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人類全てが殺し合う  作者: 熊谷次郎
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第二章 九節

   9 一九九九年 四月 十二日 (月)


 


 女もそんなに捨てたもんじゃないなと思う。


 僕の思惑通り風間達の興味はあの教師へと次第に移っていき、僕への包囲網も完全ではないにしろかなり解け始めつつあった。


 これで僕の学校生活ももとの平穏なものに戻っていきそうだ。成績こそ落ちたけど、高校生活の初めからそうなったのはかなり縁起がいい。僕は今まで背負ってきた重荷が取れた分、心も体も軽くなっていた。


 さて今日の次の時間もあの教師が来る現代文の授業だ。


 あんな奴の湿っぽい顔を見る気もない。もはや風間達の抑圧もない。僕は自由の身だ。 そうだ。保健室にでも行くか。


 僕はこの休み時間のうちにスタスタと保健室に向かい始めた。


 まだそんなに慣れていない校舎だが、一階付近をウロウロしていると保健室は案外楽に見つかった。


 保健室の中には誰もいなかった。


 生徒の方はいいとして、教師は見回りか何かなのだろうか?


 僕は構わず中には入ってベッドに横になることにした。


 皆が机に噛りついているときにこうしてゆったりと寛げる、束の間の幸せ。


 一瞬、ほんの一瞬、後ろめたさが湧いてきたが別にいい。あんな女を教師にした学校側が悪いのだ。風間もあの女をいじめるのを楽しがっている。僕の役目はもう終わりだ。何をしたっていい筈だろう。


 何故か残る空しさを振り切るかのように僕は眠りに就いた。


 


 ボクのゆいいつのともだちはべんきょうだけだった。


 だれもボクのことなんか、かかわってきやしない。ひるやすみになってもこうしてひとりっきりだ。


 どうしてボクはいつもこうなんだろう?


