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その御霊の心はいかに

■この小説は平日更新予定です■


※しばらく、0~20時でそれぞれ時間を変えて更新します。

 それ以降になる場合や、更新が難しい場合は活動報告でお知らせします。

 増加した霊代の件はすぐさまギードにも知られることとなった。もちろん、ダミアンが道中も研究したいと言い張ったので隠すことが難しいというのが本当のところだったが。


「じゃあ……この『小人』はビーオ、でいいんだな?まあ確かに、テンは時々人の言葉を理解してんじゃないかって思うことはあったが、でもまさか霊代とは……ユエ、体は平気か?」


 困惑気味のギードは三つも霊代を得てしまったユエを心配そうに見る。「今のところは」とユエが苦笑すると、ほっとしたような顔をして今度は机の上で手を振る小人とちょこんと座りこむ白イタチを見比べている。

 ティハはその隣でじっと新たな霊代である小人、ビーオをながめていたが、ふと指差して言った。


「ビーオ、は、レオに似ているな」


 その言葉に、ギードとユエ、ムッカまでもがじっと小人を見る。小人は急に集まった視線に照れたように頬を掻いて白イタチの後ろに隠れてしまった。

 ティハの指摘は確かに的を得ていて、小麦色に焼けた肌という点は相違しているものの、くりっとした小さな瞳は蒼だった。そして顔立ちはレオを幼くすればこうなるだろう、という感じの人懐っこい子供の姿だ。


「まあ……確かに、似てなくはないわね」

「そう、ね」

「まあ……なあ」


 クリエル、というビーオが示した共通点がそう思わせていると言われていまえばその程度なのかもしれないが、そのくるくる変わる表情やおどけたような動きがレオを連想させる。


「レオ、というのは?」


 一人だけレオを知らないダミアンが首を傾げる。ギードが気のせいかも知れないが、と断った上でシュトカ村のレオ・クリエルについて教える。ふんふんと聞いていたダミアンだが、話が父親のジーク・クリエルに及んだ際に目の色を変えた。


「自警団団長の、ジーク・クリエルの息子?……ということは、祖父はシュトカ村の『剣塚』を生んだ人物?」


「そうですが」


「資料で見たことがある。……剣の霊代を生んだ彼の名前は、『ファビオ・クリエル』だ」


 一斉に視線がビーオに向いて、小人はぴっと身をすくませる。

 両親がシュトカ村の外から来ていたユエはもちろんレオの祖父の名前を知らなかったし、事件後に外部から元騎士として自警団に雇われたギードも同じだった。村の人々が常に『剣塚』と称して個人の名前を極力出していなかったのも原因だろう。ダミアンが霊代研究で過去の資料を洗っていなければ、単なる気のせいで終わらせてしまっていたかもしれない。


「ビーオ。君の『記憶の元』、というのは、四十年前に死亡したシュトカ村の『ファビオ・クリエル』かい?」


 問われた小人は何かを考えるように自身の金の巻き毛をいじる。


「何年前に没したかは定かではありませんが……おそらくその通りですよ。霊代を生んだ記憶も残っていますし。ちなみに、マリアという娘と、ジーク(・・・)という息子がいたはずです」


 けろりと吐かれた重要なキーワードにユエとギードは目を剥く。ジークはもちろんレオの父親だろうし、マリアというのは殺されてしまった娘のことだろう。

 一方ダミアンは確信したかのように頷いていた。


「霊代が過去に死亡した人間の記憶を受け継いでいるというのはやっぱり本当だったんだな……。しかし、死亡した人間を直接知っている人と対話させてみなければ本当に同一人物だと断定することはできないし……。ねえ、ムッカにテン。君達の『記憶の元』は誰なんだい?」


 その言葉にムッカはあからさまに顔を歪め、テンは気まずそうに顔を洗う仕草をして誤魔化す。好奇心で聞いているダミアンはいざ知らず、傍で聞いているユエもその回答に僅かな期待を寄せていたが、ふたつの霊代がその場で答えることは無かった。


