適材適所
なんだか詳しく書いていこうとするとなんだか多少くどくなっている気はしますが、気長に読んでいただけると嬉しいです
誤字、ルビ忘れありましたら活動報告の方に連絡いただければ幸いです…!
輝璃達3人がダムの上を進んでいる頃、酒々井はダムのセキュリティーへの侵入を試みていた。
「公共施設のシステムなだけあってセキュリティーが厳重だな」
ダムという公共施設の制御をするシステムということだけあってセキュリティーはなかなかのレベルだった。
しかし、ただ単にセキュリティーレベルが高いと言うだけならば酒々井には何の問題もない。
酒々井の異技能のノイズジャックは電子的に機械を操ることが出来る。正しくは直接伝達命令を電子的に組み上げ、そのダミーの命令を出すという能力だ。
ダミー命令を入れるだけならば、完全にシステムをハッキングする必要もないためセキュリティーの厳しさはほぼ関係してこない。
問題は…
「なんだこのダミーの数…」
酒々井は視覚的にシステムをとらえることができる。
そしていまはシステムの中枢にある場所に建っている。
中枢というだけあって制御するためのラインが無数に貼られているのだが。
「ゲートの数は…2万!?」
酒々井の四方八方に広がるのは無数の黒いゲート。
これすべてが各種機能につながっている…はずなのだが。
「これもダミー…これもだ、いくらなんでもダムの制御程度でこの厳重さ」
ダムのセキュリティーに侵入することなんて初めてだったのだが明らかに異常さを感じる。
「ここまでの厳重なセキュリティーは久々に見たな」
以前、政府のセキュリティーに侵入しようとしたことがあった。
「あの時は間一髪足がつくところだったからな…」
遊び程度の気持ちでやった人生初めてのハッキングは散々なものだった。
ハッキングは成功した、しかし痕跡を残したおかげで逆ハッキングをかけられた。
俺の演算能力はボロボロ、さらには位置特定の異技能まで仕向けられて…。
だが今回は違う。
遊びでも、いたずらでも、ましてや逆ハッキングをかけられる心配もないわけで。
彼女たちの命と、街の未来がかかっている。
「ダミーだろうがなんだろうが、突破してみせるさ。それが僕の異技能だからね」
考えるんだ。
現在、制御室にはテロリストが立て篭っているはずだがダムという機能自体は正常に機能しているわけだ。
ダミードアには何かしらの共通性があるはずだ。
ダミードアの共通性。
ダミーは本物ににせいているからダミー。
ということは普段は機能していないわけか…。
中枢システムでも電力供給量の制御はできるはず…ということは。
「極端に電気供給が少ないところを消去法的に探していけば…!」
電力供給量のリストをすぐに呼び出す。
「あれ?なんだこれ…」
大体、検討のつくゲートを絞り出すことはできたのだが…明らかに大電力すぎるエリアがいくつかあった。
「制御室の証明機能はこんな使うわけないよな…」
絞ったリストの項目からはすぐに割り出すことができた。
「これで、作戦遂行ができるな」
◇◆◇◆◇
ダム上は端から端まで直線の道。
幅は10mほどで両端には落下防止のため1mほどの防波堤のように盛り上がった部分がある。
その道の逆端には制御室が有り、こちらからは直線距離でおおよそ200mといったところだろう。
3人はそこを真っ直ぐに制御室向かって進もうとしていた。
「それじゃ2人ともいくよ。滑るように…滑るようにっと」
萌花が目を閉じて集中をする。
「リーンバウンド」
途端に、3人の足元のコンクリートは氷上のように滑らかな足場へと姿を変えた。
姿を変えたといっても、性質的なものが変わるだけであって見た目に変化はない。
氷上のような道を萌花が先行し、3mほど後ろを輝璃と鈴良がついていく。
指揮官からの命令通り全速力ではなく、なるべく慎重にとのことなのでスピードは6割程度。
萌花からすると余裕らしく鼻歌交じりで進んでいた。
半分ほど到着したとき輝璃は違和感を覚えた。
この違和感の正体はなんだろうか…。
もし私たちがこのダムを占拠するとしたらどこに警備の重点を置くべきか。
階段…ううん、もっと狙いやすい場所。
相手には爆弾使いがいるということも気になる…。
それにいくらなんでも警備が手薄すぎないかな。
こんな直線狙撃にはもってこいのはずだよね。
「爆弾…爆弾…!?」
罠だ、いくらなんでも見張りが一人もいないのはおかしい!