 ボクはかなしくなってきょうしつのまどからそとをみた。


 こうていでは、せいとたちがワーワーギャーギャーさわいでいる。




 ボクはそんなみんなのたのしんでいるすがたをみたくなかったので、もっとうえのほうにめをやった。


 あおいそらににゅうどうぐもがもくもくとひろがってきれいだった。あそこをじゆうにとべるとりみたいになれたらなあ……


 ふと、よこをみると、ボクのかたわらでおなじようにくもをながめているおんなのこがいた。


 …あれは、そう『おかざきさん』だ。


 ことし、おなじくらすになったひとみのきれいなおんなのこ。


 おかざきさんはボクにわらいかけた。


 「そら、すきなの?」


 ボクはすこしはにかみつつ、「うん」とこたえた。


 「どうしてこんなにてんきがいいのにそとであそばないの?」


 おかざきさんはふしぎそうにたずねる。


 ボクはそんなおかざきさんのかおをみることができずに、したをむく。


 「だってあそんでくれるともだちがいないんだもん……」


 ボクのことばじりはしぜんとちいさくなっていた。


 「じゃあ、なんでおかざきさんはどうしてそとであそばないの?」


 ボクはきをとりなおしてきいてみた。


 するとおかざきさんはすぐにこうこたえた。


 「まってるの、おともだちを」


 そのあかるいへんじにボクはちょっとがっかりした。


 そんなボクのことにきをつかってくれたのかおかざきさんは、「じゃあわたしがいまのうちだけおともだちになってあげましょうか?」といってボクのてをにぎってくれた。


 ボクはうれしかった。うれしかったのだけど、ボクはすぐにそのてをふりほどいてしまった。


 「いいよ、ボクといっしょだとともだちがきたときにみんなおかしがるよ」


 ボクがそういうとおかざきさんはくびをふる。


 「へいきだよ、わたしがすきできみといっしょにいるんだもん!」


 そういって、またてをつかんできてくれたのを、ボクはまたほどこうとする。


 「だってそういわれたって、ボクどうしたらいいかわからないんだ……」


 ボクがめをぎゅっとつぶってうつむくと、おかざきさんがボクのあたまをなでてくれたのでボクは、おどろいてめをあけた。


 「だいじょうぶ、きみがほんとうにじぶんのこころからひととふれあいたいとおもって、ひとにやさしくせっすればそれはひとにつたわるんだから」


 ボクはそのことばになにかパアッとこころにひろがるものがあって、まるでおとぎばなしのおうじょさまがおうじさまにキスをされてめをさますようなきぶんであたまをあげた。すると、めのまえではおかざきさんがにっこりとほほえんでいてくれた。


 「いっしょにいきましょうよ」


 おかざきさんがボクのてをひっぱる。ボクもおかざきさんについていこうとおもった。おもったのだけど……


 「ごめんよ、おかざきさん、ボクやっぱりいけない。じゅくのしゅくだいをいまのうちにやらなきゃいけないんだ」


 おかざきさんがさみしそうなかおをした。


 「なんで、そんなのどうだっていいじゃない」


 おかざきさんがなおもボクのうでをグイグイひっぱる。


 「いこうよ、ねえ、たのしいよ? いっしょにいこうよ」


 ボクはあたまをなんどもふる。


 「…ほんとうはボクもいきたいよ。でも、だめなんだ。これをやらないとボクはじゅくのせんせいやおかあさんにしかられちゃう」 ボクのことばをきいておかざきさんはしんそこガッカリしたかおになる。


 「そうだよね、ごめんね、わがままいって……」


 おかざきさんはすっかりしょぼくれてしまった。


 おねがい、おねがいだよ。ボクのこときらいにならないで……


 「おーーい、おかざきさーん」


 だれかべつのじょしがおかざきさんをよんでいる。


 「あ、おともだちがよんでいるから、じゃあね、バイバイかわらくん」


 おかざきさんははじめてボクのなまえをよんでくれると、そのままともだちのわのなかにいってしまった。


 ボクはばかだ。ボクはいっしょうばかなままなんだ。


 ボクはさっていったおかざきさんのほうをみた。


 すると、そとにでていったとおもっていたおかざきさんたちが、まだきょうしつのいりぐちふきんにとどまっていることにきづいた。


 そこでおかざきさんたちはこんなかいわをしていた。


 


 「よくあんなガリ勉野郎とあんだけ会話が続くよねえ」


 「まあ、コツがあるのよ、コツが」


 「手に触れてみたり、頭を撫でてみたりってか?」


 「でも、目標の三分を超えられるのって大したことだと思うよ。私、前やってみたけど三言ぐらいしかもたなかったもん」


 「でも、こんなん罰ゲームじゃないとやってらんないわよ。


 あ~あ、あんな奴の手も髪も触っちゃった~。今すぐ石鹸つけて三回は洗わないとね。気持ち悪、気持ち悪っ」


 「…ねえ、岡崎、今、アイツ、こっち見ていたよ……」


 「別にいいよ、あんな奴どうでも。キャハハハハ……」




 


 …これだから人は信用できない。


 自分だけだ。自分だけだ……


 




 知らぬ間に僕は唸り声を上げてしまっていたらしい。


 誰か知らない女の「大丈夫? 河原君」という声に僕はハッとした。目を開けると、岡崎ーー教師の岡崎の顔がすぐそばにあった。


 「大丈夫なの? あなたがクラスにいないからどうしたのか訊いてみたらここじゃないかっていうから心配して見にきたのよ」


 何故、いちいち来るのだ? 放っておいてくれるのが一番いいのに。


 「熱があるの?」


 そういって岡崎は僕の額に手を当てる。


 …触んな、女!!


 「別に熱があるってわけではなさそうね。次の授業、出れるわね?」


 僕は、コクリと頷く。ここは、奴のいうことをきっちり聞いて、さっさと退散してもらおう。


 「そう、よかった」


 岡崎は僕につくりものめいた笑顔を僕に見せた。


 「じゃあ、ついでだから一緒に帰りましょうか?」


 なんてことをいうんだこの女!


