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人類全てが殺し合う  作者: 熊谷次郎
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第五章 二節

   2 1999年 五月 二十七日 (木)


 


 「思ってない?


 …だってお前がこのCPPEEを立上げたんだろ?


 そんな奴があっさりそれが本気じゃないとかいっていいのかよ。


 ふざけるなよ!!」


 僕は、奴の顔に唾を巻き散らす勢いで大声を出す。


 藤代は尚も笑いながら、ネクタイの結び目をいじる。


 「道生君、君ねえ、考えてみなよ。


 この会でそれを本気で掲げている人なんていないよ。みんな殺し合いを自分の中で正当化したいだけさ。わかるだろ?


 はっきりいって矛盾してるじゃないか。ぼくらのやっていることはさ。


 地球環境を守りましょう……なんていって、青いワゴン車乗り回してるしさ、インターネットで布教活動なんかしてる。


 電気を使っているし、大気も汚染しているわけさ。


 人間の生活圏を崩せ!!


 そこまでいう奴らが結局、人間社会に依存しているんだ。説得力がないだろ?


 でもそんなの世界の状況から比べてみれば微々たるものさ。


 例えば、これからの社会、環境を大切にしようっていう世界の働きかけから二酸化炭素を出さない車だの、発電だのが、この世に出てくる。


 だけど、基本的に文明の進化っていうのは環境破壊と隣り合わせにあるものなんだ。


 結局、エントロピーの概念通り、この世の中にあるエネルギーは常に一定で、どこかでエネルギーが使われればその分のエネルギーが減ることになる。


 減っていくのが自然のエネルギーで、増え過ぎてエネルギーが余った末に起きた現象ってのが地球の温暖化っていうわけだ。


 これを防ぐにはもう多大なるエネルギーが放出される人間の生活圏を崩すしかない。もう既にたくさんのエネルギーを放出済みなんだ。出るエネルギーをちょっと減らすというのでは絶対に防ぎ切れるものではないんだ。


 その考え方を広めるにはやっぱり、一番の方法は人間の文明の利器を使うしかないのさ。


 もともと人間には、電気なんかも使わずに生きていけるだけの能力はあった。でも、それがある生活が普通になった以上、ちょっとやそっとのことではそれがなかった状況には戻れそうにない。


 なのに、それが結果的に自分達の首を絞めるにことになると知ったら、とりあえず、『地球環境との共存』とかいう言葉を掲げてはみるものの、自分達でリスクを背負おうはしない。


 そんなふうに自分の利益だけをちゃっかり得ようとする、それしかできない人間達しかいないんだったなら、いっそのこと人類なんて全員滅んでしまえばいい。


 そう思っても不思議ではないんじゃないのか?」


 「でも中には自然の復活に懸命になっている人たちもいる。絶滅寸前の動物をまた繁殖させようと努力している人たちだっている。その人たちだって確かに人間の生活に依存しているかもしれないけど、自分達のために消えそうな存在を必死になって守っているんだ」


 僕の咄嗟の反論もすぐに藤代に返される。


 「僕は人間のエゴでしかないと思うけどねえ。素直に自然のためといわずに自分達のためにやってるんだっていえばいいじゃないか。それである程度の金が集められる。もしくは、暇。だからやるんだろ?


 …まあ、いいさ、仮にそれが自然のためになるとしよう。


 では実際にそのために行動を起こしている人間はどのくらいいる?


 …あんまりいそうにないねえ。


 そうさ、結局みんな自分のメリットになることしかやらないんだ。 先進国は同じ地球の上で飢えに苦しんでいる人間がいるって知ってても自分の国の中で食べ物をたくさん掻き集めて、食べ切れなかったものはゴミとしてガーガー燃やしてるしさ、ハイブリットカーっていう多少は環境にいいっていう車が出たところで自動車メーカーは高く売れるからっていう理由から、排気量の多いディーゼル車をつくり続ける。都会の奴らは暑い暑いなんていいながらエアコンガンガンつけて、もっと自分達の環境が暑くなるきっかけをつくっているわけさ。


 そんなのを見ていて君は嫌にならないのか?


 どんなことをやっても環境がよくなんかなりっこない。


 勿論ただ一つ僕らが実行しようとしているものを除けばね」


 …確かにいわれるとそうも思わなくない。


 くそう、こんなことわかっていたはずじゃないか!


 何で知ってたことをいまさら改めていわれたぐらいで気が滅入らなきゃならないんだ。 僕は奴のいったことを再び記憶から捻出する。


 ……「思っているわけないじゃないか」……


 自然保護のために人々を殺す。それは本気なのかというと問いに藤代は確かにそういった。


 しかし、奴はこうして僕に反論の余地を許さないほどの理論を展開した。


 一体どういうことなのだ?


 「おい、どういうことだ」


 藤代は自分の腕時計に目をやっている。


 「何がだい?」


 やつはそのまま自分の腕時計をはめた手の甲をぐるぐると回し始める。どうやらガラスへの光の反射の具合を見ているらしい。


 その光が一瞬僕の目に届き僕は目を萎める。


 何をやっているんだこいつは。


 「…お前、環境のために人間達を滅ぼそうなんて思っていないんだろ? じゃあなんでこの会を立上げたりしたんだ! 殺し合いを広めるためだと? そんなことをして一体何になるっていうんだ!!」


 藤代は手を止めてこっちを向き直す。


 かと思ったら今度はわざとらしく天井を見上げる。


 つられて上を見てしまったが何かがあるわけなどない。


 「何になるか?


 …そうだねえ……」


 藤代が腕を組んでうなる。


 なんだよ、こいつ! 人を一人殺しておいて具体的な理由もないのか!!


 藤代はソファーの肘掛けを指でカツカツ鳴らす。


 こいつと話しているともはやこちらは苛々しかしない。


 そうしてやっと藤代が話した答えというのが全くもってこちらを馬鹿にしているとしか思えないような内容だった。


 「やっぱり楽しいからかな」


 この言葉を聞いた直後、僕の頭の中で怒りが頂点に達した。





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