第四章 六節
6 一九九九年 五月 二十六日 (水)
昨日、秋葉原から帰ってきた僕は先生からの電話を待った。
停学期間中、先生はいつも四時頃になると毎日確認の電話をしてくれていた。
いつも授業が終わってから電話してくれていたのだろう。しかし、僕はその日の前日にあらかじめ午後七時頃に電話をしてくださいと頼んでいたのだ。
そして、その通りにかかってきた電話の最中に僕は、「急に会いたくなったから」などと適当な理由をつけて春日君の連絡先を調べてくれるようにお願いをした。なるべく早く知りたいという僕の声に、先生は今朝すぐに名簿を開いて、僕に彼の住所と電話番号を教えてくれたのだ。
春日君の本名は春日駿平。埼玉県からこの学校に通っていたらしい。
春日君のあの活動。もはや春日君は家を出たのかもしれない。しかし、それでも家族ぐらいには住所を知らせているのではなかろうか?
今は午前九時半、春日君の家が共働きなら誰もいなくなってもおかしくない時間帯だ。だけど、両親がいなくても学校に行ってない春日君本人がいるという可能性もなくはない。とりあえず電話をかけてみることにしよう。
僕は先ほど先生から教わった電話番号に早速回してみる。
…………繋がった。どうやら引っ越したりはしていないみたいだ。
…誰か、人は出るのだろうか?
トゥルルルルル……
その声が一回なる度に心臓がバクバク胸を打つ。
「はい、もしもし春日ですけど」
…出た。中年の女の人の声だ。普通に考えれば春日君の母親だろう。
「すみません、僕、河原といいますが、駿平君はいますでしょうか?」
その女の人は意外そうな声を上げる。
「今はいませんけど、一体どういったご用件でしょうか?」
彼女はそう切り替えす。
…なんだかstrangerの家に訪問したときにも同じような調子でこのことを訊ねられたような覚えがある。彼もやっぱり友達がいないのだろうか?
「…えーと、僕は駿平君と中学の頃の同級生で……」
その返事を聞くと春日君の母親らしき人物は突然取り乱し始めた。
「あの子に謝ってください。あの子は、あの子は……」
いきなりの大声。それがやんだかと思うと今度はすすり泣く声がしてきた。
「あの、もしもし、もしもし……」
僕の言葉にろくに耳も傾けず、相手は一方的に電話は切った。
もう一回かけてみるしかないだろうか?
しかし、彼女、春日君のことを異常に気にかけていたみたいだった。
春日君がデモ行進に混ざっている姿がテレビに映ってしまったために、変な電話がよくかかってくるようになり、それによって彼女も気が立っていたとも考えられなくはない。やはり電話での連絡はよしたほうがいいだろう。
春日君はいないといっていた。
…ん? そういえば今はいないといった?
…ということは家に帰ってくることもあるということだろうか?
行って確かめてみたほうがいいかもしれない。
もし、留守なら時間を変えて行ってみればいい。会うことを拒否されたら、何度も何度も粘るしかない。
僕は出掛ける準備を始めた。
僕は閑静な住宅街を歩く。
二度目ということであるが、やはり慣れるわけもなく、遠慮がちに入った派出所で僕は春日君の家のあたりを訊いた。そこのお巡りさんにもらった地図によると大体この辺の筈である。
電信柱の横を曲がると、おばさん二人がしゃべっているのが目に留まる。
ちょっと顔を隠して横を通り過ぎようとすると、おばさんの口から「春日さん」という言葉が発せられたので、僕は気になって立ち止まった。
「春日君の息子さん、怪しげな会に入ってるんですって」
「知ってます、知ってますとも。変な青い服来て街中を歩いて回っているらしいじゃないですか。あそこの坊ちゃん、ついこの間私立高校辞めたと思ったらねえ……」
「あそこの会って何やら危ないんでしょ?」
「そうよ、この間ワイドショーを見てたらオXムより恐ろしいっていってましたわよ」 「…でしょ……、いやあねえ……」
その後もおばさん達の春日君とその親御さんの悪口は続いた。
このおばさん達、本人に確かめたのかわからないが、…というより絶対にくわしくは知っていなかったであろうに春日君のお母さんへの教育への疑問を投げかけている部分にはどうも解せなかった。
…かといっても赤の他人の僕が口を挟んだところで何もならないだろう。
僕はおばさん達を無視して先に進んだ。
赤い煉瓦の塀で囲まれたグレーの壁の目新しい家が続く中、隅っこで一件ぽつんとあるちょっとだけ寂れた感じのある白い壁の家、そこに春日という表札があった。
僕は入り口の門を開けて玄関の前に立つが、チャイムを押すのは少々躊った。
春日君のお母さんが今家にいるがといえば何となくいるんじゃないかという気がする。しかし、チャイムを押して出てくれるのかといえば、それはちょっと難しそうである。
ここら辺一帯で我が子が失態が噂になっているのだ。多分、春日君のお母さんは一目が気になって外の人間なんかと接触しようとしないのではないか?
