現実と事故
3人は、過去の話を思い出しながら語った。
【魔人の国・ナイディカ村・おばさんの家】
懐かしい過去話を終えた大成達。
「あのことは、僕は夢だと思ったけど。現実だったんだ」
大成は横になったまま、天井に向けて片手を伸ばした。
「そうよ。それに、私達が起きたら大成、あなたが居くなっていたから…。そ、その大変だったのよ!」
「そうです。せめてあの時、別れの言葉とお礼の言葉が言いたかったです」
あのあと、ジャンヌとウルミラは朝になり起きたらすぐに大成がいないことに気付いた。
涙ぐみながら新館と旧館を走りながら探したが、大成の姿はなかった。
ジャンヌとウルミラは、母であるミリーナとウルシアに抱きついて大泣きした。
せめて、ありがとうとサヨウナラを言いたかった。
2人は魔王が大成を強引に帰還させたと思い、ジャンヌは一週間ぐらい父である魔王と会話しなかった。
ウルミラも最低限の返事しかしなかった。
そのことで、魔王はミリーナとウルシアに頼んで説得して貰うが駄目だった。
終いには、魔王は【ヘル・レウス】メンバーにも相談したが中にはやる気が乏しく考えないメンバーも居たので魔王は権限を使って皆にいろいろ考えさせて実行したが…。
結局、ジャンヌとウルミラの機嫌が治るまで待つことになった。
この時の無駄な権限の執行は、今も語り継がれている。
その間、魔王は生きた屍のようだった。
大成が自分から元の世界に戻ると言ったことを知ったジャンヌとウルミラは、心の中で魔王に謝罪をした。
「大成、あなたは、そ、その…も、元の世界に戻りたいの?」
申し訳なさそうな表情で聞いたジャンヌ。
「う~ん、そうだね…。正直に言うと、ちょっと向こうで問題を残したままだから早く戻りたい気持ちもあるけど。せっかく、この世界に召喚して貰ったから。まずは、この国を安定させてから考えることにするよ。まぁ、僕に出来る範囲で役に立てることがあればだけど。それに、また逢えて嬉しいかな」
伸ばしてた手を握り締めた大成。
「私達は、お父様みたいに帰還させる技術がないの。ほ、本当に、ごめんなさい。そして、ありがとう…大成。そう言ってくれて…」
「ありがとうございます。大成さん…」
ジャンヌとウルミラは、大成に抱きつき顔を埋めた。
自分勝手に召喚したことに、今まで罪悪感があった2人は大成の言葉で心から救われた気がして涙が止まらなかった。
大成は、ジャンヌとウルミラが落ち着くまで待った。
「それより、明日…魔法を教えて…よ」
「もちろん、約束は守るわ」
「はい」
「2人とも…おやすみ…」
「おやすみ、大成」
「おやさすみなさい、大成さん」
大成は眠りにつき、2人は大成の寝顔を見て微笑んだ。
「明日が楽しみね、ウルミラ」
「そうですね」
「2人で大成に魔法を教えて、大成を魔王にしましょう」
「はい。大成さんなら、きっと魔王になれます」
「フフフ…そうね。だって、わ、私達が、す、好きになった人だから大丈夫よ」
「は、はい」
ジャンヌとウルミラは、頬を真っ赤に染める。
「そろそろ、私も寝るわ。おやすみ、ウルミラ」
「おやさすみなさい、姫様」
ジャンヌとウルミラは頬を赤く染め、大成に抱きついたまま眠りについた。
早朝、日が登る前に大成は目を覚まし、ゆっくりと2人を起こさないように起きて朝練をしに外に出た。
【魔人の国・ナイディカ村】
外は、空気がひんやりして霧がでていた。
まだ日が登っていないが紫色の月が出ており、霧が紫色に染まり妖艶な光景が広がっている。
監守に聞いたら、月が紫色の時は色が戻るまで長く月が出ているそうだ。
「う~ん…っと。さぁ、走るか」
背伸びした大成は、ウォーミングアップして村の周りを走り始める。
監守に挨拶した際に、魔物が活性化しているので村の外は出ないで下さいと言われていた。
今まで走った感覚で大体15キロぐらいランニングして筋トレをする。
その間、ずっと監守に見られていたが大成は気にしないで続けた。
「ふぅ~」
大成は、最後の武術の型の練習が終わり一息吐く。
