱くはない!それに兄貴、その緩慢な態度も今日限りだ。我が息子アルンガがこの大会に勝利してリリーを手に入れれば、俺達の野望が大きく前進するだろう」

「ククク…」

勝ち誇る弟のアレックスを見て、レオラルドは小さく笑った。


「何が可笑しい!?」

殺気を放ちながらレオラルドを睨み付けるアレックス。


「前から言っているだろ?アレックス。勝負は、やってみないとわからんとな」


「どう見ても、バンダスがいるアルンガ達の方が圧倒的に有利だ!負ける要素など何1つもない!そもそも、この大会を行うだけ時間の無駄だ!」


「そう熱くなるな。確かにバンダスを勧誘していたことは正直驚いたが、戦いに絶対はない。ここは、大人しく観戦しようではないか」


「フン、負け惜しみを。まぁ良い」

アレックスが顔を背けた時、開始の合図のブザーが鳴り響いた。




【【ジャッジメント・スタジアム】付近の森・リリー達側】


「なぁ、これからどうするんだ?」

「俺に聞かれても…」

バンダスの姿を見たリリー達の仲間達は、萎縮していた。


「くっ、アルンガ、やってくれたわね。まさか、バンダスを勧誘していたなんて。予想外の事態だわ」

リリーは、深刻な表情を浮かべて右手の親指の爪を噛む。


「「リリー様…」」

不安な面持ちでメアリーとメリアは呟く。



「糞!あんな奴に勝てるわけないだろ!」

リリーの近くにいたヒースは地面を蹴り、土を蹴散らした。


「ん?皆は、何を萎縮しているのだよ?巨人族は、魔法が使えないと聞いたのだよ」

大成は、この沈んだ雰囲気を変えるために良いことだけを言い、不利なことは知らないフリをする。


「ええ、確かに巨人族は魔人の国にいるニール様を除いて全員魔法が使えないわ。その代わり、膨大な魔力と強靭な肉体を持ち合わせていて、その巨体から繰り出される1撃は他種族を簡単に黙らせるほどの威力があるの。その威力は、大魔法やかの禁術魔法に匹敵する者もいるのよ。だから、他種族は馬鹿にしないの。ううん、馬鹿にできないの。それに、私達獣人は強力な魔法を使える種族じゃないから、使える人が少人数なの。だから、巨人族とは相性が悪いのよ」

説明したリリーは、悔しそうに歯を食い縛った。


リリーが言っている様に、獣人は巨人族が苦手とする強力な魔法を使える人が少数で武器で戦っても巨人族の膨大な魔力で身体強化した鋼みたいな肉体の前では大した効き目がない。


しかし、運動能力が優れている獣人は、魔人族との相性が良く、接近すればほぼ勝利することができるという獣人、魔人、巨人には三竦み関係がある。



「それは、強いのだよ。だけど、どうにかしないとこの勝負は確実に負けるのだよ」


「ええ、その通りよ。だから、メアリー、メリア」


「「はい、何でしょうか?」」


「申し訳ないのだけど、2人でアルンガの足止めをして欲しいの。その間に、私が魔力を集中して溜めて【ソーラー・レイ】でバンダスを倒すわ」


「「わかりました」」


「あのリリー様」


「何?メリア」


「アルンガ様の足止めじゃなく、別に倒しても構わないよね?」


「ええ、勿論よ」


「やった!」


「ヒースとダラスは予定通りにハルンス、シニフィエの兄妹を、他の皆は申し訳ないけど、私達の邪魔をする人達の足止めをして欲しいのだけど」


「「了解しました」」

ヒース達は、大きな声で返事をした。


「何とか勝てそうなのだよ」


「「当たり前だ!」」

やる気が出て元気なったヒース達は、一斉に突っ込む。


「俺達が負けるはずがないだろ!」

ヒースは、拳を握り締めて力強く断言した。


「そうだ。それに、彗星。お前こそ、足を引っ張るなよ」

ダラスは、大成の肩に手を置いて忠告する。


「ハハハ…善処するのだよ」

(どうにか士気は立て直せたけど、相手のとの実力の差は埋まらないか…。さて、これからどうするかが問題だな…)

相手は、アルンガとバンダス以外のメンバーでもヒースとダラスぐらいの実力を持っていた。

大成は、苦笑いを浮かべながら悩んだ。




【アルンガ側】


「見たか?バンダス様を見た瞬間、あいつらの絶望した表情」


「それはそうだろう。こちらには、アルンガ様とバンダス様がいるんだ。あの様子だと、実力も発揮できないだろう」


「ああ、もう勝負すらならないだろうな。まぁ、元々から俺達の方が強いから実力を発揮しても勝てるはずないしな」


「ククク…。言えてる」

アルンガの仲間達は余裕に満ちて笑っていたが、アルンガとバンダスの2人は大成が気になっており深刻な表情をしていた。


「バンダス、すまないが予定変更だ。お前にメアリーとメリアの2人を倒して貰う予定だったが、先にあの彗星とかいう人間を真っ先に倒してくれないか?俺は予定通りにリリーと戦う。ハルンスとシニフィエは、メアリーとメリアの相手をしてくれ」

