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収穫祭と襲撃

大成は獣王レオラルドと妃ネイに勧められて、収穫祭があるニーベル国へと向かった。


そこで、レオ学園の同じクラスのメアリーとメリアの双子の姉妹に出会い、大成は空いている宿がないと知り姉妹の家にお世話になることになった。


大成は、泊めて頂くお礼にビーフシチューを作り、【アルティメット・バロン】の猛毒と呪いを受けていた姉妹の両親の呪いを【サンライズ】で解呪した。

【獣人の国・ニーベル国・ニーベル学園・グランド・収穫祭1日目】


ニーベル国の中央付近にある唯一の学園のニーベル学園のグランドに収穫祭に参加する大勢の人が集まっていた。


皆の前には腰辺りの高さの教壇があり、ラルドムは魔鉱石で作ったマイクを持って教壇に上がった。


「本日は晴天に恵まれ、この様な素晴らしい収穫祭を開催する事が出来ることを大変嬉しく思っております。これも、神様のお蔭と皆さんのお蔭、それに収穫祭の為に準備をしてくださった方々のお蔭だと心から思っております。こうして多くの方々が足を運び、そして収穫祭を盛り上げて頂けることに、心より感謝申し上げます。では、待ちに待ち兼ねた収穫祭を只今より開始します!」

ラルドムは大きな声で話し、最後に右拳を握り腕を力強く空へと掲げた。


「「オオ!」」

ラルドムの開始の合図と共に集まった皆が、声をあげて勢いよく散らばっていった。




【ラルドム家の前】


国中あちらこちらに店が立ち並ぶ中、大成とラルドム達は、家の前でビーフシチューとワインの店を開いており、特にビーフシチューは匂いで客を呼び寄せ、その客が更に客を呼び寄せて大繁盛していた。


大成達の目の前には、終わりが見えないほどの客の行列ができており、大成達は次々にビーフシチューや自家製の新作品のワインを売っている。


「凄いな、この集まりは。すぐに完売しそうな勢いだな」

大成は、次々に大きな鍋に入っているビーフシチューをお玉で掬い、木の器に入れてメアリーとメリアに渡していく。


ラルドム達に自分のことを話した大成は、今はリリーがいないので眼鏡などを外してオタクを演じるのをやめていた。


「今年は、昨年よりも比べ物にならないほどお客さんが多いよ。これも君のお陰だよ。ありがとう」


「役に立って良かったよ」


「何だか巻き込んでごめんない、彗星君。せっかく、収穫祭を楽しむために来てくれたのに…」


「いや、これはこれで楽しいから気にしないで、メアリー。それに、皆が美味しそうに食べいる姿を見ていると何だかこっちも嬉しくなるしね」


「ありがとう。そう言ってくれると助かるわ」

メアリーは、頬を赤く染める。


「う~。こんなんだったら、もう少し勉強しとけばよかったよ」

あまり勉強が好きじゃないメリアは、数えきれないほどのお金の計算することになって頭がパンクしそうになっていた。



大成と姉妹から少し離れた隣では、姉妹の両親であるラルドムとメリーゼ、それにメイド2人がワインを販売している。


「こんなにお客様が集まったのは、彗星君のビーフシチューのお蔭だわ。ねぇ、あなた」

忙しい中、笑顔を絶やさずにワインが入っている木のコップを客に渡して接客する母親のメリーゼ。


「ああ、そうだな。よいっしょっと…」

蔵から追加のワイン樽を肩に担いで運んでいた父親のラルドムはワイン樽を設置して肯定する。


2人の言う通り、客はワインを販売しているラルドムとメリーゼ達よりも大成達の方に片寄っていたが、ワインも毎年よりも売り上げが向上していた。


現在、誘導を行っているメイド3人も始めはワインとビーフシチューの販売を手伝っていたが、想像以上の客が集まり、順番待ちしていた客同士が騒動を起こし始めたので、メイド5人のうち3人が誘導に回ったのだった。