ましてや、春日君のお母さんにとって、電話にて、僕は春日君を狂わせた人間の一人と認識されている。ドアを開けられても、僕の顔を見ただけで門前払いを食らう可能性もある。
しかし、ここで何かしないとせっかく得た手掛かりが藻屑と化してしまう。『地球環境の完全保全を遂行する会』の居場所は永遠にわからずお終まいだ。
僕は大きく息を吸い込んで目的のボタンを押した。
ピーンポーン……
家から呼び鈴の音が漏れる。
居留守を使われるのだろうか?
そんな心配する間もなくすぐにインターフォンからガチャガチャという音が聞こえた。受話器をとったということは少しぐらいは積極をしようっていう気はあるのだろうか?
そう思ったが、そのスピーカーから出てきた言葉はその謎をすぐに解決させた。
「……駿平ちゃん?」
「………」
僕は返事ができなかった。
「…駿平ちゃん、駿平ちゃんなのね? 今すぐ鍵を開けるから……」
僕が黙っていると声の主はそう勝手に結論づけてインターフォンの受話器を切った。
そうか、春日君のお母さんは春日君の帰りを待っていたんだ……
すぐに彼女は玄関に現れてしまう。どうしたらいいだろう?
相手が勝手に間違えたんだ。バタバタしても仕方ない。事情を説明しよう。僕は項辺りをポリポリと掻いた。
「駿平ちゃん!!」
まさに飛び出す勢いで玄関から一人の中年女性が現れた。
女性は僕の顔を見る。
「…あら、違うのね……」
彼女はドアを閉めようとしたので、僕はあわててドアの間に腕を入れた。
「……痛っ……」
僕が呻き声を上げると、女性は再びドアを開いた。
「…何なんですか、あなたは?」
女性は冷たい目で僕を見るので僕はこういってみた。
「駿平君に謝りに来たんですけど」
中年女性はパッと目を開いた。
僕はとりあえず家に入れてもらう事には成功したものの、相手にとっては僕は客という扱いではなかった。
「…で、どうしに来たというんです?」
春日君の母親が僕を見下ろす。
いい方が悪かったのか、僕は完全に敵だと思っているようだ。
確かに僕は春日君を助けなかった。しかし、僕もそのときは他の奴にいじめられていてそれで手一杯だった。他人のことなんて構っている暇なんてなかった……
…だけど、ここは……
「…ごめんなさい」
僕は床に手をつき謝った。
「…それだけなの? あのこの苦しみはそんなもんじゃないのよ!?」
僕は春日君のお母さんの顔を見た。
「…なんなの、その目は!!
