アルンガとバンダス
ニーベル国を侵略しようとした【四天狼牙】隆司達4人を倒した大成達。
【ニーベル国】
悠太を倒した大成は、メアリー達に振り返りながら心配する。
「大丈夫?2人共」
大成は、尻餅しているメアリーとメリアに手を差し伸べた。
「「あ、ありがとう」」
メアリーとメリアは、お礼を言いながら大成の手を取って立ち上がる。
「あいたたた…。助かったよ、彗星君」
ユーリアは、腰を叩きながら大成達に歩み寄る。
「大丈夫ですか?ユーリアさん」
「大丈夫だよ。ただ、全力で戦うのは久しぶりだからねぇ、腰を痛めてしまったよ。全く、年は取りたくないものだねぇ」
ユーリアの話を聞いた大成は、苦笑いを浮かべた。
「あの彗星君、ううん、修羅様。お願いです、怪我をしている人達を治癒して頂けませんか?」
メアリーは、両手で大成の右手を取って握り締める。
「僕からも頼むよ」
メリアも、両手で大成の左手を取って握り締めた。
不愉快な視線を感じていた大成は、その視線の主であるユーリアに視線を向ける。
「おやおや、若いって良いものだねぇ」
ユーリアは、顔をニヤニヤして呟く。
「も、元々、そのつもりだから安心して2人共。それで、まずは怪我人を1か所に集めて欲しい。ユーリアさんは、休んでいて下さい。後のことは任せて下さい」
ユーリアを見た大成は苦笑いを浮かべ、指示を出した。
「わかったわ」
「わかったよ」
「申し訳ないけど、お言葉に甘えさせて貰うよ彗星君。その代わりに、私は念のためにこの若者達を監視しておくから安心しておくれ。それと、私と一緒に来た従業員達には、彗星君達の手伝いをする様に伝えておくよ」
「助かります、ユーリアさん」
こうして、大成達はメイド達と一緒に怪我人を建物の崩壊などの被害が少なかったラルドムの家の前に集めることにした。
【ラルドムの家】
夕日が登る頃、大成達はラルドムの家の前にいた。
メイド達により、続々と怪我人が集まってくる。
【四天狼牙】の戦闘で負傷した騎士団や冒険者、賞金稼ぎ達だけでなく、悠太がニーベル国を囲む様に巨大な土壁を作った際、発生した地震によって建物が崩壊して、その下敷きになった者達も集まっていた。
「あの申し訳ありません、ラルドムさん、メリーゼさん。勝手にご自宅の前に人を集めてしまい」
大成は、ラルドムとメリーゼに謝罪をした。
「別に気にしないで良いわ。逆に、私達は感謝しているのよ。ねぇ、あなた」
「ああ、皆を治癒してくれるのだ。どんなに感謝してもしきれないほどだ」
メリーゼに肯定したラルドムは力強く頷く。
そして、メイドから精神干渉魔法レゾナンスで怪我人全員が揃ったとメアリーに連絡が入った。
「彗星君、全員揃ったと連絡が入ったわ」
「200人前後か、予想以上に集まったな」
報告をメアリーから受けた大成は、見渡してざっと数えた。
「本当に大丈夫?大人数だけど…」
心配するメリア。
「大丈夫だよ、メリア。問題ない。あとは、僕に任せて」
大成は、笑顔でメリアの頭を優しく撫でて答えて数歩進んで前に出る。
集まった怪我人は、軽傷の人もいれば重傷の人もおり、重傷は手前に集められている。
その誰もが、ここにいる200人近い人達全員を治癒できるとは信じきれず、重傷者は不安を抱いていた。
「今から治療します。グリモア・ブック、ワイド・ヒール」
大成は、グリモアを召喚して右手を前に出し、光魔法ワイド・ヒールを唱えた。
怪我人達の真下に巨大な魔法陣が浮かび上がり、緑色の蛍の光みたいな小さな光が無数に舞う。
そんな神秘的な光景を前にして、誰もが言葉を失うほど見とれていた。
そして、怪我人達の傷口が少しずつ癒えていき、子供達は小さな両手で光を捕まえようとし、大人達は神秘的な光景を前にして自然と優しく微笑んでいた。
そして、舞う光の数が少しずつ消えていき、全ての光が消えた頃には殆どの怪我人は完治していた。
大成は、怪我が完治していない数名に歩み寄る。
「ヒーリング・オール」
大成は、再び右手を前に出して治癒魔法の中で最上級のヒーリング・オールを唱えた。
怪我人達の傷がみるみる癒えていき完治した。
「ふ~。これで終わったな」
大成は、一息ついた。
リーエ達の【ブラッド・ヒール】によって人外な物の怪になった大成は、以前より格段に魔力が増大していたので、魔力枯渇にならずに済んだ。
「「ありがとうございました」」
治癒された人達だけでなく、この場にいる全員が一斉に頭を下げて大成に感謝した。
「ありがとう、彗星君」
メアリーとメリアは、目を潤ませながらお礼を言った。
「あらあら」
「娘達の人を見る目は、正しい様だな」
メリーゼは、ニヤニヤしながら口元に手を当てており、ラルドムは口元を綻ばせる。
こうして事件は無事に解決し、2日目の収穫祭は出店の復旧作業で中止になったが、3日目の最終日にはどうにか間に合い再開することができた。
