#37 転校生
やっと…雫に会える…。
あの祭りが終わってからと言うものの、俺の禁断症状は激しくなった。
家の中では『面白くない!』と連呼するようになったし、散歩しているときは、雫がいないかキョロキョロし始めるし…。
わかっていたけど俺は、もう雫にベタ惚れ状態です。
そして本日、その最悪な夏休みともおさらば!
昨日は雫に会えるのが嬉しくて、なかなか寝付けなかったほどだ。
俺は鼻歌交じりで、髪の毛をビシッと決めて、学校に行く準備を始める。
このときは思いもしなかっただろう、大変な出来事が今日二つも起こるなんて。
「雫!」
と心の中で大きく叫んだ俺は、今雫を電車の中で発見した。
嬉しくて、抱きしめたくて、人目を気にせず雫の下へと軽く小走りで寄っていった。
その間、電車の揺れで転びそうにもなったが。
「おはよ!」
雫の顔を見ると、いつもどおり。
挨拶を無視するのもいつもどおり。
俺が話しかけると、素っ気無く返事をするのもいつもどおり。
…そう、『いつもどおり』でよかったのに。
学校に着き教室へと向かうと、なにやら教室がざわざわとしている。
「どうした?」
近くにいた明に聞くと、どうやら二人転校生がやってくるらしい。
「その転校生を見た奴の話だと、女が一人、男が一人らしい。そして、ここからが問題なのだ!」
「問題?」
「女の方がとてつもなく可愛いらしい」
…そんなことかよ。
どうせ明のことだから、次に口を開くときは『その子は俺が落とす!』とでも言うのだろう。
「本当に可愛かったら、俺が落とす!」
ニヒヒと笑いながら明は右手を上に突き上げてきた。
俺にそう言う事を予知されていたとも知らずに。
…予知していたからって、何かが変わる訳じゃないけど。
「そして、まだまだビックニュースが飛び込むぞ! 聞いて驚け。その女は俺たちのクラスにくるらしいんだ。俺の席の隣に作られた席こそがその証拠!」
「お、それは、よかったね」
俺が素っ気無く返事をすると『なんだよ〜大地には雫ちゃんがいるからって』と拗ねた様子を見せた。
そのとおりだ。俺には雫がいる。
「それで、男子のほうはどうなんだ?」
「男子? あ〜転校生か」
その話しかしていないだろうが。
「えっとね、眼鏡をかけているが、格好男前らしい。俺様ほどではないが」
「そうですか」
「そうそう、先生から聞いた話だが、頭がいいらしいぞ。何のとりえも無いこの高校に入ってきた意味が先生たちにも分からないらしい」
何のとりえも無いって、先生たちが決めちゃっていいのか。
「男子は雫ちゃんのいるクラスに行くらしいぜ」
「そっか」
あとで、どんな子か雫に聞いてみよう。
どうせ、無視されるだろうが。
「それにしても驚きだよな。高校にもなって兄弟でもない二人が同じ時期に転校してくるなんて。よっぽどの事情があるのだろうか」
…俺には、お前の情報網のほうが驚きだ。
今日転校してくる奴の情報をそこまで聞き出すなんて、明以外の人物に出来ないだろう。
そして、学校が始まる合図のチャイムが鳴った。
皆、転校生がやってくることを知っているのだろうか、いつも以上にざわざわとしている。
そこに、先生が一人で教室に入ってきた。
「みんな座れ〜。このざわめきを見たところ、ほどんどの人が知っているだろうが、本日転校生がやってきた」
先生がそう言うと、教室全体に「お〜」という声。
「入っていいぞ」
先生がドアの方に呼びかけると、ガラッとドアが開く。
そこには、少しお嬢様のような雰囲気をかもし出した女の子が…。
って、あれは…
「お、おい大地…あれは…」
隣の明は俺に話しかけてきたのだろうけど、俺の頭には入ってこなかった。
転校生に見とれていたわけじゃない。
眠すぎて、気絶したわけじゃない。
ただ、そこにいる人物は、俺の傍から泣きながら離れていった相手だったから。
「谷口由梨です。皆さんとは学年が一緒ですが、訳があってひとつ年上です。しかしタメ語で全然いいですので、どうぞ宜しくお願いします」
転校生の自己紹介が終わると、俺と明以外の人たちが拍手を浴びせた。
―――――――なんで由梨がいるんだ。
俺の思考回路は今にも止まりそうだった。
久々の由梨登場です。
さて、これからどうなるのでしょうか…
作者にも分かりませんw
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