私の駿平ちゃんはあんなに苦しがっていたのよ!! 駿平ちゃん学校に行けなくなって、あんな風になっちゃたんだから……」
彼女はヒステリックに叫んだ後、突然顔を手で覆って泣き出してしまった。
僕は横に目を逸らす。静かになった部屋で、突然となりのキッチンの冷蔵庫がモーターの音を鳴らし始める。
僕は掌の汗を拭った。
僕にこれ以上謝る義理はない。申し訳ないけど本題に移らせてもらおう。
「あんな風って、彼が『地球環境の完全保全を遂行する会』に入ってしまったって事ですか?」
彼女の表情が曇る。よほど触れられたくない話題だったらしい。彼女は一瞬のうちに僕に掴みかかってきた。
「ああそうよ。それどうしたっていうのよ。あの子が好きで入っているんだからしょうがないじゃない。何であなたがそれを責めてくるわけ? 元はといえばあなたの所為なのよ! あなたがいじめるから学校に居場所がなくなっちゃったの。学校にさえ行っていればあんな会に入らなくて済んだ筈なんだから!!
どうなのよ! どうなのよ!!」
彼女は僕の襟首を押し上げる。幸い僕のほうが身長が高いので首が絞まるまでには至らない。
僕は必死にいい返す。
「学校で居場所がなくなったから彼はあの会に入ることになった? いじめが原因で? …そうじゃないでしょう。彼は元々あの学校には自分の居場所なんてなかったんじゃないですか? それをただ、いじめっ子が嗅ぎつけたんじゃないんですか? いや、それ以上に家庭での居場所さえもなかったから、あの変な会合へ入り込む隙を与えてしまったんじゃないですか?」
春日君の母は「うるさい!」という言葉とともに奇声を上げ、僕の首を思いっ切り締め上げてくる。僕は咄嗟に彼女の手を取って、彼女を力一杯投げ飛ばした。
春日君の母親はソファの横に転がったきり動かなくなった。
「あ、しまった!」と心の中で叫ぶ。体から変な汗がだらだら流れ出す。
僕はすぐさま近づいて「大丈夫ですか?」と声をかける。すると、肩を揺すぶるまでもなく、彼女が体が微妙に上下するところが確認できた。更に顔を覗くと、春日君のお母さんは、涙で絨毯を濡らしていた……
しばらく様子を見ていると、彼女はむくりと起き上がってきた。
「…わかっていたんです。私、あの子に自分のことを求めてばっかりで、あの子の望むことは何一つしてあげられなかったことを……
学校でいじめられているって知ったときも、私はあの子にほとんど何もしてあげられなかった。できたのはただいじめられた子に対して『謝りなさい!!』って強要したり、学校を責めたりしただけ。あの子の気持ちをわかってなんか上げられなかった。
結局、あの子のことは誰もわかりはしない、わかってあげられるのは私だけって思い込んで、私の意地で学校も辞めさせてしまった。
それがすべての間違いだった。あの子のことは私だってちっとも理解してなかった。
…だから、あの子は私たちから離れていってしまったの……」
春日君のお母さんは僕を見た。
「…ごめんなさい。私、あなたの話も少しも聞こうとしないで。
あなた、本当は謝りに来たんじゃないんでしょ?」
僕はコクリと頷く。
「春日君に会いたかったんです。会って、あの変な会合のある場所を知りたかったんです。世の中の暴走を食い止めるために」
春日君のお母さんはフフフと笑う。
「そう、そうよね、それが普通よね? …でも、私ね、なんかもう人生そのものが終わってもいいような気がしてたの。あの子が信じたことだから、私も信じてみようかなって思ってみたりした。多分、近所でそんなことを話したら笑われるんでしょうけどね。
だけど、そんな作り話みたいなことで世の中が終わる筈なんてないわよね」彼女は再び僕を見つめる。
「あなた。あの子を止めてやって下さい。あの子はもう私のいうことなんか聞いてもくれないけど、あなたのいうことなら耳を傾けるかもしれない。あの子に現実を見せてあげて下さい」
僕にそれができるのかはわからない。だけど、それは僕が為すべきことの通過点には間違いないのだ。
僕は大きく首を縦に振った。
