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人類全てが殺し合う  作者: 熊谷次郎
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第七章 二節

   2 一九九九年 五月二十九日 (土)


 


 パトカーは最寄りの派出所へと辿り着き、僕はその中へと招き入れられた。


 中で机へのあるところに座れさせられるなり、僕は質問責めにあう。


 「君、名前は何ていうんだい?」


 「年齢はいくつだい?」


 「どこから来たんだい?」


 「学校に入ってないのかい?」


 「両親は心配していないのかい?」


 「大き目のリュックを背負ってるけど、一体どうするつもりだったんだい?」


 「………」


 いろいろと訊かれるが僕は口を開くことはなく。ずっとお巡りさんの手元の横、机の角をただぼんやりと見つめていた。


 「何で質問に答えてないんだ!」


 そう口調を強くいわれても僕はやはり黙ったまんまだ。


 僕の頭の中には、「ああ、僕は罪を犯したんだな」という気持ちが、漠然と浮かんでいた。


 刑事さんは困惑した表情をつくる。


 自分が悪いことをしているんだなという意識はあっても、別にどうこうしようとも思わない。無思考の状態がずっと続く。


 「…何の返事もしないのか。…そうか、じゃあしょうないなあ」


 刑事さんが呟いた。僕は間近にいる刑事さんをどこかと奥から眺めているような錯覚を覚える。


 まるで何もかもが夢みたいだ。


 刑事さんが僕の肩を叩く。夢といっても感覚くらいはあるらしい。


 「…なあ、腹減っていないか? コンビ二の弁当だが食べるか?」


 刑事さんはそういって僕のテーブルにビニール袋をおく。


 僕は刑事さんに会釈をして、蚊の鳴くような声で「いただきます」といってから箸を割った。


 コンビニの調味料ベタベタの弁当だったのに、不思議と味がしなかった。


 やっぱりこれは夢なのかもしれない。


 僕はそんなふうに思い始めた。


 


 「じゃあ、改めて訊くが、君の名前は……?」


 やはり僕はしゃべらない。これは夢だから口が動かないのだろうか?


 「歳は?」


 「住所は?」


 「学校は?」


 「両親はどうしているんだい?」


 「君は一体どうするつもりだったんだい?」


 さっきと同じことの繰り返しである。


 名前?


 確か、僕は河原道生といってた。


 歳?


 僕は十五歳だ。今年度にはまだ誕生日を迎えていない。


 住所?


 そりゃ、R駅の近くのでっかいマンションだ。


 学校?


 僕はK高校という進学校に入っているよ。


 そりゃ、最近は停学受けて満足に行ってなかったけどさ。


 両親?


 両親は共働きだ。二人とも元気にしているよ。


 何故、このおじさんはこんな当たり前のことを訊ねてくるのだろう?


 こんなの馬鹿馬鹿しくて答えてられないよ。


 そんなことを訊く暇あったら、もっと別の場所をパトロールしてきたらいいのに。


 おじさんはさっきこういっていた。


 「君は一体どうするつもりだったのかね?」


 この言葉が僕の中で強く引っかかる。


 あれ? 僕はどうするつもりだったんだろう?


 何で僕はこんなところにいるんだ?


 …わからない。何度考えてもわからなかった。


 そうだ。さっきわかってたじゃないか。これは夢だって。夢ならいつか絶対に覚めるし、このままでも大丈夫さ。


 おじさんが頭をボリボリと掻く。


 「…こんなんじゃあ、君、いつまで経っても家まで送ることなんてできないよ」


 家まで送る?


 僕に家に帰れっていうことなのか?


 それだけは嫌だ。何としてでもそれだけは避けたい。


 これは夢? …だったら永遠に覚めないでもいい。


 僕の頭の中がグワングワン揺れる。蛍光灯の明かりがやけに白く眩しい。


 おじさんは僕にいい加減愛想を尽かし、そっぽを向いてしまった。


 おじさんの背中が広く見える。


 おじさんが着ているのは、青い服。


 ……青い服?


 


 「うわああああああああああああああああ……!!」


 


 僕は叫んでいた。全てが怖くなっていつのまにかに大声を発していた。


 奴が来る!!


 奴がつくった、あの集団が来る!!


 武装して、この世の全てを滅茶苦茶にするんだ!!


 「どうしたんだよ、いきなり。おい、大丈夫か? しっかりしろ!!」


 刑事さんが僕の両肩を掴む。


 僕は、ハッと意識を取り戻した。


 「どうしたんだ?」


 刑事さんが真剣な眼差しで僕を見つめている。


 …そうだ、僕はこうして警察の派出所まで来ているんだ。ここまできて、あのことを話さないでおかない手はない。


 僕はゆっくりと口を動かした。


 「…僕はあいつらに加担したんです。七月一日の件は僕にも責任があるんです」


 刑事さんは何のことだかわからないといった表情で僕を見つめた。





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