3日目、大成はメアリーとメリアに手を引っ張られて金魚掬いをしたり、お面を買ったり、色々な店を回っていった。
気が付けば日が落ちており、商店街の中央で収穫祭の最後のイベントであるキャンプ・ファイヤーが行われ、キャンプ・ファイヤーを囲む様に皆が集まって踊っていた。
大成達は、端にあるベンチに座って楽しそうに踊るラルドムとメリーゼを見ながら屋台で買った料理を食べていた。
そして、食事が終わり、大成の隣に座っていたメアリーがスッと立ち上がり大成の方に向く。
「あ、あの、彗星君。私と踊ってくれませんか?」
メアリーは、頬を赤く染めて左右の手でスカートの左右の裾を軽く摘まんでお辞儀をする。
「僕で良ければ」
大成は、メアリーに手を差し伸べた。
「あ~!ずるいよ、メアリー。抜け駆けなんて!その次は、僕だからね!」
「わかったよ、メリア」
笑顔で頷いた大成は、メアリーの手を繋いだままキャンプ・ファイヤーに向かった。
大成とメアリーは、お互いの右手を繋いだまま挙げてながら片足を引いて互いにお辞儀をし、ダンスを始める。
「本当にありがとう、彗星君」
「ん?何が?」
「彗星君がいなかったら、私達はあの人達に負けてニーベル国は支配されていたわ」
「別に気にしないで良いよ。僕も泊めて貰っているし、お互い様だよ」
「フフフ…ありがとう」
メアリーは笑顔を浮かべて、大成と一緒にダンスを踊った。
そして、大成はメアリーとのダンスが終わり、今度はメリアとダンスを踊る。
「あのさ…」
メリアは顔を横に向けて、大成の顔を見る。
「ん?」
「君は人間なのに、何で僕達獣人の争いごとを止めてくれたの?」
「メリア、この世界の人達は人種を気にしている人が多いけど。僕にとっては人種の違いは些細なことだと思っているんだ。だって、見た目が違うだけで、同じ世界に生まれ、同じ生命を宿して生きているんだよ。一番大切なのは、堂々と胸を張れる生き方をしていくことだと僕は思っている。言葉にするのは簡単だけど、実際は、とても難しいけどね。それに、もし失敗しても同じ過ちを起こさない方が大切だ。完璧な人なんて存在しないからね」
(まぁ、僕はこの世界の住人じゃないけどね)
最後に大成は、苦笑いを浮かべた。
「フフフ…君らしいね。僕も、そういう生き方してみるよ」
「きっと、メリアならできるよ」
大成にできると言われたメリアは、心からニッコリと笑顔を浮かべた。
こうして最後のイベントのキャンプ・ファイヤーは鎮火すると共にダンスは終わり、最後にラルドムの閉会の言葉によって収穫祭は幕を閉じた。
大成とユーリア達はラルドムの家に泊まることにした。
【ラルドムの家・朝】
ユーリアとメイド達が、まだ寝ている早朝、大成達は家の前に出ていた。
「今まで、お世話になりました。ありがとうございました。それに、1日しか復興の手伝いができず、すみません」
申し訳なさそうに謝る大成。
「気にしなくて良いのよ、彗星君。あとのことは、私達がするから大丈夫よ」
メリーゼは、ニッコリと笑顔を浮かべた。
「何度も言うけど、本当にありがとう彗星君。せっかく、息抜きするために来てくれたのに事件に巻き込んでしまってごめんなさい」
メアリーは、申し訳なさそうな表情で頭を下げる。
「いや、僕は、ただ自分ができることをしたまでだから」
「じゃあ、そろそろ行こうか、彗星君」
「はい、ラルドムさん」
ラルドムは、大成と一緒に隆司達【四天狼牙】をパールシヴァ国に移送することにしていた。
「2人共、気をつけてね」
「はい」
「ああ、行ってくるよメリーゼ」
心配するメリーゼに、大成とラルドムは頷いて返事をし待機させてある馬車に向かう。
「彗星、明日学園でね!」
メリアは大きく手を振り、メアリーとメリーゼは小さく手を振る。
大成は振り返って手を振り、ラルドムと一緒に馬車に乗って獣人の国の首都であるパールシヴァ国へと向かうのであった。
【獣人の国・反乱軍・オルセー国・玉座の間】
玉座の間には椅子が3脚あり、その中央の椅子には反旗を翻している獣王の弟であるアレックスが腰かけており、左右の椅子には妻のコーデと息子のアルンガが椅子に腰かけていた。
アレックス達の後ろに【セブンズ・ビースト】ナンバー2の鷹の獣人キルシュ、同じく【セブンズ・ビースト】ナンバー3の狼の獣人フェガール、そして【セブンズ・ビースト】のナンバー4の熊の獣人ナイジェルが立っており、前にはチャルダ国に潜ましていた諜報員が片膝を床について敬礼している。
「何だと!リゲイン達が失敗しただと!?」
「~っ!はい…」
チャルダ国に潜ましていた諜報員から報告を聞いたアレックスは、殺気を醸し出しながら怒りで握っていたグラスを握り潰した。
グラスの破片が音を立てて床に落ち、中身のワインが床に滴る。
「リリーやドルシャー、そして、コーリアと正面から切って戦っても勝てるほどの実力と戦力はあったはずだ!それこそ、負ける要素は全くなかったはず!それなのに何故敗北するのだ!まさか、コーリアの実力は兄貴と同等の力を保有していたということのか?」