何か嫌な予感がしたアルンガは、自分の勘を信じて3人に依頼する。


「「了解しました、アルンガ様」」

パンダの獣人ハルンスとシニフィエの兄妹は、頭を下げた。


「グハハハ、任せろ!俺もそう思っていた」

大声で笑ったバンダスは、満足そうに肯定する。


「頼んだぞ、バンダス、ハルンス、シニフィエ」


「「はい、お任せを」」

兄妹は、再び頭を下げた。


「ああ」

バンダスは拳を前に出し、アルンガは拳をバンダスの拳に軽く当てた。



そして、開始間際になり、アルンガは仲間達の気を引き締める。

「行くぞ!お前達!」

「おう!」

「「ハッ!」」

バンダス達の大きな返事と同時に試合開始の合図のブザーが鳴り響いた。




【リリー側】


開始の合図のブザーが聞こえたジャンヌ達は、アルンガ達を見つけて【ソーラー・レイ】の射程範囲内まで近付くために動き出す。


「気配を消すのはもちろんだけど、木々を上手く利用してバンダスに見つからないように移動するのよ」


「「了解」」

リリーを前頭にメアリー達は、リリーの指示に従って木々が生い茂っている場所を走って進む。


「流石、獣人だな。凄い身体能力なのだ。まるで、忍者のようだ」

最後尾を追いかけていた大成は、リリー達の動きを見て感心した。


「あっ!」

走っていたダラスは、不安が頭を過る。


「どうした?ダラス」


「あのさ、ヒース。今、気付いたんだけど、この速さに彗星ついて来られるのか?」


「あ、そういえば…」


「彗星なら大丈夫よ。大きな荷物を背負った状態でも、私のペースについてくるどころか追いついていたから」


「「はぁ?」」

リリーの話を聞いた誰もが、一斉に間抜けな声を出して耳を疑った。


「信じられないのは仕方ないけど、事実よ。ああ見えても、彗星の身体能力だけは私と同等かもしれないわ」


「う、嘘だろ…」


「あの彗星が?」


「まさか…」


「でも、リリー様が嘘をつくわけがないし」

ざわつくヒース達。


「止まって!」

リリーの指示で、一斉に立ち止まるメアリー達。


「バンダスの姿が見えるわ。これ以上近づくと見つかる可能性が高いわね。この先、隠れる木々が少なくなっているから」

リリーを探していたバンダスは、頭を左側に向けていた。


「でも、リリー様。アルンガ様達も、そこにいるんだよね?」

メリアが尋ねる。


「そうとも限らないわよ、メリア」


「どういうこと?メアリー」


「囮の可能性も十分あるって話よ。だって、バンダスは目立つでしょう?わざわざ私達に自分達の居場所を教える様なものだから、それを利用する可能性もあるわ」


「なるほど、なら、アルンガ様達はバンダスを囮にして離れて僕達が来るのを待ち受けているか、全く違う場所にいて向こうから奇襲をしかけてくるかもってこと?」


「ええ、それとも、裏をかいて傍にいる可能性もあるわ。どちらにしろ、ここからだと距離が離れすぎて魔力感知ができないし、わからないわ」


「結局、もっと近づかないといけないから、バンダスに、先に見つかる可能性が高いよ。どうするの?リリー様」


「……。」

リリーが深刻に考えている中、一番後ろにいた大成が到着した。


「やっと追いついたのだよ。皆、速いのだよ。ん?一体、どうしたのだよ?」


「アルンガ様達は、何処にいるかの話をしていたんだ」

ヒースが答える。


「ああ、なるほど。アルンガ氏達は、バンダス氏の後ろで陣を敷いていて待ち受けているんだよ」

つい、大成は魔力感知でアルンガ達の正確な位置を把握して答えてしまった。


「「え!?」」

リリー達、全員が驚愕した表情で大成を見た。


「彗星あなた、どうしてそんなことがわかるの?」


「ん?い、いや、わかるんじゃなく、自分がアルンガ様だったらと思っただけなのだよ」

リリーが魔力感知して気付いていると思っていたリリーの質問に、大成は慌てて言い繕った。




「思っただけで動けるか!」

「ダラスの言う通りだ!ここは、先に相手が動くのを待つのが得策だ!」

ダラスとヒースは、大きな声を出した。



「声が大きいわ、2人共。私は、彗星君の勘を信じるわ」

「僕も!」

大成がアルンガ達の居場所を把握したことに気付いたメアリーとメリアは、逆に大成の意見に賛同する。


4人の意見に他の仲間達は、戸惑いリリーに視線が集中した。


「そうね、彗星の勘を信じて動くわ」

一度目を閉じて判断するリリー。


「それは、何故ですか?」

「納得ができません。リスクが高過ぎます」

納得ができなかったヒースとダラスは、理由を尋ねる。


「2人が言うようにリスクは高いわ。でも、もし勘が当たればリスク以上の見返りがあるわ。だって、先に奇襲した方が自分達のペースに持ち込めて有利になるから。それに、あの時の彗星の表情…ううん、瞳に迷いがなかったわ」


「そこまで言われるのであれば、わかりました。これ以上、自分は何も言いません」

ヒース達は納得した。


「問題は作戦よね」


「1つ聞くのだよ」


「何?彗星」


「その【ソーラー・レイ】は、ここからでもバンダス氏に当てることが可能なのだよ?」


「届くのは届くけど、残念だけど威力が落ちるわ。最大火力は大体50m手前ぐらいよ」


「わかったのだよ。なら、こういう作戦はどうかなのだよ」

大成は、不敵な笑みを浮かべながら左手の中指で丸眼鏡を持ち上げ、右手の人差し指を立てて提案した。




【アルンガ側】


大成が把握した通りに、バンダスの近くの森の中にアルンガ達は気配を消して身を隠していた。



勝負する前にリリーは諦めるだろうと思っていたアルンガだったが、最後のリリーの態度を見てリリーは、まだ諦めていないと判断し、当初、もし勝負をしてもゴリ押しで簡単に決着がつくだろうと思っていたが、何だか胸騒ぎをしたアルンガは確実に勝つため念には念を入れて目立つバンダスを囮にし、自分達は身を隠して何処にいるのかをわからなくし、相手に精神的な負担を掛けるという慎重な作戦に変更して実行していた。