 僕は慌てて拒否する。


 「どうしたの? 行かないの? 何か不都合でもあるの?」


 僕は岡崎を見た。


 岡崎の大きく見開かれた純粋というよりもただ何も知らないだけという感じの二つの瞳が、時に僕を残酷に焼き付けようとする。


 ただ単にお前を毛嫌いしてるからだよ!!


 …などという本当の理由をグッと押さえ、もっともらしいことを僕は咄嗟に呟いた。


 「他の奴らに見つかったら、何をいわれるかわからないから」


 その言葉に痛いほど共感があったのだろう。岡崎は「…そう……」とだけ言葉を漏らして、もはや何もいい返してこなかった。


 「じゃあ河原君、次の授業、ちゃんと出るのよ」


 そういい残すと、岡崎は保健室から立ち去った。


 誰もいなくなった後も、あの女のシャンプーの甘い匂いが僕の鼻に微かに残って、僕は思わず顔を顰めた。


 きっとクラスのほとんど奴が自分に関心すら示さないから、自己主張の弱そうな奴ならきっと心を許してもらえるだろうとか思っていたのだろう。とんだ茶番だったと本人もわかったようだが。


 結局、ただ大学に出ただけの世の中知らずの女の愚かな考えだったというわけか。


 


 その後も僕は国語の授業がある度に保健室に行くようになった。初めて高校の保健の先生とやらに会ったが、この学校ではそういう人間が毎年一人はいるらしく、何もいわずに保護してくれた。そういう生徒にとっては実に体のいい話だった。また、自習室というのもあってそこも事実上、この保健室と同じような意味を持っているという。学校側の成績さえ良ければという成績至上主義的な考え方がかなり繁栄しているなと思った。


 そうだ。授業はいらない。あの女もいらないのだ。


 今日も僕は保健室のベッドにて寝入る。


 僕が学校でできる楽しみといえばこの睡眠ぐらいなものだ。それも前は風間達によって押さえつけられていたのだから、その反動でわざわざ教室を抜け出して布団の中を求めるようにもなる。


 今頃、あの岡崎はさぞかし酷いいじめを受けていることだろう。


 …岡崎……


 まさか、授業が終わったらこちらに来たりしないだろうなあ。


 …ないない。そんなことする理由がない。


 とある生徒が自分の授業に出ない、しかも自分の授業にだけ出ないとなったら、さすがにどんなに鈍くとも自分が嫌われているのではないかと疑問を持ち始めるだろう。


 そんな奴に気にかける奴なんているか?


 いるわけがない。いたとしたら、そいつは自分を嫌っている人間に対して一体何を望んでいるというのだ?


 そうだ。そうだよなあ……


 僕はこの一時間、安心して眠りに就いた。


 …だが、しかし……


 体をいつもより強く揺すられて僕は目を覚ますと、そこにはまたも岡崎の姿があった。 しかし今日は前とは違ってなんだか怒っている。


 …ああ、なんだ、そうきたか。


 岡崎は大声で捲し立てる。


 「どうして? どうして授業を休むのよ!? きちんと授業にでないと。あなた元気なんでしょ? 私知ってるんだから! 仮病を使って保健室で寝てるくらいだったら、ちゃんと教室にいなさい!!」 僕が顔を岡崎から背けようとすると、テンションの上がっている岡崎は、僕の肩を掴み自分の体のある方向に僕を向かせた。


 「ちゃんと話を聞きなさい!!」


 …何の話をだ?


 僕は自然と眉毛が動く。


 「何だよ、ただ単に怒鳴りに来たのかよ」


 少々の声のトーンでいったつもりが、ボリュームの制御が効かなくて思いのほか大きな声で叫ぶ結果になって、自分でもちょっと驚いた。しかし、溜まりっぱなしの僕の欝憤のダムが一度流れ出すともはや急には止まらない。


 「確かに黙って授業を抜け出すのはあんたから見れば悪いことだろうよ。


 でもさ、ただ自分の思うような授業ができないからって教室にいないでいる僕にお説教するのかよ! 自分をどうにかできそうな奴を見つけてストレスを発散しようって気なのかよ!!


