まねっこしたら間違ってた
衝撃の一幕からしばらくして。
はっと自分を取り戻したユエは、上から下までティハの姿を見て、次の瞬間真っ赤になった。
「と、とにかく!何か隠すもの、隠すものがないと……!」
ティハは、全裸だった。
その体は女性だが、なまじ顔がユエと同じな分、羞恥心がいや増す。あわあわと周りを見て、詰め物として籠に敷きつめた布の存在に気づくとそれを広げてティハに押し付ける。
「これ!これで隠してください!」
「なんだ?何か問題、あるのか?」
舌の構造が変わったせいなのか、ティハの滑舌が少し良くなっている。
布を受け取ったもののティハは広げてみたり透かしてみたりしているだけで、しびれを切らしたユエは自らティハの体に腕を回してその布を巻きつけた。
ほっとしたのも束の間、丈が短い為に胸の上から股下ぎりぎりまでしか隠れず、ユエはまるで自分が痴女になったような、いたたまれない気持ちになる。
「オスなのに、なんで女の子の体なの?」
ムッカはしきりにおたまの頭をひねっている。ティハも金の瞳をしぱしぱと瞬かせた。
姿は変わっても、虹彩の色とその仕草は変わっておらず、変化に戸惑っていたユエは少し安堵する。
「自分にも、分からない。料理の味が知りたくて、人間になればと思ったら、ユエになっていた」
そうだ、とティハがぱっと表情を明るくする。
「これなら、料理の香りも、味も、分かるんだな!」
「問題はそこなの?」
呆れた声を出しながらも、ムッカが器をこんこんとティハの方へ押しやる。なんだかんだいっても、料理を味わいたいが為に人間になってしまったティハの存在が嬉しいらしい。
ティハも扱いなれない五指に四苦八苦しながら木匙を掴むと、肉団子を口に運ぶ。歯で咀嚼し、舌で味わい、鼻に抜ける香りを感じ、とずいぶん料理を堪能しているようだ。
「……っ」
声もなく次々と食べ、すぐに平らげてしまった。最後は器を持ち上げ残ったスープまで丁寧に舐めとって、はあっと満足のため息をつく。
「こんなに少ない量なのに、噛むとずいぶん、腹がふくれるものだな」
見るものが思わず惚れてしまうような、素晴らしい笑顔だった。口の端にオレンジ色の汁さえ残っていなければ。
ユエは前掛けからハンカチを取り出し、黙って自分と同じ顔のティハの口をぬぐう。
「また、作ってくれるか」
期待の眼差しを受けて、うっと言葉に詰まっていると、ムッカが横から勝手に承諾してしまった。
「もちろんよ!今度はまた別のものにするわ!」
るんるんと音が鳴りそうな雰囲気の霊代組に、ユエが否やと言えるわけがなかった。
これから毎回、自分そっくりのティハの世話を焼くことになるのか。
この姿で何かしでかされる度に恥ずかしさで悶えることになりそうだ、とユエは遠い目になった。
いや、もういっそ本人はオスだと言っていたが妹が出来たと思うことにしよう。
「……今度は、私の服でも持ってきますね」
まずは、全裸に近いその姿を改めてもらわねばなるまい。胸の大きさからお尻の丸みまでユエそっくりのそれをもし何かの拍子に村の人にでも見られたら、恥ずかし過ぎて死ねる。
ユエがもんもんと思い悩むのを他所に、
「オスなら人間の男を真似ればいいじゃない」
「近くで見たことが、ないからな」
「なら村まで来たらいくらでも居るわよ。体格でいうとトージさん、顔でいうとルイ君がおすすめよ」
などという会話がなされているのを、彼女は知るよしもなかった。