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人類全てが殺し合う  作者: 熊谷次郎
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第二章 十節

   10 一九九九年 四月 十六日 (金)


 


 僕は自室にこもってパソコンへと向かっている。


 初めてまだ始めてから一カ月くらいしか経っていないが、タイピングにはもうだいぶ慣れたし、strangerとの関係もかなり親密なところまで来ていた。


 相変わらずstrangerの知識は豊富でいつも僕は舌を巻かれっぱなしだった。さすがは僕の頼れる友人、といったところである。


 しかし、最近になってstrangerとのやりとりの中で自分を苦しめ始めたものがある。そう、あのデマ流しだ。


 その後、僕とstrangerは <アンパンマンの変則パターンの話>や、<赤い靴の異人さんの謎>などの誰がどう考えても他愛のない話題を流すのを、毎週金曜日にやってきて、これまでで四回終わった。この行為がまた最近急に嫌になり出したのだ。


 別に岡崎が今どき胡散臭く、「私は自分が正しいと思うことをはっきりといって生きていこうと思うの」などといっていたことが影響していたわけではない。


 …そうだ、断じてない。


 僕はもともと嘘がつけない性分だったんだ。


 本当に些細な、とるに足らないようなどうでもいいデマだとはわかっている。それで皆が楽しんでくれるんだからいいものじゃないか。


 その言葉で何度も自分を誤魔化そうとしてきた。でも駄目なのだ。いくら自分のしたことと他人が分からなかったたところで後ろめたさは残る。


 しかし、もう既に昨日、次の予定のハガキは届き済みだった。


 相変わらず青い紙で裏面が覆われ、その中には青い文字が並べられている。そして最後には、お約束の、『この手紙は読んだら必ず処分をすること』の文句。


 そんなことをいわれても、僕は全てを机の引出しの中にしまってある。


 今日の名前はstrangerは<CD>、僕ことLordは<最速エンジン>らしい。この名前もどういう基準でつけられているのかも謎だ。 そして開始予定時刻は、十時二十五分とある。今の時間は塾から帰ってきてすぐの十時、その時刻の二十五分前だ。


 もっとも、これはこの時刻までに絶対に回線を繋いどけという意味であり、その時間丁度にstrangerが会話を始めたということはまだ一度もない。strangerはいつもその時間の後、話題が切り替わる合間を見計らってその話題に入っていた。当然といえば当然であろう。


 それまでまだ余裕があるので僕はその時間までにstrangerからのメールを見ておくことにした。メールボックスの中の、目新しいアイコンをクリックする。何気ない会話が続いた後、最後にちょこちょこっとデマ流しの話題に触れてあった。


 「今日のやつはちょっと自信作なんだ。頑張ってみんなを笑わそうぜ!」


 僕の胸にチクリとトゲが刺さる。


 本当にやっていいんだろうか?


 ………


 僕は感情を紛らわすためにもう一度モニターの方を見た。


 おや、もう一通メールが来ている。


 名前はなくてタイトルが、『チキューカンキョノカンゼンホゼノ』とある。途中っぽいが、それで十六文字、もうこれ以上の文字は入力できない。


 これは一体なんだろう?


 チキュー、地球? …カンキョノ……


 …駄目だ。これだけじゃ全然意味がわからない。


 でもこんなの心当たりない。きっと誰かのいたずらに決まっている。最近流行りのコンピューターウイルス『メリッサ』とかいうやつかもしれない。わけのわかんないメールは消したほうがいいに決まっている。僕はすぐにそれの削除の手順を踏まえた。


 なんで僕にあんないたずらなんかをするのだ。そんなに他人に嫌がらせをしたいのか!! …そう腹を立てる自分にどこか後ろめたさを感じた。


 自分がいえることではないではないか。


 僕だって他人に不要なデマを流して、人を騙してせせら笑っている。これは僕じゃない、strangerがいい出したことなんだとかいういいわけも、成り立つようなものではない。結局、何の文句も口にせずに加担している自分がいるではないか。


 …もうやめよう。


 そう胸に誓った。


 だがそんな心とは裏腹に僕はNIFTY SERVEのリアルタイム会議室に回線を繋げる。


 友人の約束を破るわけにはいかない。やめるというにしてもそれは次からだ。


 僕はチャット内でなされている会話の内容をぼんやりと眺める。


 今日は1999年七の月、地球は恐怖の大王によってどうにかなるというノストラダムスの大予言についていろいろ議論がなされている。


 洪水が起こるのではないか? いや、隕石が地球に落ちてくるのだ。いやいや、火星探査機カッシーニが地球で行なうスイングバイーー惑星の重力を使って探査機のスピード増幅させる方法ーーに失敗してしまうのだ。馬鹿いえ、もう一回探査機が地球に落ちてんだよ。何にもなってないだろ? 他に何かあるんだよ。……などと皆、真剣に語り合っている。中には、UFOが飛来してきてーーとか、地底人がやってきてーーなどといった、本気なのかジョークなのかわからない様な説もいくつか出てきていた。


 こんなの子供騙しのものでしかない。何も起きるわけがないじゃないか。皆こんなものを本気で信じているのだろうか?


 僕は今すぐチャットに入って「何も起こるわけないだろ」と打ち込んでしまいたかったが、すぐにやめた。strangerとの約束違反になるし、別に僕がやらなくたって他の誰かがそれをいったっておかしくないだろう。


 時計を見れば、十時二十分、約束の時刻の五分前だ。


 だが一向にノストラダムスの話は尽きそうもない。これだけたくさんの人を信じ込ませて、話題づくりとしてだけは、ノストラダムスは間違いなく成功を納めたようだ。その予言を解読したといい張る人、その人たちはいざその解読した内容が違ってたとなったらその後一体どうするつもりなのだろう?


 まあ、多分どこかに隠れて食いっぱぐれる運命にあるんだろう。そんなの考えてみるまでもない。


 そうやって変なことを考えてながらモニターを眺めていたらうちにもう十時三十五分、予定の時刻を十分過ぎた。無論状況は変わらず。一体このネタはいつ終わりを迎えるんだろう?


 そんなことを思いつつ僕は画面から少し距離を置こうと頭を上げた瞬間にそこに表われたその文字に、僕はパッと目を見開いた。




 >あのう、俺、CDっていいます。


 >俺、この間、FMラジオを聴いてたらさ、いきなり雑音が入ってきて、気味の悪い言  葉が入ってきたんだよ。


 >こんな感じのさ。


  


 「一九九九年七月一日午前九時、この世にバーサーカーが次々と現れ、人々を殺戮の彼方へと誘い、世界は破壊と混乱の渦に巻き込まれるだろうーー」


 


 >何か俺、聞いちゃいけないようなものを聞いちゃったかなーー





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