このアルンガの急な変更に、バンダス以外の仲間達は不満な表情だったが、バンダスも賛同したことにより小言などの反論は一切なかった。



しかし、アルンガの読みでは、試合開始早々から開き直ったリリー達がその勢いに乗ったまま進軍してくると読んでいたが、リリー達は一向に襲って来る気配がなく逆に仲間達だけでなくアルンガやバンダスも戸惑っていた。


「バンダス、リリー達の姿は見えるか?」


「いや、今のところ見当たらん」

バンダスは辺りを見渡して、アルンガの質問に答える。



「なぁ、やはり相手は怯えて萎縮しているじゃないのか?」


「そうだよな。俺だったら、アルンガ様とバンダス様と戦うとなれば土下座するけどな」


「土下座って、お前、プライドとかないのか?」


「じゃあ、お前は勝負するのか?」


「そ、それは…その、俺が悪かった。俺も土下座するかもな。ってか、誰もがアルンガ様とバンダス様と戦うことになれば絶望するよな」


「だろ?」

アルンガの仲間達は小声で話す。



「あのアルンガ様。どうされますか?相手が攻めて来ませんし、見つかりません。先に我々が動きますか?」

シニフィエが尋ねる。



「そうだな…。いや、何かあるかもしれない。もう少しだけ様子を見る」


「わかりまし…」

シニフィエが頷こうとした時、突如、少し離れた木々が生い茂ている場所から膨大な魔力が発生すると共に光の帆柱が立ち上った。


そして、光の帆柱が発生している場所から茎がみるみると成長していき、巨大なラフレシアの様な花が咲いた。


「あれは、まさか…」


「おい、アルンガ。あの花を知っているのか?どんどん魔力が上がっていっているぞ」

巨大な花を見たアルンガは呟き、バンダスは身構えながら尋ねる。



巨大なラフレシアの様な花の中央部が自然の魔力を吸い込んでいき、周囲の花びらが輝き出す。


「ヤバイ!あれは、リリーの切り札の1つ【ソーラー・レイ】だ。バンダス!今すぐ、そこから早く離れろ!」

我に返ったアルンガは、大きな声で警告した。



「あれ?バンダス氏。尻尾を巻いて逃げるのですか?巨人族の(おさ)の息子であろう御方が。長の息子ならば、逆に自ら接近して受け止める行動をとると思うのだよ」

誰もいないはずの左側から大成の声が聞こえた。


「誰だ!?」

アルンガは声が聞こえた方角に振り返ると、そこには大成が木の枝に座っていた。


「貴様!いつから、そこに居る」


「今さっき、到着したのだよ。アルンガ氏」


「お前達、あのゴミを捕らえろ!」


「「は、はい!」」


「僕を捕らえるよりも、早く此処から逃げた方が良いと思うのだよ」

アルンガの指示で動こうとした仲間達だったが、大成の言葉で動きが止まった。


「くっ、一先ず撤退だ!」

アルンガは、歯を食い縛りながら腕を大きく振る。


アルンガの仲間達は、大成に背中を見せて我先にと逃げだした。


「おい、バンダス!お前も早く逃げろ!」


「アルンガ、すまないが俺は逃げん。そこのゴミ虫の言う通り、俺は巨人族の長になる男だ。ここで、尻尾を巻いて逃げるなどできん。お前は、念のために此処から離れろアルンガ」


「くっ、わかった。無理はするなよ、バンダス」


「ああ」

アルンガが離れるのを確認したバンダスは、逃げずに逆に巨大な花に向かって走りながら握っている巨大な木刀に魔力を込める。



(ここまで、作戦通りになった。あとは任せたよリリー)

口元だけ笑みを浮かべた大成は、リリーの下に戻ることにした。



【リリー側】


巨大な茎があるラフレシアの様な花を召喚したリリーは、目を瞑って左右の手に木製の双剣を握ったまま、意識を集中して精密な魔力操作をしている中、大成の作戦通りになったことで仲間達は驚愕する。


「バンダスが、こっちに走ってきたぞ!」


「おいおい、嘘だろ!?本当に彗星の言う通りになったぞ」



そんな中、メアリーとメリアは当たり前の様に振る舞う。


「静かにしなさい。リリー様の集中が途切れるでしょう」

「あ、そうだった」

メアリーの指摘によって、ヒース達は静かになった。


「でも、流石、彗星君ね」

「そうだね、メアリー」



巨大なラフレシアの様な花が魔力を十分に充填し終えたリリーは、ゆっくりと目を開ける。


「ウォォ!」

リリーの目の前には、凄い形相で迫ってくるバンダスがいた。


「【ソーラー・レイ】」

リリーは落ち着いており、木刀を握っている右手を挙げて振り下ろすと巨大なラフレシアの様な花の中央部から濃密に圧縮された魔力が光線の様にバンダスに向かって放つ。


光線は、大地を抉りながらバンダスに迫る。



「ウォォ!」

光線が迫る中、バンダスは右手で握っていた巨大な木刀を左手を添えて両手で握り締め、魔力を込めて全力で振り下ろした。


光線と木刀が激突する。


「グォォ!」

バンダスは、歯を食い縛る。


しかし、バンダスは光線の威力に押されて後ろにズリ下がっていく。


そして、光線の威力に負けてバンダスは吹き飛ばされた。




大成が作ったマテリアル・ストーンのよって、観戦していた観客や選手達、誰もが呆然とする。


先に声をあげたのはリリー達の仲間達だった。


「や、やったぞ!」

「ああ、流石リリー様だ!あのバンダスを倒したぞ!」

「「ウォォ!」」

リリーの仲間達は、盛大に盛り上がった。


「お疲れ様です、リリー様」


「ええ、魔力が回復するまで後は任せるわ。メアリー、メリア。それに、皆」


「「お任せ下さい」」

メアリー達は、一斉に返事をして静かに行動に移す。




【アルンガ側】


目の前でバンダスが倒された光景を見たアルンガの仲間達は狼狽えていた。

「う、嘘だろ…。あのバンダス様が…」


「俺達、勝てるのか?」


「おい、しっかりしろ!お前達」


「そうよ!まだ、負けたわけじゃないのよ」

ハルンスとシニフィエは、雰囲気を変えようとしたが変わる様子はなかった。


「2人の言う通りだ!狼狽えるな!バンダスなら、きっと大丈夫だ。それに、【ソーラー・レイ】を撃ったからリリーの魔力は残り僅かになって弱っているはずだ。今が、チャンスだ。この好機を見逃すな!」