「いえ、それがコーリア様に倒されたのは、バッツ様とブロス様の2名だけで…」
「はぁ?では、リゲインは誰に倒されたのだ?まさか、ドルシャーと戦っているうちに情が湧いて負けたのか?」
「いえ、今回、ドルシャー様は誰とも戦闘をしておりません。信じられないとは思いますが、リゲイン様達を倒したのは、たった1人の謎の少年です」
「はぁ!?謎の少年だと?しかも、1人だと!?どういうことだ?詳しく話せ」
「ハッ!深夜で暗く顔は見えず獣人かどうかわかりませんでしたが、その者はアルンガ様と大体同じ背丈でローブを纏っていたました。リゲイン様のヘル・フレイム・スラッシュを至近距離で片手で受け止めまして…」
「はぁ!?そんな馬鹿な話があるか!あの技は、あの獣王が本気出した時の攻撃と同等以上の威力があるんだぞ!」
アルンガは、椅子から立ち上がって叫ぶように大きな声を荒げる。
「落ち着け、アルンガ。お前が見たという謎の少年は、兄貴が魔人の国から連れてきた小僧なのか?」
アレックスは腕を伸ばして、息子のアルンガの前に手を出して制止させた。
「いえ、それが少し違う様なのです。獣王様が連れてきた少年は、リリー様と一緒にニーベル国に訪れていたのですが、謎の少年がリゲイン様を倒した後、すぐにニーベル国外へと走って立ち去りました。その後、すぐにリリー様が少年の部屋を訪れたのですが少年は部屋で寝ていましたので違うかと思われます」
「うむ、そうか…」
顎に手を当てて考えるアレックス。
「親父、その謎の少年は、もしや獣王の隠し子じゃないのか?昔から獣王には隠し子が居るという噂がある」
アルンガは、前からあった噂を思い出した。
「うむ、もし小僧が敵対している人間どもの工作員ならば、そのままニーベル国を制圧しているはずだからな。今まで、兄貴に隠し子がいないと思っていたが、その可能性の方が高いか…」
「ところで、これからどうされますの?」
妃のコーデは、顔だけ夫のアレックスに向いて尋ねる。
「そうだな…」
「親父、正規の方法でリリーを手に入れる方法を思いついたんだが」
「ほぅ、アルンガ。何か奇策がある様だな」
アレックスは、面白そうな表情で息子のアルンガに視線を向けた。
「今、思いついたことなんだが。こういうのはどうだろうか?」
アルンガは、獰猛な笑みを浮かべて説明をしだす。
「うむ、なるほど。それは、面白い!だが、アルンガ。本当に良いのだな?」
「ああ!」
「お前が後悔しないのならば、好きにするが良い。お前が考えた、その作戦を実行しても構わない」
「サンキュー、親父。俺は、準備するから先に退出させて貰う」
「良いだろう」
レオラルドの許可を得たアルンガは、先に玉座の間から退出した。
「アレックス様、本当に宜しいのですか?あの獣王が連れてきた少年は、ただの少年とは到底思えませんが」
キルシュは、心配する。
「俺も、そう思っている。兄貴のことだから何かあるはず。だから、いざとなれば隙を見て、その小僧を死の峡谷に突き落とせ」
「なるほど。それは、名案ですね。ククク…。あの峡谷に落ちれば誰であろうと魔法どころか魔力が一切使えなくなり、その身体強化できないままの状態で指定ランク上位の魔物と戦わなくてはならず、生きて帰った者は極僅かですからね」
キルシュは、不敵な笑みを浮かべて説明した。
キルシュが言っていた通り、随分昔に獣王がリゲインなど【セブンズ・ビースト】数名を含め、300人の大勢の軍を率いて死の峡谷に降りて探索したことがあった。
しかし、僅か半日でほぼ全滅状態に陥り、直ぐ様帰国することにした。
その時、生き残った者は僅かたったの15人だった。
しかも、その15人のうち半数はあまりの恐怖によって正気を失っており、中には放心状態になっていて廃人となっていた。
その大事件により、死の峡谷と言われる様になったのだ。
「畏れながら、なぜ獣王達が死の峡谷付近を選ぶのでしょうか?」
ナイジェルは、疑問があったので尋ねた。
「愛娘のリリーの運命が決まる可能性があるのだ。だから、伝統ある【ジャッジメント・スタジアム】で行う可能性が高い」
フェガールが説明した。
「なるほどな」
納得したナイジェルは、大きく頷いた。
【パールシヴァ国・夕方】
昼が過ぎた頃、大成とラルドムは無事に隆司達【四天狼牙】をパールシヴァ国に移送した。
「ん?」
町の雰囲気が違うことに気付いた大成は、辺りを見渡す。
パールシヴァ国の国民は、大成達とは別の方を見ており心配した表情と困惑した雰囲気を醸し出していた。
「何かあったみたいですね?」
「彗星君、我々も降りてみよう」
「そうですね、ラルドムさん」
大成とラルドムは、馬車から降りて国民達の視線の先を見る。
国民達の視線の先にはバッド達が町の中を堂々と歩いていた。
