押される戦線と参戦
ラルドムとメリーゼは、武志と満と戦って優勢に戦っていたが、途中で隆司が現れた。
隆司は武志と満に手を出すなと言い、1人でラルドムとメリーゼと戦い、互角以上の戦いを繰り広げる。
【ニーベル国・西側・森】
異変を察知した大成とメアリーとメリアは、ニーベル国の中央にある商店街を目指して森の中を走っていた。
黄色と薄い緑色の2色に分かれている奇跡の湖を通り過ぎると道幅が狭くなったので、先頭はメリア、次にメアリー、そして、大成の順番で走っている。
メリアとメアリーは、両親が心配で全力で走っているのだが、大成から見れば遅いと感じていた。
(年齢を考えれば、とても速いけど。今の状況だと物足りないな。仕方ないか)
「メアリー、メリア」
「何ですか?」
「何?」
名前を呼ばれたのでメアリーとメリアは、走りながら後ろに振り向いて大成を見る。
「時間が惜しい。申し訳ないけど、失礼するよ」
大成は、謝罪しながら前に走っているメアリー、そして、先頭を走っているメリアを左右の腕で抱えて肩に担ぎ上げた。
「きゃ!?」
「え!?」
大成は、悲鳴をあげるメアリーと驚いてメリアの2人を肩に担いだ状態で走る。
「待って!ちょっと下ろしてよ。とても、恥ずかしいんだけど…」
「ううう…」
暴れるメリアとあまりの恥ずかしさに俯くメアリーの2人は、顔を真っ赤に染めていた。
「今からスピード上げるから、喋っていたら舌を噛むよ」
「「きゃ」」
忠告した大成は、更にスピード上げる。
そして、大成達が暫く道幅が狭い道を走っていた時、前方に1列に立ち止まっている獣人の団体が見えてきた。
「何だったんだ?さっきの地震は」
「どうする?商店街に戻るか?」
「そうだな。結構大きな地震だったから、1度、商店街に戻ろう。建物の下敷きになっている人がいるかもしれないしな」
「わかった」
1人の獣人が指示を出して、他の皆は頷いた。
大成は、気付いていたが速度を落とすどころか更に速度を上げる。
「ちょっと、前!前!前に人が大勢いるよ!」
「彗星君、止まって!ぶつかるわ!」
メリアとメアリーも気付いて慌てて叫ぶ。
大成が足音を消して走っていたので、大成に背中を見せていた獣人の団体は大成に気付かないでいたが、メアリーとメリアの叫び声が聞こえたので、1人の獣人が後ろを振り向いて大成達に気付いた。
「おい!後ろ!後ろだ!」
振り向いた獣人が大成に気付いた時には、大成達が間近に迫っていた。
「2人共、しがみついて」
メアリーとメリアは、大成の指示に従って目を瞑って大成にしがみつく。
「「きゃ」」
2人がしがみついた瞬間、大成は更にスピードを増してメアリーとメリアを担いだまま獣人達の近くでジャンプする。
「ん?」
仲間の言葉で獣人達が振り返った瞬間、自分達の頭上を飛び越える大成達の姿を見て驚愕した表情で目で追った。
2人を担いだまま無事に飛び越えた大成は、何もなかった様に獣人の達に振り向きもせずに商店街へと向かった。
「嘘だろ…これは、夢か…?」
「だな…。人間どころか俺達獣人でも無理だからな…」
「ああ…」
獣人達は、呆然としたまま大成達が去っていくのを眺めながら呟いた。
【ニーベル国・南側】
巨大な土壁の上に待機している隆司達【四天狼牙】の部下の騎士団達は、隆司から引き続き上から監視を命じられていたが隆司の戦いに釘付けになっていた。
騎士団や冒険者、賞金稼ぎは満、悠太、武志に倒されていき、そして、メアリーとメリアの両親であるラルドムとメリーゼは隆司に追い詰められていた。
「流石、隆司様だ。元【セブンズ・ビースト】とはいえ、【アルティメット・バロン】の猛毒を受けるまでは現役だったあの2人を同時に相手しても圧倒しているとは」
「隆司様の能力はわからないが、おそらく何かしらのユニーク・スキルだろうな」
「だな、属性魔法を使用している姿を見たことがない」
「国が堕ちるのは時間の問題だな。ん?なっ!?」