「だが、正直に言えば、ちょっと悔しいな」

肩を落とすラルドム。


「そうね。でも、あのビーフシチューにも私達が作ったワインが使用しているわ」

そんな落ち込む夫の背中に身を寄せるメリーゼ。


「ああ、そうだったな…」

ラルドムは目を閉じ、気持ちを入れ換えて肯定する。



「あ、あの…。いちゃついているところ、申し訳ないのだが、ワインを売って貰えないかね?」

ワインを待っている客は、ラルドムとメリーゼに話し掛けた。


その隣では、メイド2人が一生懸命に動いている。


「も、申し訳ありません。お待たせしました。こちらですね。ありがとうございました」

慌てて注文されたワインをお客に渡すメリーゼ。



収穫祭が始まって2時間後には、ビーフシチューは完売した。


「お父様、お母様、私達が手伝いますので、休憩して下さい」

「僕も手伝うよ!」

「ラルドムさん、メリーゼさん代わりますよ」

片付けが終わった大成達は、ラルドム達の店へと駆け寄る。


「あなた達、気持ちだけで大丈夫よ。それに、せっかくの収穫祭なのだから彗星君と一緒に回って満喫しないと損するわ」


「母さんの言う通りだぞ!お前達は、滅多にこっちへ帰って来れないんだ。収穫祭の時ぐらい満喫しなさい」

娘の変化に気付いていた母のメリーゼは笑顔を浮かべて提案し、父のラルドムも賛同する。


「わ、わかりました。じゃあ、メリア。あの店に行きましょう」


「そうだね、わかったよ!こっちだよ。オススメの海鮮料理があるんだ!」


「メリア、ちょっと待ちなさい!もう!」

メアリーは頷き、メリアは大成の手を取って走り出し、メアリーは急いでビーフシチューが入った弁当箱を持って2人の後を追いかける。




【ニーベル国・西側・森】


大成はメリアに手を引っ張られ、森が見える西側へと案内される。


始めは店もあったが、奥に行くにつれて店の数が減っていき、とうと店や人も何もない森の中に入り、子供の肩幅2人分ぐらいの細い獣道を通って更に奥へと進む。


獣道を通って行くと片側が崖になっていたり、急斜面になっていたりしていた。


「そうそう、案内したい店に行く途中に奇跡の湖があるんだ。その奇跡の湖に、もう少しで着くよ!」

楽しそうに笑顔を浮かべているメリアは、大成の手を繋いだまま案内する。


「奇跡の湖?」


「ええ、2色に分かれた湖なの」

大成の後ろにいるメアリーが答える。


「へぇ~、それは、とても珍しいな。だから、奇跡の湖なのか」


「着いたよ!」

メリアの声と共に細い獣道が終わり、その先には大きな湖があった。


「わぁ~、綺麗な湖だ」

湖を見た大成は、感動した。


湖は、片方が黄色でもうかた方が薄い緑色だった。


「でしょう?」

自慢気に胸を張るメリア。


「何故この湖だけが2色になっているのか未だにわからないままになっているの。神秘的でしょう?」

メアリーは、目を輝かせながらロマンティックに浸る。


「それは、おそらく黄色の方は地底に硫黄や酸化鉄の天然物質があって、それが影響して黄色になっていて、薄い緑色の方は水に塩分があって地底に銅鉱物を含む沈殿物があってそれに反応して薄い緑色になっているんじゃないかな?」

大成は、顎に手を当てて説明した。


「うぁ~。君って、乙女心を容赦なく粉砕するね。僕は平気だけど、メアリーは深刻なダメージを受けているよ。ほら」


「え!?」

大成はメアリーに振り向くと、メアリーは固まっており、笑顔が引きつっていた。


「あ…。そ、その、ごめん。メアリー」


「気にしていないわ。私は平気よ」


「そ、そう?」


「メアリーが許してくれて助かったね。まぁ、とにかく地底にある鉱石が左右違うということだよね?」

難しいそうな表情をしているメリアは、右手の人差し指を立てて顎に当てたまま考えて尋ねる。


「うん。ちなみに、水槽や水瓶など水を入れている場合、中に銅を入れて置くと防臭効果と殺菌効果があって藻やボウフラの発生を抑制する効果があるんだ。だから、畑や花の水を溜めている場合は銅を入れて置くと良いよ」

