実技演習
突然ですがここでちょっと用語解説です。
・異技能
この世界では一部の人に備わる能力です。
それは突然だったり、生まれつきだったり様々。
・有能者
異技能を持っているニンゲン。
・Trigger
特殊事件対策強襲部隊の通称。
主に、有能者の起こした事件の解決を請け負う。
「ちっ…」
ちょっと焦ってきた。
目標までの距離は50mほどだが周りは廃ビルに囲まれていて狙撃には十分すぎる場所だ。
ここをバカ正直に突入したところでいい的になるだけ。
とても小柄なら瓦礫に隠れながらでもなんとかなるかもしれないが、女子高生の平均的な体系の彼女が隠れるには少し瓦礫だけでは心もとない。
それに、このオレンジがかった茶髪&制服じゃあ目立ちすぎる。
「この距離じゃ、私のリーン・リバウンドでも間に合うか怪しいよね…」
相手の位置が確認できるまでは動くべきじゃない。
ただ何かしらを仕掛けないと相手も動かないはず。
とりあえず近くにあった空薬莢を拾う。
最低限相手がどちらかくらいは知らないとな。
もしもこれが撃たれたなら『鈴良』。
そうでないなら『輝璃』がこちらの拠点を守っていることになる。
まあ鈴良なら撃つじゃなくて爆破するって可能性もあるけどね。
それだったむしろ朗報っちゃ朗報だけど。
一番は輝璃じゃなければいいんだけどな…。
鈴良ならまだ私の異技能でどうにでもなるけれど、もし輝璃なら対処しきれないから。
さあ、反応しなよ。
塀の陰から拓けた場所へ空の薬莢を投げる。
薬莢は空中を舞い、そして地面に着地した刹那――
雨が降り出した。
光の雨が。
着地した地点に100発近くの弾丸が打ち込まれた。
まるで雨のように…。
その時間わずか1秒ほど。
またあの子はあんな大きな重火器持ってきてるの…。
でも、鈴良ならなんとかなる。
銃弾の着地の仕方から大体の方向はわかるが音がしないせいでどの位置から撃っているかまではわからない。
「M134使っておきながら、サイレンサーってチートすぎじゃない…」
それでも輝璃ではなく鈴良が防衛にあたっているという点では朗報。
彼女ならばスピードでどうにかなる。
それでもやっぱり緊張する。
下手に玉をばらまかれると被弾する可能性だって0じゃないのだから。
でもやるしかない。
「私ならできる。3、2、1…」
カウントが0に到達した瞬間。
30m近く跳ね上がった。
文字通り跳ね上がったのだ。
それはトランポリンを使った跳躍のように華麗に中を舞った。
そしてビルの屋上へ到達する。
ただもちろん相手がこれを見逃すわけがなく、着地した瞬間から銃弾の雨が浴びせかけられる。
甘い甘い。
そんなバカ正直に追ってるだけじゃ私にはヒットしないよ。
銃弾が着地する前に床を蹴って高速で走り抜ける。
自慢のオレンジがかった茶髪を翻しながら。
私の通った後ろに着弾した縦断は地面に虚しい音をあげて着弾する。
残念でした~。
フィギュアスケーターのように地面をかける…いや滑ってるか。
一つ違うのは愛銃のFA-MASが一緒だということ。
このフランス製の小銃は誰よりも信用を置いている相棒。
そしてこの銃についている刃は私を守るための盾。
走る先にやっと見えた。
目標のフラッグが。
捕らえた!
