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第四話~懐抱~

 静閑を地で行くような鬱蒼と生い茂った森。様々な野性動物が気の向くままに生活している中に、人影が紛れるには難しくない。


 「はあ…落ち着くねえ…。どうだい、ここなら安らげるだろう?」


 少年は誰となく尋ねた。


 「全く…大して強い繋がりでもないだろう、用があるときだけ呼び出してくれりゃ良いのに…まあそれすらもめんどくさいんだけどね」


 少年の手には真っ赤な木の実が握られている。それを投げては掴みを繰り返す、大木の太い枝に座りながら。


 「時期じゃない、尚早だっていつも言うけど、いったいいつなんだ…早くしないと一人で動いちゃうよぉ?」


 少年の握る赤い果実を黒い魔方陣が覆う。


 「まあ…面白い獲物がいればそれだけで十分だけどね、今日はいるかなぁ」


 少年は枝から飛び降りる。手から魔方陣が消えたとき、握られていた果実と少年が座っていた太い枝は跡形もなく消えていた。


 「早く試したいねえ」


           *


 「え?…今、何て?」

「いや、だからディアゲラ・フィスドナークは私の伯母だと・・・年齢的にはお姉さんとも言えますが」


 ロアはしばし状況が読み込めなかった。それを察してか、ミリーナは補足を続けた。


 「私の母、シアニー・ゲルトレッドの旧姓はフィスドナークなんですよ。ディアゲラさんは母の実姉に当たる人です」

 「まさか師匠に姪が・・・そもそも姉妹がいることすら話してもらったことなんてないのに」

 「私も、ディアゲラさんが戦神の矛の第一線で働いてることは知ってましたが、まさかお弟子さんを持ってるなんて初耳です」


 ロアもミリーナも全く血縁関係はないが、妙な親近感を覚えていた。ロアは思い切って聞いてみることにした。


 「良ければ師匠との過去を教えてくれないか」

 「過去と言っても・・・実はそんなに関わって無くて・・・」

 「関わってない?」

 「うん。というのも、ディアゲラさんは私が幼いころから魔法の訓練に勤しんでて、あまりお話する機会がなかったんだ。私が中等学校に入る頃には既に戦神の矛にいたみたいだから。そうなると・・・10年近く戦神の矛にいることになるかな」

 「まあ俺が師匠に魔法を教わり始めたころには既に師匠は戦神の矛にいたし、そうじゃなければ親父とも知り合ってないからな・・・」

 「あ、そうだ。それだよ。ロアのお父さんはどういう人だったの?」

 

 ロアはミリーナの質問を無視するかのようにしばし押し黙っていたが、唐突に口を開いた。

 

 「・・・今はもう廃止されたらしいんだが」

 「ん?」

 「昔、このヘイグターレには禁止魔法を研究する機関があったらしくてな」

 「そんなのが・・・初耳」

 「ヘイグターレ上層部の中でも限られた人間しか知らないことだ。俺を除いたら国内に知ってる人間は10人もいないだろう、俺の親父はそこで禁止魔法の研究をしていた、院長としてな」

 「院長!?すごい人だったんだね・・・でもどうしてそんな人が亡くなったら国中で報じられるはずなのになんでロアのお父さんが亡くなったことはこんなに広まってないの?」

 「さっきも言ったろう。ヘイグターレにおける機密情報だからだ。当然死者を悼む気持ちは誰にだってあるし、古くからの付き合いのある人たちは葬儀の時花を手向けてくれた。もちろん密葬だがな。それほどにその”機関の存在”が知られることの方がまずいんだ。国内にも、もちろん国外にも。国外の方が大事だろうけどな」

 「確かに、他国に禁止魔法を研究しているなんて知られたら関係が悪くなるよね・・・。でも廃止されたってどういうこと?その機関は今はもうないの?」

 「ああ、ない。・・・”ある事件”があってからな」

 「ある事件って?」 

 