春日君は五月の初めくらいから不定期に家を出掛けるようになったという。朝早く外出して夜遅くになってからやっと帰ってきたり、かと思ったら、夜遅くになって外に出て朝方になって帰宅したり、昼間に家を出たから深夜になってから帰ってくるんだろうなとそのつもりで構えていたら、二、三時間で戻ってきたりとまちまちなのだそうだ。しかし、最近では家に帰ってこない日も出てきたりして、春日君のお母さんはこうしてずっと我が子の帰りを待っていたという。
春日君のお母さんは、彼はここのところ一日置きに帰ってきいて、昨日は何の音沙汰もなかったから、今日は家に戻ってくるんじゃないかといっていた。
だから、こうして待たせてもらっているわけだが、もしかすると帰ってこない可能性もありうる。それなのに僕を居座らせてくれているところから見ても、春日君のお母さんには何でもいいから我が子が更生できるきっかけが欲しいという気持ちが強いことが見受けられる。
しかし、春日君のお母さんの期待とは裏腹に、僕が説得で彼をあそこから脱会させられる可能性はかなり低いだろう。
そうなると春日君のお母さんには悪いが、僕は自分の目的達成を最優先にさせてもらおう。
その際、僕は彼に一つの要求をするんだ。無謀かもしれない要求を……
僕は春日君の部屋に通され、そこで待たせてもらうことになった。僕は彼の机に備え付けられた椅子に勝手に座らせて頂く。
その机の上にはパソコンが置いてある。新機種である。この部屋の中では妙にきれいに見える存在である。というよりも、この部屋全体がそれほどまで整っていないからそう思うのだろうか?
多分、予定外の客で対応ができなかったのだろうが、それでもまあ、どうしてこんなに部屋が散らかしてあるのだろうと思うくらいありとあらゆるものが床に散乱している。
…ただ、僕みたいに何にもないそれよりかは、このほうが人間臭いのかもしれない。僕は部屋の中まで余所行きなのだ。
いつになったら僕は肩の力を抜くことができるのだろう?
そんなときはないのかもしれない。そんなもの必要ないのかもしれない。ただ、ちょっと力を抜いた瞬間に掴んでいたものがするりと抜け落ちてしまいそうで僕はなんだか怖かった。だから僕は常に気を引き締めて生きていかなければならない。
「終わり、か……」
そんな言葉をぽつりと呟いて、僕は自虐的に笑った。
ドアをトントン叩く音がする。
春日君が帰ってきたのだろうか?
しかし、ドアを開いたのは春日君のお母さんだった。
「…あの……お昼、どうですか?」
僕は最初遠慮しつつも結局は頂くことにした。
二人での静かな食事。
しかも、自分の親でさえもどこかぎこちなくなるのに、他人の親、それも初対面の人との食事である。もはや、気まずいなどという次元の話ではないだろう。
でてきた品物はうどんだったが僕は何となくいつもよりゆっくりと食べる。
「…どうですか、おいしいですか?」
向こうが訊いてくる。
ここは「おいしいです」といわざるを得ない。実際には舌がおかしくなっていてあまり味を感じなかった。
「どうして今日は学校に行っていないんですか? …辞められたんですか?」
また相手が質問をしてきた。
「いやですね、僕ですね、ちょっとした理由で人を殴ってしまって、停学を受けちゃいまして……」
僕はぎこちなく笑った。
「いじめられてたんですか?」
春日君のお母さんは鋭いことを口にする。
「ええ、ちょっとまあ……」
春日君のお母さんはテーブルに手をつける。
「本当にすみません。私のとんだ勘違いで……」
頭を下げる彼女を僕は懸命に宥める。
やっと顔を上げた春日君のお母さんは、その際、ぼそっとこういった。
「あの子にもそんな勇気が会ったら良かったんですけどね……」
そのあと彼女は食事にほとんど手をつけなかった。
必然会話も途切れ、僕はぎくしゃくした雰囲気の中うどんを胃に収めた。「ごちそうさま」という科白を発した僕だったが、そのあと引き返すタイミングを完全に失った。
春日君のお母さんはさっきからインターフォンの受話器をじっと見つめたまま動こうとしない。彼女は朝からこうやって春日君の帰りをずっと待っていたのだろうか?
