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君との日々  作者: Toki.
53/57

#53 修学旅行〜強制連行〜



「雫か!?」



俺はそういいながら、急な坂をゆっくりと下りていった。


一番下まで行くと、少し大きな石に腰をおろしている雫がいた。



「大地!」


「雫!」



そう叫んで、俺はギュッと雫を抱き寄せた。



「大丈夫か?」


「う…」



その反応からすると、どうやらどこか怪我をしているらしい。



「どこだ?」



雫はもう一度石に腰を下ろし、そっと右足のズボンを少し上げて、足首を俺に見せてきた。



「ひでぇな」



そうとう腫れている。


骨折とまでは行かないが、どうやら捻挫をしているらしい。



「だ、大丈夫!」



そう言う雫の足をギュッと握ってやると、小さく『痛ッ』と呟いた。



「馬鹿か。無理するな。今、助け呼んでやるからな」



そう言って、俺は右ポケットに手を突っ込んだ。


…あれ?



「無い」



確かに朝の山登りの時には入れていた携帯が、ポケットから消えていたのだ。



「馬鹿じゃないの」



どうやら、俺が携帯を忘れてきたことに気付いたらしい。



「せっかく助けてやったのに、馬鹿よばわりは無いだろうが」


「別に、助けてなんて言っていません」



そう言って雫はそっぽを向いた。


こんの…。



「そうかい、そうかい! じゃあ俺は一人で帰りますよ! 空でも呼んで、この人目につかない場所でイチャイチャしていればいいだろうが」


「だ・か・ら・なんで、大地はいつも空の名前を出すのよ! 大地なんか、早く由梨さんの下へ帰ってあげたほうがいいんじゃないの!?」


「そうさせてもらいますよ!」



そう言って、俺は立ち上がって去っていこうとした。


その時、再び雫の『痛ッ』という言葉が耳に入った。


くそっ。


なんてお人よしなんだ、俺は。



「早く、乗れ」



俺は再び雫の下へ寄って、腰を下ろしおんぶが出来る格好になった。



「ば、馬鹿じゃないの!? 恥ずかしいじゃない!」


「恥ずかしいのか、ここで死ぬのかどっちがいい?」


「死ぬほうがマシよ!」



はぁ、この女はどこまでも…。


俺は雫の手を持って、強制的におんぶの格好になった。



「な、何するの! 降ろして!」


「却下」


「も、もう…」



諦めたのか、俺の腰の上で暴れるのをやめた。


とりあえず、この急な坂を上るしかないのか。


一歩踏み出してみる。


…なんか無理そうだぞ。雨でドロドロになった地面に足がとられそうだ。


俺は別ルートが無いか探してみる。


…無い。


はぁ、と大きく息を吐いて俺は意を決した。


急な坂に挑戦だ。


雫の重さプラス地面の不安定な坂を、この強靭な太ももでなんとか上りきった。




そして、あたりを見渡すと真っ暗になっていることに今更気付く。


周りで何も足音がしないということは、どうやら捜索をしていないようだ。


そのまま正規ルートに戻り、俺はもう一度雫を背負い直した。



「大地…」



俺の背中で何か言おうとしている。



「…何?」


「あ…」


「何だよ」



俺がもう一度聞くと、大きく息を吐いて「ありがとうね」と呟いた。


この言葉を聞けるのも、あと何度あることか。


こいつをホテルまで連れて行ったら、多分保険の先生が雫の面倒を見るのだろう。


そして、そのあとは今までと同じ、空のもとへと行ってしまう。


…今度から学校へ行くときは、電車の時間を変えなきゃ駄目だな。


俺はそんなことを考えながら「気にするな」と答えた。









そして、雫を背負って歩くこと1時間、なんとかホテルまで着いた。


そこには、先生と明、朋子、そして空が立っていた。



「雫ちゃん! 大地!」



そう叫んで一番に、俺達に近寄ったのは空だった。



「大丈夫?」



そう聞くのは空。


雫は小さく頷く。


その光景が、なんとも羨ましくて…まぶしくて。



「空、雫を保健室に連れて行ってやってくれ」



俺はそう言って、雫をそっとおろした。


空は大きく頷いて、雫に肩を貸し歩いていく。


それに朋子はついていった。











俺はというと、雫の姿が見えなくなった後、その場にどっと座り込んだ。





















さて、最終話まであとこれを除き3話となりました。

最後までお付き合いお願いします。






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