「ああ、なるほど」
「な、何故、バッド殿達が!?」
大成は納得し、リゲイン達の処分を知らないラルドムは驚愕する。
如何にリゲイン達に【セブンズ・ビースト】のドルシャー達が監視役としてついているとはいえ、自由に町中を歩いている姿を見かけると国民達は不安になってしまう。
そんな気まずい雰囲気の中、バッド達の奥からリゲインと獣王が姿を見せた。
「ん?あれは、獣王様だ!」
「ここに獣王様が来るはずないだろ?」
「いや、間違いない!獣王様だぞ!」
「「獣王様!」」
国民達は、獣王の姿を見て感動し邪魔にならない様に道を開く。
獣王レオラルド達は、堂々と開いた道を歩いて進むと大成達とばったり遭遇して足を止めた。
「帰って来たのだな、彗星殿。どうだったか?ゆっくりと羽を伸ばすことができたか?」
「いえ、色々と濃い内容の日々を過ごしました」
「どういうことだ?ん?隣にいるのは、ラルドムではないか!?」
レオラルドは、立っている大成の隣を見ると、片膝を地面について頭を下げて敬礼しているラルドムに気付いて驚いた。
「お久しぶりです。獣王様」
ラルドムは敬礼したまま、深々とお辞儀をする。
「顔を上げよ、ラルドム。体の方はどうだ?」
「はい、この通り完治しました。彗星殿のお蔭で、私だけでなく妻のメリーゼも完治しております」
「そうか、それは良かった」
レオラルドは、優しい表情を浮かべて頷いた。
「これも彗星殿と彗星殿に依頼して下さった獣王様のお蔭です。感謝してもしきれないほどです。誠に、ありがとうございました」
「気にするな、ラルドム。感謝するなら彗星殿だけににしろ。俺はただ依頼をしただけで何もしていないのだ。それよりも、ニーベル国で何かあったのか?」
レオラルドは、馬車が2台あることに気付いて尋ねた。
「はい、【四天狼牙】のメンバー全員がニーベル国に奇襲をかけてきましたが、彗星殿とユーリア殿の助力により返り討ちができ、全員を捕らえることに成功しました。しかし、ニーベル国では【四天狼牙】を安心して捕らえて置くことができるほどの設備が整っていませんので、パールシヴァ国に連れて参りました。相談もなく、身勝手な行為に大変申し訳ありません」
ラルドムは頭を下げる。
「いや良い、賢明な判断だ。それよりも、今回の件といい、チャルダ国の件といい、何だか彗星殿はトラブルに愛されている様だ」
「愛されたくないのですがね」
頭を掻きながら、大成は苦笑いを浮かべる。
「そうだった、彗星殿。愛娘のリリーも帰国して、そなたを心配しておったから顔を出してくれぬか?今、リリーは城に居るはずだ。あとのことは私が責任を持って対応する」
「わかりました。今すぐに顔を出してきます」
大成は、1度お辞儀をして城へと向かった。
大成の姿が見えなくなると、ラルドムは、ため息を吐いた。
「それにしても、魔人の国はとんでもない実力者を召喚しましたね。おそらく彗星殿は、この世界で最強と言われている【サウザンド・ドラゴン】や【漆黒の魔女】そして、【時の勇者】に並ぶ実力者だと思います」
「そうだな。それに、彗星殿と接してわかったが、支配欲などの欲望の塊である【アルティメット・バロン】やアレックス、アルンガとは違い、彗星殿は優しい人格の持ち主だ。どうにかして、是非とも愛娘のリリーと結婚させたいのだがな」
「それは、奇遇ですね。私も愛娘のメアリーかメリアのどちらかが彗星殿と結ばれたら良いなっと思っています。娘達は、彗星殿に好意を抱いていますので成就させたいです」
「ラルドムよ、知っているとは思うが」
「はい、彗星殿の正体のことはリリー様には内緒にしておくのでしょう?」
「ああ、そうだ。残念ながらそういう条件で来て貰っているのだ。約束を破るわけにはいかないからな」
レオラルドは、深いため息を吐いた。
【パールシヴァ国・パールシヴァ城・廊下・夜】
夕日が沈み星や月が見えてきた頃、大成は廊下でリリーに遭遇した。
「えっ!?彗星、帰って来ていたの?」
「今さっき帰って来たばかりなのだよ」
「おかえり、彗星。あなた大丈夫だったの?少し前に耳にしたのだけど、ニーベル国が【四天狼牙】に奇襲を受けたそうじゃない」
「この通り、大丈夫なのだよ」
「そう、良かったわ。それと、もう1つ、あなたに聞きたいことがあるの!」
心配していたリリーは、ホッと胸を撫で下ろした後、表情が一変し、まるで問い詰めるかの様な剣幕で大成に歩み寄る。
その時、大成のお腹が鳴った。
「はぁ、まずは食事しましょう」
大成とリリーは、一緒に食堂へと向かった。
食事を終えた大成は、ナフキンで口元を拭き取りリリーに尋ねる。
「ところで、さっき切羽詰まっていたのは、どうしてなのだよ?」
「そうよ、聞いたわよ」
リリーは、対面に座っている大成の胸ぐらを掴んで、ぐぃっと引っ張りながら引き寄せて大成の顔を覗き込む。
(あ、もしかして、正体がバレてしまった?)