「そうだぞ、あれだけの魔力を放ったんだ。アルンガ様の言う通り、弱っているはずだ」


「落ち込んでいる暇はないわ」

アルンガの檄を飛ばし、ハルンスとシニフィエが賛同したことで仲間達は立ち直る。




【メアリー側】


リリーと別れたメアリー達は、アルンガ達が撤退したので一斉に木々から飛び出してアルンガ達を追いかけていた。


その途中で大成と合流し、勢いのまま追いかける。



「スゲーな彗星。お前の作戦通りになったぞ」

ヒースは走りながら、大成に尋ねる。


「いや、簡単なことなのだよ。バンダス氏やアルンガ様の様な性格の人は挑発すれば、簡単なのだよ」

大成は、走りながら答えた。


「要するに単純で単細胞ってことだよね」

大成の両サイドにメリアとメアリーが移動する。


「メリア、本人の前では言ってはいけないわよ」


「そんなこと、わかっているよ。メアリー」


「なら、良いけど」


「それは、どういうこと?メアリー」

頬を膨らませてブスっとした表情になるメリア。


会話を聞いたヒース達は笑った。


「あとは任せたよ。メアリー、メリア」

大成は小声でメアリーとメリアに話し掛け、笑顔を浮かべていた2人は真面目な表情で無言で頷いた。


大成は、(おおやけ)の場で実力を見せるわけにはいかないので、この後は目立たないように逃げ回る予定だった。


そして、暫く走っていたらアルンガ達を発見した。


「見つけたわ!」

「行くよ、皆!相手が狼狽えている、今がチャンスだよ!」

「「おう!」」

メアリーとメリアの掛け声で、ヒース達はアルンガ達に襲い掛かる。


だが、メアリー達が思っていたよりも早く、アルンガ達は冷静に戻っていた。


(これは、ヤバイな。思っていたよりも早く、向こうは立ち直っている)

大成は止めようとしたが、既に遅かった。



「あいつらに、俺達との実力差を思い知らせてやれ!」

「「ウォォ!」」

アルンガの檄により、アルンガの仲間達は更に勢い付く。



「「~っ!?」」

予想外のアルンガ達の勢いに戸惑うヒース達だったが、勢いのまま走っていたので止まることはできず、戦うしか選択肢はなかった。



そして、戦いが始まった。


お互い身体能力の高いので、避けられたら隙ができる魔法は使わずに接近戦に持ち込む。


「俺は、リリーを探して倒す!お前達は、その道を開け」

「「わかりました!」」

先頭を切るアルンガは、仲間達に指示を出す。


「「リリー様のもとに行かせない!」」

リリーの仲間2人が、アルンガに斬り掛かる。


「お前達が、俺達と対等に戦おうとしていること自体が生意気なんだよ!この落ちこぼれ風情が!大人しく道を開けろ!」

「「ぐぁ」」

アルンガは、リリーの仲間2人を木製の双剣で鮮やかな剣捌きで切り伏せる。



「行かせないよ!ヤッ!」

木の枝の上にいたメリアは枝から飛び降り、アルンガの右側から飛び掛かりながら木刀を振り下ろす。


「くっ」

アルンガは、咄嗟にメリアに振り返って木製の双剣をクロスにして攻撃を受け止めた。


「ハッ!」

アルンガの動きが止まったところに気配を消したメアリーがアルンガの背後から接近し、メアリーは木刀を横に凪ぎはらう。


「チィ」

アルンガは大きく横にある木にジャンプしてメアリーの攻撃を躱し、アルンガは木の枝に飛び移った。


「ハルンス、シニフィエ、メアリーとメリアの足止めをしろ!」

アルンガは、2人に指示を出す。


「「ハッ!」」

「「そうは、させないぜ!」」

ハルンスとシニフィエは、メアリーとメリアの足止めをしようと移動しようとしたが、2人の前にヒースとダラスが前に出て行く手を塞いだ。


「そこを退け!雑魚が!」

ハルンスは、憎たらしそうな声をあげる。


「それは、無理な用件だぜ」

ヒースは、木製の槍を構えたまま口元に笑みを浮かべた。


「生意気なのよ!あなた達、分をわきまえなさい!1度も私達に勝ったことがないでしょう?大人しく、そこを通すか降参しなさい!それが賢明な判断よ!」

苛立ちを見せるシニフィエ。


「確かに、レオ学園で一緒だったころは1度もお前達に勝ったことがなかったが、今回は勝たせて貰う」

ダラスは、気を引き締めて木刀を構える。


ハルンス、シニフィエ、ヒース、ダラスの4人は、一斉に動き出して戦闘が始まった。




リリーが弱っているうちにリリーを見つけ出して倒したかったアルンガだったが、ハルンスとシニフィエがヒースとダラスに足止めされ、バンダスは倒されたのでメアリーとメリアを振り切ることができず、交戦することになった。



