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私は魔法使いなんかじゃない!  作者: いと・うさぎ
アムステール王国再建物語Ⅰ
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ある女子高生の話

「里奈、部活いこ~」

「ごめん、今日は休む」

「え? どうしたの? 体調でも悪いの?」


 友達で部活仲間である森本彩花が、驚いた表情で見てきた。

 それもそのはず、入部して以来、一度も彼女は剣道部を私用で休んだことはない。

 また、先日一緒に暮らしていた最愛の祖父が亡くなったのに、葬儀が終わった次の日からちゃんと剣道部に来ていた。

 心配そうに顔色をうかがう友人を見て、宮下里奈は周りに誰もいないことを確認し「ここじゃ話しにくいから」と森本彩花を人気ひとけのない西館へ連れ出した。


 おじいちゃんが亡くなった悲しみからまだ抜け出せてないのかな……


 憂鬱そうな里奈をみて森本はさらに心配になる。

 

 宮下里奈は、早くに両親を事故で亡くしている。

 そしてちょうど一週間前、彼女の親代わりだった祖父がに突然倒れ、そのまま亡くなってしまった。

 その祖父は剣道の師範で、里奈に剣道を教えた人でもある。

 祖父との思い出がたくさんある剣道を今やることは彼女にとって辛いのかもしれない。

 森本彩花は宮下の後ろ姿を心配そうに見つめながら、彼女についていく。


 誰もいない視聴覚室に入ると、密閉された視聴覚室は独特の匂いがたちこめていた。

 森本が中に入ると、宮下は扉を閉め、外とこの部屋を遮断する。

 そして、ゆっくりと森本に自分の状況について語り始めた。


「ちょっとさ、面倒なことになってて……。おじいちゃんが亡くなって、私を誰が引き取るかで親戚がもめているの。私はもう高校生であと二年で卒業なわけだし、今のあの家で一人暮ししたいっていってるんだけど、なんかそれは対外的に微妙だって言い出してる人が出てきて……それで、その親戚の家に居候することになりそうなの。だから、この転校しないといけないんだ……よね……」

「転校?! 嘘でしょ? 里奈いやだよ!!」


 森本彩花の声が静かな視聴覚室に響き渡った。

 彼女の目から大粒の涙がこぼれ頬をつたう。


 彼女は、笑いながら話す宮下里奈の両腕をつかみ「嫌だ嫌だ」と、まるで小さい子どもが駄々をこねているように何度も叫ぶ。


「一緒に大会出るって約束したのに。ずっと一緒に剣道やるって言ったのに。この学校一緒に卒業するっていったのに……転校せず通えないの? どうにかならないの?」

「う~ん……どうにかできたらいいんだけど、やっぱり大人の事情があるみたいでさ。ごめんね、彩花。彩花がそう言ってくれるだけでうれしいよ、本当に……」


 彼女は笑顔で言った。

 

 森本はそんな彼女を見て思った。

 

 ああ、宮下里奈は、いつもどんな時も、そしてこんな時も泣いたりしないのだと……彼女は強い人だと……


 へへへ……っと笑っている宮下に森本は真剣な表情で、


「里奈、うちにおいでよ? ママもパパも里奈が来てくれたらきっと喜ぶ。ダメかな?」


と、提案する。


「こらこら~そんなの無理だよ~。いくら彩花がお嬢様だからってさすがにこれはどうにもならないの。私は大丈夫。だってあのおじいちゃんの子なんだよ? 新しい高校でも上手くやってくわよ」

「でも里奈……」

「こらこら、それ以上泣くなぁ~、なんか私が泣かしてるみたいじゃん! あ、でもその通りか、あはははは」


 宮下は大げさに笑って見せる。

 それは逆に無理していることを表しているかのようで、心が締めつけられる。

 



「……わたし、何もしてあげれないの? 力になれないの?」


と森本はギュッとスカートの裾を握った。

 

 宮下里奈は私の大切な大切な一番の親友だ。

 誰とも馴染めず、いつも一人ぼっちでいる私に初めて声をかけてくれた人。

 お嬢様だからといじめられてた私をかばって、いじめてきた子を蹴散けちらせた勇敢な人。

 辛いことがあっても決して人前で泣いたりしない人。


 そんな彼女に私は何ができたのだろうか……?


 森本は、宮下の返答をじっと待つ。


「笑ってあんたなら大丈夫って言って見送って、彩花。転校しても彩花はずっとずーっと私の親友だよ。休みとか会えるし、剣道も続けるつもりだから、どこかで会える。ね? 笑って」


 森本はポケットからハンカチを取り出し涙をぬぐった。

 そして彼女のお願いを叶えることにした。


「里奈なら絶対大丈夫。ずっとずーっと私たちは親友だよ」


 そして、宮下里奈と森本彩花はお互いギュッと抱きしめあった。





 




 


 





 

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