1
ここはどこだろうか。
藤浪灯はただひたすら白い部屋に立っていた。
今までいつも通り授業を受けていたはずなのだが、瞬きをした瞬間にいきなりこの空間に移動したようだった。
思わず小説や漫画のように頬を抓ってみたが痛かった。
授業中に寝てしまったのだろうか、夢でも抓ったら痛いのかなどと考えているうちに壁にプロジェクターのようなものが映った。
白い部屋に現れたものは現状の報告のようなもので、硬く長い文章を簡単にまとめると、これからクラス全員で異世界に召喚されたためその異世界に移動すること、そこで使われているスキルと呼ばれる特殊能力をこれから選んでもらう、といったことであった。
灯自身隠れオタクでありその手の小説は昔嵌ったことがあるため現状認識は直ぐにできたことでそれが納得できるかどうかは別として、ひとまず落ち着くことはできた。既に壁に映っていた文章は消えて代わりにスキル一覧が映っていた。
「勇者セット?」
一番上に現れた勇者セットの文字を灯が触れると、
HP300/300 MP300/300
筋力値30 知力値30
敏捷値30 器用値30
剣術1 体術1 火魔法1
勇者セットにしますか? YES/NO
と詳しい内容が出てきた。
取りあえずNOにしておく、すると一つ前に戻った。
勇者セットのほかに、聖女セット、魔法使いセットに騎士セットがあった。
聖女セットは、HPと筋力が低いが知力と器用が高く、回復魔法と大地の恵みといった特殊魔法が使える。
魔法使いセットは、HPと筋力が低いがMPと知力が高く、魔法使い見習いの称号がついていた。二
種類の属性魔法が使えるらしい。
騎士セットは、HPと筋力、敏捷が高いが、知力と器用が低い。
剣術3と体術3が付いていた。
勇者セットは聖女セット以外を平均したようなものである。
灯は全て目を通したが"セット"というものに違和感を感じた。
重要なことを簡単に決めていいのかという考えが頭を離れない。
これが本当に異世界に移動するならこれで本当にいいのだろうかと違和感をぬぐえなかった。
「セット以外にスキルは選べないのか。」
灯が思わず呟いた瞬間、映っていた文字が消え、様々なスキル名が壁一面に映った。
思わず壁をスマフォみたいに下にスライドさせると長々とスキルが現れる。
スキルの数は相当多いようだ。
これではいつまでたっても決められない。
レアスキルや便利なスキルを選びたい思うのは当然である。
「レアスキル順に並び替えできないか?」
言うだけタダだとダメ元で言ってみると、一旦文字が消えて再び現れた。
先程と順番が違うことからレアスキル順に並びなおされたのだろう。
もしかしたら、この空間は聞けば答えてくれるが聞かなくては何もしてくれないのではないか。
多分そうなのだろうと今までのことから考える。
役所かよ、と少し思うところはあるが、気が付けてよかったと思う。
ここまできて親友の存在を思い出した。
異常事態であり、自分のことしか考えられていなかったが同じクラスの親友のことが気になった。
親友はきっと気が付かないでセットからスキルを選んでしまうだろう。
セットに対する違和感はいまだに消えていない。
どうにかしてこのことを親友に伝えなければいけない。
「親友と一緒に選びたいんだけど。」
そう口に出しみた。
ダメ元なのは相変わらずだが行ってみる価値はあるだろう。
「灯!」
振り返るとそこには親友がいた。
驚いた顔をしている親友に今までのことを話す。
「危なかった。聖女セットにするところだったよ。」
壁に映ったスキル一覧を見ながらつぶやくような声で親友は言った。
間に合ってよかったと安心した。
壁の一番上にそれぞれの名前と0/3の表記があるからスキルは三つ選べるようだ。
親友と話し合った結果はこうなった。
藤浪灯
HP300/300 MP500/500
筋力値30 知力値50
敏捷値50 器用値50
水魔法1 鑑定1 召喚魔法
称号 気が付いた者
親友
HP200/200 MP500/500
筋力値30 知力値40
敏捷値30 器用値60
光魔法1 風魔法1 アイテムボックス
称号 気が付かされた者
選んだ結果スキルによっていろいろな値が変わるようだ。
スキルの横の数字がレベルになっている。
レベルが無い物はレア中のレアスキルのようだ。
鑑定や光魔法もレアスキルではあるが、召喚魔法やアイテムボックスの方がレアらしい。
称号はきっと色々やったからついたのだろう。
親友はここに来たことで称号がついたのだろう。
「他の人にこのこと教えなくていいのかな?」
親友が深刻そうに聞いて来た。
灯としては親友以外どうでもいいといった冷たい感情があるが親友は違うようだ。
「これから行くところがどんな所かは分からない。でも、今までの常識が通用しない所で帰れるかどうか分からない状況で生活していかなきゃならない。そんな命がけな場所で他人の面倒までは見れない。」
そういうと、渋々ではあるが親友は納得したようだ。
自分で気が付かなければそれまでなのだ。
冷たいかも知れないが、自分の命は自分で守ってもらいたい。
取りあえずレアスキルを二人共取ったことである程度の価値を付けることはできた。
これからが本番だ、床が光り出した中で灯はこれからの行動の計画を建て始めた。