作戦はそれぞれの戦いのために
10秒でわかるここまでのあらすじ
酒々井に突然届いたメールの差出人はアイリーンと名乗るロリババア。
その人に無理やり「Trigger」という組織の指揮官を任されることになった。
着任当日の夜、「歓迎会」を楽しいんでいたメンバーたちだったが…
「ほぇ~これがハイブリッジリバーダムかぁでっかいねぇ、ここ爆破されちゃ市街地が水浸しになっちゃうよ」
萌香がそんなのんきなことを言っているのが通信越しに聞こえる。
その後ろからは雨の落ちる音もノイズのように聞こえてくる。
彼女らは今ハイブリッジリバーダムの上へと続く階段を上っている。
そびえ立つコンクリートの壁は100m近くあるのではないだろうか。
僕はダムの近くに停めた指令車から指示を随時指示を行うという立場なので、実際に容疑者の確保を行うのは彼女たちだ。
少しは心配はあるが、昼の訓練を見る限り彼女たちはやわな女の子じゃない。
強く、芯のしっかりした女の子たちだ、信じよう。
「萌香、のんきなことを言ってないで集中してください。夜中ですし雨で敵を認知しにくいのですから油断しないでください」
相変わらずだな真面目だな小鉢は。
まあ実際油断はしてはいけない。
彼女たちは生死を賭けた仕事をいまからおこなうのだから。
「……」
そんな緊張からか輝璃は出動から一言も言葉を発していない。
「輝璃は大丈夫か?」
「えっ!?あっはい!だ、大丈夫です」
声が震えているとこからしてやはり緊張しているのだろうか?
「輝璃、帰ったら一緒にファミレスでも行こうか」
「え?」
「なに?さっそく口説いちゃってる感じ?手が速いねぇ」
萌香が余計な茶々を入れてくる。
小鉢はなぜか無言…ん?
「あは…あはは…あはは…うふふ…酒々井さんがまた…あとからお仕置き…」
なんか謎の笑い声が聞こえてくるんだけど…スルーするのが無難な対応かもしれない…あとのこと考えると恐ろしいけれど。
「違うよ、まだ残り二人のメンバーと顔合わせできてないし、それに今日だって途中で緊急出動させられちゃったしね。せっかくだからメンバー全員と食事に行きたいなってさ」
さっきまでは「歓迎会」という名目でTriggerのメンバーたちと楽しんでいたのから一変して今は生死を争う戦いなのだ。
「へぇ~以外に紳士じゃんか。いいね気に入ったよ!10分でいいよ」
「10分?」
萌香が突然口にした時間。
「10分以内に終わらせたら特大パフェおごりね!」
「そうですね、私は高級抹茶アイスを所望します」
この子たちは本当に生死を賭けた仕事をしている認識はあるのだろうか…まあでも
「いいだろう!俺がババーンとおごってやるよ。輝璃も好きなもんおごってやるからな」
「…はい、ありがとうございます」
輝璃の声からは震えはほとんど感じ取れないところからすると、緊張が少しはとれたんじゃないだろうか。
そんな雑談をして少し彼女たちは元気になったと思ったが、あるタイミングからはぐっと引き締まったように3人とも黙り込む。
そして数秒後萌香が
「到着、現在ダムの左上に3人とも到着。敵影は確認できないね」
緊迫した空気が通信を通してでも伝わってくるような感じがする。
まるでさっきまでがダンスパーティーで、ここから先は葬儀とでもいうかのように。
「それでは作戦を説明する」
空気がきゅっと引き締まる。
「このダムは制御室がダムの右側、つまりこちらから逆側のコンクリート作りの箱のような建物だ。そこからでも窓から光が見えると思う。
現在水門は閉められた状態にあるが、犯行集団はおそらく朝になったらこのダムを爆破しようとしているのだろう。この辺りは数時間雨が降り続いた影響で水はいつもの倍なんてもんじゃない。そんな量の水が一気に流れ出たら町は水没してしまうかもしれない。それだけは絶対に食い止める」
そう、このダムの水を放流する川の下流には人々の暮らしがたくさんあるんだ。そんな尊いものをテロリストなんかに壊されてたまるものか。
「有能者は現在確認されているのは2人、一人はテレキネシス。単純な念動力だな。もう1人は不明だが爆弾を使っていたそうだ」
「それはまた物騒な輩ですね」
小鉢の言うとり、爆弾なんてものはFPSでも邪道中の邪道、卑怯なのに絶大ない威力を持った物騒なモノ。
ちなみにゲーム内では僕爆弾魔だけどさ。
こんなときでもゲームのことを考えてしまうのはゲーマーだからなのかもしれないな。
まあそんなことは置いておいて―
「そのまままっすぐダムの上を進むんだ。直線でダムの端から端までは200mほどの距離があるが、萌香の『リーンバウンド』なら何秒で行ける?」
訓練の時に見たスケートのような地面の滑走の仕方なら走るよりも圧倒的に早い到達が可能になるはずだ。
数秒間の沈黙があった後――
「200mか…私なら12秒で行けるよ。鈴良と輝璃ならまあ18秒ってところかな?ただ3人分の滑走エリアを作るとなるとそれなりに動きは制限されるかも」