「な、何の話のことなのだよ…」
苦笑いを浮かべる大成だったが、冷や汗が流れていた。
「惚けないで!あの人が来たのでしょう?」
「あの人?」
「ほら、リゲイン達を取り押さえた人よ」
「ああ、そうなのだよ。今回も助けて貰ったのだよ」
(良かった、バレていないようだな)
「何であなたは、そんなに頻繁に出逢えるのよ!」
「い、いや、そんなこと言われても困るのだよ。まずは、落ち着くのだよ。リリー様」
(会えるというか、本人なんだけど…)
大成は、リリーが放つ威圧感に怯みながらも落ち着かせる。
「そ、そうね、私が悪かったわ」
冷静になったリリーは、大成の顔が間近にあることに気付いて顔を真っ赤にし、すぐに大成の胸ぐらを掴んでいる手を離して距離を取った。
「そ、それより、明日から学園があるから早く寝なさい」
「わかったのだよ。お休みなのだよ」
「お休み、彗星」
リリーは、小さく手を振り、大成は自分の寝室に向かった。
「それにしても、何だか、彗星の雰囲気があの人にとても酷似しているのよね。でも、チャルダ国の時に違うことを確かめたし…。だけど、う~ん…。何と言えば良いのか…。何だか大切なことを見落としている様な気がするわ…。はぁ~、きっと私、疲れているのね。私も早く寝ましょう」
手を振っていたリリーは、大成の姿が見えなくなると手を振るのを止めてため息を吐き、考えるのをやめて自分の寝室へと向かうことにした。
【レオ学園】
連休開けだったので、大成達の教室は自分達の休日の話で盛り上がるのは、いつものことだった。
しかし、この日は普段と違いチャルダ国やニーベル国が襲われた件の話題が中心で、特に謎の少年の手によって救われた話で盛り上がっていた。
「聞いたか?チャルダ国とニーベル国が奇襲された話」
「ああ」
「私も聞いたよ。2ヵ国を救ったのは、おそらく同一人物の私達と変わらない年頃の少年だって聞いたよ」
「2ヵ国連続って、そんな偶然あるのか?」
「でも、2ヵ国とも救った少年の服装や特徴が同じだったから同一人物の可能性が高いって話だよ?それに、その謎の少年って彗星君のことじゃないかな?だって、彗星君はリリー様とチャルダ国へ行った後、ニーベル国にも行ったんだよ?日にちも合うし」
犬の獣人の女子チルダが、頭に浮かんだ可能性を言葉にした。
「ハハハ、流石にそれはないって。チャルダ国が奇襲された時、リリー様が彗星じゃないって確認したらしいぞ」
タヌキの獣人のダラスは、笑いながら否定する。
「そうそう、チャルダ国では、あの【獣王様の片腕】と言われたリゲイン様と元【セブンズ・ビースト】様達を倒し、ニーベル国では1人で【四天狼牙】の4人を倒したんだぞ。俺やダラスならともかく、今回の相手はどの相手もまぐれで勝てる様な相手じゃない。勘の鋭いお前でも、今回は外れだ」
ヒツジの獣人のヒースも笑いながらダラスに賛同した。
「う~ん、でもねぇ…。ねぇ、メアリーとメリアはニーベル国で事件があった時に居合わせたのでしょう?その謎の少年に会ったわよね?」
納得できなかったチルダは、メアリーとメリアに尋ねた。
「「え!?」」
墓穴を掘らないために話に関わらない様にしていたメアリーとメリアの2人は、突然に話を振られてドキッとした。
「どうしたの?2人共。体調でも悪いの?」
「「だ、大丈夫」」
「本当に大丈夫?いつもなら2人は、こういう話が好きなはずなのに、今回はやけに大人しいから」
「そうね、正直、大きな事件だったから、私もメリアもまだ疲れているの…」
誤魔化すためメアリーは、嘘を言った。
「あっ、ごめんね、疲れているのに話し掛けて。私ったら、気が利かなかったわ。本当にごめんなさい」
「う、ううん、気にしないで良いよ。僕もメアリーも気にしてないから。ねぇ、メアリー」
「え、ええ」
「「?」」
明らかにメアリーとメリアの態度が、いつもと違うというよりも挙動不審な態度に頭を傾げるクラスメイト達。
そんな時、大成とリリーが教室に入ってきた。
「おはよう」
「おはようなのだよ」
「「おはようございます。リリー様、彗星君」」
「何かあったの?」
リリーは、クラスメイト達に話し掛けた。
「いえ、チャルダ国とニーベル国の事件の話をしていたところです」
ヒースが答えた。
「あの、リリー様」
腑に落ちなかったチルダは、リリーに尋ねる。
「何?チルダ」
「謎の少年は、彗星君ではないのですか?」
「ああ、そのことね。ええ、違うわ。あの日、リゲイン達を倒したあの人は、すぐにチャルダ国から出て行ったの。その時、私は彗星だと思って、すぐに彗星の部屋に向かったわ。そして、確認したらベッドの上で彗星が寝ていたの」
「そうなのですか…」
リリーの瞳を見て嘘ではないと確信したチルダは、納得するしかなかった。
「だから、言っただろチルダ」
「ええ、そうみたい。リリー様が仰っているのだから、そうなのだけど。でも、私の勘では彗星君なのよね」
