#51 修学旅行〜口喧嘩〜
修学旅行3日目。
予定では、山登りをするらしい。
この山登りの時間も、自由時間と一緒で、明と朋子の計らいのもと、雫と一緒に行動が出来るようにしてもらった。
そのことを最初に聞いたときは、明と朋子が神様に見えたのだが、今の俺にとっちゃ余計なお世話である。
『雫と顔を合わしたくない』これが俺の本音。
正常でいられる気がしない。
雫だって同じだろう。嫌いな俺と一緒に居ることを好まないはず。
いっそのこと…空と変わってもらおうか。
そんなことを考えていると、明に引っ張り起こされた。
「いつまで寝てんだ」
「今日…休む」
明は大きくそこでため息をついた。
「昨日、雫ちゃんに無視されたことが、そんなにショックだったのか?」
ギクッ。
いきなり核心をついてくるところが明らしい。
というか、何で明は知っているんだ?
「そんなことで諦めるほど、お前の恋心は弱いものだったのか?」
「あ、明に…何が分かるんだよ」
俺は意地になって、言い返してしまった。
明は悪くないのに、心配をしてくれているだけなのに。
下を向くと同時ぐらいに、俺の頬に何かがぶつかる感触が。
いや、これは殴られたのだ。
「いって!!」
「目、覚めたか?」
明の目を見ると、本気で起こっている模様。
「覚めてるよ…」
「じゃあ、服着て出発するぞ。もう一度殴られたかったら、そのままでもいいが」
「わ、わかったよ」
俺は嫌々ながらも服を着て、ホテルを出発した。
本日の山登りのスタート地点は、どうやらこのホテルの傍にあるらしい。
そこまで歩きで向かうというわけだ。
山で死ぬほど歩かなければいけないのに、こんなところで体力を消費させるのか。この学校は。
そして、数分が立つ。
歩くのが飽きてきたなと思うころに、山登りスタート地点であろう場所に着いた。
やばい。
そろそろ雫と顔を合わす。
少し、憂鬱になってきた。
俺はなんとか、雫がいるであろう場所を見ないようにして、俺は先生の説明を聞いている。
その説明も全く、頭に入ってこないが。
「じゃあ、この前分けたグループで山登りをするからね! まずグループごとで集まってちょうだい」
先生がそういうと、ざわざわ騒がしくなって、みんなが動き出す。
俺はその場に座ったままでいると、俺のグループであろう3人が集まってきた。
大地、朋子、そして…雫。
「大地、いくぞ?」
明に思いっきり引っ張られ、無理やり立たされる。
そして、先生の下へ。
どうやら、出発をする前に点呼をとらなければいけないらしい。
「気をつけて行って来い。何かあったら、すぐ近くの先生に言うんだぞ」
先生のその言葉に明が「はぁい」と答えて歩きだした。
先頭を歩くのは、いつもと同じ明。
気を利かせてか、なんだかは分からないが、その隣に朋子がいる。
つまり、その二人の後ろにいるのは俺と雫というわけで。
ありがた迷惑というか、なんというか。
俺も雫も一緒に居たくないのに。
本当に、勘弁してくれ。
「だ、大地…そのごめんね?」
雫がいきなり話しかけてきた。
何を「ごめん」なんだ。
俺を昨日避けたことか?
嫌いになったことか?
それとも、俺の気持ちに答えられないことを?
「別に」
俺はぶっきらぼうに答えた。
別に、今更…。
空と雫なら幸せにやっていけるだろう。
「そ、そういえば空がね!」
空の話題か…。
そのあと、雫が何かを話しているが、俺の耳には入ってこない。
いや、入らないようにした。
だって、馴れ初め話なんて聞きたくない。
「大地?」
「何?」
「話、聞いてる?」
聞いてない。
そう言おうとしたけど、言葉にならなかった。
そのまま喋らないまま無視状態に。
そうすると、雫も黙り込むような形になった。
「この辺で、お昼食べようか」
明がそういうと、俺たち4人は足を止める。
俺は、鞄から先生に渡されたお弁当を取り出した。
そうすると、明が持ってきただろうシートを広げて、3人が座っていることに気付く。
その輪にどうしても入ることが出来なくて、少し離れた所で俺は弁当を食べ終わった。
そして、再び4人で歩き出す。
しばらくすると、頂上らしき場所に着いた。
「おーっ!」
明がこの光景を見て、叫びだした。
いつもの俺なら、ああやって叫んでいるんだろうな。
「すごいねぇ…」
その次に朋子が言葉を発した。
雫は、朋子の隣で楽しそうに話をしている。
俺は、その光景を後ろでじっと眺めているだけ。
はぁ、早く帰りたい。
そんなことを思いながら数十分。
頂上にいる先生に点呼をうけ、そのまま山を下ることになった。
帰り道。
いつもより、積極的に雫が話しかけてくる。
しかし、俺の返事はほとんど無に等しい。
返したとしても「そう」など、いつもの雫バージョンだ。
そんなことをしていると、雫が再び黙りだした。
そうだ。
そうしてろ。
お前は、俺じゃなく空と楽しく話すべきなんだ。
「だっ、大地の馬鹿っ!」
いきなり、雫が叫んだ。
「そうか」
「何で…何でそんな態度なの!? せっかく私が話かけてるのに!」
『せっかく?』
その言葉に俺の思考回路の何かがちぎれた。
「別に、誰も頼んでいねぇだろ! 雫は空と楽しく話していればいいだろ!」
「なんで、空が出てくるのよ! 大地なんか…大地なんか、由梨さんと仲良くしてればいいじゃない!」
「な…お前こそ、何で由梨を出すんだよ! 意味わかんねぇ」
「だっ、抱きしめてたじゃない!」
雫のその言葉に俺の思考回路は一瞬停止した。
何で…知っている?
あの日の夜のことを。
「お、お前…覗き見してたのか?」
「違うわよ! み、見えただけよ。もう…大地なんて知らない!」
雫はそう言って、来た道へと戻って行ってしまった。
「お、おい、大地!」
「…俺は帰る」
俺は、追いかけることもせず、そのまま山を下りはじめた。
さぁて、そろそろ終盤も見えてきました。
あと6話? 7話? ぐらいで終了予定です。
もう少し短くなるかもしれません。