「ハッ!」

アルンガは右手の木剣を振り下ろしてメアリーに斬りかかるが、メアリーは木刀で防いだ。


その隙に、メリアがアルンガの右側から襲い掛かる。


「ハァァ!」

「させるか!」

アルンガは反転しながら左手の木剣を横に凪ぎはらい、振り下ろそうとしているメリアの木刀とぶつかり合う。


力でアルンガに勝てないことを知っているメリアは、力で対抗せずに、わざとジャンプして後ろに弾かれて背後にある木の幹に両足をついて幹を蹴り飛ばし、再びアルンガに迫る。



アルンガと鍔迫り合いしていたメアリーは、アルンガがメリアの迎撃するために反転した時、アルンガの力が弱まった隙をついてアルンガの木剣を下から上に弾いて突きを放つ。


「ヤッ!」

「しまった!ぐっ」

メアリーから木剣を弾かれたアルンガは、体を傾けてメアリーが放った突きの攻撃は直撃は免れたが左腕を掠めた。


アルンガは、すぐにバックステップで距離をとろうとする。



しかし、アルンガの目の前には、木の幹を蹴り飛ばしたメリアが迫っていた。


「何だと!?」

驚愕するアルンガ。


「貰った!」

勢いがついたメリアは、木刀を振り下ろす。


「チィ、ぐぁ」

アルンガは双剣をクロスにしてメリアの攻撃を防いだが、木の幹を蹴り飛ばして勢いがついたメリアの攻撃は力強く、今度はアルンガが吹き飛ばされ、後ろにあった木の幹に背中を強く打った。



すぐにアルンガは起き上がり、右側に移動して追撃してきたメアリーとメリアの攻撃を避けた。


(1人ならともかく、この姉妹だと2人を同時に相手するのは流石の俺でもきつい。かといって、バンダスやハルンス、シニフィエ以外だと足止めすらもできないな)

握っている双剣に力が入るアルンガ。



「メリア、今ので決まらなかったのは正直まずいわね。あまり時間を掛けると、ヒース達が持たないわ」


「わかっているよ、メアリー」

メアリーとメリアは、小声で会話をする。




大成は、アルンガの仲間3人を引き連れて大袈裟に逃げ回り周囲を見渡す。


ヒースとダラスはハルンスとシニフィエに押されており、他の仲間達はほぼ倒されて負けるのは時間の問題だった。


(今ので、アルンガを倒せなかったのは非常に不味いな。メアリー達に邪魔が入らない様に、他の仲間も俺が惹き付けるか。リリーはまだか?)

戦況を把握した大成は、厳しい状況に舌打ちした。




【ヒース、ダラスVSハルンス、シニフィエ】


ヒースとダラスは、息を切らしていた。

「「ハァハァ…」」


シニフィエは、ダラスに接近して木刀を振り回して連撃を繰り出す。

「もう、無駄にしつこいのよ!弱いのだから、さっさと諦めなさいよ!」

「うっ、くっ、がはっ」

連撃に耐えれなかったダラスは、とうとシニフィエに倒された。


「ダラス!」

「余所見は、禁物だぜ!ヒース」

「しまっ…ぐぁ」

ダラスに気を取られていたヒースは、ハルンスに木刀で斬られ気を失った。


「手間を取られたわね。ハルンス」

「ああ、早くアルンガ様のもとに行ってメアリーとメリアを倒すぞ」

「ええ、そうね。だけど、私はあの子を倒した方が良いのかしら?」

シニフィエは、仲間全員から逃げ回っている大成を指差す。


「ほっとけ、あれも時間の問題だ。仲間達が倒すだろう。それより、早く行くぞ!」


「わかったわ」

大成が気になったシニフィエは、大成の姿を一瞥してハルンスと一緒にアルンガのところへと向かった。




【アルンガVSメアリー、メリア】


アルンガは、メアリーとメリアの息の合った連携により苦戦を強いられていた。


「チィ」

メアリーの攻撃を弾いたアルンガは、距離をとる。


「逃がさないよ!」

「待って!メリア」

メリアはアルンガを追いかけようとしたが、メアリーが止めた。


すぐにメリアはメアリーの傍に移動した瞬間、アルンガの傍にハルンスとシニフィエが到着した。


「「遅れて申し訳ありません、アルンガ様」」

ハルンスとシニフィエは、頭を下げる。


「気にするな、2人共。よく来てくれた。で、他の戦況はどうなっている?」


「残りの相手は、リリー様とそこにいるメアリー、メリア、それに編入生の人間だけです。こちらは、脱落者はいません。仲間達は、全員で逃げ回っている人間を追いかけてます」


「フハハハ…。そうか、そうか…。この勝負、勝ったな」

ハルンスの報告を聞いたアルンガは、盛大に笑った。



「それは、どうかしら?アルンガ」

メアリーとメリアの後ろの木々からリリーが現れた。


「「リリー様!」」

メアリーとメリアは振り返り、嬉しさのあまり声をあげる。


「待たせたわね、2人共。私がアルンガの相手をするわ。あの兄妹(きょうだい)は任せるわよ」

「「はい!」」

リリーは、左右の手をメアリーとメリアの肩に置いた。



「待っていたぞ!リリー。今日こそ、お前に勝ち、お前を手に入れて俺だけのものにしてやる。光栄に思え」


「残念だけど、私は負けないわ。あなたこそ、負けて私を諦めなさい」

リリーは、両腰に掛けてある木製の双剣を抜いて構えた。


「お前に負けたあの日から俺は鍛練し、俺は強くなった。今回は勝たせて貰う。行くぞ!リリー」

アルンガの言葉で、リリー達は一斉に動いた。



リリーとアルンガは、双剣で連撃を繰り出す。

「どうした?リリー。動きにキレがないぞ。まだ、本調子にはほど遠いんじゃないのか?」


「そういう貴方こそ、メアリーとメリアと戦って負傷しているわね。動きがぎこちないわよ」

スピードはリリーに分があり、パワーはアルンガに分がある。


「ハァァ!」

リリーは、連撃のスピードを上げてアルンガに反撃を許さない。


「くっ、糞~!」

双剣をクロスにして必死に耐えていたアルンガは、力一杯にリリーが振り下ろしている右手の木刀を弾いて反撃にでる。


しかし、アルンガの行動を読んでいたリリーは、アルンガの攻撃を避けると同時に、左手の木刀を横に凪ぎはらい、アルンガの右脇腹にに決まり、アルンガは後ろにズリ下がった。


