御名前
主人公を早く成長させたくてたまりません。
冬の間はもっぱらリュードお兄様とリュシルお兄様の魔法のレッスンを見に行っていた。お陰でこの世界の魔法について、かなり詳しくなった。
まぁ、国一番の魔法使いに教えてもらっているんだから当然と言えば当然なんだけどね。
そしてようやく春になり、庭に出る許可が出た。
ある日の昼下がり。ナーニアに連れられて庭に出て花の名前を教わっていると、家庭教師とのお勉強が終わったリュカお兄様がやってきた。
「やあ、私の小鳥ちゃん。今日も可愛いね。君が庭にいると折角の美しい花達でもその美しさが翳ってしまう。まったく、君の美しさそのものが罪だね。」
某お歌の王子様的アニメでオレンジの髪の誰かが言いそうなセリフだなぁぉぃ…どこぞの貴公子でも、そんなセリフは恥ずかしくて吐けないと思います。
でもそれを最高の笑顔で、白い歯をキラリと輝かせ、サラッと言ってのける異世界の皇太子はぶっちゃけメッチャ様になってる。
リュカお兄様が登場した瞬間に、ナーニアと、他の3人の世話係は膝立ち姿勢で頭を下げる。これがこの国の、女性が目上の身分の人の前でとる姿勢だそうだ。
この国は男尊女卑が徹底している。女性は、目上の身分の人がいる間は、式典などの特別な理由がない限り、その姿勢を継続し続ける必要があった。
ナーニアだけは私の世話があるからと、すぐに失礼しますと頭を上げていた。
ただ私にはそんなことは関係ない。
「りゅかおにいたま~あいしゅとあしょんでくえうの?」
決してふざけてる訳でもデレてるわけでもない。まだ1歳なんだもん!舌がまわらないだけだもん!でも1歳なのに前世の17年間の記憶があるから口達者な赤ちゃんだ。
「午前中のお勉強が終った所だよ。君に少しでも早く会いたくて、頑張って終わらせてきたんだよ。」
早く終ったんなら次の勉強に進めば良いのにとは思ったが、イケメンと合法的に触れあえる時間なのでそんなことは口が裂けても言わない。
リュカお兄様は私を抱き上げてほっぺたにキスをしてくれたので、私はここぞとばかりに抱きつく。すると香水だろうか、いつもとは違う良い香りがするのでフガフガと香りを嗅ぐ。
「フフッ、君は気付いてくれたんだね。今日は午後から私のお嫁さん候補達が来て、お母様主催のお茶会をするんだ。だから香水をつけたんだよ。全く面倒なものだよね。私にはアリスという天使がいてそれ以外なんて眼中に無いというのに。」
若干危ない発言だがリュカお兄様は今のところ彼氏にしたいランキングナンバーワンだし私は1歳の可愛い盛りの赤ちゃんだからね。お兄様大好きを全面に押し出して許されるだろう。
「りゅかおにいたま、ごけっこんすうの?」
「14歳になったら大人だから、お嫁さんを貰わないといけないんだよ。私は皇太子だからね。早く結婚して、側室も複数置いて、女達には皇子を沢山産ませなければね。」
「いや~!あいしゅ、りゅかおにいたまとけっこんすぅの~!」
そう言うとリュカお兄様はなんて可愛いんだとハグをしてキスの嵐を降らせてくれる。役得だぁ♪
この国では14歳で大人と認められる。もちろん、特に貴族や皇族はそれ以下でも諸般の事情により結婚することもよくあるし、跡取りが10歳でも当主が急死した為に家を継ぐこともある。
14歳で大人というのは、それぐらいなら大抵の男女は子供を作れる、産めるだろうという判断の元であった。
故に、代々皇太子は14歳で正妃を娶る事となっていたので、今日はその候補とリュカお兄様が、お茶会と言う名のお見合いをする日だった。
「「皇太子殿下!それにアリスもいるじゃないか。ずるいです兄上、アリスを独り占めだなんて!」」
そういって乱入してきたのはリュードお兄様とリュシルお兄様。その後ろからラディーお兄様もやって来た。
双子のお兄様方はリュカお兄様に「兄上ではなく皇太子殿下と呼べと何度言ったらわかるのか」と怒られている。
怒ってはいても私は代わる代わる他の兄弟に抱っこされご挨拶のキスをされ、ナーニアに渡される。
ラディーお兄様はぶっちゃけ謎だ。前世の言葉で言うと「ヒキニート」と言うのが一番近いと思うけど、一人で静かに本を読むのがお好きなようだ。
ラディーお兄様を凝視していたからか、ナーニアが「学者肌でいらっしゃり、将来ザリュカッタリーデュ皇太子殿下が帝位に御付きになられた際には、それを支える文官としてのご活躍を期待されていらっしゃいます」との事。
ただ、私は今そんなことはどうでも良い。お兄様のお名前、リュカじゃ、なかったの?何そのナントカって…人の名前?何かの呪文?
よっぽどキョトンという顔をしていたのか、リュカお兄様が私の所にやって来て
「どうしたんだい私の小鳥ちゃん。そんな顔をして。でも、どんな顔をしていても君の美しさを引き立てるだけなのが不思議だね。」
と声をかけてくる。
「あーうー、うぅ~」
と、私が困っているとナーニアが助け船を出してくれる。
「恐れながら申し上げます。先ほど私との会話の折にザリュカッタリーデュ皇太子殿下のお名前を申し上げたところ、普段の慣れ親しんだ呼び方と大きく異なっていたために少々御混乱なさっていると存じます。私の発言でアリュストゥリア皇女殿下を混乱させてしまい大変申し訳ございません。」
「本当だよ。私ですらこんな顔をさせたことがないというのに。アリスにこんな表情をさせるのも、それを見るのも私が一番でなければならないのに。平民であれば不敬罪で車折にしているところさ。」
あ、不敬罪、あるんですね。
「でもまぁ今回は良い。君の事はアリスも気に入っているようだしね。」
ここまでのリュカお兄様、口調が私と話すときと明らかに違って怖い。ナーニアと話しているときは、まるで虫けらと口をきいているような話し方だ。リュカお兄様のお付きの人とは普通なのに。ナーニアが女性だからだろうか。
「急に知らない名前を言われて驚いただろう。いつも君が呼んでくれているリュカというのは私の愛称なんだよ。」
私と話すときは相変わらずの甘々口調。そして、リュカお兄様は私を抱き上げる。
「私の名前はザリュカッタリーデュ。ザリュカッタリーデュ・シュードゥラス・トルス・デストゥニア。この中央大陸最大の国、デストゥニア帝国の皇太子だよ。」