一瞬だったが強風を吹き荒れ、後ろにいた騎士団の1人が強風に煽られて横に振り向くと大成達がいた。
【過去・ニーベル国・西側】
森を抜けた大成達の目の前には、今度はニーベル国を覆って囲っている高さ10mの巨大な土壁がそり立っていた。
「何だろう?あの城壁みたいな土壁は。とりあえず、登るか」
「いや、無理!今度こそ、無理だよ!絶対に無理!」
「~っ!!」
メリアは叫び、メアリーは目に力を入れて瞳を閉じて歯を食い縛る。
「行くよ!2人共、しがみついて」
「「~っ!」」
2人は、歯を食い縛りながら大成にしがみつく。
大成は2人を担いだままジャンプしたが、今回は高さが足りず壁の3分の2のところで失速する。
「「きゃ~」」
失速したことに気付いたメアリーとメリアは、悲鳴をあげた。
しかし、大成は壁の側面を蹴り上げて更に上へと跳び、メリアを担いでいた右手を伸ばして土壁の端に手を掛けることに成功してぶら下がった。
「まだ、しがみついていて。ハァァ!」
「「え?きゃ~」」
大成は2人を担いだまま右腕に力を入れて上に高く飛び上がり、空中で1回転して腰を落として着地する。
大成は、担いでいた2人をゆっくりと下ろした。
「「ハァハァ…」」
緊張が続いていたメアリーとメリアは過呼吸に陥っており、四つん這いになっていた。
「ハァハァ…。本当に死ぬ思いをしたよ」
「ん?けど、早く着いただろ?メリア」
「そうだけど…」
不満な表情になるメリア。
「彗星君の言った通り、早く着きましたけど。もう少し優しくしてくれても」
「わかったよ、メアリー。次は気を付けるよ。あと、近くに敵がいるから気を付けて」
大成は、左右の手を2人に差し伸べる。
座り込んでいるメアリーとメリアは、大成の手を取って立ち上がった。
大成達は、隆司達の部下の騎士団達がいる南側へと向かった。
【ニーベル国・南側】
「なっ!?て、敵襲…ぐぁ…」
大成達に気付いた騎士団の1人が声を荒げると同時に大成はジャンプをして騎士団の顔面を踏み潰して着地した。
仲間の騎士団達は大成達に気付き、振り向いた時には既にメアリーとメリアの姉妹が接近しており、姉妹は剣で反応ができていない騎士団達を斬って倒していく。
「ぐぁ」
「うっ」
大成も騎士団達の首筋に手刀や鳩尾を殴って気絶させながらメアリーとメリアの戦いを見ていた。
メアリーとメリアの動きは学生の動きではなく、まるで訓練を施された精鋭の騎士の様に卓越した動きだった。
「なるほど、やはり【セブンズ・ビースト】の副隊長ぐらいの実力があるか…」
大成は、森の中で先頭を走る姉妹の姿や動きを見ていたので、メアリーとメリアの大体の力量を予想していた。
そして、あっという間に騎士団達を無力化し終えた大成達3人は、巨大な土壁から下を見下ろして戦況を窺う。
騎士団、冒険者、賞金稼ぎ達100人は、隆司達4人と交戦していたが押されており、その周りには200人近くが倒れ、ラルドムとメリーゼは隆司1人に翻弄されて苦戦を強いられ追い詰められていた。
「なるほどな」
隆司の動きを見た大成は、あることに気付き納得した様に頷く。
「「お父様!お母様!」」
隆司に押されている両親を見たメアリーとメリアは、慌てて助太刀に行こうとしたが大成に腕を掴まれて止められた。
「離して下さい!彗星君」
「そうだよ!お父様とお母様が!」
「2人共、落ち着け。2人は、ラルドムさんとメリーゼさんが戦っている相手の人に勝てないとわかっているだろ?」
「知っています。ですが、それでも助けに行きます。たとえ、命を落とすことになってもです」
「僕もだよ!」
メアリーとメリアは、力強い瞳で大成の瞳を見つめる。
「だから、2人とも落ち着いて。ラルドムさんとメリーゼさんの助太刀は僕が行くから任せて欲しい。代わりに、2人はゴーレム使いを倒して欲しい。あの動いているゴーレムは普通のゴーレムと違い、体内に人を取り込んでいるみたいだ。だけど、2人の実力なら体内に閉じ込められている人を傷付けずに助けられるはずだ」
