転校までのカウントダウン
「宮下、お前転校するって本当なのか?」
「情報早いね。誰から聞いたわけ?」
「担任が話してるの偶然聞いた。それより本当なのか?」
同じクラスの神崎ルイが、真剣な表情で聞いてくる。
いつもは人のことなんて興味ないと関わってこないのに珍しいものだ。
当番の日誌書くのを止めて、神崎を見上げる。
「本当だよ。何? テストの点競う相手がいなくなって寂しいの?」
「はぁ? そんなわけないだろ!」
「ま、そうだよね。学年一番を取りやすくなったわけだし」
「……どこいくんだよ」
神崎は里奈の机の前の席に腰掛け、問い詰めた。
なぜかいつものように口調は怒り気味だが、元気がないように見える。
しかし、そこを指摘したところで言い返されるだけだ。
(神崎まで情報がいっているとは……隠しても無駄ってことね……)
里奈は包み隠さず彼の質問に答えることにした。
「愛知県だよ。さすがに東京と愛知じゃあ通えないでしょ?!」
「新幹線で通えばいいだろ?」
「はぁ? あんた本気で言ってるわけ? 交通費どんだけかかると思ってるのよ!? リニアだってまだできてないのよ!!」
「うるさいな。森本はどうすんだよ。あいつ昨日一人で部室にこもってワンワン泣いて大変だったんだぞ!?」
「神崎には関係ないでしょ! 私だって転校したくてするわけじゃない。仕方ないの! 子どもは大人に従うしかないのよ!!」
里奈は声を荒げ、急に立ち上がり神崎に詰め寄る。
感情を抑えていた堤防が今まさに決壊しそうだった。
せっかく彩花の前で堪えることができたのに、これでは水の泡ではないか。
「……知っているよ、そんなこと。でもお前さ、夏の大会連覇をかけてずっと剣道練習してきたじゃんか。それはどうでもいいのか? 仕方ないって諦めるのかよ」
「諦めたくないけど、仕方ないの。決まったことなのよ」
「せめて夏の大会まではこっちにいろよ。みんなそう思ってる」
神崎はいつになく真剣だった。
こんな彼を見たのは久しぶりだ。
(いつもはどうでもいいって感じでいるのに、なんでこんな時に熱血キャラになるのよ!)
宮下は日誌を閉じ、筆記用具を片付け鞄に放り込んだ。
そして、立ち上がり教室の扉に向かう。
「神崎、あんたも笑顔で私のことを見送ってよね! 確かに決められたことだけど、私も自分の意志でここを去ることにしたんだから。最後ぐらいはお前は偉いって褒めてよ」
そう言って宮下は教室を後にした。