窺う様に大成をじっと見るチルダ。
「そんなことあるはずがないのだよ」
大成は、苦笑いを浮かべて否定した。
【レオ学園・食堂・昼休み】
昼休みになり、大成とリリーは食堂の窓際で食事をしていた。
「ねぇ?彗星」
リリーは、箸を止めて話し掛ける。
「どうしたのだよ、リリー様」
「あなた、ニーベル国でメアリーとメリアの2人と何かあったの?」
朝からメアリーとメリアの視線が大成に集まっているのは、いつもことだったが、いつものなら大成に対する態度や視線は今まで冷たかったのに、今日は何故か好意を寄せている様にリリーは感じていた。
「特に、そんなことはないのだよ」
「嘘よ、だって、2人の態度が…そ、その…」
恋人の様だと言うのが恥ずかしくって言えなかったリリーは、頬を赤く染めた。
「そういえば、泊まる場所がなかったから2人の家に泊めさせて貰ったのだよ」
「え!?ま、まさか、あなた2人に何か、い、如何わしいことをしたんじゃないでしょうね?」
「如何わしいこととは、具体的にどんなことなのだよ?」
「そ、それは…その…」
恥ずかしくなったリリーは、顔を真っ赤に染めて言い淀む。
そんな時、周囲のざわめき声が聞こえてきた。
リリーと大成は窓から外を見ると、正門からドルシャーと獣王の弟の息子であるライオンの獣人アルンガと【セブンズ・ビースト】2位の鷹の獣人キルシュ、3位の狼の獣人フェガールの3人の姿があった。
「何で此処にドルシャーだけでなく、アルンガ達が?」
「あれが噂のアルンガ氏?」
「何の噂か知らないけど、そうよ。あと、アルンガの右側にいる鷹の獣人がキルシュで、左側にいる狼の獣人がフェガールよ。何かあるみたいわね。おそらく、私に用があるから来たと思うの。だから、行くわ」
「リリー様、危険なのだよ。あの3人からは、何というか…。そう、とても強い雰囲気が醸し出されているのだよ」
「ええ、確かにアルンガ達は強いわ。だけど、きっと大丈夫よ。もし、私を狙って来たのなら堂々と姿を見せずに不意討ちするはずでしょう」
「わかったのだよ。僕もついて行くのだよ」
「フフフ…あの日の夜の約束を果たしてね、彗星。期待しているわ」
「勿論なのだよ」
大成は、右手の中指で自分の眼鏡を少し持ち上げた。
【レオ学園・学園長室】
学園長室には、学園長とアルンガ達、そして、リリーと大成にドルシャー、メアリー、メリアが集まっていた。
学園長とリリーは椅子に腰掛け、リリーの隣には大成が立ち、そして、リリーの背後にはメアリーとメリアが立っており、対面側にはアルンガが椅子に腰掛け、左右にはキルシュとフェガールが立っている。
「獣王が魔人の国から1人連れてきたというから、どれ程の猛者かと思ったが、ただの一般人じゃないか」
「ハハハ…」
苦笑いを浮かべて誤魔化す大成。
「ところで、アルンガ。あなた達は、此処に何をしに来たの?まさか、彗星を見に来ただけじゃないでしょう?」
「ああ、そいつを見に来たんじゃない。良い提案を思いついたんだ。その提案を獣王に話したら、リリー、お前に判断を任せるということになったんだ。それで、ドルシャーと一緒に、こっちにわざわざ足を運んでやったんだ」
「わざわざ来なくって結構よ。それで、どんな提案なの?」
「お前のところのレオ学園と俺のところのアレックス学園から10人ずつ選手を選出してバトル・ロワイアルを行おうと思う。ルールは、簡単だ。1つは相互選出した10人全員が気絶などで戦闘不能になった方が負け、負けた方が勝った方の言うことを聞くって条件だ」
「もし私達が勝ったら、あなたは私を諦めるだけでなく、これから私に関わらないと約束ができるってことで良いのよね?」
「ああ、良いだろう。だが、俺達が勝てばリリー。お前は俺の嫁になって貰うからな!そして、最後2つ目のルールは出場選手は俺達獣人だけでなく、同年代なら他種族でも1名限りならば出場が可能という条件だ」
(やはり、何かあったわね。その1名が、明らかに怪しいわね…。)
リリーは即答せずに、足を組んで肘掛けに肘を置いて余裕に満ちた態度のアルンガの瞳を見ながら窺う。
「どうする?リリー」
「ねぇ、1つ目の条件は呑むけど、最後の2つ目の条件を呑まないと言ったらどうする?」
「簡単なことだ。この話はなかったことにする」
「その他種族が、あなたの切り札ということってことかしら?」
「ああ、そうだ」
隠さずに即答するアルンガ。
リリーは学園長の隣にいるドルシャーに視線を向けたが、ドルシャーは軽く頷きお任せしますという視線と態度だった。
リリーは後ろに振り返り、背後にいるメアリーとメリアを見る。
「リリー様、どんな相手でも私達は負けません!」
「そうだよ!」
メアリーとメリアは、力強く頷いた。
「そうね…」
(こちらにはメアリーとメリアがいるし、2人と比べれば戦力が落ちるけどヒースとダラスもいる。それに、実力はまだ不明だけど彗星もいるから大丈夫よね…?)