大成は、頷いて肯定した。


「へぇ~、そうなんだ知らなかった。君は、本当に何でも詳しいんだね」

メリアは微笑む。


「まぁ、今まで色々とあったからね」

過去を思い出した大成は、切ない面持ちになった。


「あっ、そうだ!案内の途中だった。こっちだよ!」

雰囲気を変えるためメリアは大成の手を取り、湖の横を通り抜けて進む。


今度は、大きな幅広い川が流れており、傍には巨木と一体化した大きな店が一軒あった。


大成達は、川沿いを歩いて巨木と一体化した大きな店に辿り着いていた。


「ここが、僕達が案内したかった店なんだ!」

メリアが案内した店は完全な和風造りの店だった。


大成達は、入口ののれんを掻い潜り店の中に入ると各個室になっていて所々に数人のお客がいた。


「「こんにちわ、お婆ちゃん」」


「おや、メアリーちゃんにメリアちゃん。今年も来てくれたんだね。いつもの特等席は空けているから大丈夫だよ」


「え!?良いの?お婆ちゃん」

メリアは、驚いた表情で尋ね、お婆さんは笑顔で頷いた。


「あの、お婆ちゃん。私達は、今年はお父様とお母様が病に倒れたので予約を入れていないのですが」

恐る恐る尋ねるメアリー。


「大丈夫だよ。メアリーちゃんとメリアちゃんは、幼い頃から家族で毎年こんな偏狭な地にわざわざ足を運んでくれているからね。今年は、予約がなかったから、気になってお客様に尋ねたらラルドム様とメリーゼ様が病を患ったと聞いた時は、すぐにでも、駆けつけたかったのだけど、もうこの年だと1人では森を抜けることが困難でね。だから、1日でも早く完治する様にと祈っていたんだよ。他に私にできることを考えた時、ラルドム様とメリーゼ様が元気になった際に、いつもの特等席で食事をできるように準備しておくことぐらいしか思いつかなかったから、今年はあの部屋だけは予約は受け付けないようにしたのさ。だから、大丈夫だよ。まぁ、そもそもこの場所を知っているのは極僅かな人達だけどね」


