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私は魔法使いなんかじゃない!  作者: いと・うさぎ
アムステール王国再建物語Ⅰ
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異世界へようこそ

「ん……いててて……」


 里奈は起き上がり腰をさすった。

 そして、ぼんやりとする視界で辺りを見回すと、草木しか見えなかった。

 

(え? いつの間にこんなにうちの庭雑草が生えたの?!)


 里奈は勢いよく立ち上がり、状況を確認するためにぐるりと見回した。


「自分の家がない?」


 家だけでなく、塀も、倉庫も、おじいちゃんが建てた道場も近くにはなかった。

 

「ここって……うちなの?」

 

 里奈は自分の置かれている状況が全く理解できず、ただ茫然と立ち尽くす。

 そして、それまでのことを落ち着いて振り返ることにした。


「たしか……自分の部屋で荷造りして、おじいちゃんのトランクに教科書たちを詰め込んでいたよね。で、詰め終って転んで、ネックレスが浮いて光って……掃除機に……あ!! 私の髪の毛は無事~!?」


 里奈は頭を両手で確かめ、髪があることを確認した。

 しかし、鏡がないのでちりちりになっているかどうかは、いまいち確認できない。

 あたりを見回し、鏡になりそうなものを探すと、例のトランクが転がっていた。

 里奈はトランクに飛びつき中を開け、手鏡を取り出す。


「あ~よかった。髪ちりちりになってなくって~」


 里奈はは~っと息を吐きながら、その場にしゃがみ込む。

 そして、トランクの中に鏡をしまい蓋を閉め、その上に座った。


 改めて自分のいる場所をみていると、自然いっぱいののどかなところだった。

 木々が青々と茂っているし、見たことのない草花が咲いてその周りを蝶が舞っている。

 東京ではあまり見られない光景だった。

 しかし、里奈の心は癒されるどころか不安が漂ったまま――



「どうなってるのよ…ほんと……」


 夢だと思いたくて、ほっぺたを強くつねってみるが、痛みがあるだけで夢から覚めない。

 誘拐されたここに連れてこられたなら、自分を誘拐した犯人も近くにいるはずだが、そんな怪しい人は見当たらないし、漫画やアニメとかでありがちな状況を説明してくれる便利な動物はやってくる気配がない。

 

 この状況で、一体どうしたらいいものか……?

 

「誰も助けに来てくれるわけないか……いなくなっても誰も気づかないよね」


 もしかしたら、迎えに来た親戚が異変に気づいて、警察に捜索願を出してくれるかもしれないが、可能性はかなり低いだろう。

 何せ、里奈を引き取ると言い出したのは祖父が残した遺産が目当てだ。

 あの家と土地、そしてまとまったお金が入ると、彼らが喜んでいるのを目の前で聞いてしまったのだから、彼らに何も期待することができない。


「とりあえず、ここがどこなのか特定しないと!!――痛っ!!」


 立ち上がった瞬間、靴下しか履いていない足で何かを踏んでしまったらしい。

 右足を持ち上げると、あの怪しいネックレスが落ちていた。


「ほんとになんなのこれは!! このネックレスがすべての元凶じゃないの!?」


 チェーンを持ち目の前に掲げて里奈が叫ぶが、ネックレスの青い石はうんともすんとも言わない。


 里奈は捨ててやりたい気持ちになったが、そこをぐっと堪え、首に掛ける。

 この状況に陥ったおそらくの原因であるネックレスを捨てたら、戻る手がかりを失うかもしれない。


 里奈は大きなため息をつく。


(とりあえずここにいても何も解決しないわよね……)


 そして、靴下しか履いていない足でゆっくりと歩き出した。



 もし、この世界で神様に会うことができたなら、一発ぶん殴ってやるんだから――


 それだけを励みに、全く知らない何も舗装されていない道をひたすら歩く。

 

 

 


 


 

 

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