本当は手合わせもしたかったが相手がいないので、目を閉じて義兄の流星との手合いを思い出しながら体を動かす。
「ハァハァ…」
疲れた大成は、前屈みになりいつもの様に後ろに手を出す。
「あっ、そうだった。奈々子は居なかったんだ…」
いつも朝練が終わったら、奈々子が傍にきてタオルや水筒、着替えを渡してくれていたが今は奈々子はいない。
大成は、自分がどれだけ奈々子に頼っていたのかを知り苦笑いした。
後ろに出した手を戻そうとした時、手にタオルを渡され大成は驚いた。
「えっ!?」
「はい、大成。あなた、タオルとか水筒など準備して朝練しなさい」
「ありがとうジャンヌ、ウルミラ。そして、おはよう」
大成は振り向いたら、タオルを渡したジャンヌと水筒と着替えを持っているウルミラがいた。
「おはよう、大成」
「おはようございます、大成さん」
ジャンヌとウルミラは、頬が少し赤く染まっていた。
「ねぇ、大成。あなた、いつもこんなに早くから朝練しているの?」
「毎日しているよ。体が鈍るからね」
「大成さんは、日頃から鍛えているから強いのですね」
「鍛えるためと思っていないよ。ただの習慣かな」
大成は笑いながら答える。
「良かったわ。大成、あなたが脳筋じゃなくて」
「ですね」
ジャンヌとウルミラは、ムキムキになった大成を想像すると嫌だった。
「何が良かったか知らないけど。まぁ、幼い時は早く強くなりたい一心だったけど。今は違う、誰かを守りたいためかな」
「だから、強いのね」
「それなら、納得できます」
3人は談笑しながら、おばさんの家に戻ることにした。
【魔人の国・ナイディカ村・おばさんの家】
「おばさん、おはようございます」
大成はリビングに入り、おばさんに挨拶した。
「あら、おはよう大成君。ウフフ…。姫様、ウルミラ様、大成君が見つかったようで良かったですね」
「「お、おばさん!」」
大成が見つかったことでホッとしている2人を見て、おばさんは笑顔で話しかけるとジャンヌとウルミラは頬を赤く染めながら大声を出した。
【過去・魔人の国・ナイディカ村・おばさんの家】
2時間前、朝起きたら大成が居ないことに気付いたジャンヌとウルミラは過去を思い出して不安になり、慌てて家の中を探し始めたことで、おばさんを起こしてしまった。
「姫様、ウルミラ様、おはようございます。どうかされましたか?」
隣の部屋からおばさんが出てきた。
「おはようございます。起こしてしまって、すみません」
「おはようございます。すみません」
ジャンヌとウルミラは、謝罪をして説明し、おばさんを含め3人で大成を探し始めるが見つからなかった。
そして、暫く経ち窓から外を見たら大成を見つけたジャンヌは2人に伝えて手伝ってくれたおばさんに感謝した。
ジャンヌとウルミラは、タオル・水筒・着替えを準備をして向かったのだ。
【魔人の国・ナイディカ村・おばさんの家】
おばさんは、キッチンで料理を作り終えていた。
「朝ごはん出来ていますが、どうですか?」
「ありがとうございます。頂きます」
「「ありがとうございます」」
ジャンヌに続いて、お礼を言う大成とウルミラ。
エターヌが部屋に入ってきた。
「エターヌ、おはよう。まだ眠そうだね」
「エターヌ、おはよう」
「おはようございます」
「おはよう、エターヌ。もう、先に顔を洗ってきなさい」
「う~ん…。お、おはようございます」
眠たそうに目を擦りながらエターヌは、顔を洗いにヨタヨタと歩いて部屋から出ていった。
それから、皆が揃ったので食事をとりながら今日の予定を話す。
大成は、食後にジャンヌとウルミラと一緒に魔法の特訓をして昼からは村の復興の手伝いすることにした。
おばさんとエターヌは、朝から復興の手伝いする予定になった。
【魔人の国・サンガ山】
盗賊を討伐したサンガ山で特訓することをジャンヌが決めたので、大成達は山の頂上に着いた。
「何で、ここで特訓?」
大成は、サンガ山まで行かずに復興の邪魔にならない場所なら村の中でも良いと思っていた。