「「あ、ありがとう。お婆ちゃん大好き」」

メアリーとメリアは、お婆ちゃんに抱きついた。


「2人は、私にとって孫みたいな存在だからね」

お婆さんは、目を細めながら姉妹の頭を優しく撫でる。


「私も、昔からお婆ちゃんのことはお婆ちゃんと思っています」


「僕もだよ、お婆ちゃん」

メアリーとメリアは、ギュッと強く抱き締めた。


「2人共、本当に大きくなったね。気がつけば、彼氏ができる年頃になって。私は嬉しいよ」


「か、彼氏じゃないです」

「そ、そうだよ」

いつも通り姉妹は即答したが、しかし、いつもと違い、2人は頬を赤く染めてモジモジしていた。


「まぁ、2人共初恋みたいだがら、慌てずにゆっくり一歩また一歩と進展していけば良いと私は思うよ」

お婆さんは、優しく話した。


「う~」

「~っ」

2人は更に顔を真っ赤に染め、メリアは呻き、メアリーは恥ずかしそうに顔を附せる。


「えっと、自己紹介が遅れてすみません。彗星って言います。交友を深めるため魔人の国から来ました」

雰囲気を変えるため大成は、自己紹介をした。


「おや?彗星君は、人間なのに魔人の国に住んでいたのかい?」


「はい」


「まぁ、ここで立ち話はなんだから料理を食べながら聞かせて貰えるかい?」


「もちろんです」


「メアリーちゃん、メリアちゃん。ごめんだけど、彗星君をあの部屋へ案内して欲しいのだけど良いかい?」

「わかりました」

「任せて!」

お婆さんに頼まれた姉妹は、大成を2階にある部屋へと案内する。




【ニーベル国・お婆さんの店・2階】


案内された部屋はドアはなく、襖で仕切られておりメリアは襖を開ける。


大成が案内された部屋は広く、部屋1面に畳が敷いてあり、中央には庵があった。


「わ~、完全な和風造りの部屋だな。何だか落ち着く」


「でしょう。それよりも、窓から外を見て欲しいな!」

メリアは大成の手を取り、窓際に案内する。


窓際からは、大きな滝があり、その周りには桜に似た花を咲かせている木々が生い茂っていた。


「凄いな。滝が正面に見えて川を見下ろせるとは何という贅沢な絶景」

大成は、外の景色を見て見とれた。


「フレイム」

メアリーは庵に歩み寄り、炎魔法フレイムを唱え、指先から火を灯して庵に火を灯した。


大成達は、庵を囲む様に座った。


「何だか、獣人の国の建物や内装は僕がいた世界にとても似ているんだよな」

部屋の内装を見渡した大成は呟く。


「じゃあ、君は神様と同じ世界にいたんだ」


「神様?」


「ええ、そうよ。簡単に昔話するわ。ニーベル国は遥か昔、誰も手がつけられず天災と言われるほどの強い魔物がいました。その魔物は次第に殺戮を楽しむ様になり、獣人達は未曾有の危機に陥りました。そんなある時、1人の老人が現れ、老人は1人で魔物と戦い、そして、魔物を討伐しました。その後、老人は魔物討伐しただけでなく、3日間という短い間でしたが、私達獣人に建物の建て方や畑など作物の育て方を教えてくれました。そして、老人はニーベル国から旅立ちました。という昔話があるの。で、昔話に出てきた老人が滞在していた日が収穫祭の日になったのよ」

メアリーは昔話をして説明した。


「へぇ、そうなんだ。神様ね…」

(その神様は、おそらく俺と同じ世界の人間だな。そう言えば、ラルドムさんの演説の時、神様のお蔭とも言っていたな)

大成は呟きながら、ラルドムの演説を思い出していた。



そんな時、襖が開き、お婆さんが部屋に入ってきた。


「待たせたね」

お婆さんは、大きなお盆を持ってきており、お盆には串刺しになった3匹の魚を乗せた大きな皿がある。


皿の上の3匹の魚は、まだピクピクと動いていた。


お婆さんは大成達に歩み寄り、火が灯してある庵の周りに串刺しにした魚を刺していく。


「そういえば、自己紹介がまだだったね。私の名前はユーリア。おばあさんでも構わないよ。改めて宜しくね、彗星君」


「わかりました。こちらこそ、宜しくお願いします」

大成とユーリアは笑顔を浮かべて握手した時、廊下から少女の声が聞こえてきた。


「失礼します」

メイド服を着た従業員が正座して襖を開けて頭を下げる。


(作法は合っているけど、服装が…)

大成は、メイドの服装を見て突っ込みそうになった。


メイドが持ってきたお盆には、刺身を盛った大皿と醤油が入った小皿をのせて大成達に歩み寄り、料理を置いていると、別のメイド達もそれぞれのお盆に煮付け魚など魚料理を運んできて料理を並べていく。