「わかりました。お父様とお母様をよろしくお願いします、修羅様。メリアも、それで、良いでしょう?」
「うっ、わかったよ。メアリーがそう言うなら…」
「じゃあ、そうと決まれば行動開始だ!」
「はい!」
「うん!」
大成に賛同するメアリーとメリアは、大きな声を出して行動に移った。
【悠太VSメアリーとメリア】
戦うのが飽きた悠太は、自身の周りに召喚したゴーレムが4体を待機させて他のゴーレム10体に戦わせ、自分は地面に肘をついて横になっていた。
「ふぁぁ、飽きたし退屈だな。戦いに参戦してもな、雑魚相手に魔力を消費して疲れるのは何だか嫌だし。はぁ~、早く、俺のところに元【セブンズ・ビースト】が来ないかな?来ないなら、さっさと終わって欲しい。本当に暇だ。このままだと暇人から暇神にクラスチェンジしそうだ」
手を口に当てて欠伸をした悠太は、ため息を吐く。
その時だった。
「ひっ」
「ゴォォ!」
ゴーレムが転倒した騎士団に攻撃しようとした時、メアリーとメリアは土壁の側面を走りながら降下していき、転倒して倒れている騎士団を殴ろうとしているゴーレムに飛びかかる。
「ヤッ!」
「ハッ!」
メリアは剣でゴーレムを振り上げた右腕を切断し、メアリーはゴーレムの左腕を切断した。
そして、2人は取り込まれている獣人を傷つけない様に流れる動作で剣を素早く振っていきゴーレムの表面を削る。
「ゴォォ…」
削られたゴーレムは、土に返り取り込まれていた獣人は解放された。
解放された獣人は、己の限界を超えた力を強制的に行使されていたため、肉体は耐えきれず血塗れになって倒れた。
「ありがとうございます。メアリー様、メリア様」
「感謝は良いから、早く此処から離れて!」
「は、はい!」
メリアに言われて、騎士団は1度お辞儀をしてすぐに立ち去った。
「ひ、酷い…」
解放された獣人を見たメアリーは、両手を口元に当てて呟く。
「何だ?お前達は。俺のゴーレムを倒しやがって」
悠太は頭を掻きながら、ゴーレムを連れてメアリーとメリアに歩み寄る。
「君こそ、何でこんな酷いことを平気でできるんだ!」
悠太を睨みつけながらメリアは殺気を放つ。
「ん?獣に人権はないからな。俺も、ちょうど暇だったから特別に相手してやる。まぁ、元【セブンズ・ビースト】の奴らを期待していたが、俺のゴーレムを倒せるぐらいの力量があるみたいだし、少しは楽しめそうだな」
悠太は、不適な笑みを浮かべる。
「皆さんは直ちに此処から避難して下さい。あの人の相手は、私達がします」
「ですが…」
「ここは、僕達に任せて!」
「わかりました。お気をつけて。我々は他の場所へ行き、援護しに行くぞ!」
「「オオ!」」
助けて貰った騎士団は言い淀んだが自身に満ちたメリアの表情と力強い言葉になっとくし、騎士団や冒険者、賞金稼ぎ達は隆司達の方へと向かった。
「邪魔者は居なくなった様だし、始めるぞ。サンド・ウルフ」
悠太は、腰を屈めて右手を地面について土魔法サンド・ウルフを唱える。
悠太の周りの地面から砂の狼10匹が現れた。
「行け!あの少女2人を喰らい尽くせ!」
悠太の指示によって、狼達は生きた狼の様にメアリーとメリアに向かって走りる。
「「アクア・スピア」」
メアリーとメリアは、水の槍を10本ずつ召喚して放った。
しかし、まるで狼達は生き物様に動いて水の槍を避け、そして、メアリーとメリアに飛び掛かる。
「嘘!?何なの?この魔法。来るわよ、メリア」
「まるで、生きた狼だよ!」
「ヤッ!」
「ハッ!」
今まで見たことがない魔法を目の前にした2人は驚愕したが、すぐに思考を切り替えて自分達も前へ出ながら剣で狼を斬り倒していく。
「やるな。これは、どうだ?アイアン・スワロー」
悠太は両手でベルトのホルダーからスロー・ダガーを3本ずつ取り出して魔力を込めて投擲した。
投擲した瞬間、ダガーは燕の姿に変化して空中を飛び回りながらメアリーとメリアに襲い掛かる。
「くっ」
「うっ」