 こっちが何故教室に行かないのかなんて考えないてはくれないのか?」


 そこまでいって、「しまった!!」と思った。


 岡崎は無言で僕の肩から手を離す。その後もしばらくの間何の反応もない。


 泣いているのだろうか?


 そう思って顔を覗こうとしたとき、やっと岡崎の声が聞こえてきた。その声は思ったよりはっきりしていたので僕は胸を撫で下ろした。


 「そうだよね、私、どうかしてた。河原君には河原君なりの教室に来れない理由があるんだもんね」


 その理由がアンタだといったら、この女はどんな顔をするんだろう? 僕はしんみりとした雰囲気の岡崎の前で、その言葉を心にそっと押し込めた。


 それだけ済めばもう帰るのかなと思っていたが、岡崎はまだ保健室を出ようとしない。 いつ出てくんだよ。教師ごっこは終わらせてくれ。さっさと出ていけよ。


 そんなことを思って岡崎の顔を見ると、岡崎はにっこりと微笑んだので、僕はギクッとした。


 「あのね、私の彼、松野君っていうの」


 …いきなり何をいい出すんだろう、この女は。それにその科白を言い出したとき、一瞬にして変わったこの雰囲気、ああ気持ち悪っ!!


 そして岡崎はそのまま何か気の狂ったように珍奇な話をし始めた。


 まあいいさ、勝手に喋らせていればいい。きっとドラマなんかの告白シーンなんかを再現してみて悲劇のヒロインを気取ろうとしているのだろう。その一種のナルシストな会話が終わったらさっさと帰るだろう。


 僕はとりあえずこの女の痴話話を聞いてやることにした。


 「彼ね、ここの高校のサッカー部のエースストライカーだったの。私は近くの女子高に通っててね、放課後彼のことずっと眺めていたの。彼本当に凄かった……」


 …まあ、確かにこの高校のサッカー部は強い。しかし、それは学校がそういう生徒を引き抜いたからで、しかも、僕達一般の「勉強だけが命」という奴らとは、全く別の存在なのである。そんな奴とこの女はごく普通の恋愛ごっこをしていたわけだ。


 「それでね、彼が最後の地区大会でいい線までいったんだけど、結局そこで彼は勝てなかったの。試合後に私今までずっと遠くから見てるだけだったんだけど、今までの気持ちも含めて、私、がっくりと背中を丸める彼に、何にもかける言葉が思い浮かばなくて、ただ黙ってタオルを渡したの。そしたら彼はね、『君がずっと見ていてくれるのを知っていて、君のためにと思って頑張ってきたんだけど、このザマだ……』って笑ったの。だけど、その後すぐ、彼はわんわん泣き出してしまって、私はそっと胸を貸してあげたの……


 あの日のことは今でも鮮明に覚えているわ……


 そしてその一件から私たちはつき合うようになって、だんだん月日が経って、高校の卒業のシーズンを迎えたの。彼はスポーツ推薦で早稲田大学に進んで、私は両親の強い薦めで女子大学に通うことになった。大学は遠かったけど、私達はお互いを必要としていたし、きちんとやってこれたの。ずっとこの幸せが続くと思ってた。


 ……だけど、だけどね、去年からかな?


