#52 修学旅行〜行方不明〜
山を下り終え、俺はホテルのベッドで寝転んでいた。
なんだよ。
なんなんだよ。
山で妙に話しかけてくれていたのは、『空と付き合うから、諦めて』って言うタイミングでも伺っていたんだろう。
…そんな話、今更俺には関係ない話だよ。
あんな奴…もう知るもんか。
空と、仲良くしていれば良いんだ。
俺を…放っておいて。
「クソッ!」
そう叫ぶと同時に、ドン! という鈍い音が響いた。
俺が右手の拳でベッドを殴ったのだ。
「知らねぇよ…」
その右手をそっと目の前まで持ってきて、視野を隠した。
どんどんと、手の平が濡れてくるのが分かる。
また、俺は泣いているのか。
「だっせぇ…」
どうやら、こういう状況になると、独り言が多くなるらしい。
そんなことを考えていると、勢いよく部屋のドアが開いた。
「大地!!」
明だ。
息が荒い。
どうやら慌ててここへ来たらしい。
「なんだ?」
「雫ちゃんが…」
「雫が…どうした?」
ハァ、と大きく息を吸うと明は真剣な目でこう言った。
「居なくなった」
い、居なくなった?
どういう意味だよ。
「え?」
俺が聞き返すと、明はもう一度息を整えて
「居なくなった。…行方不明なんだ。あの後、少し一人にさせてやろうって俺が言わなかったら…」
そう言って明は座り込む。
明、何が言いたいんだ?
「お、おい! 何があったんだよ! 分かりやすく言え!」
「大地と雫ちゃんが喧嘩して、雫ちゃんが何処かへ行っただろ? あの後、俺が少し一人にさせてやろうって朋子ちゃんに言って、あの場所で待機していたんだ。いくら待っても雫ちゃんが戻ってこないから、下ってくる奴等に、雫ちゃんを見かけなかったかって聞いたんだけど…」
「誰も見ていないってオチか」
そんなこと、あるのかよ。
遭難なんてものは、アニメやドラマの中だけにしてくれ。
「とりあえず俺は、雫を…」
…探してくる?
俺じゃなく、空に頼めば良いだろう。
もし『運命』というものがあるのなら、空が見つけるはずだ。
だけど…それでいいのか?
ここで探しにいかなくて、後悔をしないのか?
たとえ、遭難者が雫じゃなくても、探しにいくべきじゃないのか?
「…雫を探してくる。明はそのことを先生と空に言ってきてくれ」
明の「分かった」の言葉を聞いた後、俺は猛スピードで部屋を飛び出していった。
どうか無事であってくれと心の中で祈りながら。
山登りスタート地点にとりあえず俺は向かった。
そこに立っている先生に聞くと、どうやら雫はまだ降りてきていないらしい。
『何があったんだ?』と聞かれたが、こんなどうしようも無さそうな先生に説明する暇が惜しい。
「明に聞いてくれ!」
そう言って、俺は自分が降りてきたルートを再び走り出した。
人目を恥ずかしがらず、俺は大声で雫の名前を呼んだ。
しかし、返ってくる言葉は無い。
こんな状況になっても、無視するほどあいつも馬鹿じゃないだろう。
「雫、いねぇのかよ!」
探し始めて、もうそろそろ2時間が経過しようとしていた。
その時ふと足元を見てみると、人気のないほうへ進んでいっている足跡を見つけた。
どうやら、一昨日の雨のおかげで陰になっている部分の地面がまだ水に濡れているようだ。
しかも、この足の大きさは…。
「雫かもしれない」
俺はそう呟いた後、その道を進んだ。
その中を進むごとに、どんどんと道が狭くなっていく。
「おっと!」
進んでいると、いきなり足場が無くなる場所があった。
どうやら急な坂になっているらしい。
「あっぶね」
そう呟いて、下を覗くと人影がちらっと見えた気がした。
まさか、雫?
そう思い、雫の前を叫ぶ。
すると、反応があった。
「大地?」
その声の持ち主は、確かに雫だった。
ベタベタの展開です。
もう少しで最終話となっておりますので、
最後までお付き合いお願いします。