密会
「教官お疲れさまでした」
「酒々井もお疲れさま」
久々の演習訓練を終えた僕とアイリーン教官は喫茶店へ来ていた。
今は二人だけで、3人のメンバーには寮へ帰宅するようにとアイリーン教官が伝えていた。夜だけあって客も僕たちしかいない。
「ところでこの喫茶店って…」
「あぁ、私たちが最初に出会った…というか待ち合わせをした喫茶店だよ。実は私の行きつけでね。いつも敷地内の食堂だとなんだかリラックスできなくてね。ゆっくり考え事をするときや話をしたいときはいつもここにくるんだよ」
「呼び出されたこっちは冷や汗ものでしたよ」
あの時は突然自分たちの仲間になれだとか、ならないと風穴あけるだとか言われてリラックスなんてできたもんじゃなかった。
だがそんな場所に呼び出されたということはなにかしら折り入って大切な話があるということなのだろう。
「で、本題なのだが…」
アイリーン教官は話し始めるとすぐに口ごもった。
どこから話すべきかをどうやら考えているようだ。
「トリガーハッピーというのを知っているだろうか?」
トリガーハッピー…あ、そういえば。
「宇甘さんから聞いたことはあります…でも意味までは」
宇甘さんから確かにそのような言葉を歓迎会の時に言われた記憶はあるが、たしかあの時は意味を教えてもらう前に緊急出動命令が出てしまったんだっけ。
「ならそこから説明しようか。トリガーハッピーというのは兵士が陥る一種のトランス状態だ。銃器を操ることだけにすべての意識がいってしまい正確な判断を欠いてしまう。一般的な軍隊においては、一番最初に訓練によってそのような状態に陥ることのないように訓練を行うことになっている」
「ということはアイリーン教官も?」
元軍人のアイリーン教官は訓練を受けたこともあるのだろうか。
「いいや、私は特殊な部隊出身だったから訓練をしたことはないさ。す《・》る《・》必要がなかったからね」
確かにそういわれればアイリーン教官のような、鉄壁の精神を持った鉄の女は必要ないのかもしれないな。
「だが私はともかく、彼女たちには必要なんだよ」
彼女たちというと3人…いやハッピーガールズのメンバー全員のことだろう。
「彼女たちはまだ子供だ、ホントはまだ高校生の女の子なんだ。そんな娘たちが銃を撃っていて正気を保つほうが本当は難しい」
「彼女たちはトリガーハッピーという状況に陥る可能性があると…?」
「この前の作戦のことは覚えているか?」
もちろん覚えている。
「輝璃のことですか」
あの時の輝璃の言動は明らかにおかしかった。
下手したらあのとき無意味に犯人を射殺してしまっていたかもしれないと考えると、今でも少し悪寒がする。
「あの時は私が力づくで抑えられたからいいものの、もし私が居なかったらわかるだろ。あれは完全にいつもの輝璃ではなかった。最悪の事態も考えられた」
そう、あの時は咄嗟にアイリーン教官が窓から突入をして瞬時に輝璃を抑え込んだおかげで何事もなく終わってくれた。
「犯人の射殺ということですか…」
「いいや、それで収まればいい。だがいつしか、理性すらも失い敵味方の区別すらも忘れてしまったならそれは…」
もう輝璃は味方ではく敵…。
「あのときなんでアイリーン教官は前もってわかっていたからあの制御室に向かっていたんですか?」
「ああ…あれが初めてではないからな」
以前の作戦でもこのようなことがあったというわけか。
でもそれならなぜあらかじめ訓練をしていないのか?
「でも、そのトリガーハッピーを抑える訓練をすればいいんですよね!」
そうだ、悪い方向ばかりを考えていたがその状態は訓練で精神を鍛えることによってどうにかなるということだろう。
「ああ、だがそれが許されればの話だ」
「それってどういう…」
なぜ訓練をすることが許されないのか。
「君にはすまないが、少しくどい言い方をさせてもらう。そうでなければおそらく伝わらないだろう」
結論を急ぐなということか…いいさ僕だって大人であり彼女たちの指揮官なのだからすべてを知る必要がある。