 そこでロアは部屋の時計を見た。10時を回っていた。ミリーナもその仕草からあまり深く追及すべき話題ではないことを感じ取った。


 「10時過ぎか・・・そろそろ出るか」

 「え?早くない?」

 「ちょっと寄りたいところがあってな」

 「私も出るの?」

 「友人や家族なら別だが家の主がいないのに他人がいたら空き巣と変わらんだろうが」

 「そうか・・・確かに」

 「ここから自分の家に帰るもそのまま任務先のアドメネの森に向かうもあんた次第だが」

 「特にすることもないしロアについていくよ」

 

 想定していなかった答えにロアは少し逡巡した。

 

 「まあ・・・問題はないか。娯楽なんかないが」

 「良いよ。ディアゲラさんのお弟子さんの実力、見てみたいし」

 「少しこっから飛ぶけどな、仮任務会場とは逆方向だぞ?」

 「良いよ、スピードに付いていけるかどうかわからないけど」

 「その時は合わせてやるさ」


 二人はロアが目指す目的地へと家を後にした。


                        *



 とある一家の光景。母1人、子8人の大家族の今朝は騒がしかった。今まで病に倒れた母の代わり、今は亡き父の代わりとなって身を粉にして働いてきた長男が夢だった国家魔法士の試験に合格し、仮任務の日を迎えたからである。首都であるサンティレアには勿論のこと無数の職業が存在するが、国家魔法士の資格を持っているとほとんどの職業において国から様々な援助を受けられるのだ。それだけでなく、ロアやバーリュクスの属する戦神の矛やイヴァンの居る央神の光のように、国家魔法士の資格がなければそもそもなることのできない職業も存在する。


 「兄ちゃん・・・行っちゃうの?」

 「ああ、まさか自分でも一発で受かるとは思ってなかったよ」

 「すごいよ兄ちゃん!!でもおうちはどうするの?」

 「家のことはネアラとディルに任せることになっちゃうけど・・・そのかわり来月から少しづつ良いもの食えるようになるさ。その内欲しいものも買ってあげられるかもしれないし」

 「ほんとに!?」

 「やったぜ!!」

 「だから、ちゃんとネアラとディルの言うこと聞いていい子にしてるんだぞ?」

 「「「はーい!」」」

 「というわけで、すまないがネアラ、ディル。家のことは頼んだよ。長女ってだけじゃなくお前のしっかりしてるところを見込んでの頼みだからね。ディルも男ならシャキッとして家を支えてくれ。」

 「・・・はいはい。あたしが頑張りますよ。・・・母さんの代わりにね」

 「ああ、任せとけって兄貴。しっかり稼いでこのチビたちを満足に食わせられるように頑張ってくれよな」

 少し達観するような目で兄弟全員を見渡し、最後に長女のネアラと次男のディルの顔を交互に見やる青年。


 「おや・・・サルカーノ、もう・・・行くのkゴホゴホッ・・・行くのかい?」

 「母さん!!無理するなって!!」


 一家の母が病床から起き上がり、玄関まで息子の見送りに来たのだ。サルカーノは急いでカバンを置き、よろめく母の身体を支える。このウォルテイン家の母、ドアンは3年前、8人目のバジュノを出産して間もなく肺の病を患った。今すぐに命に危険が差し迫るような病ではないが状態は良くはなく、高度な医療魔法を施せばほぼ完治するものの、女手一つで8人の子供を養う彼女に病院にいく時間もお金も無かった。そこで長男のサルカーノは寝る間も惜しんで勉強と魔法の鍛錬に励み、国家魔法士の資格をとり、身分と確固たる給与が保証される”戦神の矛”を目指すのであった。

 「奥で休んでろって言ったろ・・・」

 「良いじゃないか・・・息子の晴れ姿ぐらい拝ませてもらったってバチは当たらないよ・・・」

 

 返す言葉に困るサルカーノ。感謝と不安がいとまなくせめぎ合う。しかし時間は待ってはくれない。胸中の葛藤を抑え込み、覚悟を決めた。大きく一つ息を吐くと厳しくも優しい顔で再び家族全員を一瞥した。


