忘れられてたネックレス
昼食を適当に済ませた里奈は、先ほどのトランクを自分の身の回りの物を詰めるために利用しようと自室へ持っていくことにした。
表面の埃を雑巾で拭き、中の埃は掃除機で吸い取って綺麗にしていく。
ゴゴゴッ……
「あれ? なんか詰まった?」
掃除機の電源を切り、本体の蓋カバーを開け、詰まっている箇所に手を入れると、なにやら小さい金属が吸い込み口に絡まっている。
「あ~もう、とれないな~」
手探りで絡まった個所をほどき取り出すと――ネックレスが出てきた。
チェーンの部分やペンダントトップの一部はかなり錆びている。
「どこで吸い取ったんだろう? 鞄にそんなの入ってなかったと思うんだけど……」
里奈は、雑巾でペンダントを擦る。
黒ずんだ石みたいなのが埋め込まれているが、擦っても汚れは落ちない。
「こういう時は!」
里奈は、そのネックレスを持って台所へいき、戸棚から白いスポンジを取り出した。
そして、それを見ずに浸しネックレスをそのスポンジで擦る。
すると、見る見る汚れが落ちていく。
今まで黒ずんでいた石っぽいものが、キレイな青色へと変貌した。
「やっぱ、汚れはこの魔法のスポンジよね~」
鼻歌を歌いながら、次はチェーンの部分も擦っていくと、金色のきれいなチェーンへと生まれ変わった。
一通り擦り終ったら、乾いたタオルで汚れをもう一度拭く。
手のひらに置くとキラキラと輝くまでになったそのネックレスを、里奈は自分の首につけてみた。
「綺麗な石…流石にブルーサファイヤとかじゃないよね……」
そして、つけたまま、自分の部屋に戻り荷造りの続きを行う。
これは、おじいちゃんが自分へくれたお守りみたいね……
里奈は心の中で思う。
家族も家もすべて失ってしまった自分への唯一の贈り物……
そんなものが一つぐらいないとやっていけない。
今の里奈には、自分を支えてくれるものが必要だった。
トランクには、今まで学校で使っていた教科書参考書ノートたちを詰めることにした。
皆からもらった寄せ書きやプレゼントも入れる。
「制服……どうしようかな……必要ないけど、記念にもってくか……」
里奈は壁に掛けっぱなしの制服を取り、綺麗に畳んで隙間に押し込む。
トランクはあっという間にぎゅうぎゅうになった。
そして体重をかけながら蓋を閉める。
「よし!! 完了~!! あっ!! 」
そのトランクを立てようと持ち上げた瞬間、足元の本につまずきバランスを崩す。
トランクを下敷きに前のめりに倒れ、ネックレスが首から外れた。
すると急に窓から強い風が吹き込んできて、散らばった本をばさばさと吹きつける。
里奈は体を立て直し、ネックレスを拾おうと手を伸ばしたが、ない。
キョロキョロと周りを見回すが、見当たらない。
ふと見上げると、目の前の空中に浮いているネックレス――
それも何やら不気味は光を放っている。
里奈はゆっくり瞬きをし、目をこする。
「え? 何で??」
里奈は目の前の状況が理解できなかった。
ネックレスが重力に反して、ぷかぷかと宙に浮いているではないか!?
それも光を放っている。
「何何何なに~なんかやばいんじゃないの?! これは!!!」
本能的に何かを察した里奈は、トランクを盾にネックレスから離れる。
落ちる気配のないネックレスから放たれる光はだんだん強くなり、部屋をまぶしく照らす。
「一体どうしたっていうのよ! マンガみたいな展開は期待してないわよ、私は!」
助けを呼ぼうにも、里奈以外にこの家には誰もいない。
「宇宙人の仕業かも!! えっと、携帯どこだ!?」
もしかしたら、これはチャンスかも!?
この動画を投稿したら一攫千金も夢ではない!!
里奈は、この現象を動画に残すため、スマフォに手を伸ばしたが、時すでに遅し。
今度は、電源が入っていない掃除機がなぜか稼働しながらふわりと浮き、いきなり大きな音と共にネックレスを吸い込んだ。
「え!? うそ、なんで??? 電源入ってなかったのに?」
里奈が手を触れる前に、掃除機は床に落下。
恐る恐る、動作が止まった掃除を手に取り、ノズルを覗き込む。
振ってみてもネックレスは落ちてこないし、急に浮いたりしない。
「一体どうなってるの??」
しかし、これが不幸のはじまりだった。
また突然掃除機が動きだし、吸引力最大以上の力で周りのものを吸い込み始めた。
もちろん、それは里奈も例外ではない。
里奈が本体に気を取られている隙に、吸引ノズルが里奈の髪を捕えた。
「ぎゃ~ちょっと髪なくなる~!!」
里奈は必死で電源ボタンを押したが、止まらない。
「イタイ痛いって~!! 誰か助けて~」
半泣きで助けを求めるが、もちろん誰も助けてはくれない。
あまりの痛さに目をつむる。
「転校早々、髪がちりちりなんて絶対いや~!!」
里奈は必死で吸い込まれないよう抵抗するが全く歯がたたない。
すると、今度は頭、体ごと引っ張られている感じがしたのと同時に、ジェットコースターのてっぺんから落下するような感覚に襲われた。
一体自分が何をしたというのよ――!!
怒りが込み上げてきたが、その意識はすぐに体と共に遠くに運ばれてしまった。