南部の現状
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「お、恐れながら申し上げます。」
エリイ嬢がそう言うと御令嬢方はクスクスと笑うのはやめたが、あ~あ御愁傷様という顔で見ている。
リュカお兄様の表情はわからないけど、お母様は笑顔ではあるけど目付きが変わった。
「私は今年から数年間は税を下げるのが良策と思っております。何故そのような結論に至ったかをご説明するにはまず、南部の現状をお話しさせていただく必要が御座います。」
「ほう、南部の現状か。是非聞きたいな。」
とうとう言ってしまったと、エリイ嬢の心臓はバクバクいっていたが、それに皇太子殿下から反応があったもんだから心臓が口から出てきそうな位に緊張していた。
「あ、ひゃい!あ、噛んじゃった…」
もう顔はゆでダコか達磨かというほどに真っ赤だった。
「わがリョンドン男爵領をはじめとする南部地域は先の大戦で大きな被害を受け、復興特需で経済が良く回っているのはご存知かと存じます。ただし、それは復興の工事に携わることができる男手がいる家に限られます。
リョンドン男爵領では大戦では光栄にも第一陣の露払いを担当させていただきましたが、これが壊滅してしまいました。
魔大陸に近い我が領では昔から兵士だけでなく農民までが剣の訓練をし、帝国の有事の際には命を捧げる準備をして参りましたが、これが仇となり第一陣壊滅で領内の男性の6割が死にました。
残った男性のほとんどは年寄りか年端のいかぬ子供ですのでとても戦地に送ることはできません。ですのでせめてお役にたてればと、成人前の男児以外は食事を日に一度とし、備蓄していた食料と、兵士を慰める女と合わせて前線に送り続けておりました。
やがて干ばつもあり、男児にもまともな食事は日に一度、もう一度は野草や木の根を煮たものを食べさせるほどに食料が困窮して参りました。
男児の中にも消化不良や栄養失調で命を落とすものが出始めた頃、大戦が終わりました。」
私は前世では日本国民だったし、生まれ変わってからはぬくぬくと宮殿で暮らしてきたから、まさかそんな暮らしをしている人がこの国にいるなんて思っていなかった。
それはリュカお兄様とお母様も同じだったらしい。
「当時私は、将来即位したときに同じ事態が起こったときのための勉強でと、皇帝陛下の側で各地からの報告を聞いていた。
リョンドン男爵領から兵糧が届いたという報告は何度も聞いていたが、その兵糧が領民の命を削って捻出されたものだとは知らなかった。申し訳ない。」
そう言ってリュカお兄様が頭を下げる。すると周りの御令嬢方がざわつく。そりゃ大陸一の帝国の皇太子殿下が地方の、しかも小さな男爵領の、女に対して頭を下げたのだから。
「とんでもございまちぇん!」
あ、また噛んだ。この御令嬢は良く噛むなぁ。折角の雰囲気が台無しだわ。本人もそれに気づいて顔がまた赤くなった。
「と、とんでもございません。私の家は貴族に叙せられてはいますが、暮らしぶりは地方の豪農と同等か、少し良い位で御座いますので、畑を耕したり、家畜の世話をしたりしているからこそ存じている事で御座います。
本当に高貴な方々には中々に、直接地方をご覧になる機会は無いかと存じます。このようなことが皇帝陛下はじめ后妃陛下、皇太子殿下のお耳に入ることは無いかと存じますので、本当にどうぞお気になさらないで下さい。」
本当は気にして欲しいところがソコだが、噛んで緊張が高まりすぎてパニックになったので気にしないでと口走ってしまった。
ここまで一気に言ってようやく落ち着きを取り戻したようで、エリイ嬢が現在の南部の状況を話はじめる。
「私は地魔法が4級まで使えるため、主に領内の土木工事に携わることが多く御座います。基礎工事を魔法で行うことで工期の短縮に繋がるためで御座います。橋や道路が使い物にならなければ家屋や商店を造ることができませんので。
主要な橋や交易路、用水路は昨年にすべて竣工致しまして、今は住宅の再建の為の基礎工事が少しずつ増えて参りました。
ただ、再建ができるのは殆どが、やはり男手がある家で御座います。男手が無くても働ける年齢のものが数人いる家庭は掘っ建て小屋位ならなんとかなりますが、老人や小さな子供を抱えている家庭は、その日の稼ぎから税を引くと、手元に残るのはその日にようやく1食の食事がとれる程度なのです。
娘を娼館や奴隷商に売ろうにも既に痩せてしまっていては、一時しのぎにしかなりません。何人か娘がいれば他にも働き手がいるのでまだ良いですが、そうでなければたとえ一時をしのいでも働ける娘を売り、その金を使いきると飢え死にするだけなのです。
ですから、思いきって数年は税を大幅に下げなければ、市民生活を再建させることができません。逆を言えば、市民生活を再建させることができれば、また税を取れるようになるわけです。
今税を取ってインフラの整備だけを終えて領民を飢え死にさせるか、今税を取らず市民生活の再建に尽くし末長く税を取れるようにするか。
それであれば、私は後者だと思っております。」
もはや笑っている御令嬢も、嘲っている御令嬢もいない。
南部の現状は、非情に厳しいようだった。