 そして、皆の後ろでひっそりと憂いを湛えた金の双眸が揺れる。だが、気づく者は誰もいなかった。



*****



 アンパロの宿を引き払おうとユエ達が準備していると、世話をしてくれた下働きの少年が顔を出す。


「その……その子に、用があるんだけど」


 指差されたのは、榛色の目をきょとんとさせたムッカ。霊代である彼女を指名するとは、とユエは一瞬驚くが、ああ少年は気付いていないのか、とすぐさま理解する。

 ムッカの見た目は人間と思わないほうが難しい「普通の少女」の姿で、街中を歩いたとして霊代と気づく人は皆無と言っていい。だからこそ、旅も穏便に進めることができていた。


「……行ってきたら?」


 ユエがそっと背を押すと、ムッカは少し悩んだ後こくりと頷いた。




「あの料理の、レシピを教えてほしいんだ」


 意を決したように少年が言ったのは、ドゥルセ風スープの作り方を教えてほしいということ。


「すごく美味しかったから……その、自分でも作れるようになりたい」


 美味しい、と言われることが何より嬉しいムッカはその言葉に少し表情を緩める。そういえば、最近めっきり料理に関ることが減ってすっかり自分の存在意義を見失っていた。自分は「おたまの霊代」だ。元の姿に戻れなくなったとしても出来ることに変わりは無く、それ以外の何者でもない。美味しい料理を作り、ユエに母の味を思い出させてあげる、それが役目。

 ムッカが目を伏せている間、少年はじっと耐えるようにその様子を伺っていた。


「いいわ。教えてあげる。出発まで時間が無いから、紙に書くけど……文字は読める?」


「読めない、けど、自分で『勉強する』から、平気」


 ぱっと表情を明るくした少年が、力強く頷く。

 読み書きのできる人が大勢いるシュトカ村が異常なのであって、この国の多くの庶民はそうした勉強を後回しにするしかない生活をしている。アンパロの労働少年である彼も例に漏れず文字を習っていないようだった。

 しかし、少年は自分で勉強するという。迷いのないその言葉を聞いて、ムッカは花が咲くように笑った。


 料理のレシピをしたためた紙の裏に、彼が勉強できるようにと文字の一覧表を書き添えて、少女は少年にそれを渡した。


「それじゃあ、元気でね」

「そっちも、気をつけて」


 小さなふたつの影が手を振り合う。二度と会う事はないだろうと知っているが故に、霊代と人間という、それぞれの違いを隠したままムッカは少年に別れを告げた。馬車は動き出して、アンパロの街中をゆっくりと横断していった。



*****



 街を進むと、ちょうど入ってきたのとは真逆の門にまた関所があった。見張りの兵士に乞われるまま旅券を見せ終えて、ユエは首を傾げる。


「街を抜けるだけなのに、旅券が必要なの?」


「アンパロは三つの領の境にあるんだ。ユエが今までいたのがルーシェン領でしょ。バルデム領であるアンパロを抜けて、これからカルバハル領に入るんだよ」


 正体がばれて気兼ねなくしゃべれるようになったテンが地図を広げる。

 ほぼ隣合っているルーシェン領とカルバハル領の間、真ん中に食い込むようにバルデム領がアンパロの街を包括している。ルーシェン領とカルバハル領を横断する街道沿いの川はアンパロの街にももちろん接していて、一方のバルデム領には川と呼べる大きなものはそれ以外にひとつも無い。


「まあ、川を欲したバルデムがアンパロを取り込んだんだけど……実際は通行料でも潤ってるから一石二鳥だったみたいだね」


 テンの講義にユエがなるほどと相槌を打ち、客車内のベンチで剣を磨いていたギードがそれを微笑ましげに見る。

 今日の御者役はティハらしい、と気づいて、ユエは腰をあげた。少し相談があるのだ。内緒話をするには持ってこいの場所になってしまった御者台に続く扉を開け、ユエは涼しいというよりも少し肌寒くなってきた外気に身を晒した。

今日もご覧いただきありがとうございます。

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