「ストップ!ストップして萌花ちゃん!」
「えええ、なになに急に」
萌花は突然の停止につまづきながらも止まる。
その時つまづいた先に見えたのはなにか光るもの。
よく見るとそれはピンと張ったピアノ線だった。
輝璃がストップをかけたおかげで、ギリギリその糸を引くことはなかった。
「なにこれ…」
萌花が困惑した顔で端から端まで張られた10mほどのピアノ線を見つめる。
そのピアノ線を伝ってみると、端っこにはコンクリの色にカモフラージュするために、灰色のガムテープを巻きつけた物体が。
「ブービートラップってやつだよ…これは糸を引いたら爆発するタイプだと…思う」
「そうですね、糸は非常に切れやすくなっていて、その糸が切れた瞬間に発火する仕組みのようです。が爆弾はプラスチック爆弾でも手榴弾を流用したトラップでもないですね。私が見たことがない爆発物ということは、やはり異技能の産物という可能性が高いかと」
鈴良は爆発物の知識に関してはかなりの自信を持っているがこの爆弾のようなものは鈴良でも見たことがなかった。
「うひょー、これは危ないとこだったわぁ。いやぁ警備が薄いのはトラップが仕掛けられているからってわけね~。まあ萌花さんが引っかかるわけないけどね!」
萌花のノーテンキさ加減はこんなところですら発揮される。ある意味、度胸があるというべきだろうか。
「んじゃ気を取り直して…!」
「待ってください」
再度異技能を発動させようとした萌花に輝璃がストップをかける。
「警備が0だということを考えるとトラップが1つだけとは考えにくいと思う…」
「そうですね、トラップの構造が単純な分、数を設置することも簡単だと思われます」
数秒間の沈黙の後
「よし、じゃあ飛ぶよ!リーンバウンド!」
その瞬間に3人の地面は超高反発のトランポリンのような素材へと変化した。
「いくっっよ!!!」
萌花は輝璃と鈴良の手を取って大きく跳躍した。その高さは20m近い。
「萌花、これじゃあもし着地地点に線があったら!」
2回目の跳躍は一度目の落下速度が加わってさらに高く遠くに跳び上がった。
「ふふふ、それはどうかな?」
鈴良心配をよそに着地しようとした萌花たちは見た。
着地地点にちょうど糸が張っているのを。
それを確認した3人の対応はそれぞれだった。
輝璃はどうなるかの不安で目を閉じていた。
鈴良は青ざめた顔で涙目になっていた。
そして萌花は自信があるといったように微笑んでいた。
萌花の足に触れた糸は――
切れることなく、ゴム飛びの紐のように伸びた。
「どう?走ってたら常に演算を必要とするんだけど、跳ぶだけなら着地にしか必要としないからこんな芸当だって出来るんだよ!」
萌花はトラップの糸の性質をとっさにゴムのように伸び縮みをする素材へと変えてしまったのだ。そのおかげでブビートラップは発動することなくなったわけだ。
そのまま8回ほどの跳躍を繰り返したところで端の制御室の前まで来ることができた。
制御室はコンクリートのブロックにアンテナと小さな小窓を付けただけのようにも見える。
「どう?私すごいでしょ」
ドヤ顔をして萌花は2人に言った。
「萌花ちゃん流石だよ~!」
「もう、一時はどうなることかと思いました…ですが確かに助かりました」
輝璃は満遍の笑顔で、鈴良は少し呆れたという顔をしながらもホッとしながら、そう口にした。
『3人とも大丈夫か?』
「大丈夫大丈夫余裕だね!」
酒々井からの通信に元気よく萌花が答える。
『ちょっとばかし苦労したけれど制御システムに侵入を成功した、これから先は先ほど伝えた作戦通り頼む。鈴良いけるか?」
「はい、了解しました」
鈴良の表情はそれまでとは打って変わって真剣な表情へと変化する。
そして後の2人も静かに鈴良を見守っている。
「それでは…」
周りの空気がすっと冷たくなったように輝璃は感じた。
「サイレンサー起動」
次回「ハイブリッジリバー編」一応完結すると思います!
多分ですけれども!
モーニングスター大賞にも応募しましたのでよろしくお願いします!