第十章 その0
第十章
0/32 藤代大樹
ごめんな、真咲。
お兄ちゃん、本当はお前の幸せを願わなきゃいけなかったんだよな。お前が幸せに生きられる世界をつくってあげなきゃいけなかったんだよな。
ぼくが小さくてまだ物心もつく前だったとはいえ、ハサミで遊んでいる最中に真咲の顔を傷つけてしまった。
お兄ちゃんな、その後からな、お前がどうしたらみんなと同じように暮らせるんだろうってずっと考えていたんだ。
考えて、考えて、考え続けたんだけど……現実を知っていくにつれて、だんだん難しいことだってわかって、結局答えは見つからなかった。
そして、考え続けるうちに苦しくなって、最終的には、世間の奴らを憎むようになってた。
そしたら、だんだんこの世界にも嫌気がさしてきた。そんな感情だけが心の中で繰り返し蠢いていて、でもそんな感情を持ったところでなんにも変わらないとわかった瞬間、なんだか疲れてきたんだ。疲れてきちゃったんだ。
だから、あんな計画に興味を持ち出したんだ。
…だけどな、お兄ちゃん、お前がまさかこんなに苦しむなんて思わなかったんだ。
だって、お前はあんなにあいつらのことを憎んでいたじゃないか。
それで、お兄ちゃん、お前のためを思ってこの計画に協力することに決めた。
でも、やっぱりお前は憎み切れなかったのか? 身勝手で無責任でただ自分さえよければ何でもいいという、そんなどうしようもない世の中でも、お前はどこかで救いを求めていたのか?
真咲、お前はぼくらの計画に絶望して死んだ。
だけど、真咲、お前は隅っこに追いやられ、屈辱を受け、もはや再起を失ったこの世界に何の希望を得られたというんだ?
真咲、教えてくれよ!!
…お兄ちゃんな。あの後、河原道生くんと会ったよ。お兄ちゃんが、お前に友達をつくるきっかけをつくってあげて、それで知り合うことができた道生くんだ。
彼な。お前のこと、きれいだっていってくれていた。結婚してもいいっていってくれった。信じられるか?
彼はお前にとってそれほどの友達だったんだ。ずっと…、お前を信用していた。
もし、お前がほんの少しの勇気を出して、彼に心を許すことができたのなら、お前はこんなことになることはなかったのに……
もうお前のような存在をつくってはならない。絶対にならないんだ。
だから、ぼくは世の中を変えるんだ。
変えなければならない。
もう少しだ。
あと少しで、全てが終わる……