悩んだリリーは肯定しながら、最後に隣に立っている大成を見る。
「?」
大成は、頭を傾げる。
(と、とても不安だわ…)
「で、どうするんだ?リリー」
「わ、わかったわ。その条件を呑むわ」
「日にちは俺が決める。その代わりに、リリー、お前達が場所を決めるというのはどうだろう?」
アルンガは、有利な場所の選択肢を捨てたのには訳があった。
出来る限り、早期に開催しなければ獣王が他の国からジャンヌなど猛者を呼んでくる可能性があったからだった。
「良いわよ」
「じゃあ、明後日の正午だ。開催場所はリリー、お前に任せる」
「ええ、わかったわ。なら、昔から神聖な決闘をする際にだけ使われる伝統ある【世界の果て】や【死の峡谷】と言われる場所の付近にある【ジャッジメント・スタジアム】にしましょう」
「良いだろう。だが、10対10で人数が多い、流石に広いとはいえ【ジャッジメント・スタジアム】でも無理だ。そこで、その付近で行わないか?」
「そうね、良いわよ」
「決まりだな。明後日の正午に【ジャッジメント・スタジアム】の正門に集合。勿論、観客は連れて来ても構わないが武装解除の確認はこういうのはどうだろうか?こちらの観客の検査はリリー達側に、リリー達の観客は俺達側が検査するというのは」
「それで、良いわよ」
「よし、決まったな。キルシュ、フェガール帰国するぞ」
「「ハッ!」」
勝利を確信したアルンガは口元に笑みを浮かべて立ち上がり、キルシュとフェガールを連れてレオ学園から立ち去った。
学園長室から退出したアルンガ達がレオ学園から立ち去るのを、リリー達は窓から確認した。
「はぁ、まずは皆に話して、それから、メンバーを決めないといけないわね」
リリーは、ため息をしながら椅子から立ち上がる。
「そうですね」
アルンガ達が居る時は無表情だったドルシャーが、今はニヤニヤと嬉しそうな表情を浮かべていた。
「ドルシャー、あなた何を嬉しそうな表情をしているのよ。あの時、私が視線を向けたら何も関わらないフリをしていたでしょう」
「申し訳ありません。此方が有利だったので、アルンガ様に気付かれない様にと思いましたので」
「確かに私にはメアリーとメリアがいるけど、それでも安心できないわよ。相手はヒースやダラスぐらいの実力者がゾロゾロいるし、それに、最後のアルンガが否定しなかった他種族1名だけ参加可能って件のこともあるわ。あのアルンガのことだから、おそらく、相当な実力者を用意しているはずよ。アルンガと同等、いえ、私と同等かそれ以上の実力者の可能性がとても高いわ」
「それでも、リリー様が勝負を受けたのは勝算が高かったと思ったからですよね?」
ドルシャーは、嬉しそうに尋ねる。
「ええ、私がアルンガを倒すまでの間、メアリーとメリアがその他種族の足止めをしてくれれば勝てると思うわ。だから、勝負を受けたのよ」
頭の中では十分な勝算があったリリーたが、それでも、モヤモヤした不安が拭いきれず表情は深刻になっていた。
「お任せ下さい、リリー様」
「そうだよ!僕とメアリーがタッグを組めば、どんな相手だって足止めはできるよ。それに…」
「メリア!」
メアリーは、慌てて止めに入る。
「あっ!」
慌ててメリアは自分の口を手で塞いだ。
「それにって何?」
気になったリリーは、頭を傾げて尋ねる。
「え、えっと…そ、それは…」
メリアは、戸惑いながら焦る。
「リリー様、メリアが言いたかったのは、強運のの持ち主である彗星君が居れば勝算が上がるということです。そうよねぇ?メリア」
妹に助け船を出したメアリーだったが、冷静さを欠いており、瞬間的に思いついただけの苦し紛れの言い訳だった。
メアリーに普段通りの冷静さがあれば、大成がヒース達に勝ったのは偶然ではないことをリリーが気付いていることを忘れずにいたはずだった。
「う、うん。僕は、そう言いたかったんだ」
作り笑顔を浮かべながら話に賛同するメリア。
(2人共、私に何か隠しているわね)
「そうね、今のところのメンバーは私とメアリーとメリア、ヒース、ダラス、それに彗星は決定ね。他は皆で決めましょうか」
「私も、それが良いと思います」
「そうですね」
「僕も賛成だよ」
ドルシャー、メアリー、メリアの3人は、頷いて賛同する。
「え!?盛り上がっているところすまないのだが、僕は戦闘が苦手なんだが…」
(このままだと、まともに戦うしかないじゃないか!確実にリリーに正体がバレて、ジャンヌ達の約束を破ってしまう)
勝負は公の場なので、変装したりして正体を隠すことができない状況に大成は戸惑う。
大成は、リリーの背後にいるドルシャー、メアリー、メリアの3人に助け船を求めて視線を向けたが、3人共に愛想笑いを浮かべており、両手を合わせて大成にお願いする。
「わかったのだよ。あの日の夜の約束を守るのだよ」
(リリーだけでなく、メアリーとメリアもいるし、目立たない様にサポートすれば勝てる…かもしれない。その可能性に賭けるか)
ため息を吐いた大成は、決意をして了承した。
「期待しているわ、彗星」
リリーは、優しく微笑んだ。
その後、大成達は学園の皆に話して残りの4名のメンバーを決めた。
【獣人の国・【ジャッジメント・スタジアム】】
2日が経ち、決闘の日が訪れた。
【ジャッジメント・スタジアム】の付近は林なのだが、偏狭で全く使われていないため手入れが施されておらず、木々が生い茂て森の様になっていた。
