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人類全てが殺し合う  作者: 熊谷次郎
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第七章 一節

  第七章


 


   1 1999年 五月 二十九日 (土)


 


 東京のバスターミナル。


 僕はずっとその場で先生を待っていた。


 やがて人影はまばらになって、街の明かりもきれぎれになる。そして遂にはバスも動かなくなり、駅の明かりも消えてしまった。


 暗闇の中、僕一人。


 …どこかでわかっていたような気がする。


 こんな風になるんじゃないかっていうことが。


 現実をそう簡単に捨てられるわけがない。


 逃げた先でも生活は存在する。たとえ、自殺するにしたって、どこかで現実がまとわりつく。


 だけど、僕はいられない。…こんな世界では生きてなんか……


 僕はどこに行けばいいのだろう?


 何も見えない暗闇の中、一体どこへと……


 ここで待っていれば迎えが来るだろうか?


 …誰のかはわからない。何のかもわからない。


 でも、僕を悲しみから開放してくれるかもしれない存在が……


 …来るわけないか……


 僕は立ち上がって歩くことにした。


 電車は止まっているし、タクシーがここから僕の家まで着くほどのお金がどれくらいなのか、それは今自分の持合せで足りるのかもわからない。


 …というよりも、もはや家なんかに帰りたくはなかった。


 ただ、先生との待ち合わせが駄目になったこの場所にいることだけはなんだか自分で避けたいような気がしたのだ。


 街をゆっくりと進むと、ビルが立ち並ぶ。明かりのないビルはもはや人の存在が感じられない巨大な物体としてしか認識できず、なんともいい表せない圧迫感と恐怖を僕に与えさせる。


 気温が下がって、風がひんやりと冷たい。


 しかし、さっきから背中が寒く思えるのは決してそんな風の所為ではなかった。


 ここ数日間、僕の心にいろんな感情が湧いて、フッと通り過ぎっていった。


 いろいろ考えようとしても、脳がそれを拒否する。頭に本当に微かに何かが浮かび上がりそうなんだけど、すぐに意識の底へと沈んでしまう。


 今、とりあえず僕の体は動いている。


 今、とりあえず僕の肺は呼吸している。


 今、とりあえず僕の心臓は脈を打っている。


 こんな僕でもまだ生きていた。


 どこに行けなくっても、何もなくっても僕は生きていた。


 自殺する勇気もないくせに、もうすぐ死ぬような気で生きていた……


 どこかで声がした。


 やっと誰かが来てくれたんだ。


 僕は振り向くとそこにはパトカーがあった。


 窓から警察官が顔を出している。


 「きみきみ、どうしたんだね? 家ででもしてきたのかね?」


 僕はそう質問してきた制服姿の男をマジマジと観察した。


 その存在に僕は何故だか安堵の感情を覚えた。


 「なんだい、君、答えたらどうかなのね、家出なのかい? 歳はいくつだい? 住所はどこだい?」


 次々と投げかけられる質問に、僕は一つも応じることはなく、ただぽつりとこう述べた。


 「…それ、乗せてくれませんか?」


 パトカーの中の警官は目を大きくした。





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