メリアとメアリーは、剣で燕を斬ろうとしたが燕の体は鉄でできており、接触した時に火花を散らして弾くのがやっとだった。
更に、まだ倒していない狼やゴーレムも参戦し、メアリーとメリアは悠太に近づくことができずに戦いは硬直する。
「この燕をどうにかできれば」
メリアが燕に気を取られている隙に、狼が襲い掛かる。
「メリア!」
狼に気付いたメアリーは、慌ててメリアに駆けつけてメリアの間近に迫った狼を斬り倒した。
「ありがとう、メアリー。でも、このままだとジリ貧になるから、僕がアイツに接近して倒すよ。だから、援護してくれないかな?」
「わかったわ。でも、無理はしないでメリア」
「もちろん!行くよ、メアリー」
メリアは、悠太に向かって走る。
「サンド・ウルフ、行け!」
悠太は、砂の狼4匹を召喚して向かってくるメリアに襲い掛からせる。
「アクア・ショット」
燕の攻撃を避けたメアリーは、左手を前に伸ばして複数の水の弾丸を召喚し、前方にいるメリアに当たらない様に放つ。
水の弾丸はメリアの横を通り抜け、前にいる狼達に襲い掛かる。
狼達はジャンプしたり、左右に移動して避けた。
「流石!メアリー」
メリアは、ジャンプして空中にいる身動きができない正面にいる狼2匹に接近して剣で斬り倒した。
左右に移動した狼1匹ずつは、メリアを挟み撃ちするかの様に襲い掛かる。
正面狼2匹メリアは右に振り返りながら剣を振り、右側から襲ってくる狼を撃退したが、反対側の狼に対応が間に合わなかった。
しかし、メアリーがアクア・スピアを唱えており、メアリーが放った水の槍はメリアの背後から襲い掛かっている狼の横腹に突き刺さった。
水の槍が刺さった狼は、転がりながら砂へと戻った。
「ナイス援護だよ!メアリー」
メリアは振り向かずにお礼を言いながらジャンプして悠太に迫り、剣を振り下ろそうとした。
悠太は、自身の周りに身を守るゴーレムも狼、燕もいない状態なのだが、口元だけ不適な笑みを浮かべる。
狼達と戦いながら様子を窺っていたメアリーは、悠太の不適な笑みが見えたので慌ててメリアを止めようと大声を出す。
「メリア!ダメ~!」
「え!?あっ…」
メアリーの言葉で、メリアは罠だと気付いたが遅かった。
「掛かったな!」
悠太は、仕掛けた罠に獲物が掛かった時の様な醜悪な笑みを浮かべた直後、ジャンプしているメリアの真下の地面から砂の大蛇が大きな口を開いてメリアを飲み込もうとした。
「まずは、1匹だな」
メリアを仕留めたと確信した悠太だったが、突然、気配を感じてバックステップをすると同時に、上空から矢じりが飛んできて砂の大蛇の額に矢じりが突き刺さった。
突き刺さった矢じりから、凍りついていき大蛇は完全に凍りついて崩れた。
地面に着地したメリアも、メアリーの傍に移動した。
「誰だ!?」
悠太は上空を見上げたと同時に、上空からユーリアが降りてきてメアリーとメリアの前に着地した。
「「おばあちゃん!?」」
予想外な登場人物にメアリーとメリアは、驚愕して大声が出した。
【武志、満VS騎士団、冒険者、賞金稼ぎ】
ラルドムとメリーゼは連携しながら隆司と戦い、近くにいる武志と満は騎士団や冒険者、賞金稼ぎ達の邪魔が入らないように周囲の騎士団達を倒しながら隆司達の戦いを見ていた。
「あいつら、粘るな」
武志が太刀を振り抜き、一振りで騎士団や冒険者達4人をまとめて斬り倒す。
「ああ。だが、そろそろ何をしても敵わないと悟り絶望する頃だ。風神掌」
満は右手を出して体を捻り、体全体を使ってその場で回転しながら最後に右腕を振り抜いた。
満の前方に巨大な竜巻が発生して騎士団達を切り裂きながら飲み込んで吹き飛ばす。
武志と満の周りに立っている者は誰もいなくなり、武志と満は隆司達の戦いを観戦することにした。
「そうだな。隆司の戦いを見ていると、あの頃を思い出してしまうな」
武志は、腰を落として地面に座り込みながら苦笑する。
「ああ、俺もだ。俺達4人が召喚されたばかりで初めて隆司に会った頃だな?」
思い出した満も、苦笑いを浮かべながら武志の近くに座り込んだ。
