冬の間は
お読み頂きありがとうございます。なんだか少しブックマークが増えました。ありがとうございます。
外は雪が降っている。城の辺りはそこそこ雪が積もるようで、風邪をひいてはいけないからと庭に出るのは禁止されていた。
最近のマイブームはリュードお兄様とリュシルお兄様の魔法の練習を見ること。もちろんモフも一緒。
この異世界でも魔法を使える存在というのは稀有だ。
魔力があってもどの属性が使えるのかは完全に元の資質次第で、一属性が四級程度まで使えれば、どこに行っても国が一生暮らせるだけの給金を保証してくれるほど貴重な存在だった。
魔法は程度によって、強い順に一級から五級に分けられる。
複数属性を高い等級で扱える魔法使いは国宝級だが、リュードお兄様とリュシルお兄様に魔法を教えている老魔法使いは火と風と闇の三属性を二級まで使える国一番の魔法使いラブル・メルタークだった。
「「師匠、何で炎は赤いんですか~?」」
双子が揃えて老魔法使いに質問した。
「恐れながら両殿下、神様がこの世を作るときに、炎は赤とお決めになったからにございます。」
ラブルがそう答えると、間髪入れずに双子が質問する。
「「じゃぁ青い炎はこの世に存在しないんですか~?」」
小学生かよ!とツッコミたくなる質問にも、この老魔法使いは丁寧に答えていく。
「私はこれ迄生きてきた中ではこの目で見たことはございません。ですが、広く知られている通り、魔法は使う者がどれだけ明確に思い描けるかが成否を決めるのです。
従って、両殿下が青い炎を、その揺めき、温度、そして己の魔力からどのように青い炎生み出すのかまでを明確にイメージ出来ますれば、青い炎を生み出す事も可能であると愚考致す次第でございます。
もし、両殿下が青い炎をこの老いぼれに見せてくださったのなら、それは最高の冥土の土産となりましょう。」
お兄様方はまだ10歳だから、小学生っちゃあ小学生なんだけど、双子の台本があるかのような息のあった質問に対し、毅然と答えてあまつさえ文句あるならオマエがやらんかいとさり気に言ってのけるこの老魔法使い。
普段この双子の皇子には男女あわせて10人の世話係が付けられている。それでも手に負えないと悲鳴が上がるほどのイタズラ坊主らしいけど、この老魔法使いの手にかかればなんのその。あっさりと言い負かされているのが、見ていて飽きないポイントでもある。
ただ、やっぱりここに来ている目的は魔法が間近で見れる事。
老魔法使いは3属性が使えるので、とりどりの魔法を見せてくれる。
「ししよー!とりしゃん、とりしゃん!」
私がそう横槍を入れてもラブルは気分を害することなく笑顔で答えてくれる。
「ホッホッ。アリュストゥリア殿下におかれましては、よっぽどこの老いぼれの魔法が気に入って頂けたご様子。それっ!」
そういって生み出されたのは炎の小鳥たち。炎は高温になればなるほど白色に近づく。
そのグラデーションを利用してまるで芸術品のような小鳥を数多作り出し動かしている。その様はまるでようやく翔べるようになったフェニックスの雛たちが戯れているようだった。
「ふわぁぁぁ!」
と、すっとんきょうな声をあげて思わず手を伸ばしてしまう。モフもこれは目で追わずにはいられないようだ。
「「アリス、手を伸ばしたら危ないよ。いくらアレが綺麗でも炎なんだから。」」
そういってお兄様方が注意してくださる。あまりに綺麗からすっかり忘れてしまう。
「悔しいけど僕達はまだあそこまで瞬間的に精密に魔力を練り上げられないよね。」
「魔力量では僕達の方が絶対的に多いのにな。何より僕達より師匠の魔法でアリスが喜んでいるっていうのが許せないよね!」
なにやら双子で密談を始める。この密談をし始めると魔法の練習がはかどるらしく、ラブルは「ようやく取り掛かりましたなぁ」と一息つき始める。
そんな双子のお兄様方、国中の著名な魔法使いが規格外と評する魔法の才能の持ち主らしい。この老魔術師をして現段階でも間違いなく史上最強の天才魔法使いであると言わしめる程だ。
魔法使いが稀少な中で、双子の魔法使いというのは過去に3組いたらしい。お兄様方で4組目だそうだ。
過去の3組はいずれも、双子ともに同じ属性の魔法しかつかえなかった。一卵性なら遺伝子は同じはずだから納得。
中でも1組は火属性使いの双子で、単体では3級までだけど、一緒にひとつの魔法を使用すると1級が使える物もあるとかで、自軍に配備するために、各国で奪い合いの戦争をしたという、なんの為に戦争をやっているのか意味不明な状態になったとか。
お兄様方が過去のこれらの魔法使いと全く違うのは、適正のある属性が二人で違うという所。
火、風、癒属性は二人が共通して使える属性だけど、リュードお兄様はそれに加えて、水と光属性、リュシルお兄様は地と闇属性がそれぞれ使えるそうで、双子で合わせて全属性コンプリートしてしまう。
一人で5属性も使えるというだけでも絶滅危惧種並の珍しさなのに、このお兄様方はそれぞれの属性が現時点で3級まで使える。
魔力は23歳頃まで成長が続き、18歳から25歳位が最も魔法が伸びる年代だと言われているが、魔力が成長しきっていない現段階で、国一番の魔法使い以上の魔力を持ち、魔法使いとしてはようやくヨチヨチ歩きを始めた段階でも天才と言われるこの双子には、国宝級でも足りないほどの価値があった。
そんなお兄様方は、癒属性については二人で発動させると、10歳にして1級まで使えるそうで、これは現在存命の全魔法使いの中でもトップらしい。このお兄様方の方が、転生してチートで無双してる中二病のヒーローなのではなかろうかと思わずにいられない実力の持ち主である。
天才はふとした瞬間にコツを掴んで恐ろしいほど成長する。そしてそれを今、私は目の当たりした。
「ダメだ~僕一人じゃ魔力を上手く制御できないよ~。」
「リュード、最終手段だ!二人でやってアリスを喜ばせよう!」
そんな声の後に、小声でなにやら相談しながら手元でゴソゴソしている。そして、
「「アリス、ほら見てごらん!」」
突然私の周りにお花畑や蝶々、ウサギなどが現れた。それはまるで生きているように生き生きと動いている。但し音は無い。
「しゅご~~~い!うしゃたん~!」
思わず口から出た感嘆の言葉にお兄様方は各々ガッツポーズをして喜んでいる。
こんなことが相談とちょっとの練習で出来るんだから、天才は恐ろしい。
「リュード殿下、リュシル殿下、何故、光魔法と闇魔法を組み合わせようと思われたのですか。」
師匠が驚いた様子でたずねる。ってかそれを初見で光魔法と闇魔法って解るラブルはやっぱり凄い、その問いに双子は揃って、
「「だって、光が無いところでは物が見えないでしょ。でも光があったら影が出来るでしょ。光魔法で蜃気楼が見せられるなら闇魔法と合わせたらもっと本物みたいなのが見せれると思ったんだもん!」」
と答える。ほんっっとーにそれ、台本無いの?って位に揃って答える。
「この人生を魔術に賭け精進し、国一番の魔法使いと言われて長い年月が過ぎましたが、まさかこの様な魔法を拝見することが出来るとは…」
そう言って、老魔法使いは一筋の涙を流した。
「ですがまだ魔力を無駄遣いし過ぎに御座います!さあ、厳しく特訓致しますぞ!」
お兄様方、御愁傷様です。