そしてフラッグから10時の方向のビル屋上に敵を確認した。
さすがミニガン。
ものすごい連射速度を誇ってはいるが、弾を発射した瞬間の光は半端ないくらいに目立つ。
いくら音を消したところであの光を消さなければ、視界に入っている限り怖くはない。
そして、ここまでくれば死角に入りつつフラッグへ近づいていけばいいだけのこと。
私の異技能を使えば簡単なことさ。
自分の足元のコンクリートがまるで高反発のトランポリンのように変化する。
さらに自分の跳躍力も最大限使って隣のビルへと飛び移る。
ここならあちらよりも高いビルだから屋上から屋上を狙い撃ちすることはできない。
ジャンプすると先程と同じように私の後を応用に銃弾が空を切っていく。
「さっきから偏差射撃がなってないねぇ~…」
そして気づいた。
射撃が明らかにおかしかったことを。
なぜ、予測して撃たない。
ミニガンなら弾幕を張れるはず。
銃弾によって進行方向を妨害することだって可能なはず。
むしろ私の異技能を知っているなら尚の事…。
もしかして…。
気づいたときにはもう遅かった。
私の異技能では何かしらの物質に触れていないと能力を発揮することはできない。
着地しようとしていた屋上には人影があった。
その人影は屋上へと出る扉の影に隠れていたせいで、着地する寸前まで気づかなかった。
だがそれが誰かは一瞬でわかった。
シルクのような髪の毛の女の子はこのフィールド内には一人しかいない。
『輝璃だ』
気づいて愛銃を構えようとする努力もむなしく。
自由は完全に奪われてしまった。
「ごめんね萌花ちゃん、私たちの勝ち…」
少女は引き金を引いた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「いやぁ完全に裏をかかれちゃったよ…完敗だね」
「セントリーを置くなんて…鈴良ちゃん頭いいよね」
「ほんと、輝璃がまさかこっちにいるとはね」
「とりあえず戻ろっか…」
そう言って輝璃は萌花に手を差し出す。
「うん、疲れちゃったよ。ひとりアタッカーは流石にキッツい!」
萌花は輝璃の手を借りて立ち上がる。
二人は最初の地点に戻るとそこには鈴良とアイリーンが立っていた。
「お疲れ様二人共、いい勝負だったぞ」
アイリーンが一番最初に声をかける。
続いて酒々井も声をかける。
「お疲れ様」
「それじゃあみんなやった集まったことだし、そろそろ自己紹介をよろしく指揮官殿」
「その殿ってやつをやめてくださいよ!」
どうやら教官よりも指揮官は一応立場的には上らしいが、全然そんな感じしない。オーラ的にもアイリーンさんが上。
しかし見た目は8歳だ。
「どうも、鳥津酒々井だ。酒に漢字続けるときに書くあれと、井戸の井で『しすい』と読む」
「のんだくれですか!」
萌花が突然ツッこむ。
「ちゃうわ!むしろ19なので飲めないから。というか19だからほとんど君たちと変わらないからタメ口でもいいぞ」
「んーじゃあしーちゃんはなんで指揮官になったの?」
しーちゃんって…まあそれは置いとこう。
「僕の異技能は「ノイズジャック」と言って通信機器をジャミングしたりすることができる。逆に言えばジャミングを防いだり、どれだけ遠いところにいても高速での伝達ができる」
「あまり戦闘向きでないのでは?」
鈴良が的確な指摘を入れてくる。
「それは私から説明しよう、さっきの訓練を見ての通りこいつは指揮の能力はずば抜けて優秀だ。そしてこの能力も指揮官としては有能な部類。よって私がスカウトさせてもらった」
指揮官殿とか言ってたのにやっぱりこいつ呼ばわりなんですね…。
この人は前言を忘れてしまう異技能でも持っているのだろうか。
「じゃあ自己紹介!私は風切萌花。
異技能は「リーン・バウンド」。
そしてこちらは相棒のFA-MAS G2」
最初に自己紹介を始めたのは先ほどアタッカーをやっていた彼女。
身長は3人の中で一番長身。
「あれは、反発係数と摩擦係数を変化させているのかい?」
「近いんだけど、実際は私が知ってるものの硬さ、滑り具合にしているって感じかな。自分の知らないものを作ろうとするとすごい演算必要だから結構疲れるんだよね」
てことは30m以上飛び上がったときは結構無理してたわけか。
「そのFA-MASはなぜいまどき銃剣装着?」
FA-MASはフラン製の小銃で異質な形状をした銃だ。
携帯性を向上させるために、全長の短縮が可能なブルパップ型デザインをとっている。
形状が近未来的なこともあり、ゲームでも愛用する人は多いのだが、いまどき銃剣ってめったに使う人はいない。