「ぐっ」

アルンガは、脇腹を押さえてリリーを睨み付ける。


「終わりよ!アルンガ」

リリーは、アルンガに迫る。


だが、上半身の制服が破れているバンダスが現れ、バンダスの巨大な影がリリー達を覆い尽くす。


「さっきは、よくもやってくれたな!もう、許さんぞ!」

「お、おい!やめろ!バンダス。リリーが死んでしまう!」

アルンガはバンダスを止めるよう命令したが、頭に血が上り怒り狂っているバンダスは止まらずに巨大な木刀を横に凪ぎはらいリリーに攻撃する。


バンダスの巨大な木刀は、木々をへし折りながらリリーに襲い掛かる。


突然の出来事により、リリーは避けれなかった。



「「リリー様!」」

ハルンスとシニフィエと交戦中のメアリーとメリアは、悲鳴な様な声をあげる。



「くっ」

リリーは攻撃を防げないと知りつつも、魔力を解放して身体能力を最大限まで底上げし、双剣をクロスにして受け止めようとする。


「それじゃあ、無理なのだよ。後は任せたのだよ。リリー様」

「え!?彗星」

逃げ回っていた大成は、驚愕しているリリーを優しくお姫様抱っこをしてメアリーとメリアに向かって放り投げた。


リリーを放り投げた大成は、すぐに木刀でバンダスの攻撃を受け止めようとしたが、大成の木刀は簡単にへし折れてバンダスの木刀が大成の胴体にめり込み、そして、大成は物凄いスピードで吹き飛ばされた。


吹き飛ばされた大成は木々押し倒していき、流れている川を水切りの様に水の上を何度もバウンドして、最後に高くそり立つ絶壁に激突し、絶壁の上部部分が崩れて生き埋めになった。


「彗星~!」

リリーの悲鳴が、森中に響いた。




【【ジャッジメント・スタジアム】・観客席】


マテリアル・ストーンで、大成達の勝負を観戦していた観客達は大成が吹き飛ばされたのを見て絶句していた。


特に観客の女性達は、映像を見ないように両手で目元を隠したり、吐かない様に口元を押さえたりしている。


「おいおい、あの人間の子供は死んだんじゃあないのか?」


「だよな。下手をしたら上半身と下半身が2つに分かれていてもおかしくはない。あの攻撃は、例え獣王様までも無傷で受け止めれないだろう」


「ああ」

観客達は、深刻な表情で会話をする。




【特等席】


「ククク…アハハハ!残念だったな、兄貴。この勝負、アルンガの勝ちは決まった様なものだ!」

アレックスは右手で自身の顔を覆い、顔を上げて盛大に笑った。


「まだ勝負は終わってないぞ、アレックス」


「負け惜しみを!兄貴が、わざわざ魔人の国から、あの人間の餓鬼を連れて来たと聞いた時は只者ではないと警戒していたが、あの攻撃を食らえば誰も助かりはしないだろう。残念だが、切り札である人間の餓鬼はリタイアだ」


「それは、どうだかな」

獣王は、不敵に笑った。




【森の中】


「彗星…。う、嘘…」

チャルダ国で大成との約束を思い出したリリーは、信じられない表情で口元を押さえて呟く。


「何を呑気に余所見をしている!」

バンダスは、容赦なくリリーに木刀を振り下ろす。


「「リリー様!」」

メアリーとメリアは、叫んだ。


「くっ」

2人の呼び掛けで我に返ったリリーは、かろうじて左側に移動して避けたが、バンダスの木刀は大地に衝突して土埃が舞い上がり、リリーを吹き飛ばした。


リリーは、空中で反転して体勢を整えてメアリーとメリアの傍に着地する。


バンダスが木刀を振り下ろした場所は、大地は深く抉れていた。



到着したアルンガの仲間達は、アルンガの後ろに待機する。


「もう、降参したらどうだ?リリー。お前達以外は誰も戦えず、俺達の仲間は誰も倒れていない。お前達の勝ち目はゼロだ!」

アルンガは、リリー達に歩み寄りながら提案する。


「そんなことよりも、早く医療班を呼んで!このままだと、彗星が、彗星が死んでしまう!だから、早く!」


「あぁ!?そんなの知るか!それに、何故リリーお前が、あんなゴミの心配するんだ?あいつは、人間だぞ!」

心から大成の心配するリリーの姿にアルンガは苛立ち、歯を食い縛りながら双剣を握っている手に力が入る。


「仕方ないわ、メアリー、メリア。私は今から【セイント・ベル・ツリー】を使うから、発動するまでの間、お願い!」


「「わかりました」」

困難なリリーの指示だったが、メアリーとメリアは、迷わずに即答した。


「この状況で【セイント・ベル・ツリー】を使うだと?」


「ええ」

リリーは答えると同時に、その場から離れる。


「残念だけど、ここは通さないよ!」

「どうしても通りたければ、私達を倒して行きなさい」

メリア、メアリーは、後のことを考えず出し惜しみをせずに全魔力を解放して殺気を放つ。


アルンガ、バンダス以外の仲間達は、メアリーとメリアの殺気を前にして怯み、息を呑みながら一歩後ろに下がった。



「お前達は手を出すな。あの姉妹の相手は…」

「俺が相手をする」

アルンガは自分とハルンス、シニフィエが2人の相手をするつもりだったが、バンダスが自ら名乗り出た。


「バンダス?」


「アルンガ悪いが、この怒りをぶつけさせろ」


「わかった」

バンダスの怒りに満ちた表情を見たアルンガは、頷くことしかできなかった。


「そういうことだ。少しは楽しませてくれよ、お二人さん」

バンダスがメアリーとメリアの前に出る。


「「~っ!」」

バンダスが体に纏っている膨大な魔力を前にしたメアリーとメリアは、息を呑んだ。




【リリー側】


リリーは、全力で木々の間を駆け抜けて途中で立ち止まった。

(ここまで、離れたら大丈夫ね)