「この魚は、そこの川から釣った魚ですか?」


「そうだよ、新鮮が1番だからね」

大成の質問にユーリアは、笑顔で頷いた。


「ねぇ、お婆ちゃん。久しぶりにアレを見せてよ」

目を輝かせながらお願いするメリア。


「アレ?」

大成は、頭を傾げる。


「そうだね。わかったよ、メリアちゃん」

「やった~!」

ユーリアは立ち上がり、窓際に移動して窓を開けてポケットから矢じりの形をした鉱石を2つ取り出し左右の手に1つずつ握った。


「彗星君、立って」

「こっちだよ!」

メアリーとメリアは大成の手を取り、ユーリアの傍に移動する。


「見ててよ、お婆ちゃんは凄いんだから」


「ハッ!」

笑顔を浮かべて優しい印象のユーリアは、目が鋭くなり、川に向けて右手の矢じりを投擲し、すぐに左手に持っている矢じりも投擲する。


ユーリアが投擲した矢じりを良く見ていた大成は、ユーリアの魔力が糸状になっており、投擲した矢じりと繋がっていることに気が付いた。


「ハッ!」

ユーリアは、左右の腕を大きくクロスして引くと2つの矢じりに魚が1匹ずつ刺さっており、ユーリアの手元に引き寄せられる。


「お見事です!」

「流石、お婆ちゃん!」

「何度見ても、凄いです!」

大成達は拍手しながら褒め、メイド達も拍手する。



「いや、彗星君なら私よりも凄いことができると思うよ」

笑顔を浮かべて普段通りに戻ったユーリアは、大成を見る。


「「え!?」」

ユーリアの突然の言葉に、大成達は驚愕して固まった。


「今日、偶々チャルダ国で働いている騎士団様方が午前中に訪れてね。謎の凄い少年が現れて助かったという話を聞いたのさ。その容姿が彗星君と瓜二つだったからね」

ユーリアは、従業員のメイド達に聞こえない様に小声で話す。


「お婆ちゃん、彗星君のことは内緒にして頂けませんか?」


「何か事情があるみたいだね。わかったよ、メアリーちゃん。それで、もし良ければだけど、1つだけお願いを聞いてくれないかね?」


「何ですか?僕にできることならやりますけど」


「私が見せた技を超えるものを、是非、見せて貰いたいのだよ」


「わかりました」

大成は、ユーリアの横に移動してポシェットからクナイを8本取り出して6本は左右の手の親指以外の指の間に挟み、残り2本はクナイの端に穴があいてある所に左右の小指を通して握り締めて落ちない様にして胸元で腕をクロスして構える。


「ハッ!」

狙いを定めた大成は、クロスにした腕を外側に振り抜くと共に指の間に挟んだクナイ6本だけを投擲し、再び腕をクロスにする際、左右の小指で握っていた2本のクナイを投擲した。


後から投擲したクナイ2本が、先に投擲したクナイ6本に追いついてぶつかり合っていき、全てのクナイの軌道がズレて、ほぼ一斉に着水する。


「よっと!」

大成は、ユーリア同様に全てのクナイに魔力の糸をつけており、思いきり引っ張ると投擲したクナイ8本全てに魚の頭部に刺さっており、大成の胸元に集まった。


下にいた客は、すぐに外に出て外から2階にいる大成を驚いた表情で見る。


「これでいいですか?」

「「~っ!」」

大成はユーリアに尋ねたが返事がなかったので振り向くと、大成の予想外の神業を見た誰もが呆然と立ち尽くしており言葉を失っていた。



「ありがとう、彗星君。素晴らしいものを見せて貰ったよ」

笑顔で頭を下げるユーリア。


「満足して頂けて嬉しいです。もし良ければ、この魚を料理に使って下さい」

大成は、魚をメイド達に渡した。


「ありがとう、彗星君。助かるよ。さぁ、新鮮なうちに召し上がれ」


「「頂きます」」

大成達は、刺身を食べる。


「そうでした。お婆ちゃん、これ私達が作ったビーフシチューって料理なの。もし、良かったら温めて食べて」

メアリーは、持ってきたビーフシチューが入った弁当を渡した。


「ありがとう。美味しく頂くよ」



「うん、身がプリプリしてて美味しいな」


「でしょう。も~らい!」

メリアは目を光らせて、大成の刺身を横取りする。


「こら、メリア。行儀が悪いわよ。ごめんね、彗星君。代わりに私のを」


「いや、気にしないで良いよメアリー。頼めば済むことだし」

大成達は、刺身など料理を満喫した。




【ニーベル国・南側】


異世界人の隆司、満、武志、悠太は、数十人の騎士団を連れてニーベル国に辿り着いていた。


「やっと、着いたな。遠くから見た時は、ど田舎だと思ったが店が多く人も多いみたいし、やはり国だけのことはある」

隆司は、民家の家の屋根のに登って町並みを見ている。


「まぁ、当然だろ。入口にあった看板には収穫祭開催と書いてあったし、今日はちょうど祭みたいだからな。本当に面倒な日に来たもんだ」

満は、ため息をした。


「まぁ、そう邪険するな、満。これも何かの運命だと思うぞ。今日この日から、ここは俺達の国になって、収穫祭という名目の祭は、これからは建国記念日祭に変わるんだ」


「それは良いけどさ、城や城壁がないのは残念だよな」

武志は、肩を落とす。


「そんなものは、支配した後で造らせれば良いだけだろ」

悠太は、武志の肩に手を置いた。


「それもそうか」


「そうと決まれば、さっさと支配しようぜ」

「そうだな」

「「ああ!」」

悠太の意見に隆司達は賛同する。


「まずは、救援を求められたり、援軍が来られると面倒だ。頼むぞ、悠太」

隆司は顔は動かさず、視線だけ悠太に向けた。


「マジかよ、隆司。お前は簡単に言うけど、この国は城壁がないから全体を全て囲うことになるんだぞ。正直、魔力が馬鹿みたい消耗するから嫌なんだけど」


「まぁ、そう言うな。国全土じゃなく、人が集まっている中央だけで良い。それに、俺が見つけたムーン・ハーブで作ったポーションをやる。お前だって途中で援軍とか来られて面倒になるのは嫌だろ?」