ゲームとか一部の兵隊の行進なんかで見るくらいだ。
「私の異技能的に接近がしやすくて接近戦が得意だからね。それに無力化するときにも便利なのさ」
確かに大きい分取り回しは良くないが、ナイフを取り出して構える時間を考慮するとこちらの方が早いのかもしれないな。
「それでは次は私が自己紹介致します。私は鈴良小鉢と申します。
私は銃火器は戦況にあわせて変更しております。
今日はM134ですが、RPGだったりMG4だったします」
黒髪ロングの鈴良と名乗る彼女はミニガンをそばに置いて話し出した。
そりゃあ訓練でRPGなんて使えないわな。
全体的に超火力武器ってわけか。
「そして異技能は『サイレンサー』音をかき消す能力ですね。
原理としてはイヤホンのノイズキャンセラーと同じで、音に対して逆波長の音をぶつけている訳です。まあつまり本当は振動系異技能なのですが、私はサイレンサーと名前を付けて消音に特化させています」
確かにこの重火器のメンツだと取り回しと、大きな銃声は足かせになるがそれが1つ減るだけでも大きなメリットか。
とくに無音で近づくRPGなんて考えただけでも恐ろしい。
下手すると無音爆弾なんてことも可能…。
なんだかんだ爆発って、銃弾よりは相当遅いし発射音してからでも対処できるからね、ゲーム知識だけど。
「ちなみにさっきの訓練を見ていただけたらわかるかもしれませんが、このピンさえあれば半径1mは遠隔で無音を作り出せます」
取り出したのは一本のヘアピン…のようなもの。
「このヘアピンは特注で制作したものです。私の能力と共鳴して、自由自在に周波数を発生させる装置です」
さっきのセントリーガンの発射音を、違うポイントから消音していたのはそういう原理か…。
1m&固定でしかできないのが難点か。
最後は透きとおった白い長髪の少女。
白い髪もそうだが一番は左の黒い瞳とは違い、深海のように深い青をした瞳。
まるで吸い込まれそうな瞳をしているように僕は感じた。
「最後…私は、不凍輝璃っていいます…。銃はコルさんとレっちゃんです…」
コルさんとレっちゃんってなんだ!?
「輝璃、初めての人にはちゃんと紹介してあげなくちゃ」
「そ、そうだね。コルトガバメントのコルさんとベレッタのレっちゃんです…」
ああ、そういうことね。
コルさんはまだわかるとしてベレッタのレっちゃんってあえてそこ取る必要あるのか。
「そ、その異技能は『ゴーンアイ』です」
初めて聞く異技能だな。
「目を合わせた人…を硬直させちゃいます…」
そっかさっきの訓練で最後、彼女は銃を使わずに萌花を無力化したのはそういうことか。
「普段から能力使ってるの?全然目を合わせないけど」
「しーちゃん無神経だねぇ~輝璃はしーちゃんに惚れちゃったんだよ」
はぁ?
少し前まではニートゲーマーだった僕に!?
年齢=彼女いない歴のこの僕に!?
もしや、モテ期到来!?!?
「鳥津、もしかしてお前本気にしてるんじゃないだろうな。
輝璃は極度の人見知りで男性恐怖症なだけだ」
「は?」
アイリーン教官から告げられた無慈悲な報告により僕のモテ期はまだまだ先だということがわかってしまった。
「よし、それでは今日の訓練はここまでにしよう。後のメンバーはまた後日紹介する」
「え、まだメンバーいるんですか?」
そういえばメンバーが何人でどんな編成の舞台だとかいうことは全く聞いていなかった。
確かにここにいるの近接戦特化メンバーしかいないしな。
「あと二人ほどな、いまは緊急で本部の方に行っている」
ここが本部じゃないということも初耳なんですけれど…。
「あの人も今日は来てるしとっとと帰るぞ」
あの人って誰だ?
「あの…あの人って――」
「いくよしーちゃん!早く帰ってご飯食べよ」
萌花が僕の手を取って引っ張っていく。
「そうですね、お腹ぺこぺこですし」
「うん…」
「ちょっちょっと!」
初めて手をつないだ女の子が教え子とは…なんだかいいな。
ぜんぜん教えてないけど…。
トリガーハッピーをご愛読いただきありがとうございます。
初めましての方は初めまして作者の伏見と申します。
いつかは物書きとして食べていきたいと画策している底辺小説家です(笑)
異能力モノを書くのは久々で単純、既視感のある作品になるかもしれませんがぜひ、応援いただけると嬉しいです。
更新ペースはとりあず入隊日の話は今週中に完結させたいかと思います。
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