「お願い!皆を癒して【セイント・ベル・ツリー】」

周囲を見渡して安全を確認したリリーは、双剣を鞘におさめ胸元で両手を握り締めて祈りながら魔法を唱えた。


リリーの正面の地面に巨大な魔法陣が現れ、金色に輝きだす。


魔法陣から金色の桜の花の様な花びらをつけた大樹が現れた。


風が吹いていないが大樹の枝は、ゆっくりと優しく揺れて美しい鈴音の様な音が森中に鳴り響き、金色の桜の花の様な花びらが優しく周囲に舞っていく。




【大成側】


バンダスに吹っ飛ばされて瓦礫の下敷きになっている大成は無傷だった。


「あ~あ、伊達眼鏡にヒビが入っているよ」

(リリーには悪いけど、僕ができるのはここまでだな。これ以上、目立つ訳にはいかないし)

大成は、丸渕眼鏡を外して心から申し訳ないと思い謝罪をする。


そんな時、瓦礫で覆われて真っ暗な中、金色の桜の様な花びら輝きながら1枚、また1枚と瓦礫をすり抜けて大成の傍に舞い落ちる。


「何だろ?」

気になった大成は、宙を舞い落ちる小さな金色の花びらを摘まんだ。


(彗星、皆、無事でいて…)

「これは、リリーの想い。それに、治癒と魔力の回復か。これほどの効果のある魔法は、魔力消費も尋常じゃないはずなのに、勝負に勝つことよりも皆のことを思っていたんだな」

大成が花びらを摘まんだ瞬間、リリーの想いが伝わると共に、掠り傷は癒え全身に力が(みなぎ)る。



驚いている大成の周囲に、精神干渉魔法レゾナンスが発動した。


レゾナンスの相手はメアリーとメリアだった。


「修羅様、無理なことは存じていますが、それでも、リリー様に力添えをして頂けませんか?くっ」


「僕からもお願いだよ!修羅様。うぁっと、このままだと、リリー様は想いの人と結ばれるどころか、想いの人に想いを伝えることもできずに違う人と結婚することになっちゃうよ。そんなの可愛そうだよ」

メアリーとメリアは、バンダスの猛攻よって追い詰められながらもレゾナンスを使って大成に懇願する。


「……。」

(ごめん、ジャンヌ。君との約束を破ってしまうけど、リリーは守って見せるよ)

大成は目を瞑り、ジャンヌに謝罪をする。


「2人の気持ちは、わかった。後は俺に任せろ」

覚悟を決めた大成は目を開き、膨大な魔力を解放して周囲を覆っている瓦礫の山を吹き飛ばした。




【リリー側】


【セイント・ベル・ツリー】を発動したリリーは、大成達全員が無事だと把握できた。


「良かった…。彗星が無事で良かった…。本当に良かったよ…」

大成が無事だったことを知ったリリーは、腰の力が抜けて地面にへたり込んで涙が溢れていた。


少しの間、泣いたリリーは、すぐに袖で涙を拭って立ち上がり、メアリーとメリアのもとに急いだ。




【メアリーとメリア側】


バンダスの猛攻を避けていたメアリーとメリアは、大成が参戦してくれると聞いて嬉しさのあまり隙ができた。


「もらった!」

姉妹の隙を見逃さないバンダスは、巨大な木刀を振り下ろした。


「「くっ」」

かろうじて避けたメアリーとメリアだったが、木刀が大地に衝突して土埃が舞い上がり姉妹は土埃に飲まれた。


「「きゃぁ」」

メアリーとメリアは、受け身はとったが勢いがあったため地面を転がる。


そこに、アルンガが襲い掛かる。


「そろそろ、お前達は退場しろ!」

アルンガは右手の木剣をメアリーに振り下ろしたが、リリーが姉妹の前に出て左手の剣で防いだ。


「ありがとうございます、リリー様」

メアリーは感謝する。


「こっちこそ、ありがとうメアリー、メリア。2人のお蔭で皆は無事よ。ハッ!」

リリーは、お礼を言いながら右手の木刀を横に凪ぎはらう。


「チッ」

アルンガは、後ろに下がって避けた。


その間にメアリーとメリアは立ち上がり、リリーの左右に移動した。


「よく来たな、リリー。【ソーラー・レイ】、【セイント・ベル・ツリー】を使ったのだ。もう、魔力も体力も限界に近いだろ?そろそろ降参しろ、本当に死ぬぞ。俺は兎も角、バンダスはお前の【ソーラー・レイ】を食らって怒り狂っているから手加減しそうにないぞ」