隆司は、ポシェットからビンに入ったオリジナル・ポーションを取り出して悠太に投げて渡す。


「はぁ、わかったよ。アース・ウォール」

ポーションを受け取った悠太は、ポーションを胸ポケットに入れ、しゃがんで両手を地面につけて土魔法アース・ウォールを唱えた。


地響きと地鳴りが起き、悠太と隆司達の足元の地面が盛り上がり、更に悠太達を中心に左右から順番に大地が盛り上がっていった。


そして、ニーベル国から誰も逃がさない様に高さ10mの巨大な土壁が国中を囲った。




【ニーベル国・中央商店街】


「きゃぁ」

「うぉ、な、何だ!?地震か!?」

突然の地震によって、収穫祭に参加している人達は倒れたり、建物などにしがみついた。


やがて地震がおさまり、気が付けば巨大な土壁がニーベル国を囲う様に反り立っていた。


「くっ、一体何だったんだ?」

獣人達は、ゆっくりと立ち上がる。


「何だアレは!?何かのイベントか?」


「そんなこと言っていなかったわよ」


「ん?おい!あそこに誰かいるぞ!」

1人の男性が土壁の上にいる隆司達を発見して指を指した。


「嘘だろ…。あれは、まさか…」


「し、四天狼牙だ」


「に、逃げろ~!」

収穫祭に参加している一般人は隆司達を見て我先にと慌てて逃げ出し、騎士団や自信がある冒険者、賞金稼ぎは逆に隆司達の方に向かった。




【ニーベル国・南側】


「おお、騎士団様だけでなく、冒険者様や賞金稼ぎ様のご到着だ」

武志は、騎士団達を見下す。


「わざわざ殺されに来て、ご苦労なこった」

不憫と思った悠太は、ため息を吐いた。


「なぁ、隆司。歯向かう奴は全員殺しても良いんだよな?」

今まで面倒くさがっていた満は、今は獰猛な笑みを浮かべながら舌を出して口回りをペロリっと舐める。


「ああ、だが、住民はなるべく殺すなよ。国を支配しても下僕が居なければ意味がないからな」

隆司は、表情を変えずに忠告をした。


「それもそうだな。わかった」


「我々は、どうしたら良いですか?」

隆司達についてきた騎士団の1人が尋ねた。


「お前達は、ここで待機だ。というより、この高さから飛び降りれないだろ?敵が来たら教えてくれ」


「それより、隆司。お客様がお待ちかねだぜ」

満は、自身の手をボキボキと鳴らす。


「そうだな。さぁ、虐殺パーティーの始まりだ!」

隆司の開始の合図と共に、満、武志、悠太の3人は土壁から飛び、それぞれ別の場所に着地した。



飛び降りた満は全身に風を纏い、ゆっくりと着地した。

周囲には賞金稼ぎがおり囲まれる。


「お前達が良い装備していたから、来てみたが外れだな」

満は、賞金稼ぎを見渡して肩を竦める。


「何だと!」


「1人で、この人数を相手にするつもりか?俺達を舐めるな!」

激怒した賞金稼ぎ達は剣や斧など武器を手に取り、満に襲い掛かる。


「風狼牙」

風を纏っている満は、獰猛な笑みを浮かべて体勢を低くして凄いスピードでジグザグに走りながら、賞金稼ぎの攻撃を躱して鋭い風の鉤爪で賞金稼ぎ達を切り裂いていく。


まるで、野生の狼の様だった。



「「ぐぁ」」

「糞、魔法攻撃しろ!」

仲間が倒されていく中、1人が大きな声で指示を出し、魔法攻撃が満を襲う。


「しゃらくせ~!疾風迅雷」

満は体勢を低くしたまま走行中、右手を大きく振り下ろした。


振り下ろした右手から突風と共に雷が駆け抜け、魔法を掻き消して魔導師達を吹き飛ばした。


「おいおい!もっと、まともな奴はいないのか?」

満は、そのまま賞金稼ぎ達を蹴散らしていく。




土壁から飛び降りた悠太は、地面に砂に変えて着地した。


「はぁ、面倒だから大人しく投降してくれと言っても投降しないよな。仕方ない、アース・リバティ」

悠太は、ため息を吐きながら魔法を唱え、周囲にいる騎士団達の足元を砂に変えて蟻地獄の様に騎士団達を地中に飲み込んでいく。