【ジャッジメント・スタジアム】と林から1本の細い川が通っている。
更に奥に進むと崖っぷちになっており、細い川が滝になっていた。
上からだと下の様子が霧で見えないほど深い崖っぷちで、その崖っぷちより先は魔力や魔法が無力化され全く使えなくなるという特殊な区域が広がっているため昔から【世界の果て】と言われていた。
その後、獣王が大部隊を編成して偵察に行ったが、魔法や魔力が一切使用できず、指定ランクの高い魔物もおり、退治する際は生身で戦うことしかできず、大部隊がほぼ壊滅したことにより、後に【死の峡谷】とも言われる様になった。
無事にお互いの観客達の武器所持検査も済み、観客達が決闘を観戦できるように魔人の国から広まったリアル中継ができる大成が発明したマテリアル・ストーンが複数配置されていた。
木製の槍を肩に担いでいるヒースは、観客を見渡してダラスに振り向く。
「この決闘、俺達が勝ったな。ダラス」
「だな」
木の剣で素振りしていたダラスは、木の剣を鞘におさめて肯定した。
メンバーに選ばれた仲間達も、リリーだけでなくメアリーとメリアもいるので勝利を疑うことがなく余裕に満ちた表情で会話をしている。
そんな中、大成、リリー、メアリー、メリアの4人は準備運動していた。
大成は、他のメンバーの皆を見て心配になる。
「皆、緊張はしてないのはいいのだが、逆にその余裕が不安に感じるのだよ」
「ええ、足元をすくわれなければ良いのだけど」
大成に同意するリリー。
「まぁ、戦いが始まる前に気を引き締めれば大丈夫だと思うよ」
「そうね」
メリアは、腕を回しながら大成達に歩み寄り、メアリーも腕を伸ばしながら肯定しながら歩み寄る。
大成達が仲間の気を引き締める前に、アルンガを先頭にアルンガの仲間達がやって来た。
リリーの仲間達に緊張が走る。
「リリー、覚悟はできているよな?」
アルンガは、リリーの前で立ち止まって尋ねる。
「それは、私の台詞よ」
「ククク…。俺はお前を手に入れるこの日を待ち望んでいた」
「残念ながら、勝つのは私達よ」
「俺は、そんな強気なお前が好きだからこそ、どうしようもなく手に入れたい」
「何度も言うけど、はっきり言って私はあなたが大嫌いよ」
アルンガを睨み付けながら完全否定するリリー。
リリーの後ろにいる大成達は、2人の会話を聞いていた。
「まさかアルンガ様からプロポーズされるとは、流石、リリー様なのだよ」
大成は、感心していた。
「そうね。でも、アルンガ様の性格が世界が自分中心に回っていると勘違いしているから女の子にはモテないの」
「そうだね、僕も生理的に無理だよ。ああいう性格の人」
メアリーとメリアは、小言で話す。
しかし、リリーだけでなく、アレックスにも聞こえており、アレックスは激怒していたが無言で大成達を殺気を放ちながら睨み付ける。
メアリーとメリアは少し表情が険しくなったが、大成は何事もなかったかの様な無反応だった。
「チィ、まぁ良い。戦う前に、お前達は降参したくなるだろう」
大成達の殆んど無反応な態度を見たアルンガは、舌打ちした。
「何を言っているの?誰が、戦わずに尻尾を巻いて逃げるのよ」
リリーが反論した瞬間、ドッシンという鈍い音と同時に振動し、その音と振動は一定のリズムでどんどん大きくなり何かが近付いてくるのがわかった。
「な、何だ!?」
ヒースが固唾を飲んだ時、大きな影がリリー達を覆った。
見上げているリリー達の前に、1人の若い巨人が現れた。
「「~っ!?」」
余裕に満ちた表情をしていたヒースや仲間達は、恐怖した表情に一変する。
「う、嘘…」
「何で、巨人族が…」
メアリーとメリアは、巨人を見上げながら信じられない表情で呟く。
「しかも、巨人族でも現巨人族の王の息子のバンダスだわ」
リリーも驚愕した表情で名前を言った。
昔、リリーは獣王と一緒に巨人族との友好関係を結ぶために巨人の国を訪れた際、バンダスと会った。
誰もが驚愕する中。
「おお、これが噂に聞く巨人族なのだよ!初めて見たのだよ!」
大成だけは歓喜し、笑顔を浮かべてバンダスを見上げていた。
「何だ?お前。体格だけでなく、魔力も虫みたいだな」
自分を見て驚かない大成に機嫌を損ねたバンダスは、見下す様な表情で大成を見る。
だが、見下された大成本人は気にしておらず、バンダスの魔力値を正確に言い当てる。
「とても素晴らしい魔力なのだよ!おそらくアルンガ氏の魔力値は7、バンダス氏の魔力値8…。いや、9ぐらいあるのだよ!」
今のアルンガとバンダスは魔力を抑えており、感知されても4か5ぐらいしか出していたかった。
「「~っ!?」」
それなのに、魔力値を言い当てられたバンダスとアルンガが驚愕した表情を浮かべた。
「皆、試合開始まで時間がないのだよ。早く、移動をしないと間に合わないのだよ」
大成は、呆然と言葉を失っているアルンガとバンダスを気にせず、リリー達を開始指定位置に誘導する。
「アルンガ、お互い悔いが残らない様に全力で戦いましょう」
リリーは、指定位置に移動する前にアルンガに話し掛け、呆然として返事がないアルンガに背中を見せてメアリーとメリアと一緒に指定位置に向かう。
「待て!リリー。お前は、もう俺の嫁になるのは明白なんだ。こんな茶番劇やめても良いのだぞ!」
我に返ったアルンガは叫ぶように言ったが、リリーは聞こえていたが振り向きもせずに歩を進めた。
投稿が遅れて申し訳ありません。
次回、リリーとアルンガの運命を懸けた勝負が始まります。