「あとで教えるわ。それよりも特訓するわよ。まず、魔法の特訓よりも先に魔力を感じることが先ね。そして、次に魔力のコントロールの練習をするわよ。といっても、魔力を感じることでも最短でも3日は掛かるわね。遅い人は2~3週間ぐらい掛かるわ。それぐらいだったわよね?ウルミラ」
ジャンヌは、ウルミラの方を振り向いて尋ねる。
「はい、あっています姫様。姫様は3日で私が4日でした。騎士団の隊員や暗部で遅い人は大体14~24日かかっているとお聞きしました」
ウルミラは、正確な情報を伝えた。
「えっ!?そんなにかかるの!?それだと、大会に間に合わなくない?」
「仕方ないわよ。でも、一つだけ可能性があるわよ」
「何?」
「簡単のことよ。大成、あなたに才能あれば良いのよ」
「姫様、それは…」
「何て無茶苦茶な…」
「ウフフ…」
ジャンヌの提案を聞いた大成とウルミラは苦笑いし、ジャンヌは笑った。
「で、まずはどうすれば良いのかな?」
大成は、ジャンヌとウルミラに尋ねたが2人は頬を赤く染める。
「ん?どうしたかした?」
意味がわからず、大成は頭を傾げる。
「ひ、姫様、わ、私がします。流石に…まだ、魔王になってない方のために、姫様が協力したことがバレたら大変ですので…」
「そうよね…」
ウルミラの意見に、ジャンヌは落ち込むが反論はしなかった。
「で、僕はどうすれば良い?」
「えっと…ですね…。そ、その…大成さんは手を…わ、わ、私の胸に、あ、あて、当てて下さい…」
ウルミラは顔を真っ赤にして俯き、呟く様な小さな声で指示する。
「えっ!?ウルミラって…」
「わ、私は、決して、ち、痴女じゃないですよ!」
「もう、仕方ないわね。まず、理由を教えるわ。魔力は生命エネルギーなの。心臓が一番、魔力が脈動をしているから感じやすいわ。だから、魔力を使える人の胸に手を当てて魔力を感じ取ることから始めるのよ」
「ああ、なるほど」
大成とウルミラのやり取りを見たジャンヌは説明をして大成は納得した。
「そ、それじゃ…」
大成は手を伸ばしてウルミラの胸に触れようとしたが、やはり戸惑い手は宙をさ迷う。
ウルミラは顔を真っ赤にして、大成の手を両手で握って自分の胸に押し当てた。
「あ、あ、あの…。ど、どうですか…?」
顔を真っ赤にしているウルミラは、うまく呂律が回らなかった。
「どうと、言われても…」
「大成、あなた早く感じなさいよ!」
2人のやり取りを見ていたジャンヌは、自分でもわからないが不機嫌になってイライラする。
((無茶な!))
大成とウルミラは、心の中で思った。
(感じることは感じているけど…。予想以上に大きく、やわらかい、それなのに弾力があって…それぐらいしか…。それに、この状態で未知な魔力を感じるとか無理だ。状況的に理性的に…)
頭の中で混乱する大成。
そして、つい手に力が入ってしまいウルミラの胸を鷲掴みしてしまった。
「きゃっ!」
ウルミラは、真っ赤な顔をさらに真っ赤に染めて慌てて両手で胸元を隠してしゃがみ込んだ。
「ご、ごめ…ん」
大成は謝罪をしようとしたら、寒気がして鳥肌が立つ。
横から自分に殺気を向けられていることに気付いた大成は振り向くと、ジャンヌがファイヤー・ボールを唱えていた。
ジャンヌは、笑顔だったが目が笑っていなかった。
そして…。
「た、い、せ、い!」
激怒しているジャンヌは、近くから大成に向けて巨大なファイヤー・ボールを放った。
「ひ、姫様!?きゃっ」
「ちょっ、ま、マジ…」
ウルミラと大成は驚愕して息を呑む。
ウルミラは氷の魔法で防ごうとしたが、大成が慌ててウルミラを避難させるために抱える。
しかし、ウルミラを抱えて逃げるには時間が足らず避けるのは無理だと判断してウルミラを範囲外に放り投げて避難させた。
そして、迫ってくる炎の塊を見た大成は、自分は避けられないと悟った。
「あっ!大成、避けて!」
我に返ったジャンヌは悲鳴のような声で叫んだ直後、爆発が起き周囲の木々は一瞬で盛大に燃えたのだった。
次回、大成の才能です。
もし宜しければ、次回もご覧頂けたら幸いです。