僕は台所に食べたどんぶりを持っていった。しかし、流しには食べカスの残った食器が山積みになっていた。
「…あの……これ……」
僕の声に春日君のお母さんは振り向く。
「…ああ、すみません、そこの中に入れておいて下さい」
そういって彼女はまたもと向いていた方向に顔を戻す。
多分、何もする気が起きないのだ。ここはやはり……
「この食器洗いましょうか?」
「え?」
春日君のお母さんはびっくりして裏返った声を出す。
「いや、いいですよ。後で私がやりますから」
彼女は慌てて手を前に出す。
一体その『後』というのはいつなのだろう?
僕はその声を無視して見つけたスポンジと洗剤でお皿を洗い出す。
「あ、いや、すみません、ごめんなさい」
春日君のお母さんはそういって申し訳なさそうに俯いた。
そんな彼女に僕は「いや、お昼ご馳走になったんですからこれぐらい当然です」などと笑いながら語りかけたりした。
何でこんなことをやろうと思ったのかはわからない。でも、なんだか春日君のお母さんが不憫に感じたのは確かだ。
そういえば、僕は最近塾を休み始めたのを母親に怒鳴られたとき、僕は演技とはいえ事もあろうに「そんなに僕よりも塾がいいの? 僕は今やらなきゃいけないことがあるんだ。それは塾よりももっと大切なんだ。それでも強要するんだったら、僕いっそのこと死ぬ事にするから!!」などと口走ってしまった。その言葉を聞いて、お母さんは心底落胆していた。
お母さんは自分がちゃんと把握していた筈の我が子が、何を考えているのかわからなくなって随分ショックだっただろう。
今、全てを話すわけにはいかない。だけど、家に帰ったら話せることは正直に話して謝ろう。
食器も片づけ終わり、僕はまた春日君の部屋で彼の帰りを待たせてもらう。
いちおうプライベートなものだから周りにあるものには何も触らないでおく。といっても床には足の踏み場もないくらいだから、この椅子に辿り着くまでに多少ものの位置をずらさせてもらったが。
パソコンは僕の目の前にあるが、これにやっぱりあの会のメールが届いたわけだろうか?
僕は一度もらったのを消してしまって、再びもらおうとしたけど結局返事のなかったあのメール、一体中にはどんなことが書いてあったのだろう? このパソコンの中にまだ残っていたりするのだろうか……?
…駄目だ。どうせ彼しか見れないようになってるだろう。彼がここに戻ってくるときのことを考えたら立ち上げないほうがいい。
僕はただただ時間が経つのを待つ。
何もやる必要のない、肩の力を抜くことのできる時間、僕は性分なのか、ものすごく勿体ない気がして、勉強道具さえ持ってきたらよかったなあと思った。
勉強がしたい。
これは昨日、デモ中の狂会合を捜し出そうと電車に乗ってたときも思ったことである。 昔は、それをやっていたときはあんなに好きでもないことを、なんでこれほどまで頑張らなきゃいけないのだろうと思っていたが、今自分は適うかどうかもわからない、もはやほとんど勝ち目なんかないかもしれない、それ以前に敵が何かも不鮮明な戦いを強いられている。ただ一つのことをやっていればいい、目で見ればやるべきことがはっきりと認識できる勉強の方がどれほど楽なことだろう?
しかし、本当は世の中では自分の進むべき道がはっきりと確認できること自体がごく稀なことなのだ。
ときどき何かに負けそうになる。それが何もかもわからないのに、ただ漠然と敗北感を感じたりする。だけど、それでいいんだ。それでもいいから前に進もう。でないと絶対に世の中の混乱を食い止めることなんかできない。諦めた時点でそれが最後なんだ。
あの予告がデマだったという真実は、今は僕しか世間に公表できないのだ。そして、あれは僕とstrangerにとって決して本心から広まることを望んだものではない。望むものではないのだ。
だから、あんな予告は誰一人信じちゃいけないんだ。
そうなんだ。
これを果たして春日君は受け入れてくれるのだろうか……?