「な、何だ!?」

「くっ、脱け出せない」

「助けてくれ~」

騎士団達は、必死に脱出しようともがくが、もがくほど地中に飲み込まれていく速度が上がり飲み込まれていき、胸元ぐらい地中に沈む。


「面倒だし、アレをするか。アース・マリオネット」

悠太は、しゃがんで手を地面につけて失われし魔法(ロスト・マジック)アース・マリオネットを唱える。


「な、何だ!?」

「やめてくれ」

砂が胸元まで地中に埋まっている騎士団達の全身を覆い、砂の鎧を纏ったゴーレムが続々とできあがる。


「よし、こんだけ居れば十分だろ。敵を皆殺しにしろ」

悠太の命令によって、ゴーレムに変えられた騎士団達は仲間の騎士団達を襲いだした。


「やめろ!お前達!正気に戻れ!ぐぁ」

騎士団達は攻撃を躊躇ってしまい、倒されていく。


アース・マリオネットは対象者を砂で取り込み、対象者の魔力を吸いとり洗脳して操る魔法で、対象者のリミットも外れており、動きや力が異常に上昇しているが、動く度に体が耐えきれず出血し、纏っている砂が血で赤く染まっていく。


それでも、ゴーレム化した騎士団達は魔力か命が尽きるまで止まらない。




「くたばりな!」

太刀を持った武志は、飛び降りながら空中で冒険者の大盾使いに斬りかかる。


「そんな攻撃など弾いてやる!ぐぁ」

大盾使いは、両手で盾を掲げて防ごうとしたが、鋼鉄でできた大盾ごと真っ二つに切断された。


「よくも、ケティを!そんな細い剣など、粉砕してやる!」

大盾使いの仲間の戦斧使いが武志に接近して巨大な戦斧を両手で握り締めて全力で上から振り下ろす。


「お前、馬鹿だな。そんなもので俺の太刀、天童丸を粉砕できる訳がないだろ!」

武志は、振り下ろした状態の太刀を掬い上げる様に振り上げて巨大な戦斧をプリンの様に切断して戦斧使いの胴体を真っ二つに切断した。


「はぁ~、お前らは俺の能力を知っているだろ?俺の能力は、どんな物を切り裂くユニーク・スキル、【切り裂きジャック】だ」

武志は太刀を肩に担いでトントンっと叩きながら周りの冒険者達を見渡す。


一歩下がる冒険者達。

「くっ、囲め!」


「そうだ!囲んで一斉に掛かるぞ!」

冒険者達は、駆け足で武志を囲む。


「いくぞ!」

「「ウォォ!」」

1人の冒険者の掛け声によって、全員が一斉に武志に襲い掛かる。


「フン」

武志は、その場で回転しながら太刀を振るい、襲ってきた冒険者達を一刀両断した。


「雑魚がいくら束になっても雑魚だろ。確か、こういうのは、烏合の衆だったか」

太刀を横に振るい刀身に付いた血を振り払った武志は、怯んでいる冒険者達に襲い掛かり次々に斬り倒していく。




「そろそろ、来るはず」

土壁の上にいる隆司は、戦況を眺めていた。


「来るとは誰がですか?」

騎士団の1人が尋ねる。


「猫の獣人の夫婦だ。前、獣王と妃と戦って弱っていたとはいえ、あの【アルティメット・バロン(おっさん)】が苦戦したらしい。元とはいえ【セブンズ・ビースト】ということか」


「ですが、【アルティメット・バロン】様の猛毒を受けたとの報告がありますので、既に亡くなっているか、あるいは身動きができない状態だと思います」


「亡くなっていることはまずない。なぜなら、猛毒は治されたが呪いは消えてないとおっさん本人から聞いている。それに、おっさんと戦えるほどの実力者ならば身動きできなくても自国が襲撃を受けていると知れば必ず来るはずだ。フッ、噂をすれば来たみたいだ」

隆司が話をしていた時、ラルドムは武志の場所にメリーゼは悠太の場所に現れ、隆司は不敵に笑みを浮かべた。

次回、四天狼牙と姉妹の両親の戦闘が始まります。


本文が長くなり、投稿が遅れて申し訳ありません。


もし宜しければ、次回もご覧して頂ければ幸いです。

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