 「・・・分かったよ。それじゃ皆。行ってくる」

 「「「「行ってらっしゃーい!!」」」」


 

 まだ幼い子供たちは誇らしい兄の背中を笑顔であったり泣きながらであったりと、様々な反応で見送った。


                         *

     

 「なかなかやるが・・・まあそんなものか」

 

 少し加減をしながら追風で飛ぶロア。魔法適正にはもちろん個人差はあるが、属性ごとにも人によって得手不得手がある。得意教科と苦手教科みたいなものである。全体的に適性の高いロアだがとりわけ火属性と風属性が抜きんでており、バーリュクスには「火属性と風属性に関してはヘイグターレの一個小隊と比肩する」と言わしめたほどだ。そんなロアだからこそ、風属性の移動系魔法である追風も常人よりも軽やかに、効率よく使えるのである。ミリーナは女性であることもあってさすがにロアほどの速度は出なかったため、ロアは今ミリーナの追風に速度を合わせている。とはいえ、なかなか速い。さすがはディアゲラの姪、そんなことを考えていた。

 

 「そろそろ着くぞ」

 「はぁ・・・はぁ・・・ロア君、早いね。さすがディアゲラさんのお弟子さんだね」

 「・・・無理してたのか?」

 「ちょっとね。私、風属性より水属性の方が得意だから・・・」

 

 これでも俺としてはゆっくり飛んでいたんだがな、という言葉は胸にしまうロアであった。

 

 「で、ここは・・・霊園?」

 「ああ」


 ロアは返事をしながら、均等な間隔で置かれた墓石の中を迷うことなく進んでいき、一つだけ色の違う墓石の前で立ち止まった。文字すら書かれていないその墓石の前でロアは静かに手を合わせ、目を閉じる。ミリーナも同じように目を閉じて手を合わせる。ほぼ同じタイミングで目を開け手を下ろした二人。ミリーナは尋ねた。


 「・・・お父さん?」

 「ああ、国の方針で墓石の表面に死者の名前は刻まれてない。代わりに墓石を裏返したところに刻んである」

 「なるほど」

 「まあ、戦神の矛に入ったのには親父が死んだ当時のことを紐解きたいってのも無くはない」


 ロアの横顔からは強い意志が感じ取れた。


 「・・・そういえば」


 今度はロアがミリーナに尋ねる。


 「今朝、というか早朝だが。なんであんなゴロツキに絡まれてたんだ?」

 「え」


 ミリーナの顔が引きつる。


 「あいつらを問いただしたら正規の金融業者じゃなかったからな。何かやらかしたのかと思って」

 「・・・実は」


 ミリーナは経緯を話した。試験に合格し、ロアと同じく親元を離れサンティレアの郊外で一人暮らしを始めたはいいものの、財布を落としてしまいお金に困っていたところに、あの男たちが声をかけてきたという。


 「そうか・・・まあ仮任務が終わるまでは事実上無職だから金銭面は一番気をつけなきゃならんのだが・・・一番の問題は正規の業者かどうか見抜けなかったことだな。というかそもそも正規の業者は客引きやキャッチセールスなどめったにしないもんだが」

 「うん、分かってたんだけどどうしてもお金がなくて・・・」

 「気を付けろよ。・・・と、そろそろ戻るか。あまり直前になってバタバタするのは嫌いなんでな」


 ロアはミリーナと再び追風で来た道を戻り、そのまま仮任務が行われるアドメネの森へと向かった。


                        *


 「わあ・・・ここがサンティレアのエクソール外壁か・・・でっかいなぁ・・・」


 話には聞いていたが、実物は初めてみる。ここからかなりの距離があり、うっすらとかすんではいるがそれははっきりと存在していた。。巨大というより果てが見えないと言う方が正しいか、その外壁は外の世界を完全に遮断している。サルカーノはサンティレアと各所を結ぶ乗り合い馬車の窓からそれを眺めていた。それから約30分後、城壁の門の一つの前までたどり着いた馬車から降りる。改めて見ると上にも横にも果てが見えない。圧倒的存在感に身分証明書代わりの仮任務の手紙を門番に見せてからおずおずと中に入る。