「それでも、私は諦めないわ。例え、命を落とすとしても最後まで戦うわ」


「なら、早くお前を気絶させて、俺のものにしてやる。バンダス」


「ああ、わかっているリリーには手を出さん。但し、先にこの姉妹が片付いた場合は攻撃させて貰うからな」


「仕方ない、わかった。その前に1つ聞くが、倒される前に答えろ!リリー。【セイント・ベル・ツリー】を使えば、魔力枯渇寸前になると知りながら、なぜ残りの大切な魔力を消費してまで、あのゴミを助けたんだ。使わずにいれば、ほんの僅かだが、まだ勝てる可能性があったはずだ。まさかとは思うが、あのゴミが好きなのか?」


「アルンガ、あなたは彗星のことをゴミって見下しているけど、私は貴方より彗星の方が魅力的だと思っているわ」


「そうか、そうか…。なら、リリー。この勝負に勝った後、お前の目の前であのゴミを殺してやる。ん?ところで、何で、そこの2人は何で笑ってやがる」


「え?」

「「大丈夫ですよ、リリー様」」

メアリーとメリアが笑顔を浮かべた時、離れている大成が生き埋めになった場所から闇の様な漆黒の膨大な魔力の帆柱が発生して瓦礫が吹き飛んだ。


そこに、大成の姿が見えた。


大成は、魔力と気配を消して体勢を低くして川を飛び越え、物凄いスピードで吹き飛ばされた時にへし折れた木々をジグザグに避けて走る。



「う、嘘だろ?」

「何で動けるんだ?」

アルンガの仲間達は、走ってくる大成の姿を見て呆然と呟く。


「お前達、何をボーとしている。アルンガ様をお守りするぞ!」

ハルンスの指示により、仲間達は慌ててアルンガ達の前に出る。


「邪魔だ」

大成は小さく呟きながら更に加速し、アルンガの仲間達は反応できず、大成が通り抜けたと同時にアルンガの仲間達は大成から首筋に手刀をされており気絶してその場に倒れた。


「シニフィエ!」

「わかっているわ!」

シニフィエは頷き、ハルンスとシニフィエは大成の正面から挑む。


「ハッ!」

「ヤッ!」

ハルンスとシニフィエは、同時に木刀を振り下ろそうとする。


大成は、木刀を振り下ろされる前に左右の掌をハルンスとシニフィエの鳩尾辺りに伸ばして魔力波を放った。


「うぁ」

「きゃ」

大成の魔力波を直撃したハルンスとシニフィエは、物凄い勢いで吹っ飛ばされて地面の上を何度もバウンドして気絶した。


大成は、バンダスとアルンガに向かって一直線に走る。



「グハハハ…。こいつは、面白い!オラァァ」

バンダスは、獰猛な笑みを浮かべて巨大な木刀で連撃を繰り出す。


大成は、最小限の動きで全ての攻撃を躱していき、周囲に土埃が舞う。



「先ほどの動きを見て期待していたが、避けるのが背一杯か!」

バンダスは、巨大な木刀を振り下ろす。


「準備運動していただけだ」

大成はジャンプして木刀を躱してバンダスの顔面を殴ろうとする。


(こいつは、危険だ)

「ぐっ」

危険を察知したバンダスは左腕に全魔力を覆って防いだ。


「くっ」

バンダスは威力に押されて後ろにズリ下がり、右腕で左腕を覆った。


「グハハハ…。お前、本当に人間か?全魔力で強化した左腕が痺れたぞ」


「巨人族は、思ったよりもタフだな。なら、もう少し強化しても大丈夫か」


「面白いこと言うな、人間!。だが、強がりだと丸分かりなんだよ」

バンダスは、巨大な木刀を横に凪ぎはらう。


大成は再びジャンプして攻撃を躱したが、バンダスが獰猛な笑みを浮かべた。


「そうくると思ったぞ。握り潰してやる」

バンダスは、左手を伸ばして大成を捕まえようとする。


「なっ!?」

大成は迫ってくる巨大なバンダスの指に両手を付いて反転しながら飛び、驚愕しているバンダスの額に踵落としを決めた。


「がぁ…」

バンダスは、白目を向いて後ろに倒れた。


大きな地響きと土埃が舞う。


音を立てずに着地した大成は、最後1人になったアルンガを見る。


「そんな、馬鹿な…」

(な、何なんだ!?何なんだ?あいつは。あいつは、ただの人間だろ?なのに、あのバンダスを一撃で倒すなんてあり得ない。それに、今も目の前にいるのに魔力だけでなく気配も全く感じられないとかあり得るのか?)

得体の知らない大成の存在にアルンガは畏怖する。


大成が自分の心を見透かしていると気付いたアルンガは、自分が許せずに歯を食い縛った。


「な、舐めるな!」

(そうだ、バンダスが負けたのは偶々当たり所が悪かっただけだ。相手は魔人族より魔力は弱く、俺達獣人よりも身体能力が低い人間なんだぞ!)

アルンガは自分に言い聞かせながら、大成に向かって走って接近して右手の木剣を振り下ろす。


大成は、左手でアルンガの右手首を掴んで防いだ。


「くっ、まだだ!」

アルンガは左手の木剣で攻撃しようとする。


「遅い」

「うぁ」

アルンガに追撃される前に大成は右拳でアルンガの鳩尾を殴り、大成は左手でアルンガを掴んだまま回転してアルンガをリリー達の前に投げ飛ばした。



「ぐっ」

アルンガは、ゆっくりと立ち上がる。


「リリー、最後は自分で決着をつけろ。元々、2人の勝負だろ?」

大成は、呆然としているリリーに話し掛けた。


「え!?ええ、そうね。わかったわ」

突然に話を振られたリリーは、最初は困惑てしいたがすぐに理解した。


「決着をつけましょう、アルンガ」


「ああ、良いだろう」

風が吹いた瞬間、リリーとアルンガは同時に動いた。


次回、決着とアレックスの罠です。


足を痛めて書けなくなり、投稿が遅れて申し訳ありません。


もし宜しければ、次回もご覧下さい。

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