「そうだ。俺達は、上目線でリーダー気取りの隆司が気に入らず喧嘩して、3人掛かりで隆司に挑んだよな。だが、俺達は殺されかけた」
「隆司に勝てる奴なんているのか?」
「おそらく、居ないだろう。可能性があるとすれば、おっさん、獣王レオラルド、妃ネイだろうな」
「そうだな、獣王の弟のアレックスは俺達と同じぐらいだからな」
「終わったな、【流水の騎士】が太股を怪我した」
「ああ」
武志と満は、自分達で決着をつけたかったので複雑な面持ちになっていた。
【ラルドム、メリーゼVS隆司】
ラルドムとメリーゼは、攻撃する度に隆司からカウンターで攻撃されたり、特に隆司の不気味なほどの正確な先読みを前にして攻撃の手数が減っていた。
そして、妻のメリーゼを庇うようにラルドムは隆司に攻撃したが、隆司は避けて剣でラルドムの左太股に刺してラルドムの太股から血が舞散る。
「終わりだな」
隆司は剣を振り上げたが、すぐに刀身を下に向けて自身の背中を庇うように動かした瞬間、隆司の刀身が気配を消して近付いていたメリーゼの剣と衝突した。
「嘘…この攻撃も通じないなんて…」
気配を消して隆司の背後に接近に成功し、攻撃するタイミングも完璧だったのに防がれてメリーゼは驚愕する。
「惜しかったな。良い攻撃ではあった」
「メリーゼ!アクア・ショット」
ラルドムは無数の水の弾丸を放ち、隆司を横に飛んで避けさせてメリーゼから離した。
その間に我に返ったメリーゼは、夫のラルドムの傍に移動した。
「ありがとう、あなた」
「気にするな。だが、一体どうなっているんだ?まるで、此方の動きを完全に把握されているみたいだ」
ラルドムは歯を食い縛って太股の激痛を耐えながら気付いたことを話す。
「ええ、ミラージュも霧も効果がなかったわ」
「何かあるはずなんだが…」
「そうだけど。色々試したけど、特別な瞳力の持ち主と思ったけどそうでもないし、音や熱感知でもないわ」
ラルドムとメリーゼは、隆司の能力の秘密を知らないと勝てないと判断して、爆発を起こして砂埃で視界や音を遮断をしたりなど色々と戦いながら試していたが未だにわからないでいた。
「時間がない、行くぞ」
隆司は、体勢を低くしてラルドムとメリーゼに接近する。
「メリーゼ!?」
「私に任せて!あなた」
メリーゼは、夫のラルドムを庇うように前に出て剣を構えて隆司に向かって走る。
「ミラージュ、ハッ」
メリーゼは途中でミラージュを使用して2人に分身し、迫ってきた隆司に剣を振り下ろす。
隆司は右に避けて剣を横に振って反撃したが、メリーゼはギリギリだったが剣で防ぐことに成功した。
しかし、隆司はメリーゼの横腹を蹴り飛ばし、メリーゼはラルドムの方向へと吹き飛ばされた。
「避けて!あなた!」
吹き飛ばされたメリーゼは、自分で軌道を変えられなかったので叫んだ。
だが、ラルドムは妻のメリーゼを優しく受け止めるが、左太股を怪我しているラルドムはバランスを崩して2人は倒れた。
そして、下になったラルドムは顔を上げると目の前には隆司が居り、剣を逆手に持ち替えた状態で見下ろしていた。
「お前達は頑張った。誇って良い。この俺が、これほど時間が掛かったのは、お前達が始めてだからな。死ね!」
隆司は逆手に持った剣で2人を串刺しにしようと振り下ろしたが、串刺しする寸前で気配を完全に消した大成が隆司の隣に立っており、隆司の振り下ろした刀身を途中で人差し指と中指と親指で挟み止めた。
刀身は、メリーゼの背中の手前でギリギリ止まっていた。
隆司は剣を手放し、大きくバックステップをして距離を取る。
「何者だ!?」
今まで落ち着いていた隆司が、少し取り乱す。
「僕は神崎大成だ。この世界では、【魔王修羅】と呼ばれている。いや、呼ばれていたと言った方が正しいか。今度は俺の相手をして貰おうか」
大成は、右手の人差し指と中指と親指で挟んで受け止めた剣を投げて隆司に返した。
次回、決着がつきます。
もし宜しければ、次回もご覧下さい。