 「えーっと、こっちで方向はあってたはず・・・」

  

 その後しばらく歩くも早速迷ってしまい、地図を手元でくるくる回して自分の向いている方向を確かめながらサンティレアを歩くサルカーノ。道行く人に行き方を尋ねたりしながらあちらこちらと進んでいく。


 「えーと、この角を左に曲が・・・うわっ」


 地図を見ながら歩いていたせいか、出会い頭に人とぶつかってしまった。


 「あ、すみません。初めてサンティレアに来たもので・・・」


 サルカーノがとっさに謝ると、ぶつかった相手はしたたかな笑みを浮かべた。


 「ああ、良いよ良いよ。そうか、初めてサンティレアに来たんだね。広いところだろう。それに地形もあってか、僕にはなぜか引き込まれるような感覚がするんだ。地図を見て歩いていた、ということは目的地があるんだね」

 「はい。アドメネの森に向かっているんです」

 

 青年の目の色が変わった。


 「ほう、アドメネの森に・・・」

 「はい。今日は戦神の矛の仮任務に向かってるんです。なんとか試験に合格して」

 「ん?おお、それは良かったね。仮任務頑張ってね。・・・そうだ」


 サルカーノと大して歳の変わらなそうな青年は思い出した、というような顔をしてサルカーノに尋ねた。


 「君は”キドロア・セルエイク”という名前を聞いたことはないかい?」

あー寒い。ほんとに寒い最近。でも僕はなぜか6月の小説を書いてます。細かい設定は考えてませんが、小説の中の世界は暑いのでおそらく北半球です。まあ完全異世界ものなんで何とも言えませんが。良いんだよ、そういう内容と関わらないところは。ん?名を名乗れって?あ、どうも。soraboです。

笑えない前置き(書いてるときは面白いと思ってしまうから怖い)はさておいて、第4話の投稿です。今回も前例に違わず、新キャラクターが出てきています。ここから先は多少ネタバレを含みますので先に中身を読むことをお勧めします(内容読む前にあとがき読む人とかいないよね?)。


まず木の実少年。こいつはちゃんと名前も決めてあって、後からしっかりと登場させるつもりです。割とこいつの名前を伏せて書いたおかげで今回、少しばかりミステリアスな雰囲気が出ているのでは、とか期待してます。

次にサルカーノ君。残念ながら兄弟やお母さんはこの先ほとんど登場させるつもりないです・・・第二の主人公的な感じで登場させてはいますが、自分の中ではモブキャラのつもりです。一応今回の話の中でも魔法適正は取り上げているんですが、サルカーノの魔法適正は結構低めに設定してあります。自分の手元にはロアを基準とした相対的な各個人の”魔法適正グラフ”のようなものがありまして、それに基づきながら魔法を使うシーン、戦闘シーンは書いてます。まだ登場していないキャラクターもたくさんいますし、登場しているものの魔法を使うシーンが未だない人物もグラフは作ってあったり。あらかじめ強さを決めておくと整理もしやすいんですよね。あ、ついでに言っておくと話の流れからも分かるように、ロアは全く持って最強ではないです。人vs人、国vs国が書きたいので、主人公最強系だと「それ主人公呼べばよくね」みたいになって面白くなってしまいます。主人公一人じゃどうしようもないから話が動くと思うんです。


話は変わりますが、4話は実はもっと長くする予定でした。というか4話までを第一編みたいな大きな括りで考えていて、5話から話を大きく進めるつもりでした。が、ペース的にあまりにも文字数が膨大になるのと自分の脳のキャパの問題でいったんここで区切りをつけました。ですので次上げる5話は結構4話と連動しています。お楽しみに。


と言うわけで、長くなりましたがあとがきです。ペースが最近落ちていますが、リアルが少しづつ忙しくなってきたので・・・。頑張りつつも無理ないペースで投稿いたしますのでどうかお付き合いいただけたら幸いです。それでは5話でお会いしましょう。

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