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人類全てが殺し合う  作者: 熊谷次郎
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第七章 四節

   4 一九九九年 五月 二十九日 (土)


 


 その電話からしばらくすると、警視庁のお偉いさんが我が家にやってきた。


 話によるとこうだ。


 いつからか、警察の一一〇番に『七月一日に殺し合いが起こるぞ』といった電話が頻繁に入るようになったらしい。


 最初はそんなのが一日に一本あるぐらいで、内容も、その科白をいったすぐに電話を切るというものが中心だったので、いたずらと判断して気にも留めていなかったというが、似たようなものが次第に増えていき、いつしか一日数百件、数千件にまで及ぶようになったという。


 中には、「そんなこと絶対に起きませんよね?」と心配して訊いてくるような人や、ぶっきらぼうな声で「七月一日の午後九時から法律フリーになるっていう話は本当っスかー」などといった疑問を投げかけてくる奴まで出てくる始末。


 警察では「こんな現実離れしたことが起こるのだろうか?」と半信半疑だったが、例のCPPEEが出てきたこと、そして、夜中に明らかに法律の範囲を超えた強い電波でとんでもないことを流している人物がどうやらいるらしいということが発覚してから、もしかすると本当にそれが起こりえるのではないかと危惧し、急遽対策委員会をつくったらしい。


 …しかしながら、まだ操作開始段階であり、何一つ手がかりを掴めないままでいるところで、奇妙なことを口走っている家出らしき少年がいるという通報があって知ったのが、この僕であったという。


 そこでこの警部補さんは、いったん自宅へ引き返せたというその派出所の言葉を聞き、ある程度休んだだろうと思われる時点で電話をかけてみたという。


 僕は自分で汲んだ烏龍茶をすする。


 リビングにはお茶のセットもあったがどう淹れればいいのか、一度もやったことがないのでわからなかったのだ。だからリビングで待たせていた警部補さんとその部下らしき刑事さんにも冷蔵庫の中にあったペットボトルから、烏龍茶をコップ二つに注いで各自の目の前に置いた。


 岩見という警部補は、僕に頭を下げつつこういった。


 「…あの……そのだね、君が流したというデマのことについて聞きたいんだ。頼む、どうか、教えてくれんかね」


 家にまでやって来られてこうやって丁重な態度でいわれたなら、僕がそのことを話さないでいる理由はない。…というよりもこちらが警察側に何度でも頭を床に這いつくばらせて、自分の言い分を受け入れてもらおうと思っていたくらいなのだ。


 もし相手が嫌でも話すのが筋というものだろう。


 僕は岩見さん達の物腰の低い態勢をしているところに、首を振り、今までのことを話し始めた。


 …それはまずstrangerというハンドルネームを使っていた藤代雅希という女の子からの手紙で始まったこと。後になってからわかるのだが、それがCPPEEの創始者である、藤代大樹の妹であったということ。


 僕はstrangerから誘われたデマ流しに応じてしまったこと。そして、結果的に、「一九九九年、七月一日この世を殺戮の彼方へと誘う」といった内容の怪電波を出して回っている青いワゴン者が存在するというゴシップをつくりだしたこと。


 そのゴシップを何故か誰かがオウムもの仕業ではないかと疑い始め、それによってゴシップは世間に飛躍的に広まったこと。そして、誰かがそれはオウムの仕業ではないと訝り出すと、あれよあれよという間に、ゴシップは集団による殺し合いの予告へと発展したこと。 そこまで広がったところでstrangerは自殺し、届いた遺書の住所をたどってstrangerの家へと行ったこと。


 そして、CPPEEの存在を知り、まずそこへと接近しようと行動してみたこと。


 右往左往行動した後、一人の同会、会員と出会い、会の所在を知ることに成功したこと。


 その所在でstrangerの兄、藤代大樹と始めて出会い、そこで実は自分達が流したデマが本流のものではなくて奴らのチェーンメールがメインだと確認が取れたこと、それでも僕はstrangerの思いを受け入れ、奴らのころを食い止めようと思ったのだが、完膚無きまでに叩きのめされて、僕は絶望的になったこと。


 そんな悲観的な気持ちのまま、好きだった教師に駆け落ちを申し込み、一度了承を得るものの、遂に待ち合わせの現場に彼女は現れなかったこと。


 その後、街中を意味の無く歩いていたら補導をされてしまったこと……


 警部補さん達は、僕の話を注意深く聞いてくれた。岩見さんに 『鈴木』と呼ばれていた刑事さんはメモを取ったりしながら。


 そして、僕はこう付け加えた。


 「…全部、僕が悪いんです。


 …だから、どうか僕に、みんなを説得する最後のチャンスをください……」





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