十分だ。
むしろ思っていたよりも早い。
これだけできれば上出来。
「それと、軟化させるのはどこまでできる?」
異技能の確認は本来実際に見て確認したかったが、今日の今日で昼間のジャンプしか見れていないからな。
「軟化か…うーんともちろん昼みたいにトランポリンのように弾ませることもできるし、最大に軟化させるならもちろん液体にだってできるよ」
ほう、そんな便利なこともできるってわけか。
「たださっきも言ったように制限があるかさ、液化させるとなるとまあせいぜい10m範囲ってとこかな」
10mか…制限は厳しいが萌香のスピードなら十分。
「小鉢、例のものは準備できてるかい?」
小鉢にはあらかじめ出動前に装備の相談をしておいた。
あとの二人は武器が固定しているようだけれど小鉢だけはその時々で武器を変えるようだから指揮のためにも認識しておく必要があったのだ。
「もちろんです、物騒な輩に正しいモノの使い方というのを教えてあげたいと思いますので」
それでいい、よし準備は大丈夫なようだ。
「輝璃、君が容疑者を拘束するんだ」
輝璃に語り掛けるように言う。
「わかりました、私が悪い人を抑えて見せます」
輝璃も正義感は人一倍なようでやる気は十分なようだ。
「今から伝える作戦通りに遂行すること。ただし、危ないときは無理せずに一時退避を必ずすること」
「しーちゃんは心配しすぎだよ、私たちはへましないから大丈夫」
「そうですよ、酒々井さんは見守ってくれていれば大丈夫ですから」
ほんとにこの2人だけは強気なのか無鉄砲なのか…
最初は正反対かと思ったけど実は似た者同士なのかもな2人とも。
「それでは作戦を伝える」
◆◇◆◇◆◇
「よし、それでは作戦開始」
「「「了解」」」
「なかなか指揮官らしい指示じゃないか」
「いやいやそんなことは…」
指令車の中では僕をあわせて5人Trigger職員が機器の調整からシステムの調整を行っていた。
その中にアイリーン教官の姿もあった。
車の中はコンピュータや、通信機器などであふれかえっていた。
酒々井は指令車というのはアニメやドラマでしかみたことがなかったが、想像以上に雑多に感じた。
「すまないな、せっかくの着任初日から楽しい楽しい残業をしてもらって。そういえば残業代のことだが――」
「アイリーン教官、心配じゃないんですか?」
酒々井は、どうしても聞きたかった。
彼女たちはまだ高校生の年齢にもかかわらず、生死を賭けた仕事をしているの大人の僕たちがこんなことをしていてもいいのだろうか。
それなのにアイリーン教官は心配なんて色は全く見せない。
「そうだな、彼女たちは数々の事件を解決してきた。実績があるのだから心配も何もないだろう」
もちろんそんなことは知っている。
「それでも――」
「じゃあ、君には容疑者をとらえることができるのか?彼女たちが死にそうになったら助けに行くようなヒーローになれるのか?」
「それは…」
「今君がすべきことは彼女たちを心配することじゃない。彼女たちが最大限の力を発揮できるようにサポートすることだろう」
確かにその通りだ、いまサポートをすることで彼女たちが少しでも安全に仕事ができるなら。
「指揮官、システムのゲートウェイ発見できました!」
そう、適材適所。
僕の今できることは。
「今からダム内の監視カメラシステム及び、照明システムのジャックを行います」
僕の異技能が役に立つことがあるのなら。
酒々井自信、こういうことをするのは実は初めてだ。ゲームの大会では相手の通信をジャックしてそれを仲間に伝えて指揮を執る、それだけだった。
酒々井は、それでも今回は仲間を守るためにハッキングを行う。
自信はない、でもやるしかないから。
「なんだ、いい顔するじゃないか。少しは見直したぞ」
もとはどう思ってたんですか、とは聞かない。
酒々井はヘッドホンを装着し自分の神経を集中させる。
「では、セキュリティーに侵入を試みます」
目をつぶった瞬間黒いゲートのようなものが見えた。
よく見るとそのゲートはこの白い空間の中に連なるようにして佇んでいた。
「骨が折れる作業になりそうだ…」
アイリーン教官はそんな酒々井を見てつぶやいた。
「まるで私が心配をしてない非道な大人みたいではないか…」
それはもちろん酒々井には聞こえていなかっただろう。
やっと戦闘シーンが本格的に書けると少しウキウキしている伏見です。
戦闘シーン書くの好きなのですがどうしても頭の中のイメージが先行して、何も知らない読者様に伝えるには情報不足になってしまいがちです…
あと、実は終わりもすでに決めているとのことでしたがなかなかそれまでの持っていき方が難しくて悩んでますが頑張って今年中には完結できるよう目指します!
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頑張ってたくさんの投票を勝ち取って見せます!