 彼がね、膝の靱帯を痛めちゃって、もうサッカーはできないってお医者さんにいわれたの。もう再起不能だってまでね。


 それから彼の態度がだんだん、だんだん変わっていっちゃったの。 私ね、彼に前のスポーツに一生懸命打ち込んでいた頃の彼に戻って欲しくていろいろ手を尽くしたんだけどね。駄目なの。彼ね、全然変わってくれなかったの。


 彼はサッカーだけが生き甲斐だった。それが失われたショックは彼の中であまりにも大きかったのかもしれない。そしてそれに代わるものはもう彼の中には出てこないのかもしれない……


 …そんなときにね、私ね、今振り返るとどうしてそう思ったのかわからないんだけどね、彼のこといろいろ知ろうと考えたの。私が好きだった、ひたむきに頑張る彼がいたその場所を知りたくなったの。別に、知ったからって彼が変わるわけでもないのにね。


 でも、その場所は変わってた。もう遠くに霞んで見えなくなっちゃてた。同じものがいつまで経っても同じ場所にあるなんて限らないのにね。何考えてたんだろうね、私……」 おそらく岡崎が一大発起して僕にこんなことを話したからには、この僕に少しは同情して欲しいのだろう。だが、僕にはそんなことはできない。


 そんな奴、さっさと別れちゃえばいいじゃないか。嫌なんだろ?


どうしてそんな奴のために自分の人生も決めちまうんだ? 頭がおかしいんじゃないかとしか僕の目には映らない。お前なんかがドラマのヒロインになれるわけがないだろう。こいつどこかで甘えているんじゃないのか?


 そんなことを口に出すでもなく考えていると、岡崎はまたちんけな話をし始めた。


 「ねえ河原君、君たちのクラスの子達はさあ、今後将来、どうやって生きていこうと考えていると思う?」


 …下らない告白の次は、こんな説教かよ。付き合わされる身にもなってくれよ。


 僕は岡崎のためにその返事を口籠っといてやる。今この場で僕の口から出てくるであろう言葉は、まず間違いなく岡崎好みの科白ではないであろう。


 しばらくすると、僕の温情がわかったのか、岡崎は勝手に語り出した。


 「みんな大企業のエリート会社員とか弁護士とか、医者とかになりたくて勉強するの? 本当に偉い人になるのが幸せ? 偉い人になって、他人を見下して生きていくことが?」


 岡崎は僕の顔をしっかりと見る。


 …そうに決ってんだろ。


 そうは思いつつも、岡崎から目を離したら負けのような気がして、僕は視点を動かさないようにするのに必死だった。


 「私はそうは思わない。だってそんなの悲しすぎるでしょ?


 …私はね、ちゃんと自分が正しいと思うことを貫き通していきたいと思うの。


 本当は、今街中を歩いている子達がいうように、『今が一番』って思って生きていった方がいいのかもしれない。


 でも考えてみて、今ちょっと我慢すれば今よりもっと楽しいことがあるかもしれない。もっと我慢すればもっともっと楽しいことに出会えるかもしれない。自分の中に一つのこれだけはやり通すっていう目標を立てて、その先に辛いことがあっても耐えきって進んで行くことができれば、その先に今よりもずっと素敵な世界が絶対待っていると思うの。


 それに、いつも楽しいことばかりしていると、だんだんそれが普通になってきちゃって、楽しくなくなっちゃうでしょ?


 だから、今すぐ楽になる方法があっても私は逃げ出したりなんかしない。私はたくさんの人間が幸せになれるように、私が正しいって思うことを自分ではきっちりと実行して、みんなにははっきりといっていこうと思うの。私、たとえ一人になっても自分の意見を曲げないから。だから河原君もちゃんと授業に参加して、できるなら私に協力ね」


 そういって岡崎は僕の手を握ると、立ち上がって保健室を後にした。


 ケッ、誰がお前なんかに協力するかよ!


 僕は握られた手をベッドの掛け布団でごしごしと拭いた。


 …やっぱりあいつは甘チャンだ。


 僕は今まで、すぐに得れる幸せを我慢して生きてきた。ずっと臆することなく努力を続けて生きてきた。


 だけどもちっとも報われやしない。今楽な生き方をしている奴ばかりが得をしてるんだ。


 女はやっぱり嘘つきだ……




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